溶連菌感染症

つばを飲み込むのも辛い、急な喉の痛み。咳や鼻水は出ないのに38℃の熱が…。その症状は、もしかしたら「溶連菌感染症」かもしれません。放置すると腎炎の合併症を引き起こすこともある注意が必要な病気です。
近年、コロナ禍で変化した免疫状態の影響から小児への感染が増加。ニュースで話題の「人食いバクテリア」との関連性も指摘されています。

ここでは、風邪との見分け方から治療法、そして合併症を防ぐためのポイントを解説します。

■溶連菌を疑うべき症状と診断の流れ

この病気は「溶血性レンサ球菌」という細菌が原因で起こります。特に空気が乾燥する季節に流行しやすく、風邪と間違われやすいことがあります。
溶連菌感染症の代表的な症状は、喉の痛みです。それ以外にも特徴的な症状が現れることがあります。

溶連菌感染症のチェックリスト

喉の痛みつばを飲み込むのもつらいほどの痛みを感じます。喉の奥を見ると赤く腫れていたり、白い膿のようなものが付いていたりすることがあります。喉の天井(口蓋)に、赤い点々が見られることもあります。
急な発熱38℃程度の熱が突然出ることが多いです。熱に伴って、頭痛や体のだるさ、関節の痛みを感じることもあります。
体の発疹(ほっしん)近年は、喉の痛み程度の症状で抗菌薬が使用されてしまうことも多く、典型的な溶連菌の発疹を診ることが少なくなりましたが、体に赤くて細かい発疹が広がることがあります。この発疹は「猩紅熱(しょうこうねつ)」とも呼ばれます。
いちご舌舌の表面に赤いブツブツができ、見た目が「いちご」のようになります。多くの場合、最初は舌に白い苔のようなものが付き、その後、赤くブツブツした状態へと変化していきます。
首のリンパ節の腫れ顎の下のリンパ節が腫れ、押すと痛みを感じることがあります。

これらの症状は、溶連菌に感染してから2〜5日の潜伏期間を経て現れます。それらに加えて、腹痛などのおなかの症状を伴うことも多いです。

【症状比較】風邪やコロナとの見分け方

喉の痛みや発熱は、風邪や新型コロナでも見られるため、見分けが難しいです。しかし、症状の現れ方にはいくつかの違いがあります。

症状溶連菌感染症新型コロナウイルス感染症風邪(かぜ症候群)
喉の痛み強いことが多い強い痛みが出ることがある軽い痛みから中程度
咳・鼻水比較的少ない出ることが多い主な症状であることが多い
発熱38℃程度の熱が多い微熱から高熱まで様々微熱が多い
特徴的な症状咽頭痛と発熱
細かい発疹
味覚・嗅覚の異常
節々の痛み、倦怠感
特になし

ポイントは、溶連菌感染症では咳や鼻水が少ないことです。風邪やコロナと違い、喉の痛みだけが目立つ場合が多い傾向にあります。
ただし、症状の出方には個人差があります。自己判断はせず、気になる症状があれば医療機関を受診することが大切です。

大人と子供でこんなに違う 症状の現れ方の特徴

溶連菌感染症は、特に3歳から15歳くらいの小児に多く見られます。もちろん大人も感染しますが、年齢によって症状の現れ方が少し異なります。

学童の場合発熱、喉の痛み、いちご舌、発疹といった典型的な症状が出やすいです。腹痛の症状を訴えることも多くあります。
乳幼児の場合典型的な症状が出にくく診断が難しいことがあります。微熱や鼻水、機嫌が悪くなる、食欲がないなど、はっきりしない症状が中心になることがあります。
大人の場合熱も出ないことがありますが、強い喉の痛みを訴える方が多いです。大人が感染すると合併症につながるリスクもあるため、早めに受診することが重要です。

ご家族の中で誰かが感染した場合、他の家族も症状が出ないか、注意して観察するようにしましょう。

■迅速検査キットによる診断方法

「溶連菌かもしれない」と思ったら、お近くの医療機関を受診しましょう。子供の場合は小児科、大人の場合は内科や耳鼻咽喉科が専門です。

医療機関では、主に以下の流れで診断を進めます

1.問診・診察症状や周りの流行状況などを詳しく聞き、喉の赤みや扁桃腺の状態を直接確認します。
2.迅速検査診断の決め手となるのは迅速抗原検査キットです。綿棒で喉の奥を軽くこすり、その粘液を調べて溶連菌がいるかを確認します。検査の痛みはほとんどなく、5〜10分程度で結果がわかります。陽性の場合、多くは2分以内に結果が判明します。
3.その他の検査症状から溶連菌が強く疑われるのに迅速検査が陰性であった場合などには、「培養検査」や、過去の感染を調べる「血液検査」が行なわれることもあります。

急性咽頭炎の診断や治療法は、各国のガイドラインで、実は様々な考え方があります。 国によっては症状を和らげる目的でのみ、治療を行うこともあります。
しかし、日本では迅速検査で正確に診断し、抗生物質で治療することが一般的です。
これには、リウマチ熱のような合併症を予防するという大切な目的があったためです。適切な検査と治療が推奨されます。

■溶連菌感染症の治療法と家庭でできる対処法

治療の柱は、原因の細菌をやっつける「抗生物質」を飲むことです。加えて、ご家庭での過ごし方を解説します。

市販薬はNG? 抗菌薬を必ず飲み切るべき理由

溶連菌感染症の治療は、市販の風邪薬や痛み止めだけでは不十分です。なぜなら、溶連菌はウイルスではなく「細菌」だからです。この菌を直接攻撃できる「抗菌薬」が必要です。医師は診察の結果、ペニシリン系の抗生物質を処方することが一般的です。薬のアレルギーがある方には別の種類の薬が処方されます。

最も大切なことは、処方された抗菌薬を最後まで飲み切ることです。症状が良くなっても、菌が体内にわずかに残ることがあります。ここで薬をやめると、生き残った菌が再び増えて合併症の原因になります。代表的な合併症には「リウマチ熱」や「急性腎炎」があります。

日本では、この合併症予防を最優先に考え、10日間の服用が推奨されています。一方で、海外の研究やガイドラインを見ると考え方が異なります。例えば症状を和らげることを目的に、5〜7日間といった短い期間の治療を推奨する国もあります。これは、治療の目的をどこに置くかの違いによるものです。どの治療法が最適かは、患者さん一人ひとりの状態によります。

喉の痛みを和げる食事の工夫と食べ物

喉がひどく痛むと食事を摂るのも一苦労です。しかし、回復には栄養と水分が欠かせません。喉に優しく飲み込みやすいものを選んで、上手に栄養を摂りましょう。

食事の3つの工夫

温度を調整する熱すぎるものや冷たすぎるものは、喉への刺激になります。
スープなども、人肌くらいの温かさまで冷ましてから食べましょう。
味付けを薄くする香辛料が効いた辛いものや、お酢などの酸っぱいものは喉にしみます。回復するまでは、塩分や香辛料を控えた優しい味付けを心がけましょう。
喉ごしの良い形にする硬いせんべいやパサパサしたパンは、喉を傷つけることがあります。柔らかく煮込む、細かく刻む、とろみをつけるなどの工夫が有効です。

下の表を参考に、喉が痛いときでも食べやすい食事を選んでみてください。

おすすめの食べ物・飲み物

  • おかゆ、雑炊、柔らかく煮たうどん
  • ポタージュ、茶碗蒸し、豆腐
  • ゼリー、プリン、ヨーグルト、アイスクリーム
  • すりおろしリンゴ、バナナ
  • 水、麦茶、経口補水液

避けたほうがよい食べ物・飲み物

  • 揚げ物、せんべい、ナッツ類
  • 香辛料の強いもの(カレー、キムチなど)
  • 酸味の強いもの(柑橘類、酢の物など)
  • 炭酸飲料、アルコール
  • 熱すぎるお茶やスープ

はちみつは、喉の炎症を和らげる効果が期待できます。

いつから登園・登校できる?家族にうつさない感染対策

溶連菌は、咳やくしゃみに含まれて周りに広がります。
また、菌がついた手で口や鼻に触れることでも感染します。ご自身の回復はもちろん、大切なご家族にうつさない対策も重要です。

登園・登校の目安法律(学校保健安全法)では、登園・登校の目安が決められています。
保育園・幼稚園・学校抗生物質を飲み始めてから24時間が経過していること。さらに、熱が下がって全身の状態が良いこと。この2つの条件を満たせば、登園・登校が可能です。園や学校によっては、医師の「登園・登校許可証」が必要な場合もあります。
企業出社に法律の決まりはありませんが、学校の基準が目安になります。
抗生物質を飲み始めて24時間以上経ち、体調が回復してからにしましょう。

家庭でできる感染対策

手洗い流水と石けんで、指の間や手首まで丁寧に洗いましょう。
マスクの着用感染している方はもちろん、看病されるご家族もマスクをするとより安心です。
タオルの共有を避ける顔や手を拭くタオル、バスタオルは、別のものを使いましょう。
食器の洗浄使ったコップやお皿は、分けて洗うか、洗浄後にしっかり乾燥させましょう。
定期的な換気部屋の窓を開けて空気を入れ替え、ウイルス濃度を下げることが大切です。

■治療にかかる費用

溶連菌感染症の治療には、健康保険が適応されます。自己負担額は、年齢や所得に応じて医療費全体の1割から3割です。

費用の内訳(目安)

  • 診察料(初診・再診)
  • 検査料(喉の迅速検査など)
  • 処方箋料
  • お薬代(抗生物質など)

これらを合計して、3割負担の方で数千円程度になることが一般的です。ただし、時間外の受診や治療内容によって金額は変動します。

■溶連菌感染症の合併症と再発を防ぐポイント

溶連菌感染症は「喉の風邪」と軽く考えてはいけません。適切な治療を受けないと、合併症を引き起こすことがあります。
また、一度治っても繰り返し感染しやすいのも、この病気のやっかいな点です。

急性腎炎やリウマチ熱などの合併症

処方された抗菌薬を途中でやめてしまうのは危険です。
症状が良くなっても、菌が体内で生き残り、別の場所で悪さを始めるからです。注意が必要な合併症は、主に2つあります。

急性糸球体腎炎
(きゅうせいしきゅうたいじんえん)
腎臓の中にある、血液をきれいにするフィルター(糸球体)が壊れる病気です。溶連菌の感染から10日〜14日ほど経ってから、次のような症状が現れます。

急性糸球体腎炎のサイン

  • 顔やまぶた、足がむくむ
  • 尿の色がコーラのように赤茶色になる(血尿)
  • 急に血圧が高くなる
  • 尿の量が減る
リウマチ熱菌そのものではなく、菌に対する体の免疫反応が暴走してしまう病気です。関節や心臓、神経など、体のあちこちに炎症が広がります。心臓の弁に後遺症が残ると、将来の生活に影響が出ることもあります。

リウマチ熱のサイン

  • 関節が赤く腫れて痛む
  • 動悸(どうき)がする
  • 手足が自分の意思とは関係なく動いてしまう

これらの合併症を防ぐ最も確実な方法は、医師に指示された期間、抗菌薬を必ず最後まで飲み切ることです。

近年増加する劇症型(人食いバクテリア)との関連性

「人食いバクテリア」という怖い言葉をニュースで聞いたことがあるかもしれません。この病気の正式名は「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」といいます。 実はこれも、喉の痛みを引き起こす溶連菌と同じ菌が原因で起こることがあります。普段は喉や皮膚でおとなしくしている菌が、傷口などから体の中に侵入。血液や筋肉といった、本来は菌がいない場所で増えることで発症します。症状の進行が非常に速く、命に関わることもあるため、世界中で警戒されています。

実際に、海外の研究報告では深刻なデータが示されています。例えば英国では、2022年後半から子供たちの間で重症型の溶連菌感染症が増加。18歳未満の子供における致死率は8.2%に達したという報告もありました。これは、国際的にも公衆衛生上の大きな懸念となっています。

ただし、溶連菌に感染した人のほとんどは、過度に心配する必要はありません。
次のような症状には注意してください。

すぐに病院へ行くべき危険なサイン

  • 手足の傷口の周りが急に赤く腫れあがり、耐えがたい痛みがある
  • 高熱が出る。
  • 血圧が下がり、ぐったりして起き上がれない

このような異変があれば、すぐに医療機関を受診してください。

■再発予防策

「去年もかかったのに、また溶連菌になってしまった…」 そんな経験がある方も多いのではないでしょうか。 溶連菌が繰り返し感染するのは理由があります。

溶連菌にはたくさんの種類(型)がある一度かかると、その型の菌に対する免疫はできます。しかし、インフルエンザに様々な型があるように、溶連菌にも多くの種類がいます。そのため、別の型の溶連菌には新たに感染してしまうのです。
集団全体の免疫が変化している(免疫負債)新型コロナの流行中、私たちはマスクや手洗いを徹底していました。その結果、様々な菌に触れる機会が減り、多くの人の免疫が「お休みモード」に。これが「免疫負債」と呼ばれる状態で、溶連菌が広がりやすくなっています。

ある研究では、コロナ禍の後に溶連菌の流行状況が変化したことが示されています。
以前は学童期(6〜8歳)が中心でしたが、2023年には未就学児(3〜5歳)の感染が急増。より小さいお子さまに流行の中心が移ってきているのです。 流行のピークは冬から春にかけてです。

再発予防策

基本の徹底外から帰った後、食事の前には石けんで丁寧に手洗いをしましょう。
家庭内での対策家族が感染したら、タオルやコップ、お箸などを共有するのは避けましょう。
体の抵抗力を高める十分な睡眠とバランスの良い食事を心がけましょう。

妊娠中・授乳中の感染と胎児・乳児への影響

お母さまが溶連菌に感染しても、それが直接赤ちゃんに影響することはほとんどありません。
しかし、お母さまご自身の高熱や体力の消耗は、妊娠の経過にとって良くありません。妊娠中でも安全に使える抗菌薬がありますので、「妊娠中です」と伝え、適切な治療を受けましょう。

授乳中に感染した場合も、母乳を通して菌がうつることはありません。感染経路は、お母さまの咳やくしゃみです。授乳やお世話の際には、以下の対策を徹底しましょう。

  • マスクを正しく着用する
  • 赤ちゃんに触れる前には必ず手洗いをする

授乳中でも服用できる薬を処方してもらえます。 受診する際には、必ず「授乳中です」と医師に伝えるようにしてください。

■まとめ

溶連菌感染症は、抗菌薬できちんと治せる病気です。重要なこと、症状が良くなっても処方された薬を最後まで飲み切ることです。これが合併症を防ぐ、確実な方法となります。

参考文献

  • Bamford A, Whittaker. Resurgence of group A streptococcal disease in children.
  • Timitilli E, Verga MC, Guarino A, et al. Acute pharyngitis in children and adults:
  • descriptive comparison of current recommendations from national and international
  • guidelines and future perspectives.
  • Massese M, La Sorda M, De Maio F, et al. Epidemiology of group A streptococcal
    infection: are we ready for a new scenario?

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