病気と健康の話

【LDL】悪玉コレステロールはもっと下げる時代へ LDLコレステロール目標値、下方シフトの科学的根拠

■はじめに

近年のLDLコレステロールの議論は、「LDL-Cは“下げれば下げるほどよい”(lower is better)」を、“誰に・どの程度・どんな薬の組み合わせで”実装するかに移っています。とくに、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患リスクが高い人(=高リスク・超高リスク)では、米国の専門家コンセンサス(2022年)で、“追加治療を検討する閾値”として LDL-C 55 mg/dL が明確に提示され、欧州では“最重症(extreme risk)”で 40 mg/dL未満を考慮する方向が示されています。

この「より低い数値」への動きが“机上の空論ではない”理由は、近年の大規模試験で、LDL-Cを40〜30 mg/dL程度まで下げた集団でも心血管イベントが減り、長期安全性も大きく崩れなかったことが積み重なっているためです。たとえば、PCSK9阻害薬エボロクマブの一次予防寄りアウトカム試験 VESALIUS-CV(2026年、オンライン先行2025年)では、主要評価項目(3-point MACE)が HR 0.75 と有意に低下し、安全性イベントの差も明確には認められませんでした。また、長期追跡のFOURIER-OLE(2022年)では、12週時点のLDL-C中央値 30 mg/dL、LDL-C <40 mg/dL達成が63.2%で、重大な有害事象や脳出血、神経認知イベントが“元のプラセボ群”を上回らず、長期でイベント抑制も示されています。

一方、日本のガイドライン(日本動脈硬化学会・2022年版)では、二次予防の一般目標は、 LDL-C <100 mg/dL、より厳格に管理すべき病態(急性冠症候群、糖尿病、家族性高コレステロール血症などの合併)では LDL-C <70 mg/dL を掲げています。さらに、日本の家族性高コレステロール血症(FH)データでは、一次予防(<100)・二次予防(<70)の目標達成が“より良い予後”と関連する一方、達成率が低いという課題も示されました。

■疫学と高コレステロールの現状:

主眼は、「LDL-C管理が“必要な人”は減っていない、むしろ“広い層に存在する”」という現状認識にあります。国際的なガイドライン更新を予測する前提として、まず、脂質異常(高コレステロール血症)が公衆衛生上の大きなテーマであり続けることを示します。 ここで重要なのは、単に“LDLが高い人が多い”という話ではなく、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の予防戦略は、人口全体に広がるリスク因子の分布の上に成り立つという点です。今後のガイドラインでは「誰を高リスクとみなすか(=リスク評価の枠組み)」と「高リスク群にどの程度のLDL低下を求めるか(=目標値)」がセットで更新されることを示唆しています。
この“疫学の位置づけ”は、臨床現場でのメッセージにも直結します。LDL-Cの議論は「健康診断で高かったから薬を飲むかどうか」だけで終わらず、年齢・糖尿病・腎臓病・喫煙・家族歴・画像所見(冠動脈石灰化など)を含む総合的なリスクで“治療の強さ”が決まる、という方向に進んでいます。米国の専門家文書でも、一次予防領域で冠動脈石灰化(CAC)を意思決定に組み込むことが明記され、リスクが一定以上なら治療強化(場合により追加薬)まで視野に入ることが示されています。

■LDLだけではない:動脈硬化の“原因”となる脂質:

「LDL-Cは“悪玉”として有名だが、動脈硬化の評価や治療戦略はLDL-Cだけでは語り切れない」という整理です。ガイドラインが“LDL-C中心”でありつつも、非HDL-CやアポBなど、動脈硬化を起こす粒子(atherogenic lipoproteins)をより広く捉える指標が臨床的に重要になる流れを示しています。
とはいえ誤解の少ない言い方をすると、「LDLを下げなくてよい」という話ではありません。むしろ、より低いLDL目標を達成するには“複数薬剤の併用が必要になる人が増える”という現実です。例えば米国の専門家文書は、非常に高リスクのASCVDでは、最大耐容量のスタチンで十分な低下(≥50%低下)と LDL-C <55 mg/dL に到達していれば継続、到達しなければエゼチミブやPCSK9阻害薬など“エビデンスのある薬”を追加検討する、という段階的(ただし目標は明確)な考え方を示しています。
一方、欧州の更新文書では、リスクの高い人ほど同じLDL低下でも絶対利益が大きいという考え方を維持しつつ、治療の立ち上げを早期に、強力に行う(“the sooner, the lower, the better”の文脈)方向が示されています。

つまり「LDL以外の指標も見ながら、結局はLDLを含む“動脈硬化性粒子負荷”を十分に下げる」ことが、今後の実装課題として浮かび上がります。

ASCVDリスク評価のアップデート(論文セクション:Updates in ASCVD risk estimation)では、「LDL目標値は、リスク評価の“入口”が変わると、適用される人(対象者)も変わる」と明記されています。米国では、一次予防のリスク推定式が今後更新され、従来の推定式より“同じリスク因子でも推定リスクが低く出る”可能性があり、その場合は“閾値(どのリスクで薬を始めるか)”自体が再調整されると述べています。
また、CAC(冠動脈石灰化)などの画像指標を、従来のリスク因子だけでは拾い切れないリスクの補正に用いる方向性を整理しています。 実際に米国の専門家文書(2022年)では、一次予防で意思決定が揺れる場合にCAC測定を考慮し、CAC 1–99では中等度スタチンが合理的、十分なLDL低下が得られず LDL-C ≥100 mg/dL なら高強度化を検討、さらに CAC >300(あるいは>400)などの高負荷では高強度スタチンを考慮し、最大治療でも LDL-C ≥70 mg/dL ならエゼチミブ追加を検討する、といった具体の運用が記載されています。
ここで“目標値の下方シフト”と関係するのは、同じ人でも、リスクの再分類(例:CACが高い)により「より厳格なLDL目標を目指す側」に入る可能性があることです。さらに、二次予防(すでにASCVDがある人)では、もともと絶対リスクが高いため、より低いLDL目標が提案されやすい土台があります。欧州の更新文書も、絶対リスクを軸にLDL低下強度を決めるという枠組みを維持し、リスクが高いほど絶対利益が大きいことを例示しています。

■2018年以降の主要試験:下げると何が起きたか

この章では、いわば“ガイドラインの背骨”になる臨床試験をまとめています。LDLをさらに下げるために、スタチンに加えてエゼチミブ、ベムペド酸、PCSK9阻害薬、siRNA製剤(インクリシラン)などをどう位置づけるかを、近年の試験を根拠に整理しています。
たとえば、スタチン不耐(筋症状などで十分量が使えない/使いたくない)という現実的課題に対し、CLEAR Outcomes(2023年)はベムペド酸が一次エンドポイント(4要素MACE:心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・冠血行再建)を HR 0.87 で低下させたことを示しました。LDLは6か月時点でプラセボより 29.2 mg/dL 低下し、追跡中央値40.6か月でイベント差が出ています。一方で、痛風や胆石などの副作用がプラセボより多い点も同時に提示されており、「目標値を下げるための薬剤選択は、効果だけでなく副作用も織り込む」という臨床の現実を補強します。
さらにPCSK9阻害薬のエビデンスは、「超高リスクだけでなく、“大きな既往イベントがないが高リスク”にも広げ得る」方向へ進んでいます。VESALIUS-CV(2026年)では、心筋梗塞や脳卒中既往がない高リスク(動脈硬化または糖尿病)を対象に、3-point MACEが HR 0.75、4-point MACEが HR 0.81 と低下しました。これらは「より低いLDL目標が議論されるほど高リスク群の定義が重要になる」こと、そして「高リスク群では、LDL低下の“追加一段”がイベント抑制につながり得る」ことを示すデータです。

■治療開始の閾値と目標値:アメリカ・日本の違い

米国・日本の枠組みを比較し、(1)一次予防での“治療開始の入口”を決めるリスク評価が更新されること、(2)二次予防や超高リスクで“より低いLDL目標”が採用され続ける(あるいは強化される)こと、(3)その実装には複数薬剤が必要になり得る、という構図を提示しています。


・米国の専門家文書(2022年)では、臨床ASCVDのうちvery high riskでは、最大耐容量スタチンで ≥50%低下かつ LDL-C <55 mg/dL なら継続、達しない場合は“追加治療”を検討するという形で、実質的に55 mg/dLが強いマイルストーン(閾値)として使われています。[8] さらに、CACのような“潜在性動脈硬化”評価を治療強化に取り込む運用も文章で具体化され、高CAC+LDLが十分下がらない場合に追加治療が検討され得ることが示されています。
・日本のガイドライン(2022年版)では、一次予防は低・中・高リスクで LDL-C <160/<140/<120 mg/dL、二次予防は LDL-C <100 mg/dL を基本としつつ、急性冠症候群、糖尿病、FHなど“より厳格な管理が必要な病態”では LDL-C <70 mg/dL を考慮すると明記されています。この差は「日本が遅れている」という単純な話ではなく、推奨値は“対象集団のリスク推定・医療実装・薬剤アクセス・達成可能性”の要素で形成されるということを示します。実際、日本のFHデータでは目標達成が予後と関連する一方、達成率が低い現状も示されており、“目標値を下げる議論”と同時に“達成率を上げる議論”が不可欠であることが読み取れます。

■結論:なぜ“もっと低い目標”に向かうのか

今後の国際ガイドライン更新の方向性として、(A)リスク評価(誰が対象か)の深掘り、(B)LDL目標の低下(どこまで下げるか)、(C)多剤併用(どう達成するか)の三点が同時に進むと示唆しています。 とくに「very high riskではLDLを30 mg/dL未満の水準まで下げることで、追加的にASCVDリスクを下げ得る」という趣旨を明記しており、これが“目標値のさらに下方”を語る根拠になります。
この方向性が臨床に実装される決め手は、(1)低いLDL達成でイベントが減った、(2)その達成水準でも大きな安全性シグナルが増えなかった、という二本柱です。FOURIER-OLEは、LDL中央値30 mg/dL・<40達成63.2%という“かなり低い水準”で、長期の安全性イベントが増えず、早期導入がイベント抑制に結びつくことを示しています。VESALIUS-CVは、高リスクだが大きな既往イベントがない層でも、PCSK9阻害で初回イベントを減らせることを示しました。さらに、無作為化試験を束ねたメタ解析では、LDL-C <40 mg/dLに至る集団でMACEが OR 0.82 と低く、主要な安全性イベント増加は示されなかったと報告されています。
ただし、この“もっと低い目標”は全員に一律ではありません。欧州の更新文書が例示するように、同じLDL低下でも絶対リスクが高い人ほど絶対利益が大きいため、厳格目標は「高リスクに集中する」ことが合理的です。

つまり、今後のLDL目標は「より低く」へ向かう一方で、その適用はますます“リスクに応じた精密化”が進む、というのが最も整合的な理解です。

比較表

表は「目標値そのもの」だけでなく、(i)どの集団に、(ii)どの到達水準で、(iii)どんなアウトカム差があったか、(iv)臨床的含意(目標値が下がる理由)まで含めて整理しています。

文献(年)地域研究デザイン対象集団LDL-C目標/閾値・到達水準(研究内での扱い)主要アウトカムと結果目標値への含意
添付総説(2026)米国中心(国際比較)最新エビデンス総説国際ガイドライン更新を俯瞰very-high riskで<30 mg/dL級の“非常に低いLDL”が議論され得る点を明記エビデンス更新を踏まえ、今後のガイドライン更新を予測「より低い目標」+「複数薬剤」+「リスク評価更新」を統合した設計図
ESC/EAS Focused Update(2025)欧州ガイドライン更新高リスク〜超高リスク等の広範絶対リスクを軸にLDL低下強度を決める枠組みを維持。ACSは早期・強力な低下戦略を提案早期強化の合理性を提示“the sooner, the lower, the better”の実装(早期強化で目標到達を前倒し)
ACC ECDP(2022)米国専門家意思決定経路臨床ASCVD、一次予防の高リスク等very high risk ASCVDで LDL-C 55 mg/dL を強い閾値として提示。CAC高値では追加治療も視野閾値と追加療法の意思決定を提供“低い目標”を「いつ追加するか」に落とし込む(55/70など)
VESALIUS-CV(2026)国際(NEJM)二重盲検RCT高リスクだがMI/脳卒中既往なし(LDL≥90)脂質サブスタディで48週LDL中央値45 mg/dL。より低いガイドライン目標(<55等)に言及3-point MACE:HR 0.75、4-point:HR 0.81。安全性差なし“既往大イベントなし”でも、低LDL達成で初回イベントが減る可能性
FOURIER-OLE(2022)米国・欧州長期追跡(OLE)既存ASCVD12週LDL中央値30 mg/dL、<40達成63.2%。安全性イベント増加なし早期導入群で複合イベントHR 0.85など“かなり低いLDL”の長期安全性と追加イベント抑制を提示
CLEAR Outcomes(2023)国際(NEJM)二重盲検RCTスタチン不耐+高リスクLDL差:6か月で–29.2 mg/dL(プラセボ比)。“低下幅が利益”の形4要素MACE:HR 0.87。痛風・胆石など増加“目標値を下げる”を支える代替薬の位置づけ(ただし副作用も)
VICTORION-INITIATE(2024)米国実装寄りRCT(オープン)ASCVDでLDL目標未達330日でLDL 60%低下、<55達成71.6%(usual care 8.9%)LDL達成率とスタチン継続(中止率)を評価「低い目標」でも、実装戦略次第で達成率を上げられる
日本動脈硬化学会GL(2022)日本ガイドライン一次予防(低〜高)・二次予防例:二次予防は<100、より厳格病態で<70リスク別に目標値を提示日本の“現行目標”の基準線(今後の下方議論の起点)
FH後ろ向き研究(2023)日本後ろ向きコホートFH(2000–2020、追跡中央値12.6年目標:一次<100、二次<70。達成率:一次31.9%、二次11.9%目標達成群でイベント率が低い(例:二次で<70は15.3/1000人年、≥70は27.5/1000人年)“厳格目標の意義”と“達成率の壁”を同時に提示
very low LDLメタ解析(2023)欧州メタ解析10RCT(very low LDL群38,427人等)LDL-C <40 mg/dL 到達群と対照群を比較MACE:OR 0.82、主要安全性イベント増加なし“低いLDLは危険か?”への統合的反証(少なくともRCT範囲内)

■“もっと低く”は誰に必要か:絶対リスクの視点と安全性のデータ

「LDLは低いほどよい」という言い回しが独り歩きすると、“全員が同じ目標値で競争する”ような誤解が起きます。しかし欧州の更新文書は、1 mmol/L(約38.7 mg/dL)のLDL低下が同じ相対リスク低下をもたらすとしても、絶対リスクが高い人ほど絶対リスク差(=助かる人数)が大きいことを例示しています。つまり“もっと低い目標値”は、基本的に高リスク群でこそ意味が大きいという設計思想です。
安全性については、「下げすぎると危険なのでは?」という不安が最も多い論点です。この点で重いのは、(A)無作為化試験の統合(メタ解析)、(B)長期追跡データの両方が揃ってきたことです。LDL-C <40 mg/dLに至る集団を含むメタ解析では、MACEが低下(OR 0.82)しつつ、安全性イベント増加は示されなかったとまとめられています。さらにFOURIER-OLEでは、LDL中央値30 mg/dLで、重篤有害事象、筋関連、糖尿病新規発症、脳出血、神経認知イベントが“元のプラセボ群”を上回らず、時間とともに増えないと報告されています。
ただし、どの薬でも「利益と害」はセットです。CLEAR Outcomesは、LDL低下とイベント抑制を示す一方、痛風・胆石などの増加も併記しました。したがって臨床的には、(1)その人の絶対リスク、(2)薬の利益、(3)副作用リスク、(4)LDL到達に必要な追加量を同時に見て、“どこまで下げるか”を決めるのが最もエビデンスに忠実です。

■外来での実践ポイント:検査結果を“目標値”につなげる考え方

一般の外来で最も大切なのは、LDL-Cの数字を「単独で見ない」ことです。日本のガイドラインは、一次予防を低・中・高リスクに分け、二次予防を別枠にして目標値を設定しています。これは「低リスクの人が、いきなり超低LDLを目指す」設計ではなく、リスク層別化が先という意味です。
一方で、米国の専門家文書は二次予防(臨床ASCVD)内でも“very high risk”を明確にし、その場合に LDL-C 55 mg/dL を強い閾値として、追加薬の意思決定を促します。[8] そして一次予防でも、CAC(冠動脈石灰化)のような画像所見を用いてリスクを上方修正し、LDLが十分下がらない場合の追加治療を検討し得る、と文章で具体化しています。[7] ここから読み取れるのは、「今後、目標値が下がる」だけでなく、“厳格目標が適用される人が増える可能性”があることです(例:従来は中間リスク扱いでも、CAC高値で高リスク相当になる)。
達成可能性(実装)も重要です。現実には、ASCVD患者の多くがガイドライン目標に届いていません。これに対しVICTORION-INITIATEは、「LDL目標未達が確認された時点でインクリシランを早期導入する」という実装戦略で、<70達成81.8%、<55達成71.6% を示しました。つまり、“目標値が下がる”=“不可能な理想論”ではなく、実装(いつ・どう追加するか)を工夫すれば到達し得ることをデータで示しています。
そして日本のFHデータは、「目標値の意義」と「達成率の壁」を同時に教えてくれます。一次予防(<100)・二次予防(<70)の目標達成がより良い予後と関連した一方、達成率が十分でない、と結論づけています。 “もっと低い目標”を考える前提として、まずいま推奨されている目標に届く仕組み(薬の選択、継続、フォロー間隔、併存疾患の管理)を整える必要がある、という示唆になります。

■地域・リスク層で異なるLDL目標

文章での“階段”として表すと次のイメージです(※誰がどの段にいるかはリスク評価で決まる)。

  • 二次予防(日本の基本):LDL-C <100 mg/dL
  • 二次予防(より厳格が必要な病態):LDL-C <70 mg/dL
  • 二次予防のvery high risk(米国の強い閾値):LDL-C 55 mg/dL未満を目標設計に組み込み
  • 最重症(欧州で考慮される水準):40 mg/dL未満を検討
  • “さらに低い”水準:長期試験ではLDL中央値30 mg/dL級で安全性とイベント抑制が示唆

■FAQ

Q. LDL-Cの目標値は、結局いくつが正解ですか?

正解は「1つ」ではなく、その人の動脈硬化リスクの高さで変わるのが、10論文で一貫した結論です。日本のガイドラインは、一次予防(低・中・高リスク)と二次予防で目標を分け、二次予防では<100、さらに厳格にすべき病態では<70を提示しています。米国は臨床ASCVDのvery high riskで55 mg/dLを強い閾値として追加治療の意思決定を促します。欧州は最重症で40未満を考慮する方向性が示され、添付総説はvery high riskでは30未満級の議論が進む可能性を述べています。

Q. LDL-Cを40 mg/dL未満にすると危険ではありませんか?

“危険かどうか”は、RCTデータで確認するのが最も確実です。LDL-C <40 mg/dLに達する集団を含む無作為化試験のメタ解析では、MACEが低下(OR 0.82)し、安全性イベントの増加は示されなかったとまとめられています。またFOURIER-OLEではLDL中央値30 mg/dLで、重篤有害事象や脳出血、神経認知イベントが増えず、長期でイベント抑制も示されています。ただし、薬剤ごとの副作用は別問題であり、薬の選択は個別に行う必要があります(例:ベムペド酸では痛風・胆石が増加)。

Q. スタチンだけで目標に届かないとき、いつ追加薬が必要ですか?

米国の専門家文書では、臨床ASCVDのvery high riskで、最大耐容量スタチンでも ≥50%低下とLDL <55に達しない場合に追加治療を検討する、という運用が明確です。一次予防でもCACが高い場合など、リスクが上方修正されれば治療強化が検討され得ます。[7] 実装面では、目標未達の時点でインクリシランを早期導入する戦略により、<55達成が7割超まで上がったというデータもあります。

Q. スタチンが合わない(筋肉痛など)場合、目標値は諦めるしかないですか?

「諦めるしかない」とは言い切れません。CLEAR Outcomesは、スタチン不耐(使用できない/使用したくない)集団で、ベムペド酸がLDLを下げ、4要素MACEをHR 0.87で減らしたことを示しました。ただし副作用(痛風・胆石など)も増えるため、どの薬をどう組み合わせるかは医師と相談しながら決める必要があります。

Q. 家族性高コレステロール血症(FH)は、より厳格なLDL目標が必要ですか?

FHは生涯にわたってLDL負荷が高くなりやすい疾患群で、ガイドライン上も厳格管理が位置づけられています。日本のFH後ろ向き研究では、一次予防の<100、二次予防の<70という目標達成が、より良い予後(イベント率低下)と関連しました。同時に、二次予防での達成率が11.9%と低いことも示されており、“目標の妥当性”だけでなく“到達の仕組み”が臨床課題になります。

参考文献

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記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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