7人に1人の時代、糖尿病ケアはなぜ届かないのか ―最新研究が示す「3つの壁」と糖尿病医療の未来―
―最新研究が示す「3 つの壁」と糖尿病医療の未来―
まんかいメディカルクリニック 医療コラム
はじめに ― 糖尿病は「岐路」に立っている
「血糖値が高めです」「HbA1c が境界域ですね」――健康診断でこのような指摘を受けたことのある方は、決して少なくないはずです。糖尿病は今や 21 世紀を象徴する健康課題となり、世界中で成人の 7 人に 1 人が罹患しているとされています。心血管疾患、慢性腎臓病、視力低下、神経障害、認知症、下肢切断、うつ病――糖尿病の合併症は人生の質を奪い、健康寿命を縮め、医療システムに重い負担を課しています。
2026 年 4 月に Lancet Diabetes & Endocrinology 誌に発表された Ali 教授ら(米 Emory大学・デンマーク Steno 糖尿病センター)の論考では、世界全体で見ると、WHO が 2021 年に掲げた糖尿病コンパクト目標(診断率 80%、血糖・血圧コントロール 80%、スタチン使用率 60%)を達成できたのはわずか 7〜15 か国にとどまっており、依然として大多数の国で目標達成は遠い状況にあると報告されています(Ali et al., Lancet Diabetes Endocrinol 2026)。
なぜこれほど質の高い研究と治療法が積み上がっているのに、糖尿病ケアの成果は世界的に伸び悩んでいるのでしょうか。Ali 教授らは、その理由として「実装」「個別化」「アクセス」の 3 つの領域に共通する課題があると指摘し、これらを統合的に解決する新しい枠組み―IPA フレームワーク―を提案しました。本コラムでは、この最新の概念を軸に、糖尿病ケアが直面する「3 つの壁」を、欧米の権威ある最新研究を交えながらわかりやすく解説します。
1. 「7 人に 1 人」という現実 ― 世界も日本も直面する糖尿病パンデミック
糖尿病は、もはや一部の人の病気ではありません。Ali 教授らの 2026 年論考では、世界の成人の約 7 人に 1 人が糖尿病を抱えていると報告されており(Ali et al., 2026)、国際糖尿病連合(IDF)の最新推計では 2021 年に世界で 5 億 3,700 万人が糖尿病と診断され、2045 年までに 7 億 8,300 万人に達すると予測されています。日本でも約 1,000 万人が糖尿病またはその予備群とされ、まさに「見えないパンデミック」と呼ぶべき状況です。
問題なのは、患者数の多さだけではありません。2026 年に Lancet Global Health 誌に発表された 100 か国の個人レベルデータの統合解析では、糖尿病コンパクト目標(2021 年時点)について、診断率 80%を達成した国は世界でわずか 7〜15 か国にとどまることが明確に示されました(GHPP Collaborators, Lancet Glob Health 2026)。質の高いエビデンスと治療法は存在しているのに、それが現場の患者さんに届いていない―この「エビデンスと実装のギャップ」が、糖尿病ケアの最大の課題なのです。
Ali 教授らはこの構造的課題を「実装の失敗」「個別化の不足」「アクセスの限界」という 3 つの相互に絡み合う領域として整理し、それぞれに対する戦略を統合する必要性を訴えています。これら 3 つの壁が積み重なることで、もっとも糖尿病の負担が大きい人々が最も恩恵を受けにくいという悪循環が生まれているのです。当院でも、こうした世界的な構造を踏まえつつ、地域の患者さま一人ひとりに最適な医療を届けることを目指しています。
2. 第 1 の壁: 実装の失敗 ― 「やればいい」だけでは届かない
糖尿病ケアの世界的な質改善(Quality Improvement)の効果について、Ali 教授らは Tricco AC らの Lancet 2012 年メタ解析を引用し、120 件の臨床試験で平均 HbA1c 低下はわずか 0.37%、血圧低下は 3.13mmHg、LDL コレステロール低下は 0.10mmol/L にとどまったと報告しています(Ali et al., 2026;Tricco et al., Lancet 2012)。これは医療提供側だけのアプローチでは限界があることを物語っています。
なぜ、改善が頭打ちになるのでしょうか。答えは単純で、糖尿病管理の大部分は、診察室の外、すなわち日常生活の中で行われるからです。食事、運動、服薬、自己測定、ストレス対処―これらすべてが患者さん自身の行動にかかっており、年に数回の診察時間だけで完結するものではありません。Ali 教授らは、医療側の「供給側」改善だけでは医療従事者の負担を増やし、燃え尽き症候群を悪化させ、結果として患者の行動変容には届かないと指摘しています(Ali et al., 2026)。
解決の方向性として、患者中心のセルフマネジメントを支える仕組み―意思決定支援ツール、遠隔モニタリング、自動リマインダー、リスクに合わせたデジタル介入―が重視されています。たとえば 2025 年に N Engl J Med 誌に掲載された南アフリカ農村部の研究(Siedner et al., NEJM 2025)では、家庭ベースの高血圧ケアが従来型の通院ケアと同等の血圧管理効果を示し、診療所の混雑を緩和できることが実証されました。糖尿病でも同様のアプローチが、患者さんの負担を減らしつつ、医療従事者がより複雑なケアに集中できる環境を作る鍵となります。当院でも、指定運動療法施設の健康運動指導士および管理栄養士との多職種連携、生活習慣病管理料(Ⅱ)に基づく個別の療養計画書を通じて、こうした「日常に届く医療」を実践しています。
3. 第 2 の壁: 個別化の不足 ― 「2 型糖尿病」はひとつの病気ではない
「あなたは 2 型糖尿病です」―この診断名のもと、過去 50 年間、糖尿病治療は「ガイドライン通りの一律治療」を基本としてきました。しかし 2018 年に Ahlqvist 教授らが Lancet Diabetes & Endocrinology 誌に発表した画期的な研究はこの常識を覆しました。彼らはスウェーデンの糖尿病新規発症者を解析し、2 型糖尿病は実は 5 つのサブタイプ―重症自己免疫型(SAID)、重症インスリン分泌不全型(SIDD)、重症インスリン抵抗性型(SIRD)、軽症肥満関連型(MOD)、軽症加齢関連型(MARD)―に分類できることを示したのです(Ahlqvist et al., Lancet Diabetes Endocrinol 2018)。
この分類は、その後米国・ドイツ・デンマーク・インド・アラブ諸国・日本など世界各地のコホートで再現性が確認されました(Ali et al., 2026)。重要なのは、各サブタイプが異なる病態生理、合併症のリスクパターン、治療反応性を持つということです。たとえば SIRD 型は糖尿病性腎臓病のリスクが顕著に高く、SIDD 型は網膜症や神経障害のリスクが高いことが示されています。さらに 2024 年の Nature Metabolism 誌の無作為化試験では、SIDD型の患者には、セマグルチド(GLP-1 受容体作動薬)がダパグリフロジン(SGLT2 阻害薬)よりも HbA1c 低下効果が大きい傾向が示されました(Dwibedi et al., Nat Metab 2024)。
2026 年 2 月に Diabetologia 誌で発表された米国の電子カルテ 60 万人以上の解析では、新規発症 2 型糖尿病でもこのサブタイプ分類が合併症リスクの予測に有用であることが確認されています(Li et al., Diabetologia 2026)。HbA1c、血圧、BMI、合併症歴といった日常的に取得できるデータでも、患者さんごとにスクリーニング頻度や治療強度を調整する「ニーズに応じた個別化」が可能になりつつあります。デンマークの研究では、こうした層別化により、リスクの低い患者さんで不要な眼科検査や足病変検査を安全に減らし、その分のリソースを高リスク患者さんに集中できることが示されました(Ali et al., 2026)。当院でも、画一的な治療ではなく、CT、超音波、CGM などの検査結果を踏まえた個別の治療戦略を提供しています。
4. 第 3 の壁: アクセスの限界 ― 「あるはずの治療」が届かない世界
Ali 教授らの論考の中で最も衝撃的な数字のひとつは、低・中所得国 55 か国の解析結果です。糖尿病患者さんのうち、血糖降下薬を受けているのは 50.5%、降圧薬は 40.3%、脂質低下薬はわずか 6.3% にとどまっていました(Flood et al., Lancet Healthy Longev 2021;Ali et al., 2026)。さらに、心腎保護効果が証明されている GLP-1 受容体作動薬や SGLT2 阻害薬の使用率は、これよりはるかに低い水準です。
この「アクセスの壁」は、導入に踏み切れない供給側の問題と、投薬の拒否と高薬価など需要側の問題の両方から生じます(Chow et al., Lancet Diabetes Endocrinol 2018)。Ali 教授らはこの問題への対策として、HIV ケアの歴史から学ぶべきだと述べています。HIV では 1990 年から 2002 年にかけて、自発的ライセンス供与、技術移転、共同調達、価格上限規制、官民パートナーシップなどの戦略により、抗レトロウイルス薬の価格が 90%下落し、世界中で治療アクセスが劇的に拡大しました(Ali et al., 2026)。
糖尿病ケアにも、同様の世界的な調整が緊急に必要だと著者らは訴えています。日本は国民皆保険制度のおかげで、世界的に見れば高水準の糖尿病ケアアクセスが確保されていますが、それでも医師-患者比、地域格差、薬剤費負担といった課題は残ります。当院がある三田市は、阪神間でも高齢化と医療資源のミスマッチが進む地域であり、指定運動療法施設、GLP-1 RA の積極的使用、日曜・祝日診療、CT・超音波の自院完備の構築によって、地域の患者さんに「届く医療」を提供することを使命としています。
5. IPA フレームワーク ― 3 つの壁を統合する新しい糖尿病ケア戦略
Ali 教授らが提案する「IPA フレームワーク」は、Implementation(実装)・Personalisation(個別化)・Access(アクセス)の 3 つを、医療ニーズという土台の上で統合する考え方です。3 つの領域は単独ではなく、互いに重なり合うことで初めて持続可能で包括的な糖尿病ケアが実現するというのが、この枠組みの核心です(Ali et al., 2026)。
具体的には、(1)ニーズとアクセスが交わる場所では「最低限の必要なケア」が定義され、(2)アクセスと個別化が交わる場所では「理想的な最適化されたケア」への道筋が見え、(3)個別化と実装が交わる場所では「アウトカムを最適化する機会」が生まれ、(4)ニーズと実装が交わる場所では「システム再設計の機会」が生まれる、という 4 つの交点が提示されています(Ali et al., 2026)。
一方で著者らは、3 つの領域のバランスを欠いた解決策の落とし穴も警告しています。「望ましいが重要ではない」(例: 患者ニーズに合わない新技術)、「現実的だが利用できない」(実装は容易だが高価で手が届かない介入)、「重要だが望まれない」(医学的に必要だが患者が受け入れない治療)といった失敗パターンです。これらを避けるには、医療データの統合、政策的意志、そして政府・臨床医・患者団体・産業界・慈善団体を巻き込んだグローバルな連携が不可欠だと結論づけています(Ali et al., 2026)。糖尿病ケアの未来は、単なる新薬の登場ではなく、こうした統合的な視点からの再設計にかかっているのです。
6. 最新薬の躍進 ― GLP-1 作動薬と SGLT2 阻害薬がもたらした革命
個別化とアクセスの議論を支える背景として、ここ数年で糖尿病治療薬の効果は劇的に進化してきました。2023 年に N Engl J Med 誌に発表された SELECT 試験では、糖尿病のない肥満・心血管疾患既往の患者 17,604 人を対象に、セマグルチド週 1 回皮下注射(GLP-1 受容体作動薬)が主要心血管イベント(心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中の複合)を 20%減少させたことが報告されました(Lincoff et al., NEJM 2023)。糖尿病のない方でも、肥満を介して心血管予防効果が得られることを示した画期的な試験です。
腎臓については、2024 年に N Engl J Med 誌に発表された FLOW 試験が転換点となりました。2 型糖尿病と慢性腎臓病(CKD)を持つ 3,533 人を対象に、セマグルチド 1.0mg 週 1 回投与で、主要腎複合エンドポイント(腎不全・eGFR 50%低下・腎関連死・心血管死)が 24%減少、心血管イベントが 18%減少、全死亡が 20%減少しました(Perkovic et al., NEJM 2024)。GLP-1 作動薬は、もはや「血糖降下薬」ではなく、「心腎保護薬」と呼ぶべき領域に入っています。
肥満症治療では、2025 年 5 月に N Engl J Med 誌に発表された SURMOUNT-5 試験が直接対決の結果を示しました。糖尿病のない肥満成人 751 人を対象とした 72 週の頭部対頭部試験で、チルゼパチド(GIP/GLP-1 二重作動薬)はセマグルチドに比べて体重減少率(-20.2% vs -13.7%)、ウエスト周囲径減少ともに有意に優れていました(Aronne et al., NEJM 2025)。さらに 2024 年の NEJM 誌の SURMOUNT-1 3 年延長解析では、肥満+前糖尿病の方でチルゼパチドが 2 型糖尿病進展を 93%減少させたことも報告されています(Jastreboff et al., NEJM 2024)。当院でも、適応のある患者さんにこれらの治療をエビデンスに基づいて提供しています。
7. CGM(持続血糖モニター)革命 ― 「見える化」が変える日常の血糖管理
個別化された糖尿病ケアの中核を担うようになったのが、CGM(持続血糖モニター、FreeStyle リブレ、Dexcom 等)です。米国糖尿病学会の 2025 年 Standards of Care では、初めてインスリン非使用の 2 型糖尿病成人にも CGM の使用を考慮することが明文化されました(ADA Professional Practice Committee, Diabetes Care 2025)。これは、CGM がインスリン使用者だけでなく、より広い糖尿病人口の管理に有用であることを認めた歴史的な転換点です。
2024 年の Diabetes Technology & Therapeutics 誌のメタ解析では、インスリン非使用の 2 型糖尿病患者さんでも CGM により、自己血糖測定(SMBG)に比べて HbA1c が平均 0.31%低下し、目標範囲内時間(TIR、70-180mg/dL の時間)が 8.63%増加、180mg/dL 超の時間も 7.75%減少したことが示されています(Ferreira et al., Diabetes Technol Ther 2024)。さらに 2025 年に Diabetes Technology & Therapeutics 誌に発表された 6 か月の無作為化試験では、CGM の活用により 6 か月で HbA1c が 1.3%低下、体重も約 3kg 減少しました(Martens et al., 2025)。
これらの試験で重要なのは、薬剤を変更しなくても「血糖の見える化」だけで生活習慣の改善と血糖値の改善が同時に得られている点です。何を食べると血糖が上がるか、運動でどう下がるか―この個別データが、画一的な食事指導を超えた本当の意味での「行動変容」を可能にします。米国糖尿病学会 2025 年版ガイドラインでも、インスリン非使用の 2 型糖尿病成人への CGM 使用が初めて公式に考慮対象となりました(ADA, Diabetes Care 2025)。当院でも、必要な患者さんに FreeStyle リブレ 2 などを処方し、データを一緒に振り返りながら治療と生活を最適化しています。
8. 日本の患者さんへの示唆 ― 当院が考える「岐路」を越える糖尿病ケア
Ali 教授らの IPA フレームワークは世界全体の課題を扱っていますが、日本の臨床現場、そして三田市の患者さんに置き換えても本質は変わりません。「実装」については、月 1 回の通院と指定運動療法施設への週 2〜3 回の通所、CGM、デジタルツール、GLP-1 RA の積極的使用の活用が必要です。「個別化」については、画一的な HbA1c 目標値ではなく、年齢を踏まえた個別目標と治療選択が求められます。「アクセス」については、日曜・祝日診療など、「医療に来られない人にも届く」仕組みが地域医療の使命となります。
また、2025-2026 年の ADA Standards of Care では、睡眠が食事・運動と並ぶ「中核的なライフスタイル要素」として明示的に位置づけられました(ADA, Diabetes Care 2025)。糖尿病管理は、もはや「食事と運動」の 2 本柱ではなく、「食事・運動・睡眠・服薬・モニタリング・心の健康」の 6 つの柱で考える時代に入っています。当院では、内分泌・糖尿病専門医による外来に加え、運動療法施設、CGM による血糖モニタリング、必要に応じた薬物療法(GLP-1 受容体作動薬、SGLT2 阻害薬、メトホルミンなど)を組み合わせた包括的なケアを提供しています。
糖尿病ケアは、世界規模で見ても日本国内で見ても、確かに「岐路」に立っています。しかし、IPA フレームワークが示すように、実装・個別化・アクセスを統合する視点と、患者さん一人ひとりに寄り添う臨床現場の積み重ねがあれば、合併症の連鎖を断ち切ることは十分に可能です。新薬の登場は確かに大きな福音ですが、それを「届ける仕組み」「適切な人に処方する判断」「日常生活で支える伴走」がなければ、ポテンシャルは活かしきれません。当院は、地域に根ざした実装・個別化・アクセスのすべてに責任を持つクリニックでありたいと考えています。
おわりに ― 一人ひとりの「岐路」を越えるために
糖尿病は、もはや「血糖値の病気」ではありません。それは、心臓・腎臓・脳・目・神経・足、そして人生全体に影響する全身性の慢性疾患であり、同時に、医療システムと社会の仕組みそのものに問いを投げかける疾患でもあります。Ali 教授らが Lancet Diabetes & Endocrinology 誌で示した「7 人に 1 人の時代」という現実は、誰もが他人事ではいられないことを物語っています。
「健診で血糖値が高めと言われた」「家族が糖尿病だ」「最近体重が増えてきた」―そうした小さなサインを、どうか見逃さないでください。早期に評価した個別化ケアを始めることで、合併症の連鎖を防ぎ、人生の質を守ることができます。当院では、HbA1c・尿アルブミン・eGFR・脂質・腹部 CT による内臓脂肪評価・CGM による血糖変動評価などを組み合わせた包括的な糖尿病ケアを提供しています。お気軽にご相談ください。
FAQ ― よくあるご質問
Q1. 健診で HbA1c が境界域(5.6〜6.4%)と言われました。受診すべきでしょうか?
はい、ぜひ受診をご検討ください。HbA1c 5.6〜6.4%は「前糖尿病(prediabetes)」と呼ばれる状態で、年間 5〜10%の方が 2 型糖尿病に進展するとされています。2024 年の N Engl J Med 誌に発表された SURMOUNT-1 の 3 年延長解析では、肥満+前糖尿病の方でチルゼパチドが 2 型糖尿病進展を 93%減少させ、薬剤中止後も発症率を大きく抑制しました(Jastreboff et al., NEJM 2024)。ただし、薬剤介入を考える前に、まずは HbA1c・空腹時血糖・尿アルブミン・脂質・体重・腹部 CT などで全体像を把握し、生活習慣の改善余地を見極めることが重要です。当院では、このような前糖尿病段階からの早期介入によって、糖尿病発症と合併症の双方を予防することを目指しています。
Q2. 「2 型糖尿病はサブタイプに分かれる」とのことですが、自分のタイプは検査でわかりますか?
はい、Ahlqvist らの分類(Lancet Diabetes Endocrinol 2018)では、年齢・BMI・HbA1c・GAD 抗体・HOMA2 指数(インスリン分泌能と抵抗性)の 6 変数で 5 サブタイプに分類できます。SIDD 型はインスリン分泌不全が強く網膜症リスクが高い、SIRD 型はインスリン抵抗性が強く腎症リスクが高い、MOD 型は肥満関連、MARD 型は加齢関連、というように特徴が異なります(Ali et al., 2026)。当院では、必要に応じてこれらの指標を測定し、「どのタイプに近いか」を踏まえた治療選択(たとえば SIDD 型なら GLP-1 作動薬を優先するなど)を行っています。サブタイプ分類は研究段階の側面も残りますが、画一的な治療から「あなた専用の治療」への第一歩として有用です。
Q3. CGM(持続血糖モニター)は、インスリンを使っていない糖尿病でも効果がありますか?
はい、エビデンスは明確です。2024 年の Diabetes Technol Ther 誌のメタ解析では、インスリン非使用の 2 型糖尿病患者でも CGM により HbA1c が平均 0.31%低下、目標範囲内時間が約 8.6%増加することが示されました(Ferreira et al., 2024)。2025 年の 6 か月無作為化試験では、CGM により HbA1c が 1.3%低下、体重も約 3kg 減少しています(Martens et al., Diabetes Technol Ther 2025)。重要なのは、CGM が単なる測定機器ではなく「生活と血糖の関係を可視化する教育ツール」だという点です。米国糖尿病学会 2025 年版ガイドラインでも、インスリン非使用の 2 型糖尿病成人への CGM 使用が初めて公式に考慮対象となりました(ADA, Diabetes Care 2025)。当院でも、必要な患者さんに FreeStyle リブレ 2 などを処方し、データを一緒に振り返りながら治療と生活を最適化しています。
Q4. GLP-1 受容体作動薬(オゼンピック、マンジャロなど)は、糖尿病以外の理由でも処方されるのですか?
現在、日本では GLP-1 受容体作動薬は基本的に 2 型糖尿病、そしてセマグルチド(ウゴービ)などは高度肥満症(BMI 35 以上、または 27 以上で複数の合併症あり)に保険適用されています。一方、海外の臨床試験では適応がさらに広がっています。SELECT 試験では糖尿病のない肥満+心血管疾患の方で主要心血管イベントが 20%減少(Lincoff et al., NEJM 2023)、FLOW 試験では 2 型糖尿病+CKD で腎複合エンドポイントが 24%減少しました(Perkovic et al., NEJM 2024)。ただし、GLP-1 作動薬は中止すると体重リバウンドが起こりやすく(Aronne et al., NEJM 2025;SURMOUNT-4)、長期管理戦略が必要です。また、副作用(吐き気、便秘、まれに膵炎など)や費用負担、適応の見極めが重要なため、必ず医師の判断のもとで使用してください。当院では、適応・効果・副作用について十分にご説明したうえで処方の可否を判断しています。
Q5. 日本のような国民皆保険の国でも、糖尿病ケアの「アクセスの壁」はあるのでしょうか?
あります。日本は世界的に見れば優れた医療アクセスを誇りますが、地域差・年齢差・経済的負担という壁は確かに存在します。三田市のような地方都市では、専門医不足や交通の問題から、定期通院が難しい高齢者が少なくありません。Ali 教授らも、医師-患者比が厳しい地域では「リスクに応じた層別化」が、質を落とさずカバレッジを拡大する鍵になると指摘しています(Ali et al., 2026)。当院では、(1)日曜・祝日診療による通院アクセスの確保、(2)訪問診療部門による在宅患者へのケア提供、(3)CT・超音波の自院完備による「ワンストップ」検査体制、(4)LINE 連絡や CGM による遠隔フォローを組み合わせ、「来院しにくい患者さんにも届く糖尿病ケア」を実践しています。気になる症状があれば、ぜひお電話またはご来院でご相談ください。
参考文献
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まんかいメディカルクリニック
兵庫県三田市|内科・糖尿病・呼吸器内科・皮膚科・在宅医療・運動療法
CT・超音波・CGM 対応|日曜・祝日診療|救急救命士常駐
※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。
気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
