病気と健康の話

【血糖】運動は最強の薬:“運動頻度と運動強度”が血糖やインスリン抵抗性をここまで改善する理由

もし「若返りの薬」が存在し、服用するだけで生活習慣病を予防し健康寿命を延ばせるとしたら―それは運動です。近年、「運動は医療そのもの」と言われるほど、運動習慣の重要性が医学的エビデンスとともに認識されてきました。運動の効果は単に体力をつけるだけにとどまらず、血圧や血糖の改善、心肺機能の向上、メンタルヘルスの改善など多岐にわたります。実際、定期的な身体活動(Physical Activity)は25種類以上もの生活習慣病(非感染性疾患)の予防・管理に有効であり、逆に運動不足はこれら疾患の発症リスクと早死にのリスクを高めることがわかっています。本コラムでは、最新の欧米の研究文献を交えながら、運動が医療として働く仕組みや生活習慣病予防への効果、さらには老化の進行を遅らせ健康寿命を延ばす可能性について、わかりやすく解説します。普段運動しない方やご高齢の方でも今日から始められる運動習慣のポイントにも触れ、「運動 医療」の視点から皆さんの健康づくりをサポートします。

■運動はなぜ「医療」と言えるのか?

薬や手術だけが治療ではありません。運動療法は、高血圧や糖尿病といった生活習慣病からうつ病に至るまで、様々な病気の予防・治療に効果を発揮する“万能薬”のような存在です。科学的研究によれば、脳卒中後のリハビリや心不全、2型糖尿病の患者において、定期的な運動は薬物療法に匹敵する、場合によってはそれ以上の改善効果を示すことが報告されています。また運動習慣のある人は、運動不足の人に比べて心臓病、脳卒中、2型糖尿病、肥満、がんなど多くの疾患の発症率が低く、総じて死亡リスクも減少することがわかっています。例えば、ある大規模研究では、定期的な運動により25以上もの慢性疾患のリスクが低下し、早期死亡のリスクも下がることが示されました。こうしたエビデンスを背景に、米国スポーツ医学会(ACSM)やWHOは「運動は医学(Exercise is Medicine)」とのスローガンを掲げ、医療現場での運動処方を推進しています。運動が全身にもたらす健康効果(運動 効果)が非常に幅広いため、一人ひとりに合った運動習慣を取り入れることは、病気のない健やかな生活への第一歩と言えるでしょう。

■生活習慣病の予防における運動効果

現代の日本では、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病に悩む方が少なくありません。こうした生活習慣病の予防・改善において、運動ほど効果的な対策はないとも言われます。例えば2型糖尿病の前段階である「前糖尿病」の方を対象に、運動療法の効果を調べた最新のメタ分析研究があります。この研究では、有酸素運動と筋トレを組み合わせた運動プログラムを一定期間続けると、空腹時血糖や食後血糖、インスリン抵抗性(HOMA-IR)が有意に改善することが示されました。特に、週150分以上の中等度の有酸素運動と週2回の筋力トレーニングというACSM推奨量を守ったグループでは、運動量が不足していたグループよりも血糖コントロールの改善が顕著だったのです。さらに、このような適切な運動習慣を続けた前糖尿病患者では、高血糖の状態が正常域にまで改善する割合が高くなり、将来的に糖尿病へ進行するリスクを減らせる可能性が示唆されました。
運動が生活習慣病を予防・改善するメカニズムは多岐にわたります。まず、有酸素運動によって筋肉がブドウ糖をエネルギー源として消費するため、血糖値が下がりやすくなります。この効果は運動直後から現れ、週に数回の運動を習慣化することで持続的な血糖コントロールの向上につながります。また運動によって筋肉量が増えると基礎代謝が高まり、体脂肪の燃焼効率も良くなるため、肥満の解消やメタボリックシンドローム予防にも役立ちます。さらに、中等度強度の有酸素運動は高血圧の改善にも有効で、定期的な運動習慣により収縮期・拡張期血圧が降下するとの報告があります(目安としては平均で収縮期血圧が5~7mmHg程度下がると言われます)。このように、運動は血糖・血圧・血中脂質といった代謝指標を幅広く改善し、動脈硬化や心筋梗塞・脳卒中といった深刻な生活習慣病の発症リスクを下げてくれるのです。薬に頼らずとも、日々体を動かすこと自体が強力な予防薬となり得る点は見逃せません。

■運動が老化を遅らせる?〜健康寿命延伸への可能性

「いつまでも若々しく健康でいたい」と願うのは誰しも同じです。寿命が延びた現代では、健康寿命(元気に自立した生活が送れる期間)をいかに伸ばすかが重要な課題です。加齢に伴う体力や認知機能の低下、生活習慣病の増加は避けられないように思われがちですが、近年の研究は明るい希望を示しています。老化そのものや老年期の病気リスクは、運動などの生活習慣によってある程度コントロール可能だというのです。特に運動は費用対効果に優れ、誰でも取り組める戦略として注目されています。
最新のレビュー研究では、運動が「老化のホールマーク」と呼ばれる身体の老化現象に広く作用し、加齢による機能低下を緩和する可能性がまとめられました。老化のホールマークとは、老化を進行させる代表的な生物学的変化で、DNAの損傷(ゲノム不安定性)や染色体末端の短縮(テロメア短縮)、遺伝子発現の異常(エピジェネティクス変化)、細胞の老化(細胞老化)、ミトコンドリア機能低下、慢性炎症、腸内環境の乱れ(腸内フローラの異常)など多岐にわたります。運動には驚くべきことに、これら老化関連の様々な因子を好転させる作用があることが分かってきました。例えば、適度な運動習慣のある高齢者は、同年代の運動不足の人に比べて筋力や持久力が維持され、インスリン感受性(血糖を処理する能力)が高く、慢性的な炎症も少ないことが報告されています。定期的な運動はまた、認知症やうつ病など脳の老化にも良い影響を及ぼし、認知機能の低下を遅らせたり抑うつ症状を和らげたりする効果も示唆されています。

こうした知見から、運動は「アンチエイジング」の観点でも強力なツールと言えます。実際に、週数回の適度な運動を習慣にしている人は、そうでない人に比べて健康で自立した寿命(健康寿命)が延びる傾向が見られます。心臓病、神経変性疾患、がん、2型糖尿病といった加齢関連疾患の発症率も抑えられるため、運動すること自体が将来の医療費削減や介護予防にもつながるのです。もちろん個人差はありますが、「年だから遅い」ということは決してありません。生涯にわたって運動を続けることで、細胞レベルから全身の健康を守り、「歳を重ねても元気」な理想的老後に近づけるでしょう。

■効果的な運動の取り入れ方

ここまで運動の医学的メリットを見てきましたが、「具体的にどのように運動すれば良いの?」という疑問も湧いてくるでしょう。効果を得るためには、適切な頻度・強度で継続することが大切です。米国スポーツ医学会(ACSM)や世界保健機関(WHO)は、成人に対し週に150分以上の中強度の有酸素運動(例えば早歩きや軽いジョギング、水泳、自転車など)と週2回程度の筋力トレーニングを推奨しています。中強度とは「やや息が上がるが会話はできる程度」の運動強度です。例えば1日30分程度のウォーキングを週5日行えば150分に達します。また、筋トレは自重を使ったスクワットや階段昇降、ダンベル等を用いた筋力トレーニングを無理のない範囲で行います。これに加えて柔軟体操やストレッチ、バランストレーニング(片足立ちやヨガなど)も取り入れると、けが予防や姿勢維持に役立ちます。つまり、「有酸素運動+筋トレ+柔軟・バランス運動」のバランスが理想的です。
運動経験があまりない方やご高齢の方は、まず日常生活の中で身体を動かす機会を増やすことから始めましょう。エレベーターではなく階段を使う、近所の買い物は徒歩や自転車にする、テレビを見ながらストレッチをする、といった小さな工夫でも積み重ねれば立派な運動になります。特に忙しい現代人にとって「時間がない」は大きなハードルですが、最近のガイドラインでは細切れの運動でも合計すれば効果があるとされています。5~10分の短い運動を1日に何度か行い、最終的に1週間で150分に届けばOKです。重要なのは無理なく楽しく続けることです。ウォーキングやラジオ体操、ダンス、水泳、筋トレなど、自分が好きな方法で構いません。友人や家族と一緒に運動したり、目標を日記に記録したりすることも習慣化の助けになります。定期的な運動は効果が現れるまでに多少時間がかかりますが、続けるほど身体は確実に応えてくれます。「運動を処方する医師」がいるほど、その継続はあなた自身への最高の投資と言えるでしょう。

■FAQ(よくある質問と回答)

Q1.運動すると具体的にどんな病気の予防に効果がありますか?

運動はほぼ全身の健康に良い影響を与えるため、予防できる病気も多岐にわたります。代表的なものとして、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患、2型糖尿病、高血圧や脂質異常症(高コレステロール血症)などの代謝性疾患、肥満関連疾患が挙げられます。さらに大腸がんや乳がんといった一部の癌、骨粗鬆症による骨折、認知症やうつ病のリスクも、定期的な運動習慣によって低減することが分かっています。実際に運動習慣がある人は、そうでない人に比べ寿命が延びる傾向も報告されています。このように運動は体と心の幅広い病気に対する強力な予防策なのです。

Q2. 健康効果を得るにはどのくらいの運動量が必要ですか?

一般的な目安として、週150分以上の中強度の有酸素運動を行うことが推奨されています。例えば30分のウォーキングを週5日、といった形です。これに加えて週に2回程度の筋力トレーニング(筋トレ)も取り入れられると理想的です。しかし、必ずしも最初から150分を達成しなくても大丈夫です。重要なのは、「運動ゼロ」を避けることで、少しでも体を動かす習慣を持てば健康効果が現れ始めます。運動量と健康効果には、いわゆる“容量反応関係”があり、運動を増やすほど効果も大きくなりますが、最も大きな差が出るのは「全く運動しない状態から少しでも運動を始めた場合」です。まずは無理のない範囲で歩く時間を増やすなどし、徐々に運動量を増やしていきましょう。

Q3. どんな種類の運動を行うのが効果的ですか?

有酸素運動(持久的な運動)と筋力トレーニングを組み合わせるのが効果的です。有酸素運動にはウォーキング、ジョギング、自転車、水泳、エアロビクスなどが含まれ、心肺機能の向上や血液循環の改善に役立ちます。一方、筋力トレーニング(レジスタンス運動)は筋肉や骨を強くし、基礎代謝を上げたり姿勢を安定させたりする効果があります。どちらか一方ではなく両方をバランスよく行うことで、生活習慣病予防や老化防止に相乗効果が得られます。さらに、ストレッチやヨガ、太極拳など柔軟性やバランス感覚を養う運動も取り入れると怪我予防や転倒防止に有益です。自分に合った種類の運動を見つけ、飽きないよう色々組み合わせて続けることがポイントです。

Q4. 運動の効果は始めてどれくらいで実感できますか?

効果の現れ方にはいくつか段階があります。まず、気分や睡眠の質の改善といった効果は比較的早く、運動したその日や数日中に感じる人も多いです。体を動かすことで脳内のホルモン(エンドルフィンやセロトニン)が分泌され、ストレス解消や睡眠改善につながります。次に、血圧や血糖値の改善は数週間から1~2ヶ月程度で現れてきます。例えば血圧が高めの方が毎日30分の有酸素運動を続けた場合、数週間後には安静時血圧が下がり始めるでしょう。血糖についても、運動する日は食後血糖値が普段より低く抑えられます。こうした変化が蓄積することで、ヘモグロビンA1c(過去1~2ヶ月の血糖コントロールの指標)も数ヶ月単位で改善していきます。持久力や筋力の向上といった体力面の変化も、早い人で数週間、一般には2~3ヶ月続ける頃に「疲れにくくなった」「重い物が楽に持てる」といった実感が湧くでしょう。体重の減少に関しては個人差がありますが、食事管理も併せて行えば数ヶ月で徐々に成果が出ます。ただし体重が大きく変わらなくても、体脂肪率の低下や筋肉量の増加といった体組成の改善は起こっています。大切なのは短期間で結果を焦らず、半年~1年といった長い目で継続することです。

Q5. 高齢者や今まで運動習慣がない人でも、運動の効果はありますか?

はい、どんな年齢や運動経験の有無にかかわらず効果がありますし、むしろそのような方にこそ運動は強く勧められます。運動を全くしてこなかった人ほど、始めた時の健康改善の伸びしろが大きいとも言えます。高齢者でも、筋力トレーニングを行えば筋肉は年齢に関係なく強くなりますし、有酸素運動で心肺機能も向上します。研究でも、高齢になってから運動を始めた人でも血圧や血糖の改善、筋力アップ、歩行バランスの向上など多くの恩恵が確認されています。定期的な運動は高齢者において転倒予防や認知機能の維持にもつながり、介護リスクの低減や生活の質(QOL)向上に寄与します。「歳だから運動はもう遅い」ということは決してありません。ただし持病のある方や長年運動から遠ざかっていた方は、無理をせず医師に相談のうえ自分のペースで始めることが大切です。ゆっくりでも継続することで、必ずや体は応えてくれるでしょう。

Q6. 運動を続ければ、現在飲んでいる薬を減らせることもありますか?

条件によりますが、可能性はあります。運動によって血圧や血糖値、コレステロール値などが改善すれば、医師の判断で降圧薬や血糖降下薬の量を減らしたり、中には服用不要と判断されるケースもあります。例えば2型糖尿病の患者さんが食事療法と運動療法にしっかり取り組んだ結果、血糖コントロールが大幅に改善してインスリン注射が不要になった、という報告もあります。また高血圧症でも減量と有酸素運動により正常範囲まで血圧が下がり、降圧薬を中止できた例もあります。ただし、自己判断で薬を減らすのは危険です。必ず主治医と相談し、定期的な検査データを確認しながら判断してもらってください。運動はあくまで治療を助ける「非薬物療法」ですが、場合によっては薬剤と同等の効果を発揮することもある強力な手段です。医師も含めた医療チームと協力し、運動習慣を治療計画に組み込んでいきましょう。

Q7. 運動習慣を長続きさせるコツはありますか?

運動の効果を得るには継続が何より大事ですが、忙しさやモチベーションの維持など課題も多いですよね。長続きのコツとして第一に、「楽しめる運動を選ぶ」ことが挙げられます。人によってはジムでの筋トレが性に合うかもしれませんし、音楽に合わせたダンスやヨガ、屋外でのサイクリングやウォーキングの方が楽しいという方もいるでしょう。自分が「これなら続けられそう」と思えるアクティビティを見つけることが大切です。第二に、目標を具体的に設定することです。「半年後に5kg減量」「血圧を〜mmHg下げる」「地元マラソン大会に出る」など、達成基準がわかる目標があると励みになります。目標は大き過ぎず現実的なものにし、達成できたら自分にご褒美をあげても良いでしょう。第三に、環境作りも重要です。友人や家族を巻き込んで一緒に運動したり、日々の運動記録を日記やSNSに綴ったりすると、支え合いや励ましが得られます。また「毎朝7時に近所を散歩」「毎週土曜はプールに行く」など習慣化しやすい時間帯を決め、スケジュールの一部に組み込んでしまうのも効果的です。運動を習慣にする上で最も多い障壁は「時間がない」「面倒だ」という気持ちですが、最初は短時間でも構いませんのでまず始めてみてください。一度リズムができてしまえば、体を動かすことが日常の一部となり、続けることがぐっと楽になります。調子が出ない日があっても無理せず休み、翌日また再開すれば問題ありません。長い目で見て、楽しくマイペースに取り組むことが何よりのコツです。

Q8. 運動すれば体重も減らせますか?

動は消費カロリーを増やすため、減量に役立ちます。ただし、効率よく体重を減らすには食事改善との併用が重要です。単独の運動だけで体重を大幅に落とすには時間がかかるため、カロリー摂取を見直しつつ運動するのが近道です。とはいえ、運動には体重以上の意義があります。例え体重計の数字が大きく変化しなくても、運動により体脂肪が減って筋肉量が増えれば、見た目や健康指標は確実に改善します。実際、適度に運動して筋肉がある人は、痩せていても運動不足な人より健康リスクが低い傾向があります(いわゆる「太っていても元気(Fit and Fat)」という現象です)。また運動は減量後のリバウンド防止にも重要で、筋肉量を維持することで基礎代謝が高く保たれ太りにくい体質になります。減量目的で運動を始める場合は、無理な食事制限で体調を崩さないよう注意しつつ、有酸素運動+筋トレ+バランスの良い食事で健康的に進めましょう。当クリニックでも管理栄養士や運動指導士と連携し、安全で効果的なダイエットをサポートしていますので、お気軽にご相談ください。

参考文献

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  • Huang F., Ling Y., Chen L. Effects of exercise based on ACSM recommendations on individuals with Prediabetic State: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Endocrine Connections. 2025. DOI: 10.1530/EC-25-0270
  • Saz-Lara A., Valle P., Molina AJ., et al. Exercise prescription for the prevention and treatment of chronic diseases in primary care: Protocol of the RedExAP study. PLOS ONE. 2024. DOI: 10.1371/journal.pone.0302652
  • Fitzner E., Hering T., Dadaczynski K., Okan O. Development and validation of a measurement instrument for physical activity-related health literacy (PA-HL): a study protocol. Archives of Public Health. 2025. DOI: 10.1186/s13690-025-01661-w

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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