病気と健康の話

【生活習慣病】GLP-1薬はがんも防ぐのか?:2026年のエビデンスが語る、行動変容では足りない肥満関連がんの予防戦略

■はじめに

肥満は、がんリスクを高める最も重要な生活習慣病の一つです。日本でも肥満人口は増加を続けており、がんの予防において肥満対策はきわめて重要な課題となっています。近年、GLP-1 受容体作動薬(セマグルチド・チルゼパチドなど)という新しいタイプの肥満治療薬が登場し、体重を減らすだけでなく、がんリスクそのものを下げる可能性があるとして世界的に注目を集めています。

このコラムでは、2026年2月に英国の医学誌「British Journal of Cancer(英国がん学会誌)」に掲載された最新の論文をわかりやすく解説するとともに、欧米の最新エビデンスもあわせてご紹介します。肥満関連がんの現状、予防戦略の可能性、そして今後の課題について、患者さんにも理解しやすい言葉でお伝えします。


British Journal of Cancer(2026 年)論文の詳解

  • Harris M, Brown J, Renehan AG. Preventing obesity-related cancer with the revolution in obesity management: the challenges of undertaking a clinical trial and potential solutions. British Journal of Cancer, 2026. doi:10.1038/s41416-026-03355-8

■1.肥満とがん—どれだけリスクが高まるのか?

肥満は世界規模で深刻な健康問題となっており、2016 年時点で成人の19 億人以上が過体重(BMI 25 以上)、そのうち6億5,000 万人以上が肥満(BMI 30 以上)と分類されていました。この数字は2030年までに10億人を超えると予測されており、各国で年々増加が続いています。1990年から2022年の間に、女性の肥満有病率が増加した国は177カ国中89%にあたる157カ国、男性では73%の145カ国に達しています。

肥満がなぜがんを引き起こすのか、そのメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、現在のところ以下のような複数の経路が関与していると考えられています。まず、脂肪組織の過剰な蓄積は慢性的な炎症状態を引き起こします。この低度炎症が長期間持続すると、細胞のDNA が傷つき、がん化のきっかけになります。次に、肥満では体内のインスリンやIGF-1(インスリン様成長因子-1)の濃度が高くなる傾向があり、これらのホルモンは細胞の増殖を促進し、がん細胞の成長を助けてしまいます。さらに、特に閉経後の女性では、脂肪細胞がエストロゲンを産生するため、乳がん・子宮体がん・卵巣がんのリスクが上昇します。加えて、肥満はT細胞などの免疫細胞の機能を低下させ、がん細胞への免疫監視能力を弱めることが知られています。

国際がん研究機関(IARC)は2016年に、体脂肪過剰が確実にリスクを高める13種類のがんを定義しました。その13種類とは、食道腺がん・胃噴門部がん・大腸がん・肝臓がん・胆嚢がん・膵臓がん・閉経後乳がん・子宮体がん・卵巣がん・腎細胞がん・髄膜腫・甲状腺がん・多発性骨髄腫です。英国のGLOBOCANデータベースを用いた分析では、2003 年から2017 年にかけてがん全体の罹患率が着実に上昇しており、肥満関連がんに限定しても同様の増加傾向が確認されています。また、GloboCan 社の「CANCER TOMORROW」モデルによると、仮に肥満率が今日のまま変化しなかったとしても、2022年から2050年の間に肥満関連がんの年間新規発症数は大幅に増加すると予測されており、例えば子宮体がんは125.8%増、膵臓がんは89.3%増、大腸がんは79%増が見込まれています。これは、高齢化や人口増加の効果だけでなく、肥満そのものがいかに将来の医療負担を増大させるかを示す数字です。

■2.体重を減らすと、がんリスクは本当に下がるのか?

肥満とがんが関連しているということは分かってきましたが、では「体重を減らせばがんリスクが下がるのか」という問いに答えることは、実はとても難しい課題です。肥満の人が意図的に体重を減らした場合のがんリスク変化を調べた観察研究はいくつか存在しますが、対象集団が限定的であったり、方法論的な問題が指摘されています。この論文では、体重を減らすための主な3 つの方法について、現時点での科学的エビデンスを整理しています。

① 肥満手術(バリアトリック手術)

胃バイパス術やスリーブ胃切除術などのバリアトリック手術は、体重の25〜35%という大幅な長期的体重減少をもたらします。これは薬物療法や食事療法と比べて最も大きな効果です。また、複数の観察研究のメタアナリシスにより、手術後の肥満関連がんの発症リスクが低下することが示されています。スウェーデンの大規模コホート研究(SOS研究)では、手術後10年以上経過してから、対照群と比較してがんリスクの有意な低下が観察されました。ただし、手術には合併症のリスクが伴い、医療提供側のキャパシティや患者さんの受け入れやすさの問題もあることから、社会全体のがん予防策として広く普及させることには限界があります。手術は患者さん個人にとっては有効な選択肢ですが、公衆衛生対策としての活用には適していないのが現状です。

② 行動変容(食事・運動・生活習慣改善)

食事制限・運動・心理療法などの行動変容は、肥満治療の基本であり、長く実践されてきたアプローチです。しかし、手術と比較すると体重減少効果はかなり限定的で、体重の2〜5%程度の減少にとどまります。また、この程度の体重減少ではがんリスクの有意な低下を証明したランダム化比較試験(RCT)はこれまで存在しません。アメリカで行われた大規模RCTである「Look AHEAD試験」では、2 型糖尿病患者に対して11 年間の集中的生活習慣介入を行い、肥満関連がんの発症が対照群と比較して84%(RR=0.84)と少ない傾向がみられましたが、統計的有意差には達しませんでした(95%CI=0.68〜1.04)。さらに「糖尿病予防プログラム(DPP)」では、21 年間の追跡調査の結果、プラセボ群と比較した集中的生活習慣介入群のがん発症リスクに有意差はなく(RR=0.96、95%CI=0.79〜1.18)、行動変容のみによるがん予防効果は、あったとしても非常に小さいことが示唆されています。

③ 薬物療法(肥満治療薬)

肥満の薬物療法はここ数年で革命的な変化を遂げました。GLP-1 受容体作動薬(セマグルチド・リラグルチドなど)、さらに進化した二重作動薬(GLP-1+GIP 受容体:チルゼパチド)、三重作動薬(GLP-1+GIP+グルカゴン受容体:レタトルチド)が登場し、それぞれ体重の12〜24%という体重減少をもたらすことが大規模RCTで示されています。

これらの薬は元々2 型糖尿病の治療薬として開発されましたが、体重減少効果が確認されたため、より高用量での肥満治療への応用が検討・承認されています(例:セマグルチド週1 回2.4mg 皮下注射)。さらに、体重減少以外にも、心血管リスクの低下(SELECT 試験)、腎機能保護、膝関節炎の改善など、多岐にわたる臓器保護効果が確認されています。甲状腺がんや膵臓がんへの懸念が当初ありましたが、RCT のメタアナリシスでは安全性が確認されており、現在これらの薬はがん予防薬としての可能性をもつ有望な候補として注目されています。マッチドコホート研究では、GLP-1 使用者で複数のがんリスクが有意に低下していたという報告もありますが、観察研究特有のバイアスの問題が指摘されており、因果関係の確立には更なる検証が必要です。

■3.なぜ臨床試験が必要なのか?

GLP-1受容体作動薬によるがん予防効果を実証するためには、ランダム化比較試験(RCT)が「ゴールドスタンダード(最良の証拠)」です。観察研究には様々なバイアス(交絡因子)が混入するリスクがあり、「GLP-1 を使った人ではがんが少なかった」という観察データのみでは、薬が原因でがんが減ったとは言いきれません。例えば、GLP-1 を処方されるような患者さんは、そもそも医療へのアクセスが良好で、健康意識も高い傾向があるため、そのような背景の違いだけでがんリスクが異なる可能性もあります。

糖尿病予防プログラムやDiRECT試験、DROPLETなどのRCTが、診療ガイドラインや公衆衛生政策の変更に大きな影響を与えた先例を考えると、GLP-1 薬のがん予防効果を検証するRCT を実施することは、科学的・社会的に重大な意義を持ちます。しかし同時に、そのような試験を実施することには数多くの困難が伴います。米国国立がん研究所(NCI)が以前に乳がん予防臨床試験の実現可能性を検討した際、主要評価項目として「生存率」を選ぶことが最も現実的と判断されたのも、がん予防試験の難しさを示しています。

■4.がん予防臨床試験における6つの主要課題

この論文では、GLP-1 薬を用いたがん予防の大規模臨床試験を実施する際の、具体的な6 つの課題とその解決策が体系的に論じられています。

課題①:競合リスクの問題(試験対象集団に関連)

10 年以上続く臨床試験では、他の疾患による死亡リスクの影響が無視できません。たとえば、SELECT 試験ではセマグルチドが4 年間で心血管死亡を15%低減させることが示されました。つまり、薬によって心疾患死を防ぎ参加者が長生きすることで、それだけがんを発症する機会も増えてしまいます。この場合、薬のがん予防効果が「長生きしたためにがんになった」という逆効果に相殺され、見かけ上効果が小さく評価されてしまう(バイアスが生じる)可能性があります。解決策としては、競合リスク分析を事前に計画的に組み込む方法がありますが、臨床試験開始前にすべての競合リスクを特定することは現実的に困難です。

課題②:がん発症数の少なさ(試験対象集団に関連)

一般集団でのBMI30 以上の人の10 年間のがん発症リスクは、概算で7〜8%程度に過ぎません。仮にGLP-1 薬でがんリスクが楽観的に25%減少したとしても、介入群と対照群で検出できるがん発症の絶対差はわずか2%程度(治療必要数=50)になります。この小さな差を統計的な力(検出力90%)で検出するには、完全な追跡・服薬遵守を前提として各群に7,000 人以上が必要となります。さらに脱落や服薬不遵守を考慮すれば、実際に必要なサンプルサイズはこの数倍になりえます。解決策としては、肥満度3 度(BMI≧40)の女性やBRCA遺伝子変異保持者のような「高リスク集団」を選定することで、より小さなサンプルサイズで効果を検出できる可能性があります。ただし、特定集団への結果が一般集団に当てはまるかという「外的妥当性」の問題が残ります。

課題③:介入の複雑さ(介入に関連)

GLP-1 薬を用いたがん予防試験では、薬の投与は段階的な増量が必要であり、悪心・嘔吐・下痢などの消化器症状という副作用への対応が求められます。また、服薬を中止すると体重が元に戻るという「リバウンド」の問題も重要で、薬の長期投与を前提とした試験設計が必要になります。さらにSTEP 試験のように、薬の投与と行動変容プログラムを組み合わせた試験設計では、介入全体の標準化や実施のバラつきが課題となります。薬を一定期間投与して目標体重減少を達成した後、維持段階に切り替える設計も考えられますが、それぞれの段階での目標設定やモニタリングがさらに複雑になります。解決策としては、因子計画試験(ファクトリアルデザイン)・多段階最適化(MOST)・適応介入デザイン(SMART)などの革新的試験デザインを活用し、患者・市民参画(PPIE)による試験設計の改善が提案されています。

課題④:コントロール群の設定(比較対象に関連)

GLP-1 薬の心血管保護・腎保護・関節炎改善など多岐にわたる健康効果が既に確立されている現状では、「プラセボ群への無作為化」は患者さんにとって受け入れがたいものになっています。10 年間プラセボを投与し続けることは、倫理的にも問題があります。かといって、行動変容プログラムや他の肥満治療薬を対照とした場合、対照群も一定の体重減少を達成し、がんリスクが低下する可能性があり、介入群との差が小さくなって検出力が低下します。また、試験期間中に新しいより効果的な肥満治療薬が市場に出た場合、対照群の参加者が試験外でその薬を使用し始める「コンタミネーション(汚染)」のリスクもあります。解決策としては、PPIE による参加者・市民の意見を最大限に取り入れた試験設計の最適化、プラットフォーム試験デザイン(新薬を随時追加できる多群試験)の採用が提案されています。

課題⑤:長期の観察期間が必要(評価項目に関連)

がんの「潜伏期間(ソジョーン時間)」は2年以上のものも多く、体重減少によるがん予防効果が実際に現れるまでには長い時間が必要です。バリアトリック手術の研究(SOS研究)では、手術後10年以上経過して初めて対照群との間にがん発症率の有意差が確認されました。つまり、GLP-1 薬のがん予防試験も最低10 年以上の観察期間が必要と推測されます。これほどの長期間試験になると、脱落率・服薬遵守率・参加者のリクルート維持が極めて重要になります。解決策としては、がん前駆病変や腫瘍バイオマーカー(サロゲートエンドポイント)を用いることで観察期間を短縮できる可能性がありますが、バイオマーカーと実際のがん発症との相関が不明確な点が課題です。

課題⑥:膨大な資金コスト(評価項目に関連)

以上の課題を踏まえると、GLP-1薬のがん予防臨床試験は、大規模なサンプル、長期の観察期間、複雑な介入、そして高頻度の安全性モニタリングが必要となり、その資金コストは膨大なものになります。通常のフェーズ3RCT でも多くの外来受診を要するため、参加者の脱落リスクや試験コストが跳ね上がります。こうした財政的・機会費用的観点からの費用便益分析も、試験設計の意思決定において重要な要素です。ただし、論文の著者らは「がんの治療は非常に高額で長期に及ぶため、予防に成功した場合のコスト削減効果は大きく、経済的にも支配的な結果をもたらす可能性が高い」と指摘しています。解決策の一つとして、プラットフォーム試験デザインの採用による効率化や、非がん転帰も含めた多目的試験デザインが提案されています。また、万一フル規模のRCT が不可能な場合には、ターゲット試験エミュレーション(TARGET)という観察研究の手法を用いて仮想的なRCTをシミュレートすることも代替案として検討されています。

■5.まとめと今後の展望

Harris らの論文は、肥満関連がんの予防という観点から、GLP-1 受容体作動薬を含む現代の肥満治療薬が持つ可能性と、それを科学的に証明するための臨床試験設計上の困難を体系的に整理した重要な総説です。

今後25年間で、肥満率の上昇に伴い肥満関連がんの患者数は世界規模で急増することが確実視されています。一方、GLP-1薬をはじめとした新世代の肥満治療薬は、これまでにない大幅な体重減少と持続的な効果をもたらすことが実証されており、がん予防薬としての可能性を秘めています。しかしながら、現時点では因果関係を証明する直接的なエビデンスは不十分であり、標準診療や公衆衛生政策を変えるためには、長期・大規模・倫理的に適切な臨床試験が不可欠です。著者らは、こうした臨床試験を成功させるためには、革新的な試験デザイン・患者市民参画・代替評価指標の開発・十分な資金確保が鍵になると結論づけています。また、バイオマーカーやがん前駆病変を用いた研究や、GLP-1薬のがん抑制メカニズムの解明も並行して進める必要があると強調しています。


欧米最新論文9件の要約・解説

以下に、欧米の権威ある医学誌に掲載された最新の肥満関連がん予防研究を9件選定し、それぞれ要約・解説します。British Journal of Cancerの論文(第1部)と合わせて、計10件の国際エビデンスをお届けします。

論文① JAMA Network Open(2024)

  • Wang L, Xu R, Kaelber DC, Berger NA. Glucagon-Like Peptide 1 Receptor Agonists and 13 Obesity-Associated Cancers in Patients With Type 2 Diabetes. JAMA Netw Open. 2024;7(7):e2421305.

【研究概要と要約】
アメリカの電子カルテデータベース(1億1,300万人以上)を用いた後ろ向きコホート研究で、2型糖尿病患者165万人以上を対象に、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)使用者とインスリンまたはメトホルミン使用者との間で、13種類の肥満関連がんの新規発症リスクを比較した大規模研究です。最長15年間の追跡を行い、プロペンシティスコアマッチングにより交絡因子を調整しました。

【主な結果】
インスリン使用者との比較では、GLP-1RA使用者において13種類のがんのうち10種類(食道がん・大腸がん・子宮体がん・胆嚢がん・腎臓がん・肝臓がん・卵巣がん・膵臓がん・髄膜腫・多発性骨髄腫)で有意なリスク低下が確認されました。メトホルミン使用者との比較では有意差はなく、GLP-1RA効果の相対的な大きさが明確になりました。この研究は、GLP-1RA類のがん抑制効果を示す最大規模の観察研究の一つとして高く評価されています。ただし観察研究であるため因果関係の確定には至っておらず、RCTによる検証が必要と著者らは強調しています。

論文② JAMA Oncology(2025)

  • Dai H, Li Y, Lee YA, Lu Y, et al. GLP-1 Receptor Agonists and Cancer Risk in Adults With Obesity.JAMA Oncol. 2025;11(10):1186-1193.

【研究概要と要約】
OneFlorida+ネットワーク(14医療機関、約2,000万人)の2014〜2024年電子カルテデータを用いた後ろ向きコホート研究で、糖尿病の有無を問わない肥満成人を対象に、GLP-1RA使用者43,317名と非使用者43,315名(1:1プロペンシティスコアマッチング)を比較しました。13種類の肥満関連がんと肺がんの計14種類のがん発症率を追跡したターゲット試験エミュレーション研究です。

【主な結果】
GLP-1RA使用者ではがん全体の発症率が有意に低下しており(ハザード比0.83、95%CI 0.76〜0.91、p=0.002)、13種類のがんのうち12種類でリスク低下の傾向がみられました。特に子宮体がん(HR 0.75)・卵巣がん(HR 0.53)・髄膜腫(HR 0.69)では統計的に有意な低下が確認されました。ホルモン感受性のがんへの効果が特に顕著であり、女性・代謝リスクの高い患者での効果が大きい傾向がみられました。一方、腎臓がんでは1.38倍のリスク増加傾向(ただしCI=0.99〜1.93で境界的)が観察され、特に65歳以下・過体重(BMI 27〜29.9)の患者での監視強化が必要とされています。

論文③ eClinicalMedicine / The Lancet(2025)

  • Levi-Chetrit E, et al. Glucagon-like peptide-1 receptor agonists compared with bariatric metabolic surgery and the risk of obesity-related cancer: an observational, retrospective cohort study. eClinicalMedicine (The Lancet). 2025.

【研究概要と要約】
イスラエルのClalit医療機関の電子カルテを用い、肥満・2型糖尿病患者のうちGLP-1RA(主にリラグルチド)を使用した群とバリアトリック手術(BMS)を受けた群を3,178組(1:1マッチング)で比較した後ろ向きコホート研究です。中央値7.5年(最大12.9年)という長期追跡が特徴で、GLP-1RAと肥満関連がん(ORC)の長期比較効果を世界で初めて検証した研究です。

【主な結果】
GLP-1RA治療群では、肥満関連がんの発症リスクがBMS群と比較して同等または低い傾向がみられ、少なくとも第一世代GLP-1RAによる治療が肥満関連がんリスクを増加させないことが示されました。体重減少以外の経路(炎症抑制など)がGLP-1RAのがん抑制に貢献している可能性も示唆されています。観察研究の限界から、RCTや大規模前向きコホート研究による検証が推奨されています。

論文④ Diabetes, Obesity and Metabolism(2025)

  • Silverii GA, Marinelli C, Bettarini C, et al. GLP-1 receptor agonists and the risk for cancer: A metaanalysis of randomized controlled trials. Diabetes Obes Metab. 2025;27(8):4454-4468.

【研究概要と要約】
イタリアのフィレンツェ大学グループによる、GLP-1RAとがんリスクに関するランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシスです。50のRCTを対象に、GLP-1RA使用者と非使用者のがん全体・部位別がんのリスクを比較しました。観察研究とは異なり、RCTのメタアナリシスは因果関係の推定に最も信頼性が高い研究手法です。

【主な結果】
GLP-1RAはがん全体のリスクに有意な変化をもたらさない(MH-OR 1.05、95%CI 0.98〜1.13)ことが示されました。一方、肥満患者を対象とした試験に限定すると、子宮体(内膜)がんリスクは有意に低下しました(MH-OR 0.24、95%CI 0.06〜0.94)。甲状腺がんについては、長期試験でリスクがやや増加する傾向(MH-OR 1.55)が観察されましたが、これは検出バイアスの可能性も否定できません。大腸がんについては短期試験でわずかなリスク増加(MH-OR 1.27)がみられましたが、これは消化器症状による内視鏡検査増加の影響(過剰診断)の可能性が指摘されています。全体として、GLP-1RAは大半のがんへのリスクに有意な影響を及ぼさず、肥満関連のがんについてはリスク低下の可能性があるとまとめられています。

論文⑤ Journal of Clinical Investigation(2025)

  • Duca FA, et al. GLP-1 receptor agonists and cancer: current clinical evidence and translational opportunities for preclinical research. J Clin Invest. 2025;135(21):e194743.

【研究概要と要約】
GLP-1受容体作動薬とがんリスクに関する包括的な総説論文です。甲状腺・膵臓・消化管・ホルモン依存性悪性腫瘍に対するGLP-1RAの臨床エビデンスを網羅し、前臨床研究(動物実験・細胞実験)から得られる知見との橋渡しを体系的にまとめています。北米・欧州の複数の大学・研究機関の研究者が参加した国際共同論文です。

【主な結果】
最新のメタアナリシスでは、GLP-1RA療法はほとんどのがんで発症リスクを増加させず、一部では低下させる可能性があると結論づけています。前臨床研究では、膵臓がん、乳がん、大腸がん等においてGLP-1RAが腫瘍微小環境を改善し(例:免疫細胞浸潤の促進、癌関連線維芽細胞の抑制)、がん進行を抑制する証拠が蓄積されています。チルゼパチド(GLP-1/GIP二重作動薬)は子宮内膜がんの前臨床モデルで有望な効果を示しており、臨床試験でも乳がん治療中の体重管理に有効であることが示されています。今後のRCTや大規模前向き研究がこの分野を飛躍的に進める可能性があると指摘されています。

論文⑥ Wilson RB et al. メタアナリシス(Int J Mol Sci、2023)

  • Wilson RB, Lathigara D, Kaushal D. Systematic review and meta-analysis of the impact of bariatric surgery on future cancer risk. Int J Mol Sci. 2023;24(7):6192.

【研究概要と要約】
バリアトリック手術が将来のがんリスクに与える影響について、32の研究(コホート研究32件)を対象としたシステマティックレビュー・メタアナリシスです。2007〜2023年の文献をCochrane Library・Embase・Scopus・PubMedで検索し、逆分散法・ランダム効果モデルを用いて統計解析を行いました。

【主な結果】
バリアトリック手術は、がん全体の発症リスクを38%低下(RR 0.62、95%CI 0.46〜0.84)、肥満関連がんを41%低下(RR 0.59、95%CI 0.39〜0.90)、がん関連死亡を49%低下(RR 0.51、95%CI 0.42〜0.62)させることが示されました。特に、肝細胞がん(65%低下)・大腸がん(37%低下)・膵臓がん(48%低下)・胆嚢がん(59%低下)、そして女性特有のがんである乳がん(44%低下)・子宮体がん(62%低下)・卵巣がん(55%低下)で有意な低下が認められました。手術によるがん予防メカニズムとして、代謝症候群の改善・内臓脂肪の減少・エストロゲン調節の正常化・炎症性サイトカインやアディポカインの改善が挙げられています。

論文⑦ JAMA Network Open(2025)

  • Ashruf OS, et al. Hematologic Cancers Among Patients With Type 2 Diabetes Prescribed GLP-1 Receptor Agonists. JAMA Netw Open. 2025;8(3):e250802.

【研究概要と要約】
アメリカの大規模電子カルテデータを用い、2型糖尿病患者においてGLP-1RA使用者と非使用者(インスリンおよびメトホルミン使用者)の血液がん(骨髄異形成症候群・骨髄増殖性腫瘍・リンパ腫・白血病)の新規発症リスクを比較したコホート研究です。GLP-1RAと血液がんの関連を初めて体系的に検討した研究として注目されています。

【主な結果】
GLP-1RA使用者では、骨髄異形成症候群(MDS)・骨髄増殖性腫瘍(MPN)を含む複数の血液がんの発症リスクが、インスリン比較群に比べて有意に低下していることが示されました。このリスク低下は、体重減少効果だけでなく、GLP-1RAが持つ免疫調節作用(T細胞調節・抗炎症作用)によって媒介される可能性があると考察されています。血液がんに対するGLP-1RAの予防的効果を示した初の大規模データとして、今後の研究の基盤となる論文です。

論文⑧ 2025 ASCOプレゼンテーション(Journal of Clinical Oncology掲載)

  • Mavromatis LA, et al. Glucagon-like peptide-1 receptor agonists and incidence of obesity-related cancer in adults with diabetes: A target-trial emulation study. Presented at 2025 ASCO Annual Meeting. J Clin Oncol. 2025;43(16_suppl):10507.

【研究概要と要約】
アメリカ43医療機関のデータを用い、糖尿病・肥満を持つ成人170,030名を対象として、GLP-1RA新規使用者85,015名とDPP-4阻害薬新規使用者85,015名を1:1でマッチングし、肥満関連がんの発症率と全死亡率を比較したターゲット試験エミュレーション研究(平均追跡期間3.8〜3.9年)です。DPP-4阻害薬は血糖降下作用を持ちながら体重中性(体重への影響が少ない)という特徴を持つため、体重減少効果の影響を排除した比較が可能です。

【主な結果】
GLP-1RA使用者では、DPP-4阻害薬使用者と比較して肥満関連がんの発症リスクが7%低下(調整ハザード比0.93、95%CI 0.88〜0.98)し、全死亡リスクも8%低下(調整ハザード比0.92)しました。特に大腸・直腸がんにおけるリスク低下効果が顕著でした。ただし、女性ではリスク低下が明確であった一方、男性では統計的に有意な差は認められませんでした。この研究は、GLP-1RA固有の効果(体重減少だけでなく薬理学的な直接効果)によるがん予防の可能性を示唆する重要な研究として評価されています。

論文⑨ Current Oncology(2025)

  • Taing C, et al. The Relationship Between Obesity and Cancer: Epidemiology, Pathophysiology, and the Effect of Obesity Treatment on Cancer. Curr Oncol. 2025;32(6):362.

【研究概要と要約】
カナダ・欧州の研究者グループによる、肥満とがんの関係に関する包括的なレビュー論文です。疫学的関連の強さ・病態生理学的メカニズム・さまざまな肥満治療(食事変容・運動・薬物療法・手術)のがんへの影響を体系的にまとめています。

【主な結果】
食事変容・運動・薬物療法(GLP-1RAを含む)・バリアトリック手術など幅広い体重減少介入が、特に高度肥満患者において肥満関連がんのリスク低下と関連していると結論づけています。なかでもバリアトリック手術は最も確実なエビデンスを持ち、SPLENDID研究(外科的手術と長期的ながん発生・死亡への影響に関する研究)では、肥満関連がんのハザード比0.68(32%低下)・がん関連死亡のハザード比0.52(48%低下)という有意な関連が示されています。病態生理学的メカニズムとして、インスリン抵抗性・慢性炎症・ホルモン(エストロゲン・IGF-1)異常・免疫機能低下・脂肪細胞分泌因子(アディポカイン)の異常、といった複数の経路が複雑に絡み合ってがんリスクを高めることが詳述されています。

■FAQ

Q1. 肥満だとどんながんのリスクが高まるのですか?

国際がん研究機関(IARC)は、体脂肪過剰が確実にリスクを高めるがんとして、以下の13種類を公式に定義しています(Lauby-Secretan B et al., N Engl J Med. 2016)。

  • 食道腺がん
  • 胃噴門部がん
  • 大腸がん
  • 肝臓がん
  • 胆嚢がん
  • 膵臓がん
  • 閉経後乳がん
  • 子宮体(内膜)がん
  • 卵巣がん
  • 腎細胞がん
  • 髄膜腫
  • 甲状腺がん
  • 多発性骨髄腫

これらは「肥満関連がん(Obesity-Related Cancer)」と総称されます。肥満は慢性炎症・インスリン高血症・エストロゲン過剰・免疫機能低下といった複数のメカニズムを通じてがん化を促進します。さらに観察研究のメタアナリシスでは、BMIが5 kg/m²増加するごとに子宮体がんで62%、肝臓がんで31%、大腸がんで18%リスクが上昇することが示されています(Renehan AG et al., Lancet. 2008)。肥満は喫煙に次ぐ、予防可能ながんリスク因子として認識されています。日常生活において適正体重を維持することは、がん予防の観点からも非常に重要です。

Q2. 体重を減らすと、本当にがんリスクは下がりますか?

体重減少とがんリスク低下の関係は、徐々にエビデンスが蓄積されていますが、現時点では「減量の方法と程度によって、効果が異なる」というのが正確な答えです。

バリアトリック手術については、複数の大規模観察研究・メタアナリシスが、手術後10年以上にわたるがんリスクの有意な低下(全体で38〜41%低下、がん関連死亡49%低下)を報告しており、最も強いエビデンスがあります(Wilson RB et al., Int J Mol Sci. 2023)。しかし手術は誰にでも行えるわけではなく、合併症リスクも伴います。

行動変容(食事・運動)については、体重の2〜5%程度の減少にとどまる場合が多く、2つの大規模RCT(Look AHEAD試験・糖尿病予防プログラム)ではがん発症リスクの有意な低下は証明されませんでした(Harris M et al., British Journal of Cancer. 2026)。

GLP-1受容体作動薬(セマグルチドなど)については、体重の12〜25%という大幅な減量効果があり、複数の観察研究でがんリスク低下が報告されていますが、RCTでの直接証明にはまだ至っていません。因果関係の確立には10年以上の大規模臨床試験が必要です。当クリニックでは、患者さん一人ひとりの状況に合わせた適切な体重管理のご相談に応じています。

Q3. GLP-1 薬(オゼンピックやウゴービなど)を使うと、がんになりにくくなりますか?

GLP-1受容体作動薬(セマグルチドなどの商品名:オゼンピック/ウゴービ、チルゼパチドなど)について、がん予防効果を示唆する複数の観察研究が発表されています。

最も大規模な研究として、2024年にJAMA Network Openに掲載されたWangらの研究では、2型糖尿病患者165万人以上を追跡したところ、GLP-1RA使用者ではインスリン使用者と比較して13種類の肥満関連がんのうち10種類でリスクが有意に低下していました。また2025年にJAMA Oncologyに掲載されたDaiらの研究では、糖尿病の有無を問わない8万6,000人以上の肥満成人を対象に、GLP-1RA使用者では全体のがん発症リスクが17%低下(HR 0.83)していることが確認されています。

ただし、現時点では観察研究のエビデンスのみであり、「GLP-1薬を使えばがんを予防できる」と断言するための因果関係は証明されていません。甲状腺がん(特に甲状腺髄様がん)については動物実験でのリスク信号があり、個人・家族歴に甲状腺髄様がんのある方への投与は禁忌です。また腎臓がんについて一部の研究でリスク増加傾向も報告されており、注意が必要です(Dai H et al., JAMA Oncol. 2025)。GLP-1薬の使用については、適応・禁忌・副作用を十分に考慮した上で専門医とよく相談することが大切です。

Q4. 太り気味でも、がん検診は受けるべきですか?

はい、むしろ積極的にお受けください。肥満・過体重の方は、そうでない方と比較して複数のがんリスクが高いため、定期的ながん検診を受けることの重要性がより高いといえます。

日本の対策型がん検診(胃がん・大腸がん・乳がん・子宮頸がん・肺がん)は地域の集団検診として提供されており、肥満関連がんの多くをカバーしています。特に閉経後乳がん・子宮体がん・大腸がんは、肥満との関連が特に強い(Lauby-Secretan B et al., N Engl J Med. 2016)ため、これらの検診を怠らないようにしましょう。

また、BMI25以上の方・ウエスト周囲径が男性85cm以上・女性90cm以上の方は、内臓脂肪型肥満の可能性が高く、代謝症候群・2型糖尿病・高血圧・脂質異常症などの合併症のリスクも高まります。これらの生活習慣病もがんのリスク因子となることがあるため、定期的な健診と適切な治療管理が重要です。当クリニックでは、肥満外来・生活習慣病外来にて、総合的ながん予防を視野に入れた健康管理を提供しています。

Q5. 食事や運動だけで肥満関連がんを予防できますか?

食事と運動による体重管理はがん予防に重要ですが、それだけで十分かどうかは現時点のエビデンスでは断言できません。

食事については、超加工食品・赤身肉・加工肉の過剰摂取はがんリスクを高める一方、野菜・果物・全粒穀物・食物繊維の豊富な「地中海食」スタイルは大腸がんや乳がんのリスク低下と関連することが報告されています。運動については、定期的な有酸素運動が大腸がん・乳がん・子宮体がんのリスクを低下させるというエビデンスがあります(WHOガイドライン2022)。

しかし、「糖尿病予防プログラム(DPP)」(Heckman-Stoddard BM et al., Cancer Prev Res. 2025)と「Look AHEAD試験」(Yeh HC et al., Obesity. 2020)という2つの大規模RCTでは、集中的な生活習慣介入(食事・運動)によっても、追跡期間11〜21年の間にがん発症リスクの有意な低下は証明されませんでした。これは、食事・運動による体重減少が2〜5%程度と限定的であり、がん予防に必要な体重減少の閾値に達していない可能性を示しています。

つまり「食事・運動で健康的な体重を維持すること」は肥満関連がん予防の基本として重要ですが、特に高度肥満の方や複数の生活習慣病を持つ方では、食事・運動の改善に加えて薬物療法(GLP-1薬など)の併用を専門医と相談することも重要な選択肢です。まんかいメディカルクリニックでは、一人ひとりの状態・ライフスタイルに合わせた包括的な肥満管理・がん予防のご相談を承っています。

参考文献

  • [1] Harris M, Brown J, Renehan AG. Preventing obesity-related cancer with the revolution in obesity management: the challenges of undertaking a clinical trial and potential solutions. British Journal of Cancer. 2026. doi:10.1038/s41416-026-03355-8
  • [2] Wang L, Xu R, Kaelber DC, Berger NA. Glucagon-Like Peptide 1 Receptor Agonists and 13 Obesity-Associated Cancers in Patients With Type 2 Diabetes. JAMA Netw Open. 2024;7(7):e2421305.doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.21305
  • [3] Dai H, Li Y, Lee YA, Lu Y, et al. GLP-1 Receptor Agonists and Cancer Risk in Adults With Obesity. JAMA Oncol. 2025;11(10):1186-1193. doi:10.1001/jamaoncol.2025.2681
  • [4] Levi-Chetrit E, et al. Glucagon-like peptide-1 receptor agonists compared with bariatric metabolic surgery and the risk of obesity-related cancer: an observational, retrospective cohort study. eClinicalMedicine (The Lancet). 2025. doi:10.1016/j.eclinm.2025.00145
  • [5] Silverii GA, Marinelli C, Bettarini C, et al. GLP-1 receptor agonists and the risk for cancer: A metaanalysis of randomized controlled trials. Diabetes Obes Metab. 2025;27(8):4454-4468. doi:10.1111/dom.16489
  • [6] Duca FA, et al. GLP-1 receptor agonists and cancer: current clinical evidence and translational opportunities for preclinical research. J Clin Invest. 2025;135(21):e194743. doi:10.1172/JCI194743
  • [7] Wilson RB, Lathigara D, Kaushal D. Systematic review and meta-analysis of the impact of bariatric surgery on future cancer risk. Int J Mol Sci. 2023;24(7):6192. doi:10.3390/ijms24076192
  • [8] Ashruf OS, et al. Hematologic Cancers Among Patients With Type 2 Diabetes Prescribed GLP-1 Receptor Agonists. JAMA Netw Open. 2025;8(3):e250802. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.0802
  • [9] Mavromatis LA, et al. Glucagon-like peptide-1 receptor agonists and incidence of obesity-related cancer in adults with diabetes: A target-trial emulation study. J Clin Oncol. 2025;43(16_suppl):10507. doi:10.1200/JCO.2025.43.16_suppl.10507
  • [10] Taing C, et al. The Relationship Between Obesity and Cancer: Epidemiology, Pathophysiology, and the Effect of Obesity Treatment on Cancer. Curr Oncol. 2025;32(6):362. doi:10.3390/curroncol32060362

※本コラムは医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療の代替となるものではありません。
お体の気になる症状はかかりつけ医または専門医にご相談ください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

お知らせ一覧へ戻る