【気管支喘息】喘息のステロイド治療〜長期使用のリスクを頭の片隅に〜
■はじめに
喘息(気管支喘息)は、気道の慢性炎症によって引き起こされる疾患であり、日本では約 1,000 万人が罹患していると推定されています。その治療においてステロイド薬(コルチコステロイド)は中心的な役割を担ってきました。しかし、ステロイド薬の長期使用には副作用リスクが伴うことが、あらためて近年の大規模な研究によって明らかになっています。
本コラムでは、2026 年に欧州呼吸器学会誌(ERJ Open Research)に掲載されたデンマーク全国コホート研究をはじめとする最新のエビデンスをもとに、喘息治療におけるステロイドの役割・リスク、そして最新の治療の方向性についてわかりやすく解説します。
■喘息治療におけるステロイドの役割
吸入ステロイド(ICS)
吸入ステロイド薬(ICS: Inhaled Corticosteroid)は、喘息治療の基本であり、気道の炎症を抑え、発作の頻度を減らすために使用されます。GINA ガイドライン(Global Initiative for Asthma)2024 年版においても、軽症から重症に至るあらゆる喘息において、吸入ステロイドを中心とした抗炎症治療が強く推奨されています¹。
ICS は気道への直接作用が主であり、全身への影響が少ないとされてきました。しかし、近年の研究では、高用量の ICS 長期使用が副腎皮質機能抑制や骨粗鬆症、糖尿病リスク上昇などの全身性副作用と関連することが示されています²。
全身性ステロイド(経口・注射)
重症の発作時や、吸入薬だけでは症状のコントロールが困難な「重症喘息」では、プレドニゾロンなどの全身性ステロイドが使用されます。短期間の使用は救命的に重要ですが、長期・反復使用により骨粗鬆症、糖尿病、高血圧、感染症リスク増加、白内障など多数の合併症が生じることが知られています³。
■最新研究が示す「累積ステロイド暴露」の深刻な実態
2026 年に ERJ Open Research に掲載されたデンマーク全国重症喘息登録(DSAR)を用いた研究は、生物学的製剤(バイオ製剤)を導入した重症喘息患者 542 名を対象に、最大 25 年間にわたるステロイド累積暴露量を詳細に解析しました⁴。
主な研究結果
- バイオ製剤導入前の累積ステロイド暴露量の中央値は 17.1g(プレドニゾロン換算)にのぼった
- このうち約 40%(7.2g)が経口・注射などの全身性ステロイドによるものであった
- 患者の 56%では、吸入よりも全身性ステロイド暴露量のほうが多かった
- 累積暴露量の 72.5%は、専門医への初回受診よりも前に発生していた
- 慢性重症喘息の患者では累積暴露量が 50.7g と、最近発症型の約 7 倍に達していた
特に注目すべき点は、「専門医に診てもらう前の段階で、すでに大量のステロイドが使われていた」という事実です。これは、かかりつけ医レベルでの早期・適切な管理と、必要に応じた専門医への早期紹介の重要性を示しています。
吸入ステロイドも軽視できない
同研究では、患者の 10%以上が 20 年以上にわたって、ICS をプレドニゾロン換算で 1 日 5mg 以上に相当する高用量で使い続けていたことが明らかになりました。これは従来の認識を覆す知見であり、 ICS の高用量長期使用による全身副作用のリスクを再評価する必要性が強調されています。
2024 年に「American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine」誌に掲載された大規模研究においても、ICS の用量と有害事象(骨粗鬆症、白内障、感染症リスクなど)は用量依存的に相関することが示されています²。
■長期ステロイド使用がもたらす合併症
ステロイドの長期使用に伴う合併症は非常に多岐にわたります。実際に、ステロイドの累積暴露量が増えるほど合併症の数も増加することが、複数の研究で一貫して示されています³˒⁴。
- 骨粗鬆症・骨折リスクの増加
- 2 型糖尿病・血糖値上昇
- 高血圧・心血管疾患リスク増加
- 副腎機能低下(副腎抑制)
- 白内障・緑内障
- 感染症への脆弱性増大
- 精神症状(不眠・気分変動)
「Too Late Asthma(手遅れ喘息)」という概念が近年注目されています。これは、長年のステロイド大量使用によって肺や全身に不可逆的なダメージが生じた状態を指し、バイオ製剤を導入してもその合併症が改善しない患者が一定数存在することが報告されています⁴。
■生物学的製剤(バイオ製剤)がもたらす新しい治療の選択肢
重症喘息の治療に革命をもたらしたのが、生物学的製剤(バイオ製剤)です。これらは、喘息の炎症に関わる特定の分子(IL-4、IL-5、IL-13、IgE など)を標的とした注射薬であり、重症患者においてステロイドの使用量を大幅に減らしながら、症状のコントロールを達成できることが証明されています。
2025 年に「American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine」誌に掲載された実臨床データを用いた研究では、バイオ製剤の早期導入が心血管疾患をはじめとする全身性合併症の新規発症を有意に抑制することが示されました⁵。
デンマークの研究においても、バイオ製剤導入後には ICS を安全に減量できることが示されており(SHAMAL 試験、Lancet 2024 年掲載)⁶、「ステロイド節約効果」は現在の重症喘息治療における最重要課題のひとつとなっています。
■まんかいメディカルクリニックでの取り組み
当クリニックでは、呼吸器専門医が在籍し、重症喘息・難治性喘息の患者さんに対して、最新のガイドラインと国際的なエビデンスに基づいた診療を提供しています。
ステロイドの適切な管理(最小有効量の維持・早期減量)を基本方針とし、適応と判断した場合にはバイオ製剤治療もご提案しています。「なかなか喘息が良くならない」「ステロイドをいつまで続けなければならないのか不安」といった方は、ぜひ一度ご相談ください。
■よくあるご質問(FAQ)
Q: 吸入ステロイドは安全ですか?長く使っても問題ないですか?
吸入ステロイドは全身への影響が少なく、喘息治療の基本薬として広く使用されており、適切な用量であれば長期使用も可能です。ただし、高用量での長期使用は、副腎機能抑制・骨密度低下・白内障などの全身副作用と用量依存的に関連することが、2024 年に米国呼吸器学会誌(AJRCCM)に掲載された大規模研究(Bloom CI et al.)で明らかになっています。主治医と定期的に用量の見直しを行うことが重要です。
Q: 経口ステロイドを長く飲むと、どのようなリスクがありますか?
経口ステロイドの長期使用は、骨粗鬆症、2 型糖尿病、高血圧、白内障、感染症リスク増大など多彩な合併症と関連します。これらのリスクは用量依存的であり、低用量(プレドニゾロン換算で 5mg/日未満)であっても長期使用では合併症リスクが上昇することが、欧州呼吸器学会誌(ERJOpen Research 2026)のデンマーク全国コホート研究(Berner G et al.)および米国の実臨床研究(Casale TB et al., 2024)で示されています。
Q: 重症喘息でステロイドをたくさん使ってきましたが、生物学的製剤(バイオ製剤)に変えることはできますか?
重症喘息において、生物学的製剤はステロイドの使用量を大幅に減らす「ステロイド節約効果」が実証されています。2024 年に Lancet 誌に掲載された SHAMAL 試験(Jackson DJ et al.)では、バイオ製剤(ベンラリズマブ)導入後に吸入ステロイドを安全に減量できることが示されました。また、バイオ製剤の早期導入が心血管疾患などの合併症新規発症を抑制することも報告されています(Sadatsafavi M et al., AJRCCM 2025)。適応かどうかは専門医が判断しますので、お気軽にご相談ください。
Q: 専門医に紹介されるタイミングが遅れると、何か問題がありますか?
はい、非常に重要な問題です。2026 年のデンマーク全国コホート研究(Berner G et al.)では、生物学的製剤を使用した重症喘息患者の累積ステロイド暴露量の 72.5%が、専門医への初回受診よりも前に発生していたことが明らかになりました。つまり、専門医に診てもらうまでの間にすでに大量のステロイドが使われ、合併症リスクが高まっていたことを意味します。症状が治療で改善しない場合は、早めに専門医への紹介を受けることが重要です。
Q: 喘息がある程度コントロールされていれば、ステロイドを自己判断で減らしてもよいですか?
自己判断による急な減量は危険です。ステロイドの急激な中止・減量は喘息発作の悪化を招く恐れがあります。また、長期使用により副腎機能が抑制されている場合、急な中止が副腎クリーゼ(命に関わる副腎不全)を引き起こす可能性があります。GINA ガイドライン 2024 年版において も、吸入ステロイドの用量は症状のコントロール状況を評価しながら段階的に減量することが推奨されており、必ず主治医の指示のもとで行ってください。
参考文献
- Global Initiative for Asthma (GINA). Global Strategy for Asthma Management and Prevention. Updated 2024. https://ginasthma.org/
- Bloom CI, Yang F, Hubbard R, et al. Association of dose of inhaled corticosteroids and frequency of adverse events. Am J Respir Crit Care Med. 2024;211:54-63. doi:10.1164/rccm.202302-0434OC
- Casale TB, Corbridge T, Germain G, et al. Real-world association between systemic corticosteroid exposure and complications in US patients with severe asthma. Allergy Asthma Clin Immunol. 2024;20:25. doi:10.1186/s13223-024-00884-4
- Berner G, Soendergaard MB, Hansen S, et al. Cumulative corticosteroid burden over 25 years in patients initiating biologic therapy for severe asthma: a nationwide cohort study. ERJ Open Res. 2026;12:00677-2025. doi:10.1183/23120541.00677-2025
- Sadatsafavi M, Tran TN, Scelo G, et al. Prevention of cardiovascular and other systemic adverse outcomes in patients with asthma treated with biologics. Am J Respir Crit Care Med. 2025;211:1165-1174. doi:10.1164/rccm.202407-1432OC
- Jackson DJ, Heaney LG, Humbert M, et al. Reduction of daily maintenance inhaled corticosteroids in patients with severe eosinophilic asthma treated with benralizumab (SHAMAL): a randomised, multicentre, open-label, phase 4 study. Lancet. 2024;403:271-281. doi:10.1016/S0140-6736(23)02284-5
※本コラムは一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
