【老化】健康寿命の鍵は免疫にあり:最新研究が明かすその対策
■はじめに:なぜ免疫が「健康寿命」の鍵なのか
人生100年時代を迎えた現代、私たちが目指すべきは単なる長寿ではなく、健康で活動的な期間を延ばす「健康寿命」です。この実現に最も重要な役割を果たすのは、あらためて私たちの体を守る「免疫システム」であることが最新の研究で明らかになってきました。
免疫システムは、細菌やウイルスなどの病原体から体を守るだけでなく、がん細胞の監視や老化した細胞の除去など、多岐にわたる重要な機能を担っています。しかし、年齢を重ねるにつれて、この免疫システムは徐々に機能低下を起こします。この現象は「免疫老化(immunosenescence)」と呼ばれ、感染症への抵抗力低下、がんのリスク増加、慢性炎症の亢進など、様々な健康問題の根本原因となります。
Nature Reviews Immunology誌に発表された最新の研究では、免疫老化が単なる免疫機能の低下にとどまらず、全身の臓器機能低下や老化そのものを促進する「全身老化のドライバー」であることが示されています。つまり、免疫システムを若々しく保つことこそが、健やかな加齢の実現に直結するのです。
本記事では、免疫老化のメカニズムと、それを予防・改善するための科学的根拠に基づいた方法について、最新の研究成果をもとに詳しく解説いたします。
■免疫老化とは:年齢とともに起こる免疫システムの変化
免疫老化の定義と特徴
免疫老化(immunosenescence)とは、加齢に伴って免疫システムが徐々に機能低下を起こす現象を指します。この変化は、免疫細胞の数が減少するだけでなく、細胞の質的な変化も含む複雑な過程です。
具体的には、以下のような変化が起こります。まず、胸腺(免疫細胞を作り出す重要な臓器)が萎縮し、新しいT細胞の産生能力が低下します。これにより、未熟なナイーブT細胞が減少し、代わりに記憶T細胞やエフェクターT細胞が蓄積します。このバランスの崩れにより、新しい病原体に対する免疫応答能力が低下するのです。
さらに、B細胞(抗体を産生する細胞)も加齢により変化し、ワクチン接種後の抗体産生能力が低下します。実際、高齢者では若年者と比較してインフルエンザワクチンの効果が低いことが知られており、これは免疫老化による機能低下が原因です。
免疫老化の3つの特徴的な表現型
最新の研究によると、老化した免疫細胞は以下の3つの機能不全な表現型を獲得します。
1. 炎症性表現型(Inflammatory phenotype)
老化した免疫細胞は、慢性的に炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-α、IL-1βなど)を分泌し続けます。この状態は「インフラメージング(inflammaging)」と呼ばれ、全身に慢性的な低レベルの炎症を引き起こします。この慢性炎症が、動脈硬化、糖尿病、認知症などの加齢関連疾患の発症リスクを高めることが明らかになっています。
2. 疲弊性表現型(Exhausted phenotype)
特にT細胞において顕著ですが、慢性的な抗原刺激により免疫細胞が「疲弊」し、PD-1、TIM-3、LAG-3などの抑制性受容体を高発現するようになります。これにより、病原体やがん細胞に対する免疫応答能力が著しく低下します。
3. 老化性表現型(Senescent phenotype)
免疫細胞自体が細胞老化を起こし、増殖能力を失いながらも老化関連分泌表現型(SASP)と呼ばれる状態になります。これらの細胞は、炎症性因子や組織破壊性因子を大量に分泌し、周囲の組織に悪影響を及ぼし続けます。
■免疫老化が引き起こす健康への影響
感染症リスクの増加
免疫老化の最も直接的な影響は、感染症への抵抗力低下です。COVID-19パンデミックで明らかになったように、高齢者は感染症の重症化リスクが極めて高くなります。これは、ナイーブT細胞の減少により新規病原体への対応能力が低下していること、そして樹状細胞(抗原提示細胞)の機能低下により効果的な免疫応答が立ち上がりにくくなっていることが原因です。また、ワクチン効果の減弱も重要な問題です。高齢者では、インフルエンザワクチン接種後の抗体産生量が若年者の約50%程度に留まることが報告されています。これは、B細胞の機能低下とクラススイッチ組換え(CSR)や体細胞超変異(SHM)の障害によるものです。
がんリスクの上昇
免疫システムは「免疫監視機構」として、体内に発生した異常細胞やがん細胞を常に監視し、排除する役割を担っています。しかし、免疫老化により、特にナチュラルキラー(NK)細胞やCD8+細胞傷害性T細胞の機能が低下すると、がん細胞の監視能力が著しく低下します。具体的には、NK細胞は加齢とともにCD56bright亜集団が減少し、CD56dim亜集団が増加しますが、この成熟型NK細胞は1細胞あたりの細胞傷害活性が低下しています。また、CD16(抗体依存性細胞傷害[ADCC]に関与)の機能低下や自然細胞傷害受容体(NCR)の発現低下が見られます。これらの変化が、高齢者におけるがん発症率の増加と直接関連しています。
慢性炎症と多臓器障害
免疫老化がもたらす最も深刻な影響の一つが、「インフラメージング」による多臓器障害です。老化した免疫細胞が分泌する炎症性サイトカインは、全身を巡って様々な臓器に慢性的な炎症を引き起こします。
例えば、脳では、老化したミクログリア(脳の免疫細胞)がcGAS-STING経路の活性化により神経炎症を引き起こし、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患のリスクを高めます。心血管系では、炎症性マクロファージの蓄積が動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳卒中のリスクを増加させます。
また、白色脂肪組織では、老化したマクロファージやB細胞が蓄積し、インスリン抵抗性やメタボリックシンドロームを悪化させることが明らかになっています。これらの慢性炎症は、個々の疾患リスクを高めるだけでなく、複数の疾患が同時に発症する「多疾病罹患(multimorbidity)」の状態を引き起こし、全身の健康状態を著しく低下させます。
■免疫老化のメカニズム:なぜ免疫システムは老化するのか
造血幹細胞の機能低下と骨髄性偏向
免疫老化の根本原因の一つは、骨髄にある造血幹細胞(HSC)の機能変化にあります。加齢とともにHSCは、リンパ球系(T細胞、B細胞、NK細胞など)よりも骨髄系(好中球、単球、マクロファージなど)の細胞を優先的に産生する「骨髄性偏向」を示すようになります。 最新の研究では、CD150陽性のHSC亜集団が加齢とともに蓄積し、これらが骨髄系偏向の主要な原因であることが明らかになっています。興味深いことに、若いマウスから老齢マウスへCD150陰性HSCを移植すると、リンパ球産生能力が回復し、免疫機能が改善することが示されています。また、CHIP(clonal hematopoiesis of indeterminate potential:意義不明のクローン性造血)と呼ばれる現象も重要です。これは、TET2やDNMT3Aなどのエピジェネティック制御遺伝子に変異を持つHSCクローンが選択的に拡大する状態で、高齢者の約10-20%で見られます。これらの変異細胞から産生される免疫細胞は、過剰な炎症応答を示すことが知られています。
胸腺萎縮とナイーブT細胞の枯渇
免疫老化のもう一つの主要なメカニズムは、胸腺の萎縮です。胸腺は、骨髄から移動してきた前駆細胞を成熟したT細胞へと分化させる重要な臓器ですが、25歳頃から徐々に萎縮し始め、脂肪組織に置き換わっていきます。
この胸腺萎縮により、新しいナイーブT細胞の供給が著しく減少します。その結果、末梢血では記憶T細胞やターミナル分化したエフェクターメモリーT細胞(TEMRA)が蓄積し、T細胞レパートリーの多様性が大幅に低下します。これにより、新しい病原体に対する免疫応答能力が著しく制限されるのです。
さらに、制御性T細胞(Treg)の数は加齢とともに増加する一方、IL-2産生が減少し、エフェクターT細胞の機能をさらに抑制してしまうという悪循環が生じます。
■細胞内メカニズム:ミトコンドリア機能不全とDNA損傷
免疫細胞レベルでは、以下のような細胞内変化が免疫老化を促進します。
ミトコンドリア機能不全
加齢に伴い、免疫細胞のミトコンドリアは活性酸素種(ROS)産生の増加、酸化的リン酸化(OXPHOS)能力の低下、そしてミトコンドリアDNA(mtDNA)の損傷蓄積を示します。特に、ミトコンドリア転写因子A(TFAM)の機能低下は、CD4+ T細胞において老化様表現型を誘導し、全身性の老化促進因子となることが実験的に証明されています。
DNA損傷の蓄積
DNA修復機構の効率低下により、免疫細胞にはDNA損傷が蓄積します。特にERCC1などのDNA修復酵素が欠損したマウスモデルでは、免疫細胞が早期に老化し、疲弊性・老化性表現型を獲得することが示されています。興味深いことに、このような遺伝的DNA修復不全モデルでも、ラパマイシンによる短期治療で免疫機能が改善することから、細胞内メカニズムへの介入が可能であることが示唆されています。
テロメア短縮
免疫細胞、特にT細胞やB細胞、マクロファージ、NK細胞において、加齢依存的なテロメア短縮が観察されています。テロメア長は免疫応答の堅牢性と関連しており、長いテロメアを持つB細胞やCD8+ T細胞は、インフルエンザワクチン接種後の抗体産生能力や細胞増殖能力が高いことが報告されています。
■運動による免疫の若返り:エビデンスに基づいた実践法
運動が免疫老化を改善するメカニズム
近年の研究により、定期的な運動が免疫老化を遅らせる、あるいは部分的に逆転させる可能性があることが明らかになってきました。運動は、代謝、臓器間コミュニケーション、細胞レベル、そして分子レベルという多層的なメカニズムを通じて免疫システムに作用します。
代謝リモデリング
運動は、グルコース、脂質、アミノ酸の代謝を最適化することで免疫機能を改善します。
グルコース代謝においては、運動が筋肉のGLUT4発現を増加させてインスリン感受性を改善し、血糖変動を安定化させます。これにより、高血糖による好中球やマクロファージの機能障害が軽減されます。さらに、運動により産生される乳酸は、単なるエネルギー基質ではなく、ヒストンの乳酸化(H3K18laなど)を介してマクロファージのM2極性化(抗炎症型への分化)を促進する「ラクトカイン」として機能することが示されています。
脂質代謝においては、運動が内臓脂肪を減少させ、脂肪組織内のM1マクロファージ(炎症型)をM2マクロファージ(抗炎症型)へと極性化させます。また、抗炎症性アディポカイン(アディポネクチン)の増加と炎症性アディポカイン(レプチン)の減少を促し、全身性の炎症を軽減します。
臓器間クロストーク
動により収縮する骨格筋は、マイオカイン(筋肉由来の生理活性物質)を分泌する内分泌器官として機能します。
主要なマイオカインには以下のものがあります。
| IL-6 | 運動誘導性IL-6は、筋線維から直接分泌され、抗炎症性サイトカイン(IL-10、IL-1ra)の産生を促進し、TNF-αの産生を抑制します。慢性的に上昇したIL-6(肥満や老化で見られる)とは異なり、運動誘導性IL-6は明確に抗炎症作用を示します。 |
| IL-15 | NK細胞とCD8+ T細胞の生存、増殖、機能維持に必須のサイトカインです。これらの細胞は、腫瘍監視や抗ウイルス応答において中心的役割を果たします。 |
| イリシン | 脂肪の褐色化を促進するだけでなく、マクロファージのM2極性化を促進し、制御性T細胞(Treg)の転写因子Foxp3の発現を高めることで免疫寛容を維持します。 |
腸内細菌叢においても、運動は劇的な変化を引き起こします。運動はFirmicutes(短鎖脂肪酸産生菌を多く含む)の相対的存在比を増加させ、Proteobacteria(炎症性細菌を多く含む)を減少させます。これにより産生される短鎖脂肪酸(特に酪酸)は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害作用を通じてマクロファージの抗炎症性遺伝子発現を促進します。
■推奨される運動様式と強度
科学的エビデンスに基づくと、以下の運動が免疫老化の改善に有効です。
中等度の有酸素運動(最も強いエビデンス)
中等度強度(最大心拍数の64-76%、または予備心拍数の40-59%)の有酸素運動を、週に300分以上行うことが推奨されます。
具体的には、10ヶ月間の中等度有酸素運動トレーニングにより、インフルエンザワクチン接種後の抗体応答が有意に改善し、血清保護期間が延長することが複数のランダム化比較試験で示されています。また、CRP、TNF-α、IL-6などの全身性炎症マーカーが有意に低下することがメタ解析で確認されています。
レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)
中等度強度(1RM[1回最大挙上重量]の50-69%)のレジスタンストレーニングも、免疫機能改善に有効です。18件のランダム化比較試験のメタ解析では、CRPの中等度の効果量での減少と、TNF-αおよびIL-10の有意な減少が確認されています。
特に、レジスタンストレーニングは筋肉量の維持を通じて、免疫系由来の異化性サイトカイン(TNF-α、IL-6、IL-1β)による筋萎縮を防ぎます。これは重要なポイントで、加齢に伴う慢性炎症は筋萎縮を促進し、筋萎縮はさらにマイオカイン分泌低下を引き起こすという悪循環を断ち切ることができます。
重要な注意点:強度と量の関係
過度に高強度な運動や長時間の運動は、一時的な免疫抑制を引き起こす可能性があります。したがって、「適度」な運動が最も重要です。特に高齢者や免疫機能が低下している方は、専門家の指導のもと、個人の体力レベルに合わせた運動プログラムを実施することが推奨されます。
生涯にわたる運動習慣の重要性
特筆すべきは、生涯を通じた運動の「累積量」が免疫老化の進行速度に深く影響することです。
長期的に高い身体活動レベルを維持している高齢者では、CD4/CD8比が健康範囲内に維持される割合が50%以上であり、ナイーブT細胞の割合が高く、老化関連T細胞サブセットが少ないことが観察されています。また、胸腺萎縮が軽減され、新しいT細胞の産出能力が部分的に維持されていることも示されています。
このことから、免疫健康のためには、特定の時期に集中的に運動するのではなく、可能な限り若い時期から継続的に適度な運動習慣を維持することが最も効果的であると言えます。
■その他の免疫若返り戦略
栄養
運動以外にも、以下のような栄養学的アプローチが免疫老化の改善に寄与する可能性が示されています。
カロリー制限
適度なカロリー制限(25%程度)は、インターフェロン関連遺伝子やパターン認識受容体関連遺伝子の発現を低下させ、インフラメージングを軽減することが報告されています。CALERIE試験では、2年間のカロリー制限により多くの心血管代謝リスク因子が改善し、炎症マーカーが低下しました。
オメガ3脂肪酸
魚油に含まれるEPAやDHAは、専門的プロ解決メディエーター(SPM)の前駆体となり、炎症の自然な収束過程を促進します。
ビタミンD
免疫細胞の多くがビタミンD受容体を発現しており、適切なビタミンDレベルの維持は、特に高齢者の免疫機能にとって重要です。
腸内細菌叢の最適化
腸内細菌叢は「第二のゲノム」とも呼ばれ、免疫システムと双方向的に相互作用しています。 加齢に伴う腸内細菌叢の変化(ディスバイオーシス)は、腸管バリア機能の低下を引き起こし、細菌由来の炎症性物質が全身循環に漏出することで全身性炎症を惹起します。プロバイオティクス(特にAkkermansia muciniphila)の補充や、プレバイオティクス繊維の摂取により、腸内細菌叢の健康が改善し、間接的に免疫機能が向上する可能性があります。
セノリティクス(老化細胞除去薬)
最先端の研究分野として、老化細胞を選択的に除去する「セノリティクス」があります。ダサチニブ+ケルセチンの併用や、フィセチンなどが動物実験で有望な結果を示しており、免疫細胞の老化表現型を軽減し、健康寿命を延長することが報告されています。現在、ヒトでの臨床試験が進行中です。
■FAQ(よくある質問)
Q1. 免疫力を高めるサプリメントは効果がありますか?
一般的に「免疫力を高める」とうたわれるサプリメントについては、科学的エビデンスを慎重に評価する必要があります。
ビタミンDに関しては、比較的明確なエビデンスがあります。免疫細胞(T細胞、B細胞、マクロファージなど)の多くがビタミンD受容体を発現しており、ビタミンDは自然免疫と獲得免疫の両方を調節します。特に、ビタミンD欠乏状態にある高齢者では、適切な補充(血中25-ヒドロキシビタミンDレベルを30 ng/mL以上に維持)が感染症リスクの低減と関連することが報告されています。
オメガ3脂肪酸(EPA、DHA)も、炎症解消メディエーター(レゾルビン、プロテクチンなど)の前駆体として、慢性炎症の軽減に寄与する可能性があります。
一方、亜鉛、セレン、ビタミンCなどは、欠乏状態を補正することは重要ですが、十分に摂取している人がさらに大量摂取しても免疫機能が向上するというエビデンスは限定的です。特に高用量での長期摂取は、かえって免疫バランスを崩す可能性もあります。
最も重要なのは、サプリメントに頼るのではなく、バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠という基本的な生活習慣を整えることです。サプリメントの使用を考える場合は、血液検査などで実際の栄養状態を評価し、医師や管理栄養士と相談することをお勧めします。
Q2. 高齢になってから運動を始めても免疫機能は改善しますか?
はい、高齢になってから運動を始めても免疫機能の改善が期待できることが、複数の研究で示されています。
2018年にAging Cell誌に発表された研究では、成人期を通じて高い身体活動レベルを維持していた高齢者(55-79歳)では、免疫老化の主要な特徴である胸腺萎縮が軽減されていることが示されました。しかし重要なのは、この研究では、それまで座位中心の生活をしていた高齢者が運動プログラムを開始した場合でも、一定の改善が見られたという点です。
具体的には、10ヶ月間の中等度有酸素運動プログラム(週3-5回、1回30-45分)により、座位中心の生活をしていた高齢者において、インフルエンザワクチン接種後の抗体応答が有意に改善し、保護期間が延長されました。また、全身性炎症マーカー(CRP、IL-6、TNF-α)の低下も観察されています。
さらに、レジスタンストレーニングにおいても、トレーニング経験のない高齢女性が12-14週間のプログラムを実施した結果、安静時のNK細胞活性が向上したことが報告されています。
ただし、高齢者が運動を開始する際には、以下の点に注意が必要です:
- 開始前に医師の評価を受け、既往症や体力レベルを考慮したプログラムを作成する
- 低強度から始めて、徐々に強度を上げていく
- 過度な運動は一時的な免疫抑制を引き起こす可能性があるため、「適度」を心がける
- 継続することが最も重要であるため、楽しめる運動を選ぶ
結論として、「遅すぎる」ということはなく、高齢になってからでも適切な運動プログラムを開始・継続することで免疫機能の改善が期待できます。
Q3. ストレスは免疫老化を加速させますか?
はい、慢性的なストレスは免疫老化を有意に加速させることが、多くの科学的研究で示されています。
ストレスと免疫老化の関係は、主に以下のメカニズムを通じて説明されます。
1. HPA軸(視床下部-下垂体-副腎軸)の過剰活性化
慢性ストレスは、コルチゾール(ストレスホルモン)の持続的な分泌を引き起こします。コルチゾールは、リンパ球のアポトーシス(細胞死)を誘導し、特にナイーブT細胞を減少させることが知られています。さらに、胸腺の萎縮を加速し、新しいT細胞の産生をさらに低下させます。
2. 炎症性サイトカインの増加
慢性ストレスは、炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-α、IL-1β)の産生を増加させます。これらは「インフラメージング」を悪化させ、全身性の免疫老化を促進します。
3. テロメア短縮の加速
慢性ストレスを経験している人では、免疫細胞のテロメア長が有意に短いことが報告されています。ノーベル賞受賞者のElizabeth Blackburn博士らの研究では、慢性的なケアギバーストレスを経験している女性では、免疫細胞のテロメアが9-17年分も短縮していることが示されました。
4. 免疫細胞の機能低下
慢性ストレスは、NK細胞の細胞傷害活性を低下させ、T細胞の増殖能力を抑制し、ワクチン応答を減弱させることが実験的に証明されています。
対策としての運動の役割
興味深いことに、定期的な運動はストレスに対する生理学的レジリエンス(回復力)を高めることが示されています。運動は、脳由来神経栄養因子(BDNF)やIL-10などの抗炎症性因子の産生を促進し、ストレス応答を緩和します。
また、マインドフルネス瞑想や太極拳などの心身統合的な運動は、HPA軸の調節を改善し、炎症性サイトカインを低下させることが報告されています。
したがって、ストレスマネジメント(十分な睡眠、リラクゼーション技法、社会的つながりの維持)と適度な運動の組み合わせが、免疫老化の予防に重要であると言えます。
Q4. 免疫年齢を測定することはできますか?
はい、近年の技術進歩により、「免疫年齢」を推定する手法が開発されています。ただし、これらはまだ研究段階のものも多く、臨床応用には慎重な解釈が必要です。
<主な免疫年齢評価法>
1.免疫細胞サブセット解析
最も基本的な方法は、末梢血中の免疫細胞サブセットの比率を測定することです。
特に重要な指標として:
- CD4/CD8比: 健康な若年者では通常2前後ですが、免疫老化が進むと1未満に低下します
- ナイーブT細胞/メモリーT細胞比: 免疫老化ではナイーブT細胞が減少し、メモリーT細胞が増加します
- CD28-CD57+ T細胞(老化T細胞マーカー)の割合
- NK細胞のCD56bright/CD56dim比
これらの指標を組み合わせることで、免疫システムの「若々しさ」をある程度評価できます。
2. 炎症マーカー(インフラメージング指標)
- 高感度CRP(hsCRP)
- IL-6、TNF-α、IL-1β
- これらの慢性的な上昇は、免疫老化と密接に関連します
3.免疫老化時計(Immune Aging Clocks)
最先端の研究として、機械学習とマルチオミクス解析を用いた「免疫老化時計」が開発されています。
- iAge: 末梢血単核球の包括的オミクスプロファイリングに基づき、多疾病罹患、免疫老化、フレイル(虚弱)、心血管老化を予測します
- IMM-AGE: 縦断的なオミクスデータから免疫年齢を推定し、感染症やワクチン応答を予測します
- sc-ImmuAging: 単一細胞レベルの免疫老化特徴を捉えます
これらの時計は、実年齢と免疫年齢のギャップを評価し、介入の効果をモニタリングする研究ツールとして有望です。
4. T細胞受容体(TCR)レパートリー解析
次世代シーケンシング技術により、T細胞レパートリーの多様性を評価できます。免疫老化が進むと、TCRレパートリーの多様性が著しく低下します。
臨床での実用性
現時点では、これらの詳細な免疫年齢評価は主に研究目的で使用されていますが、一部の先進的な医療機関では、リンパ球サブセット解析や炎症マーカー測定を組み合わせた免疫機能評価を提供しています。将来的には、より簡便で正確な免疫年齢測定法が確立され、個別化された免疫若返り介入の指針となることが期待されています。
■まとめ:健やかな加齢のために今日からできること
本記事で解説してきたように、免疫システムの健康は単に感染症を防ぐだけでなく、全身の健康状態と直結しています。免疫老化は避けられない現象ですが、適切な生活習慣によってその進行を大幅に遅らせることが可能です。
今日から実践できる免疫若返り戦略
1.定期的な運動習慣の確立
- 週300分以上の中等度有酸素運動
- 週2-3回のレジスタンストレーニング
- 継続が最も重要
2.バランスの取れた食事
- 多様な野菜・果物(抗酸化物質、食物繊維)
- 良質なタンパク質(筋肉量維持)
- オメガ3脂肪酸(魚、ナッツ)
- 適度なカロリー管理
3.腸内環境の最適化
- 発酵食品の摂取
- 食物繊維の十分な摂取
- プロバイオティクス・プレバイオティクスの活用
4.ストレス管理と十分な睡眠
- 7-8時間の質の高い睡眠
- マインドフルネスやリラクゼーション
- 社会的つながりの維持
5.定期的な健康チェック
- 血液検査で栄養状態・炎症マーカーを確認
- ワクチン接種を適切に受ける
- 気になる症状は早めに医療機関へ相談
まんかいメディカルクリニックでは、生活習慣病の診療に加えて、健康長寿を目指す方々の包括的なサポートを行っています。個別化された健康増進プログラムについて、お気軽にご相談ください。
健やかな加齢の鍵は免疫にあり――この知識を活かし、今日から免疫を若々しく保つ生活を始めましょう。
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記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
