【リハビリテーション】「集う・過ごす」から「取り戻す」へ―ご高齢の方にはデイサービスよりも地域リハビリをすすめする理由―
はじめに ― 同じ「通い」でも、その先は大きく変わる
親御さまやご家族が要支援・要介護の認定を受けたとき、ケアマネージャーやご家族が最初に検討されるのが「デイサービス」です。入浴や食事、レクリエーション、そして人との交流――こうした時間は確かに生活に張りを与え、ご家族の介護負担を和らげてくれます。
けれども、生活の質を上げる医学的根拠は「運動」にあります。
2026 年に Sports Medicine and Health Science 誌に発表された Tao らの系統的レビュー(16 研究・801 名)は、高齢者の筋力・筋量・身体機能を改善させる確かな手段が「運動: レジスタンストレーニング」であることを、改めて数値で示しました。同じ年に Scientific Reports 誌に掲載された Lucio らの大規模レビュー(72 研究・6,204 名)も、サルコペニア(加齢性の筋肉減少)の高齢者において、運動が筋量・筋力・身体機能のいずれをも有意に改善する「第一選択」であると結論づけています。本コラムでは、この二本の最新論文を軸に、欧米の権威あるガイドラインや大規模試験を交えながら、「デイサービス」と「通所リハビリテーション」の違いを、わかりやすく解説します。
1. 「デイサービス」と「通所リハビリ」はどう違うのか ― まず言葉を整理する
介護保険の「通い」のサービスは、大きく二つに分かれます。一つは通所介護、いわゆる「デイサービス」。もう一つが通所リハビリテーション(デイケア)です。両者は似ているように見えますが、目的も体制も異なります。デイサービスは、入浴・食事・見守り・交流・レクリエーションを通じて「在宅生活の継続」と「ご家族の負担軽減」を支えることが主眼です。社会的な孤立を防ぐ社会的処方としての、かけがえのない役割を担っています。
一方、通所リハビリは、医療機関や介護老人保健施設に併設され、医師の指示のもと、理学療法士・作業療法士などの専門職が「身体機能の維持・回復」を目的に運動療法を提供します。評価に基づき負荷を調整し、立ち上がりや歩行といった生活動作の改善を体系的に進めていく――ここが決定的な違いです。本コラムの「地域リハビリ」とは、この通所リハビリをはじめとする、地域のなかで継続できる運動療法を指しています。どちらが良い・悪いという話ではなく、「日常を守り、機能を取り戻したい」という目的に対しては、運動が組み込まれた通所リハビリに明確な強みがあるのです。
2. 加齢で何が起こるのか ― 「筋肉の目減り」サルコペニアという現実
私たちの筋肉量は中年期以降、おおよそ年に 1%前後ずつ静かに減っていきます。この加齢性の筋肉・筋力の低下が進んだ状態が「サルコペニア」です。ヨーロッパの EWGSOP2(改訂版欧州コンセンサス、Cruz-Jentoft ら、Age Ageing 誌、2019 年)は、サルコペニアの中核を「筋量の低下」ではなく「筋力の低下」と位置づけました。つまり、見た目の細さよりも、握力や立ち上がりの力といった“発揮できる力”が衰えることこそが、転倒・骨折・要介護への入口になるという考え方です。
サルコペニアは世界の高齢者の 10〜27%にみられ、入院中や施設ではさらに高い割合と報告されています(Lucio ら、Scientific Reports 誌、2026 年)。やっかいなのは、筋肉は「使わなければ減る」一方で、「正しく使えば取り戻せる」点です。安静や受け身の時間が長いほど筋肉は痩せ、逆に適切な運動刺激を与えれば、高齢であっても筋力と機能は回復します。だからこそ、通いの時間を「座って過ごす」だけにするか、「立ち上がり、力を出す」運動に充てるかで、半年後・一年後の身体は大きく変わってくるのです。
3. 運動こそが第一選択 ― 国際ガイドラインが出した明確な答え
「高齢者にどんな治療をすべきか」という問いに対し、国際的なコンセンサスは一致しています。国際サルコペニア・フレイル研究会議による国際臨床診療ガイドライン(ICFSR、Dent ら、J Nutr Health Aging 誌、2018 年)は、サルコペニアの治療としてレジスタンストレーニング(筋肉に負荷をかける運動)を「強く推奨」し、たんぱく質摂取を「条件付きで推奨」しました。薬ではなくまず運動――これが世界の標準的な考え方です。
世界保健機関(WHO)の身体活動ガイドライン(Bull ら、Br J Sports Med 誌、2020 年)も、高齢者に対し、週 150〜300 分の中強度有酸素運動に加えて、週 2 日以上の筋力強化運動、さらに転倒予防と機能向上のために週 3 日以上のバランス・筋力を含む多要素運動を行うよう明記しています。レクリエーションや軽い体操だけでは、これらの推奨を満たすことは容易ではありません。専門職が負荷と内容を設計する通所リハビリは、こうした国際基準の運動量・運動内容を、安全に、確実に届けられる場と言えます。
4. 「ただ動く」では足りない ― レジスタンストレーニングの決定的な役割
ここで重要なのは、「動けば何でもよい」わけではないという事実です。Lucio ら(Scientific Reports 誌、2026 年)は、サルコペニアの高齢者において、運動全体が対照群より筋量(効果量 0.44)・筋力(0.70)・身体機能(0.52)を有意に改善することを示しましたが、運動の種類による差も明確に報告しています。筋量の増加に対しては、レジスタンストレーニングが有酸素運動を大きく上回り(効果量 0.93=「大きい効果」)、サブグループ解析でも筋力に対するレジスタンストレーニングの効果量は 0.96 に達しました。一方、全身振動(震えるタイプのマシン)では有意な効果が認められませんでした。
つまり、筋肉を取り戻す主役は、自分の筋肉に「重さ」や「抵抗」をかけて力を出す運動なのです。歩くだけ、揺れるだけ、座ったまま手足を少し動かすだけ――では、痩せた筋肉を増やす十分な刺激にはなりにくい。Tao ら(Sports Medicine and Health Science 誌、2026 年)も、レジスタンストレーニングが、筋力(効果量 0.55)と身体機能(0.76)を有意に高めたと報告しています。専門職が「立ち上がり」「踏み出し」「持ち上げ」といった力を要する動作を、一人ひとりの体力に合わせて段階的に課す――この設計こそが、通所リハビリで運動療法を行う最大の意義です。
5. 速さが効く場面、ゆっくりが効く場面 ― 目的別に最適化する運動
さらに踏み込むと、同じレジスタンス運動でも「動作の速さ」によって得られる効果が変わることが分かってきました。Tao ら(2026 年)は、ゆっくり丁寧に力を出す運動(サブマキシマル速度)が、筋量(効果量 0.47)と筋力(0.56)の増加に優れる一方、できるだけ速く力を出す運動(マキシマル速度)が、立ち上がりや歩き出しといった身体機能(効果量 0.93)の改善に最も優れていたと報告しています。日常生活で「とっさに踏ん張る」「素早く立ち上がる」力は、速い動作の練習でこそ磨かれるのです。
この知見は、79 試験を統合した Lopez らのネットワークメタ解析(J Gerontol A Biol Sci Med Sci 誌、2023 年)とも一致しており、高速で力を発揮する運動(パワー運動)が、高齢者の身体機能をより高めることが裏づけられています。重要なのは、「筋量を増やしたいのか」「転びにくい機敏さを取り戻したいのか」という目的に応じて、運動の強度・速さ・頻度を細かく調整する必要があるということ。こうした個別最適化は、画一的なプログラムでは実現できません。医師の評価と専門職の介入があってはじめて、「その人にいま必要な運動」を処方できるのです。
6. 転倒と「動けなくなる」を防ぐ ― 機能を守る運動の確かな証拠
運動の価値は、筋肉の数字だけにとどまりません。米国で 1,635 名(70〜89 歳・身体機能に制限あり)を対象に行われた大規模ランダム化試験 LIFE 研究(Pahor ら、JAMA 誌、2014 年)は、ウォーキングと筋力トレーニングを組み合わせた構造化された運動プログラムが、健康教育のみの群に比べて、要介護につながる「重度の移動障害」の発生を有意に減らしたことを示しました。受け身で過ごすのではなく、計画的に身体を動かすことが、「歩けなくなる未来」を遠ざけるのです。
転倒予防の領域でも証拠は揃っています。コクラン・レビュー(Sherrington ら、2019 年)は、バランスと機能的動作を組み合わせた運動が地域在住高齢者の転倒発生率を 24%減らし(高い確実性)、筋力運動を含む複数種目の運動では 34%の減少が見込めると報告しました。さらに、サルコペニアを伴うフレイル高齢者 1,519 名を対象とした SPRINTT 試験(Bernabei ら、BMJ 誌、2022 年)では、有酸素・筋力・柔軟性を組み合わせた多要素運動が移動障害を抑制しました。これらの効果は、いずれも「専門職が設計し、見守るなかで継続される運動」によって得られたものであり、レクリエーション中心の過ごし方からは生まれにくいものです。
7. 続けられることが何より大切 ― 地域で運動を続けるという選択
どれほど効果的な運動も、続かなければ意味がありません。運動をやめてしまえば、得られた筋肉と機能は再び失われていきます。だからこそ大切なのは、ご本人が無理なく通い続けられ、体調の変化があればすぐ医療につながる「地域のなかの運動の場」を選ぶことです。Li ら(Front Physiol 誌、2025 年)のネットワークメタ解析も、サルコペニア高齢者の握力改善には、適切な量のレジスタンス運動を継続することが鍵であると示しています。
まんかいメディカルクリニックは、通所リハビリテーション「あした」を併設しています(https://man-kind.jp/ashita)。医師の評価のもと、お一人おひとりの体力・持病・目標に合わせて運動の強度や内容を設計し、安全に機能の維持・回復をめざします。院内には CT・超音波・体組成計(InBody)を備え、指定運動療法施設としての指定も受けています。救急車を備え、救急救命士が常駐するため、運動中の体調変化にも速やかに対応できます。「通うなら、しっかり身体を動かして取り戻したい」――そうお考えのご本人・ご家族にとって、地域リハビリは有力な選択肢になります。
おわりに ― 「過ごす場所」ではなく「取り戻す場所」を
デイサービスには、交流や入浴、ご家族の負担軽減という大切な役割があります。けれども、「足腰の衰えを止めたい」「しっかり歩きたい」「転倒を予防したい」「入院を予防したい」という目的に対しては、二本の 2026 年最新レビュー(Tao ら、Lucio ら)が示すとおり、運動――とりわけレジスタンストレーニングを中心とした地域リハビリに、明確なエビデンスの裏づけがあります。国際ガイドライン(ICFSR、WHO)も、世界の大規模試験(LIFE、SPRINTT、コクラン)も、その方向を指し示しています。
加齢による筋肉の衰えは、決して「年だから仕方ない」ものではありません。正しく動けば、何歳からでも取り戻せます。通いの場を選ぶとき、ぜひ「そこで身体機能はどう変わるか」という視点を加えてみてください。まんかいメディカルクリニックは、併設の通所リハビリ「あした」とともに、ご高齢の方が一日でも長く、自分の足で歩み続けられるよう伴走します。気になる点があれば、どうぞお気軽にご相談ください。
FAQ ― よくあるご質問
Q1. デイサービスは意味がないのですか?
いいえ、そうではありません。デイサービス(通所介護)は、入浴・食事・見守り・交流を通じて在宅生活を支え、ご家族の介護負担を和らげる重要な役割を担っています。社会的なつながりは心身の健康にも大切です。ただし、「身体機能の維持と回復」という目的に限れば、運動療法が体系的に組み込まれた通所リハビリのほうが、エビデンス上は有利です(Lucio ら、Scientific Reports 誌、2026 年)。ご本人の状態と目的に応じて、両者を上手に使い分けたり、組み合わせたりすることが現実的な選択です。
Q2. 高齢でも、運動で本当に筋肉は増えるのですか?
はい、増やせます。Lucio ら(2026 年)の 72 研究・6,204 名のレビューでは、サルコペニアの高齢者でも運動により筋量・筋力・身体機能が有意に改善しました。特に筋肉量の増加には、有酸素運動よりレジスタンス運動が大きく優れていました(効果量 0.93)。年齢が高くても、自分の筋肉に適度な負荷をかける運動を続ければ、筋力と機能は回復します。大切なのは、専門職が体力に合わせて負荷を調整し、安全に継続することです。
Q3. ウォーキングや体操だけでは不十分なのでしょうか?
歩行や体操も健康に有益ですが、それだけでは痩せた筋肉を増やす刺激としては不足しがちです。Tao ら(2026 年)・Lucio ら(2026 年)は、筋量・筋力の改善には「抵抗(重さ)をかけて力を出す」レジスタンス運動が中核であると示しています。コクラン・レビュー(Sherrington ら、2019 年)でも、転倒予防にはバランスと筋力を組み合わせた運動が有効で、歩行のみのプログラムは効果がはっきりしないと報告されています。立ち上がりや踏み出しなど、力を要する運動を取り入れることが鍵です。
Q4. 運動はゆっくり行うのと、速く行うのと、どちらが良いですか?
目的によって異なります。Tao ら(2026 年)によれば、ゆっくり丁寧に力を出す運動は筋量と筋力の増加に優れ、できるだけ速く力を発揮する運動は、立ち上がりや歩き出しといった身体機能の改善に最も優れていました。日常で「とっさに踏ん張る」力を取り戻したい場合は、速い動作の練習が役立ちます。どちらを優先すべきかは体力や目標により変わるため、医師の評価と専門職による個別の運動設計が望ましいです。
Q5. 持病があっても通所リハビリで運動して大丈夫ですか?
医療機関に併設された通所リハビリでは、医師の評価と指示のもとで運動を行うため、持病があっても安全性に配慮した内容に調整できます。実際、国際ガイドライン(ICFSR、2018 年/WHO、2020 年)は、慢性疾患のある高齢者にも適切な運動を推奨しています。まんかいメディカルクリニックでは、CT・超音波・体組成計による評価や、救急車を備え、救急救命士の常駐、日曜・祝日診療といった体制を整えており、体調変化にも速やかに対応できます。まずは現在の状態を評価したうえで、無理のない運動から始めましょう。
参考文献
- Tao M, Liao K, Yin M, et al. Effects of maximal versus submaximal intended velocity resistance training on muscular fitness adaptations in older adults: a systematic review and meta-analysis. Sports Med Health Sci. 2026;8(4):365–376. doi:10.1016/j.smhs.2026.03.001.
- Lucio MCF, Oliveira RG, Almeida LIM, Oliveira LC. Systematic review and meta-analysis of the effects of exercise in older adults with sarcopenia. Sci Rep. 2026. doi:10.1038/s41598-026-55850-w.
- Dent E, Morley JE, Cruz-Jentoft AJ, et al. International Clinical Practice Guidelines for Sarcopenia (ICFSR): screening, diagnosis and management. J Nutr Health Aging. 2018;22(10):1148–1161. doi:10.1007/s12603-018-1139-9.
- Cruz-Jentoft AJ, Bahat G, Bauer J, et al. Sarcopenia: revised European consensus on definition and diagnosis (EWGSOP2). Age Ageing. 2019;48(1):16–31. doi:10.1093/ageing/afy169.
- Pahor M, Guralnik JM, Ambrosius WT, et al. Effect of structured physical activity on prevention of major mobility disability in older adults: the LIFE Study randomized clinical trial. JAMA. 2014;311(23):2387–2396. doi:10.1001/jama.2014.5616.
- Bernabei R, Landi F, Calvani R, et al. Multicomponent intervention to prevent mobility disability in frail older adults: randomised controlled trial (SPRINTT project). BMJ. 2022;377:e068788. doi:10.1136/bmj-2021-068788.
- Lopez P, Rech A, Petropoulou M, et al. Does high-velocity resistance exercise elicit greater physical function benefits than traditional resistance exercise in older adults? A systematic review and network meta-analysis of 79 trials. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2023;78(8):1471–1482. doi:10.1093/gerona/glac230.
- Sherrington C, Fairhall NJ, Wallbank GK, et al. Exercise for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database Syst Rev. 2019;(1):CD012424. doi:10.1002/14651858.CD012424.pub2.
- Bull FC, Al-Ansari SS, Biddle S, et al. World Health Organization 2020 guidelines on physical activity and sedentary behaviour. Br J Sports Med. 2020;54(24):1451–1462. doi:10.1136/bjsports-2020-102955.
- Li HR, Huang S, Yv Z, et al. Optimal dose of resistance training to improve handgrip strength in older adults with sarcopenia: a systematic review and Bayesian model-based network meta-analysis. Front Physiol. 2025;16:1564988. doi:10.3389/fphys.2025.1564988.
※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。
気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
