【血糖値】“ちょい高血糖”や“血糖値スパイク”から始まるがん予防―カギは“血糖値の見える化(CGM)”
■はじめに
糖尿病患者の最大の死因は、意外にも「がん」です。日本の調査(2011〜2020年)によれば、糖尿病患者の死因は第1位ががん(約38.9%)で、感染症(17.0%)や心血管障害(10.9%)を大きく上回っています。従来、糖尿病では心筋梗塞や腎不全などが重視されてきましたが、今やがん対策が最重要課題となっています。
こうした中、CGM(持続血糖モニタリング)というデバイスに注目が集まっています。CGMとは皮下に装着した小さなセンサーで間質液中の血糖値を常時計測し、データをリアルタイムで送信する装置です。指先採血によらず24時間の血糖変動を把握できるため、糖尿病管理に革命をもたらしました。最近ではこのCGMを糖尿病予備群(前糖尿病)の方にも活用し、生活習慣の改善によって将来的ながんリスクを低減しようという試みが始まっています。
一方で、“前”糖尿病の段階から既にがんの発症リスクが高まることが最新研究で明らかになりました。2025年のLancet Diabetes & Endocrinology誌の大規模研究では、前糖尿病の人が将来がんになる確率は、2型糖尿病を発症した場合とほとんど変わらないことが示されたのです。10年間の追跡で、糖尿病に進行した群は前糖尿病のままの群より僅か0.4〜0.5%ポイント程度(年間1000人あたり4〜5人)の余分ながん発症しか認めず、両者の差はごくわずかでした。このため「糖尿病予防=がん予防」という新たな視点が重要になっています。前糖尿病のうちからCGMで血糖変動を「見える化」し、生活習慣介入を早期に行うことが、将来的ながん抑制につながる可能性があります。
本記事では、エビデンスに基づき「CGMを活用してがんを予防する」ためのポイントを一般の方向けに解説します。まずLancet誌の研究結果をやさしく読み解き、次にCGMの仕組みと使い方、さらに前糖尿病段階でのCGM活用事例や欧米の動向、最後に糖尿病とがんを結ぶメカニズムやFAQについて紹介します。
■前糖尿病でもがんリスクが高い — Lancet論文の解説
前糖尿病とは、血糖値が正常高値だが糖尿病診断基準には至らない段階のことです。しかし、「前糖尿病だから安心」とは言えない、とする衝撃的な研究結果が報告されました。2025年のLancet Diabetes & Endocrinology誌に掲載されたイギリスの大型研究では、前糖尿病と診断された約33万人を最長20年間追跡し、糖尿病進展とがん発症の関係を解析しました。
主な結果は以下の通りです。
- 前糖尿病と診断後10年間でがんを発症する確率は、年齢によって異なりますが、50代以下の男性で約2%、65〜74歳では最大7.8%に達しました。女性も同様の傾向でした。
- 2型糖尿病に進行した場合のがん発症率は、前糖尿病のままの場合とほとんど差がありませんでした。10年間での累積がん発症リスクは、糖尿病へ進展した群で若干高かったものの、1000人あたり数人程度の僅かな増加に留まりました。
- 前糖尿病と診断された人は、若年層では大半が10年後も糖尿病を発症せず経過しました(例えば55歳未満男性では72.1%が10年後も前糖尿病のまま)。一方、高齢層では糖尿病に進む前に他の原因で亡くなるリスクも高く(75歳以上女性では10年以内に38.7%が死亡)、がんになる前に寿命を迎えるケースも多いことが示唆されました。
以上の結果から研究者らは、「前糖尿病と診断された段階で、年齢に応じたオーダーメイドの介入策を講じ、将来の2型糖尿病とがんの両方を予防することが重要」と結論付けています。特に若い世代では前糖尿病のまま長期間経過する人が多いので、その間に積極的に生活習慣を是正し、がんの芽を摘むチャンスがあります。一方、高齢者では糖尿病だけでなくがんや他疾患も含めた包括的な健康管理が求められるでしょう。
このLancet論文は、「糖尿病になってからでは遅い。前糖尿病のうちからがん予防を意識すべき」というメッセージを発信しています。前糖尿病の放置は、将来の糖尿病発症リスクだけでなくがんリスクも高いことを肝に銘じ、早め早めの対策が必要です。
■CGM(持続血糖モニタリング)とは?その仕組みと使い方
CGM(Continuous Glucose Monitoring)は、リアルタイムに体の血糖値を測定できる画期的なデバイスです。直径1円玉ほどの小型センサーを上腕や腹部などの皮下に装着し、そこで測った間質液中のブドウ糖濃度を数分ごとに送信します。専用の受信機やスマートフォンアプリで24時間途切れなく血糖値の推移を確認でき、食事や運動、ストレスなど日常生活のあらゆる要因が血糖に与える影響を「見える化」してくれます。
CGMには大きく2種類あります。一つはフラッシュ型(isCGM)と呼ばれるもので、「FreeStyleリブレ」に代表されます。これは普段は自動送信されず、リーダー機やスマホでかざしてスキャンしたときに初めて血糖値が表示されます。もう一つはリアルタイム型(rtCGM)で、「Dexcom(デックスコム)」シリーズなどが該当します。rtCGMではセンサーからBluetooth等で常時データが送信され、スマホ画面に現在の血糖値・傾向グラフ・予測矢印などがリアルタイム表示されます。上限・下限を超えそうな時はアラームで通知してくれるため、低血糖や高血糖を未然に防ぐのに役立ちます。またインターネット経由で医師や家族とデータ共有も可能です。
医療機関では、患者にプロフェッショナル用CGMを装着してもらい、数日〜2週間のデータを蓄積して解析することがあります。例えばホルスター心電図の血糖版のようなイメージで、「皮下に装着して○日後に外して持参」という使い方です。この場合、データは後からまとめて解析します。一方で、市販の個人用CGM(上述のDexcomやLibreなど)は、ユーザー自身が常時データを見ながら日々の管理に活かせる点が魅力です。特に近年はセンサーの精度向上や低価格化が進み、一部製品はドラッグストアで手に入る国も出てきました(米国では2024年にFDAが非糖尿病者向けにもOTC販売を承認しました)。
装着方法は製品によって多少異なりますが、基本的には付属の専用アプリケーター(装着器具)を使ってセンサーを皮下に挿入します。痛みはほとんどなく、装着後は防水シールなどで固定すれば入浴や運動も可能です。測定値はおおむね10〜15分程度遅れて表示されます(血液中ではなく間質液中のグルコースを測るため)。しかし指先採血による自己血糖測定(SMBG)よりはるかに高頻度なデータ取得が可能で(製品にもよりますが1日あたり288回もの測定)、細かな血糖変動パターンを把握できます。
例えば朝食に何を食べるとどれだけ血糖が上がるか、運動するとどの程度血糖が下がるか、といった反応が一目瞭然です。「血糖値は自覚症状がない」と言われますが、CGMを使うと体の中で起きている変化をリアルタイムで“見て”実感できるのです。このバイオフィードバック効果が生活習慣の見直しに強い動機づけを与えてくれる点が、CGMの大きなメリットです。
■前糖尿病段階でのCGM活用 — 生活習慣改善と血糖変動の見える化
現在、前糖尿病の段階からCGMを活用し、生活習慣の改善によって将来の糖尿病発症と合併症リスクを減らそうという試みが始まっています。その背景には、「血糖変動を本人が認識することで行動変容を促せるのではないか」という期待があります。実際、糖尿病患者ではCGM導入によって食事内容の見直しや運動励行につながったとの報告があり、このモチベーション効果を前糖尿病の人にも応用しようというわけです。
しかし前糖尿病者へのCGM利用はまだ新しい分野であり、エビデンスも少しずつ蓄積されている段階です。ここでは注目すべき2つの研究例を紹介します。
一つは中国で行われた食事介入の研究です。前糖尿病と診断された138人を対象に、一部の群にフラッシュ型CGM(FreeStyleリブレ)を装着してもらい、スマホアプリを通じて低炭水化物食の指導を3ヶ月間行いました。他方の対照群には通常の単回指導のみを行いました。その結果、3ヶ月後に両群とも食後高血糖の時間が減少しましたが、CGM+アプリ指導群の方が減少幅は大きく、統計的にも有意差が認められました。つまりCGMで血糖変動を追いながら適切な食事アドバイスを継続的に受けることで、食後高血糖の改善に効果があったと考えられます。
もう一つはアメリカでのパイロット研究です。前糖尿病の70人を対象に、6ヶ月間の経過で一方の群には市販のリアルタイムCGM(Dexcom)を最初の3ヶ月間に計4回(3週間ごとに10日間ずつ)装着し、もう一方の対照群には序盤と終了時のみCGM装着(ブラインド測定)を行いました。全員に基本的な生活指導はしていますが、CGMの有無以外の差は設けていません。その結果、6ヶ月後のHbA1cや体重、空腹時血糖、血糖変動(標準偏差)などは両群間で有意差がなく、CGMを断続的に使った群でも明確な改善効果は示されませんでした。この研究はサンプルサイズが小さい点に留意が必要ですが、「単にCGMを付けるだけでは不十分で、データをどう活用するかが重要」という示唆とも受け取れます。
さらに全体像を把握するため、近年のエビデンスをまとめた系統的レビューも参考になります。2024年に発表された25件の試験のメタ分析では、CGMを用いたフィードバック介入によって平均HbA1cが0.28%低下し、目標範囲内血糖の時間(Time in Range)が7.4%増加すると報告されています。体重やBMIには有意な変化が見られなかったものの、血糖コントロール指標においてわずかながら有益な効果が確認されました。著者らは、生活習慣の改善という観点ではCGMによる行動変容の効果は概ね肯定的であり、今後さらなるメカニズム解明と効果検証が必要と結論づけています。
総合すると、前糖尿病段階でのCGM活用は有望ではあるものの、効果を最大化するには、適切な支援が不可欠だと言えます。CGMを付けただけで魔法のように健康になるわけではありません。しかし血糖の「見える化」により本人の危機意識とモチベーションを高め、専門家のサポートと組み合わせることで、食事・運動習慣の改善に繋げられる可能性があります。事実、米国のある予防プログラムでは短期間CGMを体験した参加者の96%が「ぜひ今後もCGMを使いたい」と回答し、具体的に「食事の量を減らした」「食後に体を動かすようにした」などの行動変容が報告されています。前糖尿病の方にとって、CGMは自身の身体と向き合う鏡となり、より健康的なライフスタイルへのきっかけを与えてくれるツールなのです。
■欧米で広がる前糖尿病へのCGM活用 — 最新研究と予防への応用
前述のようなCGM活用の動きは欧米でも徐々に広がっています。特に米国では、医療政策的にもCGMを予防目的で利用しやすい環境が整いつつあります。2024年、米FDA(食品医薬品局)は糖尿病ではない一般消費者向けにもCGMデバイスの市販を認可しました。これにより医師の処方がなくてもドラッグストア等でCGMを購入できるようになり、自分の血糖を日常的にモニターする「ウェルネス用途」が公式に容認されたことになります。この背景には、「糖尿病予備群の早期発見・介入」を促進したい狙いがあると言われます。実際、米国内では約9600万人が前糖尿病と推定されており、その多くが未診断のまま放置されています。CGMが広く普及すれば、そうした人々が日々の血糖変動から自分の体質に気づき、生活を見直す契機になるかもしれません。
もっとも、非糖尿病の人がCGMを使う際の課題も指摘されています。ハーバード大学関連の研究では、糖尿病・前糖尿病・正常の3群でCGMデータとHbA1c(過去数ヶ月の平均血糖)の関係を調べました。その結果、糖尿病患者ではCGM指標(平均血糖値や時間率など)がHbA1cとよく相関していましたが、前糖尿病では相関が弱まり、正常人ではほぼ相関がなくなることが分かりました。つまり健常者では、CGMが検知する一時的な血糖変動が長期的なHbA1cに反映されにくいのです。このため著者らは「前糖尿病や正常の人では、CGMの数値を過信して安易な判断を下すべきではない」と述べています。例えばCGM上で一時的に140mg/dLを超えるピークがあっても、即座に「自分は将来糖尿病になる!」と恐れる必要はないでしょう。むしろ、トレンド(傾向)に注目し、複数日のデータから食事内容や活動量とのパターンを読み解くことが大切です。
一方で、研究者たちは「CGMデータ自体には価値がある」とも強調しています。上記の研究でも、正常者や前糖尿病者ではCGM数値がHbA1cに反映されにくい=短期的な血糖変動が持続しないことを示すに過ぎず、その短期変動そのものが無意味というわけではないのです。むしろCGMで可視化される食事や運動ごとの血糖応答は、従来見過ごされてきた「隠れた異常」をあぶり出す可能性があります。例えばHbA1cが正常範囲でも、CGMで食後高血糖が頻発している人は将来的に糖代謝異常へ進むリスクが高いかもしれません。このため「CGMデータでハイリスク群をスクリーニングできるか」というテーマで今後の長期研究が求められています。
ヨーロッパでも同様に、糖尿病予防へのデジタルヘルス活用が注目されています。2025年のJournal of Diabetes Investigation誌のレビューでは、前糖尿病の高リスク者に対するPrecision Prevention(精密予防医療)の文脈でCGMやウェアラブルの活用が論じられています。欧州各国でも糖尿病予備群の増加に頭を悩ませており、従来型の対面指導だけでは追いつかない現状があります。その打開策として、スマートフォンアプリ・活動量計・CGMデータなどを組み合わせて遠隔で生活習慣改善を支援する試みが広がっています。例えば英国では、大規模な国民保健サービス(NHS)の予防プログラムにデジタルオプションが導入され、スペインやオランダでもオンライン健康コーチングの実証が行われています。CGMについては欧州糖尿病学会(EASD)でも近年、「糖尿病治療以外へのCGM利用」に関するセッションが設けられ、医療者の間でも関心が高まってきました。
もっとも、現時点で前糖尿病者へのCGM常用がすぐに保険診療に組み込まれる段階ではありません。費用対効果や長期転帰への影響など、エビデンスが十分とは言えないからです。しかし、「測って終わり」ではなく「測って行動を変える」ところまで含めた支援策として、CGMは今後の予防医療に欠かせないツールになる可能性を秘めています。医療政策の観点でも、重症化を防げれば医療費削減につながるため、各国でCGM普及の是非が議論されるでしょう。日本でも今後、糖尿病予備群に対するCGM活用が検討される日が来るかもしれません。
■なぜ前糖尿病のうちに生活習慣改善をすると「がん予防」につながるのか
最後に、糖尿病(高血糖)とがんの関連メカニズムについて触れておきます。糖尿病の人でがんリスクが高まる背景には、インスリンと酸化ストレスという2つのキーワードがあります。
インスリンは膵臓から分泌される血糖降下ホルモンですが、同時に細胞増殖を促す成長因子の側面も持ちます。前糖尿病や2型糖尿病では、インスリンの効きが悪い(インスリン抵抗性)ため体内ではインスリン分泌が過剰になります(高インスリン血症)。この慢性的な高インスリン状態が、がん細胞の増殖を後押しすると考えられています。実験的にも、インスリンは大腸がん細胞の増殖を促進し、動物では腫瘍を大きくすることが報告されています。インスリンそのものが発がんに直接寄与する可能性が指摘されているのです。さらに高インスリン状態では血中のIGF-1(インスリン様成長因子)の増加も引き起こされます。IGF-1も強力な細胞増殖因子で、同時に不要な細胞の自然死(アポトーシス)を抑制する作用があり、多くのがんの発育に関与します。糖尿病の人で特定のがん(肝臓がん・大腸がん・膵臓がんなど)が多いのは、こうした高インスリン・高IGF環境が長年続くことが一因と考えられます。
もう一つのキーワードは酸化ストレスです。高血糖状態では細胞内で余分なブドウ糖から活性酸素(ROS)が過剰に生成され、体にサビが溜まったような状態(酸化ストレス)が引き起こされます。またインスリンそのものもROS産生を刺激することが知られています。この慢性的な酸化ストレスは、DNAを傷つけたり細胞に炎症反応を誘発したりして、発がんの土壌を作ります。さらに高血糖ではタンパク質が糖化してAGEs(終末糖化産物)が蓄積しますが、AGEsがその受容体(RAGE)に結合すると細胞増殖シグナルが活性化し、正常細胞ががん化する一因となり得ます。つまり高血糖→酸化ストレス・糖化ストレス→遺伝子損傷・慢性炎症→発がんという経路が考えられるのです。
以上より、前糖尿病の段階であっても、「インスリン抵抗性の改善」と「血糖変動の安定化」を図ることは、将来的ながん予防につながると期待できます。具体的には減量や運動でインスリンの効きを良くすることで高インスリン血症を是正し、同時に食生活の改善で食後高血糖のピークを抑えることで酸化ストレスを減らすことが目標になります。例えば食物繊維を増やし糖質過多を避ける、適度な有酸素運動を習慣にして筋肉で余分な血糖を消費する、といった対策が有効でしょう。その際、CGMはこれら生活習慣の効果を逐一フィードバックしてくれる強力なツールとなります。血糖値が安定してくればインスリン抵抗性も改善し、結果的に「がんのエサ」を断つ**ことにつながるのです。
糖尿病とがんの関連は非常に複雑で、全てが解明されたわけではありません。しかし「糖尿病予防=がん予防」であるという意識を持つことは、健康長寿のために重要な視点です。前糖尿病だからと油断せず、今からでもできる生活習慣の見直しを始めましょう。その際、CGMなどもうまく活用して、自分自身の体と対話しながら取り組むことをおすすめします。
■FAQ(よくある質問と回答)
Q1. 検診で空腹時血糖130mg/dL、HbA1c6.0%と言われました。まだ糖尿病じゃないですよね?
空腹時血糖130mg/dLは糖尿病型の値です。正常の範囲はおおよそ100未満、126mg/dL以上は糖尿病の診断基準を満たします。今回6.0%というHbA1c値だけ見ると境界型ですが、空腹時血糖が高いため再検査が必要です。放置せず必ず医療機関で再検査を受けてください。
Q2. 糖尿病治療で一番重要な数値は血糖値ですよね?やっぱり血糖を下げるのが一番ですか?
血糖管理だけでは死亡率を下げられないことが分かっています。確かに高血糖を放置すれば合併症が進むので血糖コントロールも大事ですが、こと寿命や心血管リスクに関しては、血圧と脂質の管理のほうが影響が大きいのです。大規模臨床試験(ACCORDやJ-DOIT3など)でも、血糖を厳格に下げても心筋梗塞や脳卒中による死亡率は改善しませんでした。一方、血圧を130/80mmHg未満に保ちLDLコレステロールを適正範囲に下げることで、心臓病や脳卒中の発症率・死亡率は明らかに低下します。糖尿病治療では、「血糖+血圧+脂質」を総合的に管理することが重要で、特に心臓や血管の合併症予防には血圧・脂質コントロールに力を入れてください。
Q3. 糖尿病治療で一番大事ことは何ですか?
薬よりも食事療法と運動療法です。糖尿病治療の基本はまず食事と運動による生活習慣改善です。薬物療法はそれでも血糖が改善しない場合に追加します。新しい薬やインスリンも確かに有用ですが、根本的に血糖コントロールを良くするには生活習慣を整えることが不可欠です。食事では適正エネルギー量の範囲で糖質・脂質・タンパク質のバランスをとり、野菜や食物繊維をしっかり摂りましょう。また運動も週150分程度の有酸素運動を目標に、無理のない範囲で継続してください。薬はあくまで補助であり、主役は患者さん自身の生活習慣です。
Q4. 糖尿病だとなぜがんが増えるのですか?
インスリン抵抗性の影響で体内のインスリン濃度が慢性的に高くなると、インスリンは細胞の増殖シグナルを活性化してしまい、がん細胞の増殖を促進します。特に大腸や膵臓などは高インスリン環境で腫瘍が育ちやすいことが分かっています。また高血糖によって発生する酸化ストレスが細胞のDNAを傷つけたり、慢性炎症を誘導することでも発がんリスクが高まります。さらに糖尿病の人では免疫力が低下しがちで、がん細胞を排除する力も弱まり得ます。そのため糖尿病だと特定のがん(肝臓、大腸、膵臓、乳がんなど)の発症率や死亡率が高いことが世界中の研究で確認されています。「余分なインスリン」と「余分な糖(による酸化ダメージ)」が、がんの温床になるということです。
参考文献
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記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
