【骨粗しょう症】骨卒中(骨折ドミノ)を防ぐ:骨粗しょう症の脆弱性骨折予防をわかりやすく解説
※ 症状や治療の適否は、年齢・腎機能・既往症・服薬状況などで変わるため、最終判断は各医療機関でご相談ください。
■「骨卒中」とは何か
ここでいう骨卒中は、医学用語としての脳卒中ではなく、骨粗しょう症などを背景に、軽い転倒や尻もちでも起こる“ 脆弱性骨折(骨折ドミノ)”が、生活機能を急激に落とし、要介護や死亡リスクまで押し上げる状態を、わかりやすく表現した言葉として使います。
特に、背骨、腰骨の圧迫骨折や、太ももの付け根(大腿骨近位部)骨折は、痛み・姿勢変化・肺機能低下・活動量低下 → 筋力低下 → 転倒増加…という負の連鎖の起点になりやすく、「起きてから治す」だけでは不十分です。
そのため、骨卒中予防は大きく分けて次の3本柱になります。
- 骨の強さを上げる(骨粗しょう症の評価と治療)
- 転ばない(転倒リスクの評価と対策)
- 骨折後の、“治療の空白”をなくす(二次骨折予防)
以下では、BMJ総説を軸に、欧州・米国・日本の文献を加えた計10本のエビデンスをできるだけ丁寧に解説します。
■エビデンスで学ぶ「骨卒中」予防
1.骨卒中予防の“全体設計”がわかる(評価・非薬物・薬物・連携の全部入り)
BMJのState of the Art Review「Advances in the management of osteoporosis」は、骨粗しょう症の評価と治療を、“点”ではなく“設計図”として理解させてくれる総説です。まず重要なのは、骨折は「けが」ではなく「予後を左右するイベント」だという視点です。総説では、骨粗しょう症性骨折後に続発骨折のリスクが高いこと、特に最初の2年が危険な期間であることが繰り返し強調されます。また、大腿骨近位部骨折後は1年以内の死亡リスクが高い(一般向けの説明としては「命にも関わり得る」)点も、骨卒中という比喩が誇張ではない根拠です。
次にこの総説が価値を持つのは、骨折リスクを「骨密度だけ」で判断しないことを明確にし、糖尿病・サルコペニア(筋肉量や筋力の低下)・転倒回数・骨折の“部位と最近性”など、従来のツールが取りこぼしやすい要素を整理している点です。特に「最近骨折した人は、次の骨折が近い」という考え方は、骨卒中予防の実践で非常に重要です。
さらに総説は、予防を非薬物(運動・転倒予防・栄養)と薬物療法の両輪で示します。運動は「散歩だけ」ではなく、筋力(レジスタンス)+荷重(骨に刺激)+バランスの複合が勧められ、骨の薬を使っても“転倒”が残れば骨折は減りきらないという現実をはっきり述べます。栄養では、カルシウムとビタミンDを中心に、状況によってはタンパク質なども含めた実装論が語られます。
そして最大のポイントが、医療の“仕組み”です。総説は、股関節骨折後でさえ、骨粗しょう症薬が十分に開始されていない現状を示し、骨折リエゾンサービスのような組織的介入が、治療開始率を上げ、再骨折を減らすエビデンスを紹介します。骨卒中予防は、個人の努力だけでなく、医療側の導線整備が成果を左右する――これが本総説の結論の一つです。
2.誰をいつ治療するか、“線引き”が明確になる
英国のNOGG(National Osteoporosis Guideline Group)による「2024 UK clinical guideline」は、骨卒中を防ぐための“現場での線引き”を具体化した臨床ガイドラインです。特徴は、骨折リスク評価(代表的にはFRAX)を使いながら、低リスク/高リスク/超高リスクの層別化を行い、限られた医療資源の中で「今すぐ治療が必要な人」を明確にする点にあります。
骨卒中予防で重要なのは、骨折が起きてからの“次の骨折”を防ぐだけでなく、初回骨折を起こしやすい人を早めに拾うことです。NOGGはそのために、リスク評価→必要なら骨密度(DXA)→治療、という流れを推奨し、さらに最近の骨折(特に椎体骨折や股関節骨折)を「超高リスク」としてより迅速な介入につなげる考え方を支えています。BMJ総説が述べる「最初の2年が危険」という概念と整合します。
また、NOGGは薬剤選択にも踏み込み、一般に高リスクではビスホスホネート等の抗吸収薬が中心になり得る一方、超高リスクでは骨形成促進薬(アナボリック)を最初に使う選択肢を含めて示します。これは、骨折が迫っている人に「弱い治療から段階的に」では間に合わない可能性がある、という実務的判断です(BMJ総説でも“step-up”より“anabolic-first”の重要性が述べられます)。
さらにNOGGのアップデート点として、閉経ホルモン療法(HRT)や新規薬剤の位置づけ、特定疾患(例:パーキンソン病など)も含めたリスク配慮が盛り込まれていることが示されており、「高齢者の骨折予防=骨密度だけ」ではないという潮流を強化しています。一般の方にとっての実践的メッセージは明確です――“骨折した/背が縮んだ/転びやすい/糖尿病がある”なら、年齢のせいにせず、リスク評価と検査につなげることが骨卒中予防の第一歩になります。
3.治療は「始める」だけでなく「目標に到達させる」時代へ
米国を中心としたASBMR(米国骨代謝学会)とBHOF(骨の健康財団)による声明は、骨粗しょう症治療を“goal-directed(目標志向)”に再定義しています。これまでの治療は「骨粗しょう症と診断されたら薬を開始する」「骨折したら薬を追加する」という“開始”中心の発想になりがちでした。しかし骨卒中予防では、開始しただけで安心できません。なぜなら、薬の種類・順番・継続・モニタリングで、到達できる骨密度や骨折抑制の度合いが変わるからです。
この声明が重要視するのは、治療開始時点で目標(ターゲット)を定めることです。ターゲットは多くの場合、大腿骨近位部などのTスコアや、そこから推定される骨折確率などで表現されます(BMJ総説でもtotal hip BMDが“最良の具体的ターゲット”として示されています)。
そして、目標から逆算して「どの治療を、どの順番で、どのくらいの期間」行うかを考えるのが骨卒中予防に直結します。たとえば、超高リスクの人(最近の椎体/股関節骨折、非常に低い骨密度、複数骨折など)は、短期的に骨折が起こりやすいので、早く効き、骨密度の改善が大きい戦略が必要になり得ます。BMJ総説が述べる“imminent risk”の時代には、ここが最も差になる部分です。
一般の方向けに噛み砕くと
- 骨粗しょう症治療は「薬を飲んでいる」ではなく、“骨折しにくい状態まで持っていく”ことがゴール
- ゴールに届いているかは、症状だけでなく骨密度や骨折の有無などで確認する
- リスクが非常に高い人ほど、初期治療の選択と、その後の切り替え(逐次療法)が重要
骨卒中予防では、特に「骨折後の最初の1〜2年」で次の骨折を止めることが重要なので、目標設定と治療強度の最適化は、生活機能の維持に直結します。
4.骨密度検査は“何となく毎年”ではなく、目的を持って使う
骨密度検査(DXA)は骨粗しょう症評価の中心ですが、ISCD(International Society for Clinical Densitometry)の公式ポジションは、「再検査はいつ・何のために行うべきか」を整理した点で、骨卒中予防にとても役立ちます。結論はシンプルで、フォロー目的が明確で、結果が治療方針に影響する場合に行う、そして検査間隔は年齢・性別・骨折リスク・治療歴・新規骨折の有無などの“状況”で個別化する、という考え方です。
一般の方の感覚では「骨密度は毎年測るもの?」となりやすいのですが、ISCDは「毎年が正解」とは言いません。理由は2つあります。
1つ目は、DXAには測定誤差があり、短期間だと“本当の変化”と“誤差”が区別しづらいこと。2つ目は、検査の結果が治療を変えないなら、検査の価値が下がることです。つまり、検査は“測ること”が目的ではなく、“骨折を減らす意思決定”のための道具だという位置づけです。
骨卒中予防の観点では、特に次の状況でDXAフォローの意味が大きくなります。
- 新しく骨折した(治療強化や薬の変更が必要かもしれない)
- 治療を開始・変更した(反応が乏しい場合は原因探索:服薬アドヒアランス、栄養、併存疾患、薬剤選択など)
- 治療を中止・休薬する計画(リバウンドが問題になる薬もあるため)
- ステロイド治療など、骨量が急に変わり得る状況
BMJ総説が示す“treat-to-target”では、目標に向けて治療を最適化するためにモニタリングが必要になりますが、ISCDの見解はその「測り方のルール」を与えてくれます。結果として、骨卒中予防は「検査→放置」ではなく、検査→解釈→介入という循環が回るほど成功しやすくなります。
5.デノスマブは「始め方」以上に「やめ方」が重要(中断が骨折を呼ぶことがある)
デノスマブ(例:プラリア等)は骨折予防効果が高い一方で、ECTS(欧州石灰化組織学会)のポジション声明が強調するのは、中止後に骨代謝が急激に反跳(リバウンド)し、骨密度が速く低下し、椎体骨折が多発することがあるという点です。つまり骨卒中予防のための薬が、計画なしの中断で逆に骨卒中リスクを上げ得る、という重要な注意点です。
一般の方に起こりやすい問題は、「注射の間隔が空く」「通院が途切れる」「歯科治療や手術が心配で自己判断で止める」などです。しかしECTS声明は、デノスマブは“休薬(”という考え方がそのまま当てはまらないことを示唆し、中止するなら次の薬(多くは強力なビスホスホネート等)へつなぐ必要性を述べます。実際、声明では「最終投与から約6か月のタイミングで代替の抗吸収薬を開始する」など、現場判断の枠組みが提示されています。
BMJ総説も、逐次療法において「デノスマブの後は、強力なビスホスホネートで骨量低下を防ぐ」こと、逆に「デノスマブ→テリパラチド単独」は股関節骨量が落ち得るため避ける、といった“順番”の重要性をまとめています。骨卒中予防は、薬の良し悪しよりも「使い方」で差が出る領域がある、という典型例です。
実践的メッセージは3つです。
- デノスマブは、開始前に“いつまで・どう切り替えるか”も含めて計画する
- 自己判断で中断しない(間隔が空きそうなら、早めに医療機関へ相談)
- 中止が必要な場合は、次の治療へ“橋渡し”する
骨卒中を防ぐための治療が、通院の空白で崩れないよう、最初から「継続できる仕組み」を作ることが鍵です。
6.薬は“どれでも同じ”ではない—効果と安全性を比較して選ぶ
HändelらのBMJ(2023)のネットワークメタ解析は、閉経後女性を中心とする多数のランダム化比較試験を束ね、骨粗しょう症治療薬の骨折予防効果と安全性を横断的に比較した研究です。ネットワークメタ解析は、統計学的に“つながり”を作って比較する方法で、ガイドライン作成にもよく使われます。骨卒中予防では「どの薬が最適か」が成果に直結するため、この種の包括的解析は非常に価値があります。
この研究が示す大枠の理解として、主要な骨粗しょう症薬は、プラセボに比べて骨折を減らす一方で、薬剤のタイプ(抗吸収薬/骨形成促進薬など)や、骨折部位(椎体/非椎体/股関節)によって効果の出方が異なり得ます。またBMJ総説でも述べられる通り、超高リスクでは「骨形成促進薬を最初に使う」戦略が理にかなう局面があり、ネットワークメタ解析はその考え方を“比較の形”で支えます。
一般の方向けに重要なのは、「薬=怖い」か「薬=効く」かの二択ではなく、自分の骨折タイプとリスクに合う薬を、適切な順番で、適切な期間使うことが骨卒中予防の本質だという点です。たとえば、椎体骨折を繰り返しやすい人、股関節骨折が迫っている人、腎機能が低い人、心血管リスクが高い人などで、最適解は変わります(BMJ総説は、薬剤ごとの副作用や禁忌・注意も含めて整理しています)。
ネットワークメタ解析の限界として、個々の試験の患者背景や追跡期間が異なるため「誰にでも同じ順位表が当てはまる」とは言えません。しかし骨卒中予防の現場では、こうした総合比較は「選択肢を狭める」よりも、むしろ“適切に使えば、複数の有効な選択肢がある”ことを示し、治療への納得感を高めます。結果として、継続率が上がり、再骨折を減らす—ここにつながるのが、この論文の臨床的意義です。
7.骨を強くしても、転べば折れる—だから転倒対策は必須
Montero-Odassoらの「World guidelines for falls prevention and management for older adults」は、骨卒中予防の“もう半分”である転倒予防を、世界標準の形でまとめたガイドラインです。骨粗しょう症治療が進歩しても、転倒リスクが高いままだと骨折はゼロになりません。BMJ総説も「薬の戦略が最善でも、転倒という骨以外の要因が残ると骨折リスク低下は頭打ちになり得る」と述べていますが、このガイドラインは転倒予防を実装するための道筋を示します。
このガイドラインの中核は3点です。
- すべての高齢者に、転倒予防と身体活動の助言を行う
- 地域在住高齢者に対して、機会を捉えた“転倒リスクの拾い上げ”を推奨
- 高リスクと判断された人には、包括的な転倒リスク評価(多因子評価)を行い、本人と一緒に個別化した多領域介入を設計・実行する
「多領域介入」とは、筋力・バランス訓練だけでなく、服薬(ふらつきやすい薬の見直し)、視力、住環境(段差・照明・手すり)、起立性低血圧、認知・歩行、足部・靴、補助具などを組み合わせることを意味します。一般の方にとっての要点は、転倒は“注意不足”ではなく、複数の要因が重なって起きる医療・生活課題だという理解です。だからこそ、運動だけ、手すりだけ、靴だけ、ではなく、必要な要素を組み合わせるほど効果が出やすい、というロジックになります。
骨卒中予防の現場では、たとえば「骨密度はそこまで低くないのに折れた」「糖尿病で足が不安定」「最近つまずきが増えた」「夜間トイレで転ぶ」など、転倒要因が強いケースが少なくありません。こうした人に、骨の薬だけで勝負するのは不十分です。骨(骨粗しょう症)×足腰(サルコペニア)×環境(転倒)を同時に扱うことが、骨卒中を防ぐ最短ルートになります。
8.骨密度“だけ”で見落とす危険を減らす
Shevrojaらの2023年アップデートは、TBS(Trabecular Bone Score)という指標の臨床利用を整理した論文です。TBSは、腰椎DXA画像の濃淡の“テクスチャ(きめ)”情報から、骨の微細構造(骨梁構造)を間接的に推定する考え方で、単純な骨密度(BMD)では捉えきれない骨強度の差を補う可能性があります。BMJ総説でも、DXAは骨の微細構造評価が弱いという限界を述べたうえで、TBSが骨折リスク層別化を改善し得る点を強調しています。
このアップデートの実践的価値は、次のような「骨密度だけでは判断が割れる場面」で、意思決定を助けることです。
- 骨密度が境界域(骨減少)だが、年齢・既往・転倒歴などで心配が強い
- 糖尿病やステロイド使用など、骨質が悪化しやすい背景がある
- FRAXで評価しても、実感として“折れそう”な要素が多い
BMJ総説では、TBSがBMDやFRAXとは独立して骨折リスク予測を改善することが示され、特に糖尿病やステロイド性骨粗しょう症など二次性骨粗しょう症でも有用性が示唆されます。また、BMJ総説はTBSの大規模メタ解析(複数コホート)に触れ、TBS調整によってリスク予測が良くなる可能性を述べています。
一般の方向けに言い換えると、TBSは「骨密度が同じでも、骨の“中身”が違う人がいる」問題へのアプローチです。骨卒中予防では、見落とし(本当は高リスクなのに低リスク扱い)が最も怖いので、TBSのような補助指標は「治療開始を迷う人」や「二次性要因がある人」で特に意味を持ちます。もちろんTBSは万能ではなく、体格や画像条件の影響など注意点もありますが、2023アップデートはその位置づけを「DXAの代替ではなく、判断の精度を上げる追加情報」として整理しています。
9.ビスホスホネートの“怖さ”は、利益と比べてどうか—稀な副作用を数字で理解する
骨粗しょう症治療で非常に多い不安が、「薬の副作用が怖い」です。BMJ総説も、治療が進まない理由の一つに「重大だが稀な副作用への過度な恐怖」を挙げています。そこで役立つのが、BlackらのNEJM論文(2020)です。この研究は大規模データで、ビスホスホネート使用と非定型大腿骨骨折(AFF)の関係を分析し、同時に「通常の骨粗しょう症性骨折(股関節など)をどれだけ防ぐか」という利益と比較できる形で示します。
結論の骨格は次の通りです。
- AFFリスクはビスホスホネート使用期間が長いほど上がる(相対リスクは上がり得る)
- しかし、中止するとリスクは低下していく
- そして最も重要なのは、絶対数としてAFFは稀で、予防できる股関節骨折などの数の方がはるかに大きいという点です
BMJ総説はさらに、Kaiser cohortの解析などを引用して、5年間の使用で「AFFはごく少数だが、股関節骨折や臨床骨折は多数防がれる」という“リスク・ベネフィットの釣り合い”を具体的に説明しています。つまり、骨卒中予防の観点では、薬の副作用をゼロにすることはできなくても、治療しないリスク(骨折・寝たきり・死亡)の方が大きい場面が多い、という現実があります。 また、BMJ総説はAFFのリスク因子としてアジア人、人種、体格、角度、ステロイドなどを挙げ、長期使用では個別評価が必要と述べています。これは「誰でも一生飲む」ではなく、一定期間治療→リスクを再評価→休薬や薬剤変更を検討する“戦略的な使い方”が重要だということです。NOGGやASBMRのようなガイドライン群が、リスク層別化や治療強度の考え方を重視する背景には、まさにこのリスク・ベネフィットの最適化があります。
10.骨粗しょう症リエゾンサービス(OLS)の提言(Endocrine Journal 2023)—「骨折後に放置されない仕組み」が骨卒中を減らす
最後は日本の文献です。SuzukiらのEndocrine Journal(2023)は、日本で推進されてきた骨粗しょう症リエゾンサービス(OLS:Osteoporosis Liaison Service)を概説し、骨折後の二次骨折予防を“個人任せにしない”考え方を示します。骨卒中予防で最ももったいないのは、一度折れた後に、評価も治療も始まらず、次の骨折が起きることです。BMJ総説も「股関節骨折後でさえ治療が十分に開始されない」ことを示し、FLSのような連携モデルが治療開始率と再骨折率を改善する根拠を挙げます。OLSは、この“連携で治療の空白を埋める”思想を日本の医療に実装する枠組みです。
OLSの要点は、医師だけでなく、看護師、薬剤師、理学療法士、放射線技師、栄養士などが関わり、患者さんの理解・継続・転倒対策・受診導線を支えることです。骨粗しょう症は自覚症状が乏しく、薬も長期になりがちで、途中でやめやすい病気です。したがって“良い薬”より“続く仕組み”が成果を左右します。BMJ総説が示す通り、FLSのメタ解析では治療開始率が上がり、再骨折が減ることが示されており、OLSはその日本版の発想として理解できます。
OLSが示すメッセージは、「骨折したら整形外科だけ」「痛みが引いたら終わり」ではない、ということです。
骨卒中を防ぐには、骨折を“合図”として、
- 骨密度(DXA)+必要な血液検査
- 椎体骨折の見落とし確認(背骨の画像評価)
- 転倒リスク評価(歩行、筋力、薬、住環境)
- 薬物療法の開始と継続支援
をセットで行う必要があります。OLSは、その一連を漏れなく回すための考え方であり、「次の骨折を防ぐ医療」そのものです。
骨卒中を防ぐための実践チェックリスト(今日からできること)
| 最近の骨折(圧迫骨折・手首・肋骨など含む)がある/身長が縮んだ → “いま危険な時期”の可能性(早めに評価) |
| 糖尿病・ステロイド治療・筋力低下・転倒歴がある → 骨密度だけで安心しない(総合評価) |
| 運動は「散歩だけ」より、筋トレ+荷重+バランスを意識 |
| 骨粗しょう症治療は、開始だけでなく目標設定(treat-to-target)と継続が重要 |
| デノスマブ等は、自己判断で中断しない(中止計画が必要) |
| 「薬が怖い」は数字で整理:稀な副作用より、骨折予防利益が上回ることが多い |
■FAQ(よくある質問)5つ:すべてエビデンスに基づく回答
Q1. 骨卒中は、骨粗しょう症と同じ意味ですか?
同じではありません。骨粗しょう症は「骨の強度が低下して骨折しやすくなる病態(慢性疾患)」で、骨卒中はその結果として起こる脆弱性骨折が、生活機能を急激に落とし、再骨折や死亡リスクまで高める“重大イベント”を強調した表現です。BMJ総説は、骨折後に続発骨折リスクが高く、特に股関節骨折後は1年以内の死亡リスクが高いことを示し、骨折を軽視すべきでない根拠を整理しています。
Q2. 「骨密度がそこまで低くない」のに骨折しました。骨粗しょう症ではないのですか?
骨密度が極端に低くなくても、脆弱性骨折は起こり得ます。BMJ総説が述べる通り、糖尿病、サルコペニア、転倒、骨折の部位と最近性など、骨密度だけでは捉えにくいリスクが存在します。またFRAXplusのように、転倒回数や糖尿病などを加味してリスク推定を補正する試みも紹介されています。骨卒中予防では「骨密度だけで白黒をつけない」ことが重要です。
Q3. 骨粗しょう症の薬は副作用が怖いです。飲まない方が安全では?
「副作用がゼロ」が理想でも、現実には治療しないこと自体が大きなリスクになります。NEJMの大規模研究は、ビスホスホネートによる非定型大腿骨骨折(AFF)が長期で増え得る一方、絶対数としては稀であり、骨粗しょう症性骨折(特に重大な股関節骨折など)を防ぐ利益との比較が重要であることを示します。BMJ総説も、稀な副作用への過度な恐怖が治療の遅れにつながる点を指摘しています。副作用は医師と一緒に“起きにくくする戦略”(期間の見直し、リスク評価、歯科連携など)を取りつつ、骨折予防の利益を最大化するのが現実的です。
Q4. デノスマブ(プラリア等)を打っているのですが、やめると危ないのは本当ですか?
はい、計画なしの中断は危険になり得ます。ECTS声明は、デノスマブ中止後に骨代謝が反跳し、骨密度が急減して椎体骨折が多発する可能性がある点をまとめています。そのため中止が必要な場合は、次の抗吸収薬(強力なビスホスホネート等)で“橋渡し”するなど、医師の管理下で計画を立てることが重要です。BMJ総説も逐次療法の重要性を整理し、デノスマブ後の戦略が骨卒中予防に直結することを示しています。
Q5. 骨密度検査(DXA)は毎年受けた方がいいですか?
毎年が必ずしも正解ではありません。ISCDの公式ポジションは、再検査は目的を明確にし、結果が治療方針に影響する場合に行うこと、そして検査間隔は年齢・骨折リスク・治療歴・新規骨折の有無などで個別化することを推奨しています。骨卒中予防では「測ること」よりも「測った結果をどう介入につなげるか」が重要です。
参考文献
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- Suzuki A, et al. Osteoporosis Liaison Service (OLS) in Japan. Endocrine Journal. 2023.
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
