【健康寿命】高齢者の 96%は”心臓・腎臓・代謝(血糖・脂質)の危機”—高齢者マラソンランナーほど動脈硬化が多い?心不全リスクを 8 倍変える「正しい運動量」の科学
〜最新エビデンスが示す「CKM シンドローム」と運動の深い関係〜
はじめに:心臓・腎臓・代謝を「一体」で考える時代へ
「心臓の病気」「腎臓の病気」「糖尿病や肥満」——これらはそれぞれ別々の問題として扱われてきました。しかし近年、医学の世界ではこれらを切り離して考えることはできないという認識が急速に広まっています。2023 年、アメリカ心臓協会(AHA)は「心臓(Cardiovascular)・腎臓(Kidney)・代謝(Metabolic)」の三者が密接に絡み合った病態を「CKM シンドローム(CKM 症候群)」と命名し、新たなステージ分類システムを発表しました。このステージ 0〜4 という段階的な分類は、肥満・糖尿病・高血圧・慢性腎臓病(CKD)・心血管疾患という複数の病態を「ひとつの連続したリスクの流れ」として捉え直した画期的な概念です。
さらに、運動とこれら三臓器の関係についても、最新の研究が重要な知見をもたらしています。激しい持久性運動を長年続けてきたマスターアスリートの冠動脈における動脈硬化リスクを、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスを用いて客観的に評価した研究(Master@Heart 研究)が 2026 年に発表され、「運動の量と種類が動脈硬化にどう影響するか」について重要な示唆を与えています。
本コラムでは、2026 年に発表されたこれら 2 つの最新論文を統合し、「毎日の運動が心臓・腎臓・代謝に与える影響」についてわかりやすく解説します。予防医学・生活習慣病管理に力を入れるまんかいメディカルクリニックとして、皆さまの健康を守るために大切な最新情報をお届けします。
CKM シンドロームとは何か?——心・腎・代謝の三角関係
ステージ分類で「自分のリスク」を知る
CKM シンドロームのステージ分類は以下の通りです。ステージ 0 は「リスク因子なし」の最も健康な状態。ステージ 1 は過剰または機能不全を伴う脂肪組織(BMI 25 以上、あるいは男性 102cm・女性 88cm 以上の腹囲)または前糖尿病が存在するもの。ステージ 2 は高トリグリセリド血症、高血圧、糖尿病、メタボリックシンドロームなどの代謝リスク因子や慢性腎臓病(eGFR 60 未満、または尿アルブミン/クレアチニン比 30 以上)が存在するもの。ステージ 3 は上記に加え、心臓バイオマーカー(NT-proBNP、高感度トロポニン)の上昇や、心エコーによる無症候性心不全(ステージ B 心不全)などの「潜在的な心血管病変」が確認されるもの。ステージ 4 は冠動脈疾患・心不全・脳卒中・心房細動・末梢動脈疾患といった明らかな心血管疾患を発症しているものです。
2026 年に権威ある医学誌『Circulation』に掲載された Højbjerg Lassen らの研究(ARIC スタディ)では、地域在住の高齢者 5,646 名(年齢 66〜90 歳)を対象に CKM ステージを評価しました。その結果は衝撃的でした。ステージ 0(最も健康)はわずか 0.4%、ステージ 1 が 1.8%、ステージ 2 が 8.1%、ステージ 3 が 56.0%、ステージ 4a が 32.3%、ステージ 4b が 0.3%——つまり、9 割以上の高齢者がステージ 2 以上であり、最適な CKM 健康状態にある人はほぼ存在しないという事実が明らかになりました。この傾向は日本においても同様と考えられます。
さらに重要なのは、CKM ステージが上がるほど心不全の発症リスクが段階的に上昇するという明確な「用量反応関係」が確認されたことです。ステージ 2 を基準(参照)とすると、ステージ 3 では心不全発症の調整ハザード比が 3.6 倍(95%CI:2.1〜6.0)、ステージ 4 では 8.3 倍(95%CI:4.9〜14.2)にも上ることが示されました(いずれも P<0.001)。この数字は、CKM ステージが「単なる分類」ではなく、将来の心不全リスクを強力に予測する指標であることを意味します。
CKM シンドロームが重要視される理由は、肥満・糖尿病・高血圧・CKD という複数の病態が、それぞれ独立して心不全リスクを高めるだけでなく、互いに悪循環を形成して心臓に負担をかけ続けるからです。たとえば、肥満は高血圧と糖尿病を促進し、糖尿病は CKD の進展を加速し、CKD は心臓への負担を増大させます。このような悪循環を早期の段階で断ち切るためにこそ、CKM シンドロームという統合的な概念が必要なのです。まんかいメディカルクリニックでは、生活習慣病管理料のもとで、この包括的なリスク評価と管理を日々実践しています。
CKM ステージと心臓の変化——エコーが捉えた「静かなダメージ」
左室リモデリングとは何か?
「リモデリング」とは、心臓が長期にわたるストレスに応じて形態や機能を変化させる現象です。初期には適応反応として起こりますが、進行すると心機能の低下、最終的には心不全につながります。ARIC スタディでは CKM ステージと心エコー所見の詳細な関係が分析され、CKM ステージが上昇するほど心臓のリモデリングが悪化することが明確に示されました。
具体的には、左室壁厚(中隔厚・後壁厚)、左室重量(身長補正)、左室容積(拡張末期・収縮末期)はいずれも CKM ステージの上昇とともに有意に増大しました(いずれも Ptrend<0.001)。左室収縮機能を示す左室駆出率(LV EF)は、ステージ 0/1 で平均 67.0%であったのに対し、ステージ 4 では 63.3%に低下し、左室縦断歪み(LV LS)もステージ 0/1 の 19.0%からステージ 4 の 17.1%へと悪化していました。
拡張機能の指標である左房容積係数、E/e’(心臓の充満圧の指標)、三尖弁逆流速度もいずれも CKM ステージとともに増大し、e’(心筋弛緩の指標)は低下しました。これらはすべて、CKM ステージが上がるほど心臓の充満圧が高まり、弛緩が障害されること、すなわち「拡張障害」が進行していることを示しています。
さらに注目すべきは「縦断的な変化」、つまり約 6.6 年後の追跡調査(ARIC Visit 7)での変化です。CKM ステージが高いほど、左室重量の増大、左室収縮・拡張機能の悪化が速いペースで進行していました。ステージ 4 の群では、LV EF の低下幅が−3.24%/6.6 年、LV LS の低下幅が−1.11%/6.6 年と、ステージ 2 の群(−1.47%、−0.27%)と比べて著明に大きいことが確認されました。これは、CKM ステージが高い患者ほど心機能の悪化が加速していることを示す重要な所見です。
この研究から得られる臨床的なメッセージは明確です。CKM リスク因子(肥満・高血圧・糖尿病・CKD)の管理が不十分なまま放置すると、自覚症状のない段階から心臓のダメージが蓄積し、将来の心不全リスクが着実に高まっていくということです。定期的な心エコー検査や心臓バイオマーカー(NT-proBNP、トロポニン)の評価が、CKM シンドロームの早期発見と管理において重要な役割を果たします。
運動と冠動脈動脈硬化——「量」が重要、「強度」より「時間」
マスターアスリートの逆説
「運動は体に良い」——これは医学的に明確なエビデンスがある事実です。しかし、高齢の持久性アスリート(マスターアスリート)を対象とした複数の独立した国際コホート研究では、運動量が非常に多い男性アスリートにおいて、あまり運動しない同年代の男性と比較して、冠動脈の動脈硬化(プラーク)がむしろ多く観察されるという「逆説的な所見」が報告されてきました。
この「運動の逆説」を解明するうえで大きなハードルとなってきたのが、「運動量の測定方法」の問題でした。これまでの研究はほぼすべて、参加者自身の記憶に頼る「自己申告」に基づいており、想起バイアス(記憶の誤り)や強度の誤分類という問題を抱えていました。たとえば、「ジョギング 30 分」と申告した場合でも、その人の心拍数が 50%最大心拍数(ゆっくりしたペース)なのか 85%(高強度)なのかは、自己申告では区別できないのです。
この方法論的な限界を克服したのが、2026 年に『Circulation』誌に掲載された Master@Heart 研究のサブ解析(Pauwels らら)です。この研究では、45〜70 歳の男性 222 名(生涯アスリート 77 名、後発アスリート 98 名、対照群 47 名)を対象に、スマートウォッチ等のウェアラブル心拍モニターを用いて 12 カ月間のトレーニングデータを客観的に収集しました。そして「エドワーズ TRIMP(eTRIMP)スコア」という、心拍数ゾーンと運動時間を掛け合わせたトレーニング負荷の指標を算出し、冠動脈 CT で評価した動脈硬化所見との関連を分析したのです。
その結果、最も高い eTRIMP の四分位群(運動量が最も多い群)は、最も低い群と比較して、動脈硬化性プラークの有病率が 74.5%対 36.4%と約 2 倍(調整オッズ比 5.85、95%CI:2.33〜14.71、P<0.001)であることが確認されました。冠動脈カルシウムスコア(CAC)>0(aOR 5.03)、CAC>100(aOR 3.50)、石灰化プラーク(aOR 3.69)、部分石灰化プラーク(aOR 5.18)もすべて、高 eTRIMP 群で有意に多く認められました。一方、強度(高強度ゾーンで過ごした時間の割合)は、運動時間で調整すると冠動脈動脈硬化との有意な関連を示しませんでした。
つまり、冠動脈動脈硬化のリスクに関しては、「どれだけ激しく運動するか」よりも「どれだけ長い時間運動するか」——すなわち総運動量(ボリューム)が重要な規定因子であることが、客観的データによって初めて示されたのです。また、自己申告データは同じコホートでほとんど有意な関連を示さなかったことから、「いかに運動を正確に測定するか」が研究の質を左右することも明らかになりました。
動脈硬化が増えても「心血管イベントリスク」は低いのはなぜか?
「CAC 多い=すぐ危険」ではない理由
ここで重要な点を整理しておく必要があります。「マスターアスリートは動脈硬化プラークが多い」という事実は、「マスターアスリートは心臓発作のリスクが高い」を意味するわけではありません。これは非常に重要な区別です。
まず、冠動脈カルシウムスコア(CAC)が高くても、高い心肺体力(CRF)を持つ人では、同じ CAC スコアを持つ低体力者と比べて心血管イベントや死亡のリスクが低いことが、Cooper Center Longitudinal Study(Berry JD ら、Circulation 2025)などにより示されています。Schrama・Aengevaeren 両博士の解説(今回の掲載エディトリアル)も、「絶対リスクは体力のある人では低い」と強調しています。運動は伝統的なリスク因子(血圧・血糖・脂質・体重)を改善し、冠血管機能・構造を改善する多面的な効果を持ちます。さらに、運動による CAC 増加は「安定した石灰化プラーク」の形成と関連している可能性があり、これは脆弱(破裂しやすい)プラークよりも心血管イベントを起こしにくいとされています。
では、「どの程度の運動量が最適か」という問いに対して、現在のエビデンスはこう答えています。心血管リスク低減という観点からは、最大リスク低下はほとんどのアスリートの運動量に達するよりもずっと低い運動量で達成されます。週当たりの中等度〜高強度運動の推奨量(WHO:150〜300 分/週の中等度運動または 75〜150 分/週の高強度運動)を超えても心血管リスク低減の恩恵はあるものの、冠動脈動脈硬化プラークの蓄積というリスクも同時に生じる可能性があります。このトレードオフを個人がどう評価するかは、現時点では医学的に結論が出ていない領域であり、今後の長期縦断研究が求められます。
一般の方への実践的なメッセージとしては、「適度な運動は心臓・腎臓・代謝のいずれにも明確に有益であり、マスターアスリートレベルの過度な持久性トレーニングとは区別して考える必要がある」ということです。ウォーキング、軽いジョギング、サイクリング、水泳などの有酸素運動を週 300 分以上継続することは、CKM シンドロームの予防と改善に最も効果的な非薬物療法のひとつです。
運動で CKM シンドロームを予防・改善する——実践のポイント
有酸素運動が CKM 三臓器に与えるメカニズム
運動が CKM シンドロームの各構成要素に与える影響について、現時点でのエビデンスを整理します。まず「代謝」への効果として、有酸素運動はインスリン感受性を改善し、骨格筋によるブドウ糖取り込みを促進します。これにより血糖値が改善し、2 型糖尿病の発症・進行を抑制します。また内臓脂肪を減少させ、メタボリックシンドロームの構成要素(腹囲・血糖・血圧・中性脂肪・HDL コレステロール)をすべて改善することが多数の無作為化比較試験(RCT)で示されています。
「腎臓」への効果として、定期的な有酸素運動は eGFR の維持・改善、尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)の低下に関連することが示されています。肥満・糖尿病・高血圧という腎障害の主要リスク因子を運動が改善することで、CKD の進展が抑制されます。SGLT2 阻害薬や GLP-1 受容体作動薬などの薬物療法と運動を組み合わせることで、より相乗的な腎保護効果が期待されます。ARIC スタディでも、CKM ステージ上昇と並行して腎機能指標(eGFR 低下、UACR 増大)が悪化していることが示されており、代謝管理の一環としての運動療法の重要性が裏付けられています。
「心臓」への効果として、運動は左室収縮・拡張機能を改善し、心臓バイオマーカー(NT-proBNP)を低下させ、心エコーで評価される心リモデリングを抑制または改善します。ARIC スタディが示したとおり、CKM ステージが高いほど左室重量・充満圧・壁厚が増大し心機能が悪化するわけですが、この悪化軌跡を変えるうえで運動は中心的な役割を担います。CKM シンドロームの治療において現在推奨される薬物療法(SGLT2 阻害薬・GLP-1 受容体作動薬・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)はいずれも心腎代謝への複合的な保護効果を持ちますが、運動はこれらと相補的な非薬物療法として機能します。
まんかいメディカルクリニックは、三田市において生活習慣病管理、GLP-1 受容体作動薬による肥満・糖尿病治療、運動療法施設(指定運動療法施設)を有し、CKM シンドロームに対する包括的なアプローチを提供しています。運動の種類・強度・継続時間については個人の体力・疾患状態に合わせた処方が必要ですので、ぜひ一度ご相談ください。
ウェアラブルデバイスと医療の融合——計測こそが管理の第一歩
「記録されないものは存在しない」
Master@Heart 研究が示した最も重要なメッセージのひとつは、「いかに運動を正確に測定するかが研究の質(そして健康管理の質)を左右する」という点です。自己申告データがほとんど有意な関連を示さなかった一方で、ウェアラブルデバイスによる客観データは強力な用量反応関係を明確に示しました。Schrama・Aengevaeren 両博士はエディトリアルの中で「if it’s not recorded, it didn’t happen(記録されなければ、存在しなかったも同然)」というアスリートコミュニティの言葉を引いています。
この知見は一般の方の健康管理においても直接的な示唆を持ちます。スマートフォンの歩数計、スマートウォッチの心拍数モニタリング、歩数・消費カロリー・活動時間の記録——これらの客観データを用いることで、より正確な運動量の把握と管理が可能になります。実際、加速度計から得られる客観的な身体活動データは、アンケートから得られる主観データよりも心血管疾患リスク低減との強い関連を示すことが複数の研究で確認されています。225 分/週の中等度運動を客観データで達成した場合の調整ハザード比は約 0.45 であるのに対し、主観データでの同等量達成では約 0.70〜0.85 にとどまるという報告があります。
まんかいメディカルクリニックでは、ウェアラブルデバイスで記録したデータを診察時にご提示いただくことで、より精緻な運動処方・評価が可能です。「どれだけ歩いたか」「どれくらいの心拍数で動いたか」「何時間活動したか」——こうした客観データが、医師との共同意思決定(SDM)の質を高め、より効果的な CKM シンドロームの予防・管理につながります。今後、AI や機械学習の発展により、ウェアラブルデータの解析精度はさらに向上することが期待されており、医療とテクノロジーの融合は予防医学の新たな時代を切り拓いています。
まとめ——今日からできること
2 つの最新研究が共通して示すメッセージは、「心臓・腎臓・代謝は一体として管理しなければならず、運動はその中心的な柱である」ということです。CKM シンドロームのステージが上がるほど心不全リスクは飛躍的に高まり、心臓の構造・機能の悪化は無症状のうちから着実に進行します。一方で、適切な運動習慣はこの悪化軌跡を修正する強力なツールです。ただし「過ぎたるは猶及ばざるが如し」——長年にわたる過度な持久性トレーニングは、心血管リスク因子が少ないアスリートにおいても冠動脈動脈硬化を促進する可能性があり、運動量・強度のバランスが重要です。
まんかいメディカルクリニックでは、SGLT2 阻害薬・GLP-1 受容体作動薬などの最新の薬物療法に加え、運動療法(指定運動療法施設)、栄養指導、体重管理を組み合わせた包括的な CKM シンドローム管理を提供しています。日曜・祝日も診療を行っており、お仕事の都合でなかなか通院できない方にも対応しています。ぜひ一度、あなたの CKM リスクを一緒に評価させてください。
よくある質問(FAQ)
Q. CKM シンドロームのステージ 3 と言われました。心不全になるのでしょうか?
A. ステージ 3 は「潜在的な心血管病変(無症候性心不全、心臓バイオマーカーの上昇など)が CKM リスク因子と並存する状態」であり、心不全発症リスクが上昇していることは確かです。ARIC スタディでは、ステージ 3 の心不全発症率はステージ 2 の約 3.6 倍(調整ハザード比 3.6、95%CI:2.1〜6.0)と報告されています。ただし、これは「必ず心不全になる」ことを意味しません。ステージ 3 の段階で生活習慣の改善(食事・運動・禁煙・体重管理)と薬物療法(SGLT2 阻害薬・GLP-1 受容体作動薬など)を組み合わせることで、CKM ステージを下げることができ、リスクを低減できる可能性があります。実際、ARIC スタディでは約 6.6 年間の追跡でステージ 0〜3 の参加者の 3.4%が CKM ステージの改善(低下)を示しました。定期的な受診と包括的なリスク管理が重要です。
Q. 運動は週にどれくらい、どんな種類が心臓・腎臓・代謝に最も効果的ですか?
A. 現在の WHO(2020 年)および日本糖尿病学会・日本高血圧学会のガイドラインは、成人に対して「週 150〜300 分の中等度有酸素運動(速歩・サイクリング・水泳など)、または週 75〜150 分の高強度有酸素運動」を推奨しています。中等度運動とは会話ができる程度のペースが目安です。加えて週 2〜3 回の筋力トレーニングも推奨されています。運動は血糖・血圧・脂質・体重という CKM シンドロームの主要リスク因子のすべてを改善することが無作為化比較試験で確認されています。一方、Master@Heart 研究が示したように、週に非常に多くの時間(競技アスリートレベル)の持久性運動を長期継続している場合は冠動脈動脈硬化のリスクが上昇する可能性があります。一般の方にとっては「推奨量を満たす運動習慣の確立と継続」が最優先事項です。具体的な種類・強度・時間については個人の体力・疾患状態を考慮した処方が必要ですので、医師にご相談ください。
Q. スマートウォッチの心拍数データは診療に役立ちますか?
A. はい、非常に有用です。Master@Heart 研究では、自己申告による運動データと冠動脈動脈硬化との関連は有意でなかったのに対し、ウェアラブルデバイスによる客観的な心拍ベースのトレーニングデータは冠動脈動脈硬化と強い用量反応関係を示しました。また、加速度計など客観的測定機器から得られる身体活動データは、アンケートベースのデータと比較して心血管疾患リスク低減との関連がより強いことが示されています(中等度運動 225 分/週達成で、客観データでは調整ハザード比約 0.45、主観データでは 0.70〜0.85 程度)。スマートウォッチの歩数・心拍数・活動時間・睡眠データを受診時にご持参いただくことで、より精緻な運動評価と処方が可能です。当院ではこれらのデータを活用した運動処方も行っておりますので、お気軽にご相談ください。
Q. CKM シンドロームの管理に、薬と運動のどちらが重要ですか?
A. 薬と運動はどちらが重要かという二者択一ではなく、それぞれが相補的な役割を持っており、組み合わせることで最大の効果が得られます。現在 CKM シンドロームの管理に推奨されている薬物療法のうち、SGLT2 阻害薬(エンパグリフロジン、カナグリフロジンなど)は心不全・慢性腎臓病・2 型糖尿病のいずれに対しても予後改善効果を持つことが複数の大規模 RCT で証明されています。GLP-1 受容体作動薬(セマグルチドなど)も肥満・2 型糖尿病・心血管疾患のすべてに対して有効です。ARIC スタディの著者らも、これらの薬物療法を「CKM 三臓器に対する交差的利益を持つ治療」として推奨しています。一方、運動療法は薬物では代替できない多面的な効果(筋力維持、精神的健康、骨密度、睡眠質など)を持ち、薬物療法の効果を増強することが知られています。生活習慣の改善(運動・食事・禁煙・体重管理)を基盤としつつ、必要に応じた薬物療法を組み合わせることが、最も科学的根拠に基づいた管理法です。
Q. 高齢になってから運動を始めても、CKM シンドロームや心不全予防に効果がありますか?
A. はい、高齢になってから運動を始めても明確な効果があります。Master@Heart 研究では、30 歳以降に運動を始めた「後発アスリート」においても、生涯アスリートと比較して動脈硬化プラークの分布が異なることが示されており、開始時期が予後に影響する可能性が示唆されています。また、複数の大規模 RCT や観察研究において、65 歳以上の高齢者が運動習慣を開始・継続することで、心血管疾患・2 型糖尿病・CKD の進展リスクが有意に低下することが確認されています。ARIC スタディのコホートは 66〜90 歳の高齢者が対象でしたが、その中でも CKM ステージが低い(リスク因子が少ない)参加者では心不全発症率が低く抑えられていました。高齢者においては、転倒リスクを考慮しつつ、ウォーキング・水中歩行・自転車エルゴメーター・椅子を使ったストレッチなど、安全に継続できる種類の運動から始めることが重要です。当院の指定運動療法施設では、医師の指導のもと個人に合わせた安全な運動プログラムを提供しています。
参考文献
- Højbjerg Lassen MC, Ostrominski JW, Claggett BL, Ndumele CE, Biering-Sørensen T, Matsushita K, Selvin E, Coresh J, Shah A, Solomon SD, Vaduganathan M. Cardiovascular–Kidney–Metabolic Syndrome Stages, Echocardiographic Characteristics, and Heart Failure Risk: The Atherosclerosis Risk in Communities Study. Circulation. 2026;153:00–00. DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.125.077894
- Schrama TJ, Aengevaeren VL. Disentangling the Relationship Between Exercise and Coronary Atherosclerosis: Wearable Training Data Are the Way Forward [Editorial]. Circulation. 2026;153:1023–1025. DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.126.079462
※ 本コラムは医学文献に基づく情報提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。症状や治療についてのご相談は、まんかいメディカルクリニックまでお気軽にお越しください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
