病気と健康の話

【糖尿病】血糖値だけじゃない!心臓・腎臓・体重・肝臓へ同時展開する新戦略: 2026年ADA糖尿病ガイドライン

025年末にアメリカ糖尿病学会(ADA)から2026年版の糖尿病診療ガイドラインが発表されました 。今回のガイドラインでは、「血糖値を下げること」に注目した治療から大きく前進し、心臓や腎臓の保護、体重管理、血糖コントロール、さらには肝臓の脂肪病変(MASLD/MASH)に対する包括的なアプローチが強調されています 。これは英国NICEの指針とも方向性が一致しており、単に血糖を管理するだけでなく患者さまの全身の健康、特に心血管と腎臓を守ることに焦点を当てる流れです 。実際に心血管疾患は、がんに次いで2型糖尿病患者さんの主要な死因であり 、こうした合併症を予防・軽減する新たな治療戦略が重要視されています。

以下では、ADA2026年版ガイドラインの4つの核心ポイントである、

(1) 心臓と腎臓のリスク低減
(2) 体重管理
(3) 血糖コントロール
(4) 脂肪肝(MASLD/MASH)への介入

について、専門用語をかみくだいてわかりやすく解説します。それぞれの変更が患者さまの生活にどう役立つのか、またなぜ重要なのかについても説明します。

■心臓と腎臓の合併症リスク低減

糖尿病の治療目標として、心臓(心血管)や腎臓の合併症リスクを低減することがこれまで以上に重視されています。糖尿病が長く続くと、心筋梗塞や脳卒中など心血管疾患や、糖尿病腎症による腎不全のリスクが高まります。2026年版ADAガイドラインでは、血糖値を下げる薬を選ぶ際に、その薬が心臓や腎臓を保護する効果があるかを重視するよう推奨されています 。具体的には、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬といった新しい薬剤が注目されています。このうちSGLT2阻害薬は尿中に糖を排泄させる飲み薬で、心不全による入院や慢性腎臓病の進行を減らし、死亡リスクも下げることが明らかになっています 。例えばイギリスのNICE(医療技術評価機関)も、心不全や腎臓病を併せ持つ2型糖尿病患者にはSGLT2阻害薬を積極的に使うよう推奨しています  。一方、GLP-1受容体作動薬は週1回などで注射する薬で、インスリンの分泌を増やし食欲を抑えることで血糖を下げますが、それだけでなく心筋梗塞や脳卒中など動脈硬化性の心血管イベントを減らす効果も示されています 。ある大規模試験では、GLP-1作動薬の一種セマグルチドを投与したところ、心臓病のある肥満患者で主要な心血管イベント(心臓発作、脳卒中など)の発生率が約20%減少しました 。こうしたエビデンスにもとづき、心臓に病気のある糖尿病患者さんには、早い段階からGLP-1作動薬を含む治療(例:メトホルミン+SGLT2阻害薬+GLP-1作動薬の“三剤療法”)を検討することが英国でも提案されています 。

ガイドラインが心臓と腎臓のリスク低減を強調するのは、前述のように心疾患が糖尿病患者の生命予後を大きく左右するためです。心臓や腎臓を守る治療を行うことで、将来の心筋梗塞、心不全、脳卒中、透析が必要になる腎不全といった深刻な合併症を防げる可能性があります 。例えば、SGLT2阻害薬を適切な患者さんに使えば何万人もの命を救えるという試算もあります 。このように、最新のガイドラインでは「血糖値さえ下げれば良い」という発想から、心臓や腎臓を含めたトータルケアへと視点が移っています 。実臨床でも、「血圧やコレステロールの管理」「禁煙の指導」「心保護・腎保護作用のある糖尿病薬の活用」など総合的なリスク低減策が重要です。

■ポイント: 心臓と腎臓を守るために

血圧管理と脂質管理の強化血圧やコレステロールを適切にコントロールすることで、心臓病や腎症のリスクを下げます(高血圧や高LDLコレステロールへの治療も忘れずに)。
心腎保護効果のある薬剤の使用主治医と相談して、必要に応じSGLT2阻害薬やGLP-1作動薬など心臓発作や腎不全のリスク低減が証明された薬を治療に組み込みます。
生活習慣の改善禁煙や減塩、適度な運動など生活習慣の改善は基本です。これらも心血管イベントの予防に直結します。

体重管理(減量の重要性)

体重管理(減量)は、糖尿病ケアの柱として一段と重要視されるようになりました。肥満や過体重は2型糖尿病の大きな原因であり、また血糖コントロールを悪化させる要因です。ADA2026ガイドラインでは、「5〜7%の体重減少」が血糖コントロールや心血管リスク因子の改善に有益であることが強調されています 。実際、体重を10%以上減らすことができれば、糖尿病が寛解(いわゆる「薬が不要な状態」)する可能性も高まります 。ガイドラインには、「少なくとも体重の5〜7%減を目標に、栄養指導や運動療法、行動変容支援を組み合わせた体重管理プランを提供すべき」と記載されています 。これは、わずかな減量でも血糖値や血圧、脂質プロファイルが改善し、合併症リスクが下がるからです。

近年登場した抗肥満薬(肥満症治療薬)も糖尿病患者の体重管理に取り入れられています。特に前述のGLP-1受容体作動薬(例:セマグルチド〈商品名ウゴービィ等〉)には、食欲抑制と体重減少効果があり、糖尿病患者さまの減量と血糖改善の両方に役立つことが示されています 。ADAの新ガイドラインでは、1型糖尿病で肥満を合併する患者にもGLP-1作動薬の使用や減量手術(肥満手術)を検討することが新たに推奨されました 。これは従来にはなかった踏み込んだ内容で、体重そのものの管理があらゆる糖尿病患者の予後改善に重要である証拠と言えます。

さらに、生活習慣(食事・運動)の役割も引き続き強調されています。例えば地中海食や低炭水化物食など、2型糖尿病の予防にエビデンスのある食パターンが紹介され 、減量中は十分な栄養を摂れているか定期的に確認すること、運動も併用して筋肉量の維持と代謝改善を図ることが推奨されています 。英国のNHSでも、800kcal程度の低カロリーダイエットによる減量プログラムを通じて約半数の参加者が糖尿病寛解を達成したという報告があり 、食事療法・減量療法の重要性を裏付けています。実際、NHSは2型糖尿病患者さま向けに「減量による寛解プログラム」を各地で提供し始めています 。このように、「減量こそ最良の糖尿病治療」という考え方が広がっており、最新ガイドラインもそれを反映しています。

■ポイント: 効果的な体重管理のアプローチ

栄養バランスの良い食事療法極端な食事制限ではなく、野菜・高タンパク・適切な炭水化物を含む健康的な食事を心がけましょう(必要なら管理栄養士の指導を受けます)。減量を通じて糖尿病が寛解する可能性もあります。
適度な運動習慣週150分程度の有酸素運動や筋トレを継続することで、血糖の改善と体重維持に役立ちます。運動は筋肉による糖消費を促し、インスリン抵抗性を改善します。
新しい減量治療の活用医師と相談の上で、必要に応じGLP-1受容体作動薬などの体重を減らす効果がある薬を併用したり、BMIが非常に高い場合は減量手術(胃縮小術など)を検討したりします 。これらは従来の方法で減量が難しい場合に有効です。

血糖コントロール(最新の血糖管理)

血糖コントロール自体も依然として糖尿病治療の要ですが、その手段や目標がより個別化・先進化しています。ADA2026では、最新の糖尿病テクノロジー(デバイス)を積極的に活用する方針が示されています。たとえば持続血糖モニタリング(CGM)と呼ばれる機器は、皮下に装着したセンサーで24時間血糖値を測定できるものです。新ガイドラインでは、インスリン治療中でなくても血糖管理に有用と考えられる人には、糖尿病発症時からCGMの利用を推奨しています 。これまでCGMは主に1型糖尿病や重症低血糖リスクの高い方に使われてきましたが、研究の蓄積により2型糖尿病の方でもCGMによって血糖コントロールが改善し得ることがわかってきたためです 。実際、CGMを使うと食事や運動による血糖の変動が「見える化」されるので、ご自身で生活習慣を調整しやすくなります。また、インスリンポンプや人工膵臓(自動インスリン調節システム)の利用条件も緩和され、必要な人が早期から先進的なデバイスを使えるようにガイドラインが改訂されています 。これらは患者さんのQOL(生活の質)向上にもつながる変化です。

血糖コントロールの目標値は個々の状況によって異なりますが、一般的にはHbA1cを7%未満に保つことが推奨されます。ただし高齢の方や合併症を持つ方では低血糖を避けるため目標を緩和する場合があります。2026年版では高リスク患者で血圧目標を厳格化する一方、高齢者では血圧管理目標をやや緩和するなど、血糖以外の指標も含め全般に「個別化」がキーワードです 。血糖管理については、新たにがん治療中の患者や臓器移植後の患者に対する血糖目標・治療法のガイダンスも加わりました 。これらは特殊な状況下でも高血糖による悪影響を最小限にとどめるための配慮です。

さらに、ガイドラインには、生活習慣改善と薬物療法の両輪で血糖を管理する重要性が引き続き示されています。例えば、食事療法では単に糖質制限をするのではなく栄養バランスに注意すること、運動では有酸素運動とレジスタンス運動(筋トレ)の両方を取り入れることなどが推奨されています  。また、「糖尿病教育(DSMES)の積極的な活用」や「患者さん個人の文化・価値観に応じた行動変容支援」の重要性も明記されました  。血糖値は日々の自己管理に大きく左右されるため、医療チームと患者さんの協働が欠かせません。

■ポイント: 血糖コントロールのための工夫

先端デバイスの利用必要に応じてCGM(持続血糖モニター)を装着し、自分の血糖変動パターンを把握しましょう。ADAは糖尿病と診断された段階からのCGM活用を推奨しています 。またインスリンポンプやスマホ連携の記録アプリなども積極的に活用します。
低血糖の回避血糖を下げることばかりに集中せず、低血糖を起こさないことも大事です。特に高齢の方や治療歴が長い方では、HbA1c目標を厳しすぎず適切に設定し、低血糖時の対処法も身につけましょう。
定期的なモニタリングHbA1c検査や自己血糖測定を定期的に行い、治療効果をチェックします。NHSでは3〜6か月ごとのHbA1c検査や年1回の合併症検査(眼底検査や腎機能検査)を推奨しています 。これにより問題を早期発見し、治療を調整できます。

脂肪肝(MASLD/MASH)への介入

糖尿病患者さんに非常に頻繁に合併する脂肪肝にも、2026年ガイドラインは言及しています。従来「非アルコール性脂肪肝疾患 (NAFLD)」「非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH)」と呼ばれていた状態は、近年MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)およびMASH(代謝機能障害関連脂肪性肝炎)という新しい名称に改められました 。これはアルコールが原因ではなく、肥満や2型糖尿病など代謝異常が原因で肝臓に脂肪が蓄積し、炎症や線維化を起こす病態です。MASLD(旧NAFLD)は非常に一般的な疾患で、2型糖尿病患者さんの約60〜70%がこの脂肪肝を持つとも言われます 。放置すると肝硬変や肝がんに進展するリスクがあり、さらには心血管疾患や特定の癌(大腸癌、乳癌など)の発症リスクも高めることが分かっています 。実際、MASLDを持つ人では、がんと心血管疾患が最も重大な死因となっています 。

ADA2025/2026ガイドラインでは、このMASLD/MASHへの対策としていくつかのポイントが追加・更新されました。第一に、糖尿病患者の脂肪肝に対する用語統一と注意喚起です。カルテ上でもNAFLDではなくMASLDと記載されるようになり、治療アルゴリズム上でも「MASLDの存在」が薬剤選択に影響する因子として追加されました 。第二に、肝臓の線維化リスクの評価が推奨されています。例えば簡便なFibrosis-4指数(AST・ALT・血小板・年齢から計算)やエラストグラフィー(肝臓の硬さを測る超音波検査)で繊維化の程度を評価し、重度の場合は肝専門医に紹介することが推奨されています 。第三に、MASLDを合併する糖尿病患者の治療では、肝臓に有益な作用を持つ薬剤を優先する方針が打ち出されました。具体的には、「MASHに有効性が示されたGLP-1受容体作動薬を糖尿病の治療薬として第一選択にする」「MASH改善効果の期待できるピオグリタゾン(糖尿病薬の一種)やGIP/GLP-1二重作動薬(※新しい注射薬、商品名マウンジャロなど)を検討する」といった勧告です。研究段階ですが、セマグルチド(GLP-1作動薬)やレスメチロム(甲状腺ホルモン受容体β作動薬)といった薬がMASHの肝臓病変を改善する可能性が示されており 、FDA(米国食品医薬品局)もセマグルチドをMASH治療目的で条件付き承認しています 。こうした最新知見を踏まえ、ADAガイドラインには「2型糖尿病+MASLD患者では体重減少計画(食事・運動)を提供し、必要に応じ肝臓に有益な薬剤を選択する」旨が明記されました 。

患者さんにとって重要なのは、脂肪肝は糖尿病と密接に関連しているが適切な対策で改善可能という点です。まず基本は減量と生活習慣改善です。5〜10%の体重減少で肝臓の脂肪が大きく減り、炎症や線維化の進行を止められる可能性があります 。実際、MASLDの第一選択治療は食事療法(低カロリー・低糖質で高栄養の食事)、運動、アルコールを控えること、そして糖尿病・高血圧・脂質異常症など併存する代謝異常をしっかりコントロールすることです 。それでも改善しない高度肥満の方には減量手術(例えば胃バイパス手術)も選択肢となります 。薬物療法に関して言えば、現時点で脂肪肝そのものを治療する確立された薬はありませんが、糖尿病治療薬の中には肝臓にも良い効果をもたらすものがあると考えられています 。前述のGLP-1作動薬やチアゾリジン薬(ピオグリタゾン)はその代表で、肥満や糖尿病の改善を通じて肝臓の脂肪も減らす効果が期待できます 。新ガイドラインがMASLD/MASHに光を当てたことで、糖尿病診療の中で肝臓のチェックとケアも標準となりつつあると言えるでしょう。

■ポイント: 脂肪肝(MASLD)と糖尿病への対処

まずは減量と生活習慣改善脂肪肝の改善には体重減少が不可欠です。カロリー制限食・糖質制限食を医師や栄養士と相談して取り入れ、運動も継続しましょう(例:有酸素運動+筋トレを週3回以上)。5〜10%の減量を目標にします 。
定期的な肝機能・肝臓の評価糖尿病の定期受診時に肝機能検査(AST/ALTやエコー検査)を受け、脂肪肝の進行度をチェックします。必要に応じFibrosis-4指数や専門医紹介を検討します。早期発見・対処が肝硬変への進行を防ぎます。
肝臓に配慮した治療主治医が糖尿病薬を選ぶ際、脂肪肝にも良い影響が期待できる薬(GLP-1受容体作動薬やピオグリタゾンなど)を考慮する場合があります。処方された場合は指示通り内服・注射し、定期検査で効果を確認しましょう。

以上、ADA2026年版ガイドラインの主要テーマである「心臓・腎臓」「体重」「血糖」「肝臓」の4分野について解説しました。これらの変更点はいずれも最新のエビデンスに基づいており、患者さんの将来の健康を守るためのアップデートです。糖尿病治療は年々進歩しており、「血糖値を下げる」ことから「合併症を予防し健康寿命を延ばす」ことへとゴールが広がっています。わかりにくい点は主治医や医療スタッフにぜひ質問し、最新の知見を治療に取り入れていきましょう。

■よくある質問(FAQ)

Q1.GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬はどう違うのですか?

どちらも糖尿病の新しい薬ですが、作用の仕方と得られる効果に違いがあります。GLP-1受容体作動薬は週1回程度の注射薬で、体内のホルモンGLP-1の作用を真似てインスリン分泌を増やし食欲を抑えることで血糖を下げます。その結果、体重減少効果も高く、心筋梗塞や脳卒中など動脈硬化による心血管イベントのリスクを減らすことが確認されています 。一方、SGLT2阻害薬は飲み薬で、腎臓での糖の再吸収を阻害し尿中に糖を出すことで血糖を下げます。利尿作用もあるため体の余分な水分を減らし、心不全の悪化や腎臓病の進行を抑える効果に優れています 。まとめると、GLP-1作動薬は体重減少・心筋梗塞予防に強みがあり、SGLT2阻害薬は心不全・腎症悪化予防に強みがあります。医師は患者さんの病態(例えば肥満の程度や心臓・腎臓の合併症)に応じてこれらを使い分けたり併用したりします。

Q2.食事療法や減量で糖尿病は「治る」のでしょうか?

近年、適切な食事療法と大幅な減量によって2型糖尿病が寛解(事実上治った状態)になるケースが報告されています 。特に発症から間もない患者さんでは、体重をしっかり減らすことで膵臓の働きが改善し、血糖値が正常化して薬が不要になることがあります。この状態を医学的には「寛解」と呼び、完全な治癒とは言えませんが糖尿病でない人と同じ血糖コントロールを維持できる状態です。イギリスの大規模研究では、低カロリー食による集中的な減量プログラムで約半数の参加者が糖尿病を寛解させました 。NHS(英国保健サービス)もこれを受けて「2型糖尿病 寛解プログラム」を導入し、12週間の非常に厳しい低エネルギー食とその後の食事指導で多くの方が体重を平均10〜15kg減らしています 。ただし、誰もが食事だけで治るわけではありません。減量が成功しても膵臓の能力が低下している場合や長年糖尿病が続いた場合には寛解は難しいです。また寛解した後も油断すると血糖が再度上がるので、継続的な食事・運動管理が必要です 。要は、「糖尿病は適切な食事・減量で良くなる可能性がある」が「完全に治ったと思って元の生活に戻ると再発し得る」ということです。主治医と相談し、安全な範囲で減量に取り組みましょう。

Q3.心臓病もある糖尿病患者にはどんな治療が最適ですか?

糖尿病に加えて心臓の病気(例:狭心症、心筋梗塞、心不全など)がある場合、心臓を守る効果が証明された治療を組み入れることが非常に重要です。具体的には、前述したSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の使用が強く推奨されます。研究により、これらの薬は単に血糖を下げるだけでなく心臓発作や心不全による入院を減らし、心臓病による死亡率も下げることが分かっています 。例えば心不全のある患者さんにはSGLT2阻害薬が標準的に使われるようになりましたし、動脈硬化が進んだ患者さんにはGLP-1作動薬で心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中)の予防を図ります 。また、血圧やコレステロールの管理も一層大切です。新しいADAガイドラインでは心血管リスクの高い糖尿病患者に対し、より厳しい血圧目標(例えば収縮期130mmHg未満など)を設定するよう推奨しています 。これは血圧をしっかり下げることで脳卒中や心不全のリスクを減らせるためです。要するに、心臓病を合併する糖尿病では「血糖+血圧+脂質+心保護薬」で総合的に心臓を守る治療が最善と言えます。最新の英国NICEの方針でも「画一的治療から個別化治療へ」という流れで、心疾患のある方には初期治療から複数の薬を組み合わせて将来の心臓発作予防に努めるべきだとされています 。ご自身に最適な治療計画については主治医とじっくり相談しましょう。

Q4.糖尿病と言われましたが「脂肪肝がある」とも指摘されました。どうすればいいですか?

糖尿病の方では脂肪肝(MASLD)を併せ持つことがとても多いです。脂肪肝自体は自覚症状がなく見過ごされがちですが、放置すると肝硬変や肝臓がんに進展する可能性があるため注意が必要です 。まず対策の第一は体重減少と血糖コントロールです。5〜10%の減量で肝臓の脂肪が減り炎症も改善することが期待できますし 、血糖値やコレステロールを正常化することで肝臓への負担も軽減できます 。具体的には、カロリー制限や糖質制限などの食事療法、定期的な運動、禁酒が肝臓には有効です 。加えて、糖尿病の薬も主治医が工夫してくれるでしょう。例えばGLP-1受容体作動薬やピオグリタゾンという薬は、一部の研究で脂肪肝の炎症や線維化を改善する効果が報告されています 。ADAの新ガイドラインでも、脂肪肝のある糖尿病患者さんにはこうした薬剤を血糖管理の面から優先的に使うことが提案されています。現時点で脂肪肝専用の特効薬はありませんが、生活習慣の徹底と糖尿病治療の最適化で多くの場合、脂肪肝の悪化を防ぎ改善させることが可能です。定期的に肝機能の採血や腹部エコー検査を受け、主治医と相談しながら対策を続けましょう。必要なら肝臓専門の医師を紹介してもらうこともできます。早めの対応が将来の肝硬変や肝がんを防ぐ鍵です。

Q5.持続血糖モニター(CGM)は使った方が良いのでしょうか?

CGM(Continuous Glucose Monitor)は、腕や腹部に装着して昼夜を通して血糖を測定できる機器です。毎日指先から採血しなくてもよく、5分~15分ごとに血糖値の変動を記録してくれます。ADAは2026年ガイドラインで、糖尿病と診断された時点からでも必要な人にはCGMを検討するよう推奨しました 。例えば血糖のアップダウンが激しい方、低血糖に気づきにくい方、あるいは生活パターンに合わせて柔軟に治療調整したい方にはCGMが有用です。CGMを使うとスマホなどでリアルタイムに血糖値を確認でき、食事や運動、インスリン量の調節がデータに基づいて的確に行えるメリットがあります。研究でも、CGMを導入することでHbA1c(過去約3か月の平均血糖)が改善したり低血糖発生が減ったりすることが示されています 。特にインスリン治療中の方には恩恵が大きいですが、それ以外の2型糖尿病の方でも早期から使えば将来的な合併症予防に繋がると期待されています 。ただしデバイスですので装着の手間や費用の問題もあります。日本ではまだ保険適用に制限がありますが、関心があれば主治医に相談してみましょう。自分の血糖の「クセ」を知ることは、糖尿病管理の第一歩です。CGMはその強力なサポーターになり得ます。

Q6.新しい「痩せる注射薬」(GLP-1受容体作動薬など)は糖尿病にも効果がありますか?

はい、GLP-1受容体作動薬のような新しい注射薬は本来糖尿病治療薬ですが、体重を減らす効果が非常に高いため「痩せる注射」として話題になっています。糖尿病がない肥満の方にも使われるほどで、その効果は周知の通りです 。糖尿病の患者さんにとっても、これらの薬剤は一石二鳥の効果があります。まず血糖値を下げる作用がありますし、さらに体重も減ることでインスリン抵抗性が改善して糖尿病自体が良くなります。実際、GLP-1作動薬を使うと食欲が抑えられて摂取カロリーが減り、多くの方が数か月で体重の5〜10%減量に成功します 。加えて、心臓や腎臓への良い影響(心筋梗塞や腎症の予防)も確認されています 。注意点としては、注射に伴う副作用(吐き気や胃もたれ等)や高価である点ですが、近年は徐々に保険診療でも使えるようになってきました。ADAガイドラインでも、肥満を合併する糖尿病患者にはGLP-1作動薬などの抗肥満薬を個々に応じた適切な用量で使うようにとの記載があります 。つまり効果と副作用のバランスを見ながら、少量から漸増していくなど工夫するという意味です 。総じて、新しい痩せる薬は糖尿病治療において「体重も血糖も同時にコントロールできる画期的な治療」と言えます。ただ、薬に頼るだけでなく食事・運動習慣も並行して整えることが大切です。

参考文献

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  • NHS (2025). Treatment for type 2 diabetes  . National Health Service (UK) patient information, last reviewed Feb 2025.

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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