病気と健康の話

【検診】タバコを吸わないのに肺がん?非喫煙者の肺がんリスクが増加している理由

■最新の国際研究から読み解く非喫煙者肺がんの実態

肺がんは世界中でがんによる死亡原因の第1位であり、その大部分は喫煙と関連していると考えられてきました。しかし、近年の疫学研究により、喫煙歴のない人々、いわゆる「非喫煙者」における肺がんの発症が増加傾向にあることが明らかになってきています。2024年から2025年にかけて発表された最新の国際研究によると、非喫煙者の肺がんは今や単独で世界第7位のがん死亡原因となっており、独自の生物学的特徴を持つ疾患として認識されるようになっています。

本稿では、最新の医学論文に基づき、非喫煙者における肺がんリスクの増加について、その要因、メカニズム、臨床的特徴、そして予防・早期発見の可能性について詳しく解説します。

1.非喫煙者肺がんの疫学的動向

近年の疫学研究は、非喫煙者における肺がんの発症率が相対的に増加していることを示しています。2024年に発表されたNature Reviews Clinical Oncologyの総説によると、米国では肺がん全体の約10〜15%、世界的には最大25%が非喫煙者に発症しています。さらに注目すべきは、この割合が経年的に増加傾向にあることです。

2023年から2024年にかけての複数の研究が示すように、先進国における喫煙率の低下にもかかわらず、非喫煙者における肺がんの絶対発症数は増加していると報告されています。特に女性やアジアの集団において、非喫煙者肺がんの発症率が高いことが知られています。Trends in Cancerの2026年の論文では、非喫煙女性の肺がん発症リスクは、非喫煙男性の2倍以上であることが報告されています。この性差の背景には、ホルモン要因、遺伝的素因、環境曝露の違いなど、複数の要因が関与していると考えられています。

また、地理的な分布にも特徴があります。東アジア、特に中国、台湾、韓国、日本などでは、非喫煙者肺がんの発症率が他の地域と比較して高いことが複数の研究で示されています。これには、大気汚染、屋内調理による煙への曝露、遺伝的背景などが関与していると考えられています。台湾で実施された大規模前向きコホート研究TALENT(Taiwan Lung Cancer Screening in Never-Smoker Trial)では、非喫煙者でも家族歴がある場合、肺がんリスクが有意に上昇することが示されています。

■2.肺疾患歴と非喫煙者肺がんリスクの関連性

2026年にChest誌に発表されたメタアナリシス研究(Swami N et al.)は、非喫煙者における過去の肺疾患と肺がん発症リスクの関連について重要な知見を提供しています。この研究では、喫煙歴のない成人を対象とした20件のケースコントロール研究と5件のコホート研究を包括的に解析しました。

2.1 結核と肺がんリスク

メタ分析の結果、結核の既往は非喫煙者における肺がんリスクを有意に上昇させることが示されました。ケースコントロール研究のプール解析では、結核既往者の肺がん発症オッズ比は1.76(95%信頼区間:1.47-2.11)でした。この関連性は、研究間のばらつき(ヘテロジェネイティ)が小さく、結果の一貫性が高いことが特徴です。

コホート研究においても、結核既往者では肺がんリスクが上昇する傾向が認められ(ハザード比:1.64)、統計学的有意性には僅かに届かなかったものの、重要な臨床的意義があると考えられます。結核感染後の慢性炎症、肺組織の線維化、免疫系の調節異常などが、発がんメカニズムに関与している可能性が指摘されています。特に、結核治療後も持続する慢性炎症が、DNA損傷の蓄積や細胞の悪性転換を促進する可能性が考えられます。

2.2 慢性気管支炎と肺がんリスク

慢性気管支炎の既往も、非喫煙者における肺がんリスク上昇と関連していました。オッズ比は1.36(95%信頼区間:1.07-1.72)で、統計学的に有意な関連が認められました。この関連も研究間のばらつきが小さく、結果の信頼性が高いことが示されています。

慢性気管支炎は、気道の持続的な炎症を特徴とする疾患です。長期にわたる炎症は、気道上皮細胞のDNA損傷を引き起こし、がん抑制遺伝子の不活化や癌遺伝子の活性化につながる可能性があります。また、炎症細胞から放出される活性酸素種(ROS)やサイトカインが、発がんプロセスを促進することも考えられます。臨床的には、慢性気管支炎の既往がある非喫煙者は、肺がんの高リスク群として認識し、適切なスクリーニングや予防的介入を検討する必要があります。

2.3 喘息と肺がんリスク

喘息の既往については、肺がんリスクの数値的な上昇(オッズ比:1.34)が認められたものの、統計学的有意性には達しませんでした。さらに、研究間のばらつきが中等度であり、結果の解釈には慎重さが必要です。喘息と肺がんの関連については、さらなる大規模研究が必要とされています。

しかし、喘息患者における慢性炎症、気道リモデリング、長期的なステロイド使用などが、理論的には発がんリスクに影響を与える可能性があるため、今後の研究動向に注目が必要です。特に、重症喘息患者や長期間にわたり炎症が持続している患者においては、潜在的なリスクとして認識しておくことが重要でしょう。

■3. 非喫煙者肺がんの分子生物学的特徴

Trends in Cancer 2026年の包括的レビュー(Caswell DR et al.)は、非喫煙者肺がんの分子生物学的特徴について詳細に解説しています。この研究により、非喫煙者肺がんは喫煙者肺がんとは異なる独自の生物学的特性を持つことが明らかになりました。

3.1 ドライバー変異の高頻度

非喫煙者肺がんの最も顕著な特徴の一つは、治療標的となるドライバー変異の頻度が非常に高いことです。複数の研究により、非喫煙者肺がんの78〜92%が何らかのアクショナブル(治療可能な)ドライバー変異を有していることが示されています。これに対し、喫煙者肺がんでは約49.5%にとどまります。

最も頻度の高いドライバー変異はEGFR(上皮成長因子受容体)変異で、非喫煙者肺がんの約40〜60%に認められます。特に、アジア人女性の非喫煙者では、この頻度がさらに高くなります。EGFR変異陽性肺がんに対しては、オシメルチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブなどのEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が著効を示し、従来の化学療法と比較して無増悪生存期間を大幅に延長することが複数の第III相試験で証明されています。

その他の重要なドライバー変異として、ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)融合遺伝子(約5%)、ROS1融合遺伝子(約2%)、KRAS変異、HER2変異、BRAF変異、MET exon 14 skipping変異、RET融合遺伝子、NTRK融合遺伝子などが挙げられます。これらの変異に対しても、それぞれ特異的な分子標的薬が開発されており、精密医療の実現に大きく貢献しています。

3.2 腫瘍変異負荷の特徴

非喫煙者肺がんは、喫煙者肺がんと比較して腫瘍変異負荷(TMB: Tumor Mutational Burden)が著しく低いことが特徴です。非喫煙者肺がんのTMBは1.25〜1.96変異/メガベースであるのに対し、喫煙者肺がんでは9.1〜10.83変異/メガベースと、約5〜8倍の差があります。

この低いTMBは、免疫チェックポイント阻害薬の効果と密接に関連しています。一般的に、TMBが高い腫瘍ほど、より多くのネオ抗原(新生抗原)を発現し、免疫系に認識されやすくなるため、免疫チェックポイント阻害薬の効果が高いとされています。実際、複数のメタアナリシスにより、非喫煙者肺がん患者における免疫チェックポイント阻害薬の効果は、喫煙者と比較して限定的であることが示されています。非喫煙者における免疫チェックポイント阻害薬の全生存期間に対する効果は、ハザード比0.87(95%信頼区間:0.74-1.04)と統計学的有意性に達していません。

3.3 変異シグネチャーの違い

2025年にNature誌に発表されたSherlock-Lung研究(Díaz-Gay M et al.)は、非喫煙者肺がんの変異シグネチャーについて画期的な知見を提供しました。この研究では、世界28カ所から収集された871例の非喫煙者肺がん患者の腫瘍を全ゲノム解析し、変異パターンを詳細に分析しました。

非喫煙者肺がんでは、SBS40aと呼ばれる変異シグネチャーが優位であることが明らかになりました。これに対し、喫煙者肺がんではSBS4シグネチャー(タバコ関連変異)が優位です。興味深いことに、非喫煙者肺がんの一部では、喫煙関連変異シグネチャー(SBS4)やAPOBEC関連シグネチャー(SBS2、SBS13)も認められました。特に、受動喫煙への曝露がある非喫煙者では、サブクローナル(亜集団的)なAPOBEC関連シグネチャーの増加が観察されています。

さらに、放射線曝露に関連する変異シグネチャーの解析から、EGFRのindelドライバー変異(特にexon 19欠失)の87%が、放射線曝露関連の変異シグネチャーの文脈で生じていることが示されました。これは、診断用画像検査などによる医療被曝が、非喫煙者肺がんの発症に一部寄与している可能性を示唆しています。

■4. 環境要因と非喫煙者肺がんリスク

4.1 大気汚染(PM2.5)の影響

微小粒子状物質(PM2.5)による大気汚染は、非喫煙者肺がんの最も重要な環境リスク因子の一つです。2013年、国際がん研究機関(IARC)は、屋外大気汚染とそのPM2.5成分をグループ1発がん物質(ヒトに対する発がん性が確実)に分類しました。2019年のGlobal Burden of Disease研究によると、世界の肺がん死亡の約15%がPM2.5への曝露に起因すると推定されています。

2023年にNature誌に発表された画期的な研究(Hill W et al., Lung adenocarcinoma promotion by air pollutants)は、PM2.5が肺がんを引き起こすメカニズムを解明しました。この研究では、46万3,679人のデータを解析し、PM2.5濃度の上昇が肺がんリスクの増加と関連することを確認しました。PM2.5濃度が1μg/m³増加するごとに、EGFR変異陽性肺がんのハザード比が1.16上昇することが示されています。

さらに重要な発見として、正常肺組織の18〜33%には、すでにEGFRやKRASのドライバー変異が存在していることが明らかになりました。PM2.5への曝露は、これらの変異を持つ細胞を直接的に変異させるのではなく、マクロファージの浸潤とインターロイキン-1β(IL-1β)の放出を促進し、変異細胞の拡大を誘導することで肺がんの発生を促進することが示されました。IL-1βを阻害することで、マウスモデルにおいて肺がんの発生が抑制されることも確認されています。

2024年のIASLC世界肺がん会議で発表された研究(Chen et al.)では、非喫煙女性において、診断前3〜5年間のPM2.5曝露がEGFR変異陽性肺がんのリスクと関連することが示されました。EGFR変異陽性群では、陰性群と比較して、3年間の累積PM2.5曝露量が有意に高かった(19.0 vs 17.3 μg/m³、p=0.031)。この傾向は5年間の累積曝露でも持続しました(33.7 vs 29.5 μg/m³、p=0.024)。興味深いことに、この関連は女性のみで認められ、男性では見られませんでした。また、10年、15年、20年といった長期曝露では関連が認められず、比較的近年の曝露が重要であることが示唆されています。

2025年に発表されたNCI(米国国立がん研究所)のSherlock-Lung研究では、PM2.5曝露と肺がん腫瘍の変異パターンの関連が詳細に解析されました。高PM2.5曝露地域の患者では、全体的なDNA変異負荷の増加、TP53変異の高頻度、テロメア(染色体末端)の短縮が認められました。テロメアの短縮は遺伝的不安定性を増大させ、がん化を促進する可能性があります。

4.2 受動喫煙

受動喫煙(二次喫煙)は、非喫煙者肺がんの重要なリスク因子として確立されています。複数のメタアナリシスにより、受動喫煙への曝露は肺がんリスクを20〜25%上昇させることが示されています。2024年のEuropean Respiratory Reviewに発表されたシステマティックレビュー(Possenti I et al.)では、受動喫煙と非喫煙者肺がんリスクの関連が再確認されています。

興味深いことに、受動喫煙に曝露された非喫煙者肺がん患者のドライバー変異プロファイル(EGFR、ALK、KRAS、HER2、BRAF、PIK3CAなど)は、受動喫煙への曝露がない患者と類似しています。また、ゲノム解析では、受動喫煙曝露群において典型的な喫煙関連変異シグネチャー(SBS4a、SBS4b)の顕著な増加は認められていません。

しかし、2024年のJournal of Thoracic Oncology研究(Mochizuki A et al.)では、受動喫煙に曝露された患者において、腫瘍変異負荷(TMB)のわずかだが統計学的に有意な増加が認められました。この増加は、古典的な喫煙シグネチャーによるものではなく、サブクローナル(亜集団的)なAPOBEC関連シグネチャー(SBS2、SBS13)の増加と関連していました。マウスモデルでの研究でも、タバコ曝露とAPOBEC関連変異シグネチャーの蓄積との相乗効果が示されています。これらの知見は、受動喫煙が非喫煙者肺がんの重要なリスク因子であることを裏付けていますが、単独の原因ではない可能性も示唆しています。

4.3 ラドン曝露

ラドンは、ウラン238の崩壊生成物として生じる放射性ガスで、換気の悪い建物内に蓄積することがあります。2022年のCancers誌のレビュー(Riudavets M et al.)によると、ラドン曝露は肺がんの確立されたリスク因子です。初期の研究は、高濃度のラドンに曝露された鉱山労働者を対象としたもので、累積ラドン曝露量と肺がんリスクの増加との関連が示されました。

ラドン曝露と特定のゲノム変異との関連については、研究結果が一致していません。in vitro研究では、放射線曝露がTP53腫瘍抑制遺伝子の変異と関連することが示されており、ラットでは、ラドン曝露が腫瘍抑制遺伝子を含む染色体領域の欠失を誘導することが報告されています。しかし、ヒト肺がんにおける明確な因果関係の確立には、さらなる研究が必要です。現時点では、ラドン曝露による肺がんリスク増加のメカニズムが完全には解明されていないため、モニタリングと曝露の低減が最も効果的な予防策とされています。

4.4 屋内大気汚染

屋内大気汚染、特に調理や暖房のための固形燃料(木材、石炭、バイオマス)の燃焼による汚染は、非喫煙者肺がんの重要なリスク因子です。Global Burden of Disease 2019研究では、世界の肺がん死亡の約4%が家庭用固形燃料による屋内大気汚染に起因すると推定されています。

木材の煙には多くの発がん性物質が含まれており、健康への悪影響が十分に文書化されています。南アジア、東南アジアの一部、アフリカ、中東や南米の一部の都市部では、屋内大気汚染が重要な問題となっていますが、研究は限定的です。屋内外の大気汚染への生涯曝露の総計を評価することは、都市部以外の地域、特にこれらの地域におけるリスク層別化において重要な課題となっています。

■5. 遺伝的素因と非喫煙者肺がん

5.1 EGFR生殖細胞系列変異

2023年にJournal of Clinical Oncologyに発表された前向き研究(Oxnard GR et al.)は、EGFR生殖細胞系列変異が遺伝性肺がん症候群を引き起こすことを明らかにしました。報告されているEGFR生殖細胞系列変異には、R776G、R776H、T790M、V843I、P848Lなどがあり、いずれもEGFRのキナーゼドメインに位置しています。

特に注目されるのはT790M変異で、これは最も頻度の高い生殖細胞系列EGFR変異です。2014年のJournal of Thoracic Oncology研究(Bell DW et al.)によると、T790M生殖細胞系列変異は、非小細胞肺がん症例の約1%、肺がんのない対象者の7,500人に1人未満の頻度で見られます。体細胞性・生殖細胞系列いずれのT790M変異も、主に腺がんであり、女性に多く、時に多発性です。

T790M生殖細胞系列変異を持つ患者の肺がん腫瘍の73%には、二次的な活性化EGFR遺伝子変異(exon 19欠失やL858Rなど)が含まれていました。T790M変異自体は弱い癌遺伝子と考えられており、追加の体細胞性EGFR活性化変異と組み合わさることで、肺がんが発症すると推測されています。

重要な臨床的特徴として、T790M生殖細胞系列変異を持つ非喫煙者の肺がん発症リスクは約31%と推定されています。興味深いことに、このリスクは喫煙者では低い可能性があります。T790M生殖細胞系列変異を持つ患者は、非常に若い年齢から肺がんを発症するリスクがあり(最年少27歳)、60歳までに50%以上が肺がんと診断されます。このため、このような変異保有者に対する積極的なサーベイランスや予防的介入の検討が必要とされています。

5.2 APOBEC3A/B遺伝子多型

APOBEC3遺伝子ファミリーのシチジンデアミナーゼは、通常はウイルスに対する防御機構として機能しますが、宿主ゲノムにも変異を引き起こす可能性があります。APOBEC3遺伝子は、ヒトがん全体の最大70%において、DNA損傷や変異シグネチャーと関連しています。

APOBEC3A/B生殖細胞系列欠失多型は、肺がんリスクの上昇と関連しています。中国南部の集団を対象とした研究では、年齢、性別、喫煙歴を調整した後でも、APOBEC3A/B生殖細胞系列欠失は非小細胞肺がんのリスクを2.7倍上昇させることが示されました。ノルウェーの集団を対象とした別の研究では、APOBEC3A/B生殖細胞系列欠失多型は、肺がんおよび前立腺がんの診断年齢の若年化と関連しており、リスクが2.2倍上昇していました。

この遺伝子多型の影響は集団依存的です。東アジア集団(APOBEC3A/B欠失の有病率37%)では、非小細胞肺がん症例の約15%がAPOBEC3A/B生殖細胞系列欠失に起因すると推定されています。ネイティブアメリカン集団では、この欠失の有病率がさらに高く(57.7%)、非小細胞肺がん症例の約30%が潜在的にAPOBEC3A/B生殖細胞系列欠失に起因すると推定されています。

APOBEC3A/B生殖細胞系列欠失多型のスクリーニングは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用するため、簡便かつ低コストです。このため、ハイリスク集団における肺がんリスク評価への応用が期待されています。

5.3 クローン性造血(CHIP)

クローン性造血(CHIP: Clonal Hematopoiesis of Indeterminate Potential)は、造血幹細胞のDNAに体細胞変異が生じ、その変異を持つ細胞が拡大する現象です。2023年のJournal of Clinical Oncology研究(Tian R et al.)により、CHIPを有する人は、喫煙状態とは無関係に肺がんリスクが上昇することが示されました。

高い変異アレル頻度(≥0.1)を持つCHIP保有者は、肺がんリスクが有意に上昇します。肺がんリスク上昇と有意に関連するCHIP変異には、最も頻繁に変異するCHIP遺伝子であるDNMT3A、TET2、ASXL1が含まれます。

CHIPによる肺がんリスク上昇のメカニズムは複雑です。研究により、炎症プロセスの増加が関与していることが示されています。マクロファージは、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、IL-1β、IL-16などのサイトカインやケモカインの分泌増加を示します。マウスモデルでは、IL-1βを阻害することで肺がんが減少することが示されており、IL-1β標的モノクローナル抗体で治療された患者では肺がん発症率の低下が観察されています。

2025年のNew England Journal of Medicine研究(Pich O et al.)では、腫瘍浸潤クローン性造血が肺がん進行のリスクを高め、腫瘍免疫回避と成長を促進することが示されました。これは、加齢関連のクローン性造血ががんの進化を促進することを裏付けています。現在のところ、がん患者やハイリスク者に対するCHIPスクリーニングの標準ガイドラインは確立されていませんが、将来的には重要なリスク評価ツールとなる可能性があります。

■6. 早期発見とスクリーニングの課題

肺がんの早期発見は、患者の死亡率に大きな影響を与えます。米国のNational Lung Screening Trial(NLST)では、低線量CT(LDCT)を用いたスクリーニングにより、ハイリスク者における肺がん特異的死亡率が20%低下することが示されました。しかし、このスクリーニング対象は、55〜74歳で30pack-years以上の喫煙歴を持つ人に限定されていました。

非喫煙者は、この従来のハイリスク基準に該当しないため、肺がんスクリーニングの対象外とされてきました。その結果、非喫煙者肺がん患者の多くは、症状が非特異的であり、ハイリスクプロファイル(喫煙者など)に該当しないため、診断が遅れる傾向があります。実際、非喫煙者肺がん患者の約60%が、ステージIIIまたはIVで診断され、40%がステージIVで診断されるという報告があります。

6.1 非喫煙者に対するスクリーニングの試み

2024年のLancet Respiratory Medicine研究(Chang GC et al.)で報告されたTALENT試験(Taiwan Lung Cancer Screening in Never-Smoker Trial)は、非喫煙者における肺がんスクリーニングの有効性を検証した重要な研究です。この研究により、非喫煙者でも第一度近親者に肺がんの家族歴がある場合、肺がんリスクが上昇することが明らかになりました。

この知見に基づき、台湾の国家スクリーニングプログラムでは、肺がんの家族歴を持つ非喫煙者も対象に含まれるようになりました。男性では1.2%、女性では1.8%の検出率が報告されています。また、2023年のJournal of Thoracic Oncologyのシステマティックレビューとメタアナリシス(Triphuridet N et al.)では、アジアの非喫煙女性におけるLDCTスクリーニングの肺がん検出効果は、アジアの喫煙経験のある男性と同等であることが示されました。

米国では、New York Female Asian Nonsmoker Screening Study(ニューヨーク女性アジア人非喫煙者スクリーニング研究)が進行中です。この試験の予備データでは、LDCTスクリーニングがこの患者集団において実施可能であり、浸潤性腺がんの検出率がNLSTよりも高いことが示されています。これらのデータは、肺がんの家族歴を持つ集団がLDCTスクリーニングから利益を得る可能性があることを支持しています。

6.2 リスク層別化の必要性

2024年のAnnals of Oncology研究(Planchard D et al.)では、非喫煙者に対する肺がんスクリーニングの拡大には、適切なリスク層別化モデルの開発が不可欠であることが強調されています。現在のリスク予測モデルは、非喫煙者集団に対して不十分です。家族歴、受動喫煙、職業的・環境的曝露、遺伝的素因などの要因を組み込んだツールの開発と、これらのモデルの妥当性確認および費用対効果の評価が必要とされています。

2023年の研究(Toumazis I et al.)では、リスクベースの肺がんスクリーニングのマイクロシミュレーションモデル分析が報告されています。この分析によると、ハイリスクと同定された場合、非喫煙者でも喫煙歴のある人と同様にスクリーニングから潜在的に利益を得る可能性があることが示されています。

ハイリスク集団を対象とした場合、LDCTスクリーニングは費用対効果が高い可能性があることが、最近の分析で示唆されています。しかし、非喫煙者集団における全体的な生存率向上に関するエビデンスは、依然として限定的です。非喫煙者集団におけるLDCTの生存率および医療経済学的利益を評価するランダム化試験は、現在のところ実施されていません。

■7. 治療と予防のアプローチ

7.1 分子標的療法

非喫煙者肺がんの最も顕著な特徴の一つは、治療可能なドライバー変異の頻度が非常に高いことであり、これにより分子標的療法の大きな恩恵を受けることができます。2025年のCurrent Oncology誌のレビューによると、EGFR変異陽性肺がんに対する分子標的療法は、近年著しい進歩を遂げています。

EGFR変異陽性肺がんに対する第三世代EGFR-TKIであるオシメルチニブは、第一世代・第二世代TKIと比較して優れた効果を示しています。2024年のJournal of Clinical Oncology研究(Herbst RS et al.)で報告されたADAURA試験の更新結果では、切除可能なEGFR変異陽性ステージIB-IIIA非小細胞肺がんに対する術後補助療法としてのオシメルチニブが、無病生存期間を大幅に延長することが示されました。

さらに、2024年から2025年にかけて報告された複数の研究では、術前補助療法(ネオアジュバント療法)としてのオシメルチニブの有効性も検証されています。2025年のJournal of Clinical Oncology研究(He J et al.)では、切除可能なEGFR変異陽性非小細胞肺がんに対するネオアジュバントオシメルチニブの第III相ランダム化試験の結果が報告されました。オシメルチニブ単独またはオシメルチニブ+化学療法は、化学療法単独と比較して、主要病理学的奏効(MPR)率を統計学的に有意に改善しました。オシメルチニブ+化学療法群の4%、オシメルチニブ単独群の9%が病理学的完全奏効(pCR)を達成したのに対し、化学療法単独群ではpCRは観察されませんでした。

ALK融合遺伝子陽性肺がんに対しても、分子標的療法の進歩が著しいです。2024年のNew England Journal of Medicine研究(Wu YL et al.)で報告されたALINA試験では、切除可能なALK陽性非小細胞肺がんに対する術後補助療法として、アレクチニブが化学療法と比較されました。2年無病生存率は、アレクチニブ群で93.6%、化学療法群で63.7%であり、ハザード比は0.24でした。アレクチニブは、中枢神経系転移の減少とも関連していました。

7.2 免疫療法の役割

免疫チェックポイント阻害薬は、喫煙者肺がんにおいては革命的な治療法となりましたが、非喫煙者肺がんにおける効果は限定的です。2021年のEClinicalMedicine誌のメタアナリシス(Dai L et al.)によると、進行非小細胞肺がんにおける免疫チェックポイント阻害薬の全生存期間に対する効果は、喫煙者では有意(ハザード比0.75、95%信頼区間:0.69-0.81)ですが、非喫煙者では有意ではありません(ハザード比0.87、95%信頼区間:0.74-1.04)。

この効果の違いは、非喫煙者肺がんの腫瘍変異負荷(TMB)が低く、ネオ抗原の発現が少ないことに起因すると考えられています。また、PD-L1高発現(≥50%)の割合も、非喫煙者では13.9%であるのに対し、喫煙者では26.7%と低いことが報告されています。

しかし、ネオアジュバント設定や周術期設定における免疫チェックポイント阻害薬の改善された奏効は、進行期設定と比較して顕著であり、前がん性肺病変を有する患者を含む、より早期の段階での免疫チェックポイント阻害薬の使用への関心が再燃しています。現在、ハイリスクだが確定的でない肺結節を有する患者における肺がん予防戦略として、抗PD-1免疫チェックポイント阻害薬を4サイクル使用する第II相試験が進行中です。

7.3 がんワクチンの可能性

がんワクチンは、非喫煙者肺がんの予防と治療において、有望なアプローチとして注目されています。2024年には、世界初の肺がん予防ワクチンの開発に資金が提供されました。このワクチンは、クローナルネオ抗原を標的として、術後設定またはスクリーニングプログラムの一環として肺がん発症リスクのある個人において免疫応答を誘導することを目的としています。

CIMAvax-EGFペプチドワクチンを用いた肺がん予防の臨床試験も進行中で、2029年に結果が期待されています。前臨床研究では、EGFRおよびALK駆動性肺がんを予防するために設計されたがんワクチンが、肺がんマウスモデルで有効性を示しています。

非喫煙者肺がんに見られる高頻度のアクショナブルな免疫原性ドライバー変異は、ワクチン療法の理想的な候補となる可能性があります。ネオ抗原は体細胞遺伝子変異によって形成され、非自己として認識され、免疫応答を引き起こします。進行腫瘍の複雑性と免疫抑制性により、転移性非小細胞肺がん患者を対象とした複数の試験における初期研究の有効性シグナルは限定的でした。しかし、ハイリスク者や非常に早期切除肺がんにおけるがんワクチンの投与は、より効果的なアプローチである可能性があり、これらのワクチンが示している高い安全性プロファイルを考慮すると、特に重要です。

7.4 抗炎症療法

IL-1β阻害は、肺がん予防の潜在的なアプローチとして注目されています。マウスモデルでは、IL-1βの阻害が肺がんを減少させることが示されています。また、CANTOS試験では、IL-1β標的モノクローナル抗体カナキヌマブで治療された患者において、肺がん発症率の低下が観察されました。

しかし、2025年のJTO Clinical Research Reports研究(Lee JM et al.)で報告されたCANOPY-N試験では、切除可能なステージIB-IIIA非小細胞肺がん患者におけるネオアジュバント療法として、カナキヌマブまたはペムブロリズマブ(単独または併用)の効果が検証されましたが、期待された効果は得られませんでした。これらの矛盾する知見にもかかわらず、抗IL-1β療法は、ハイリスクと分類される個人における肺がん予防のアプローチとなる可能性があります。

■よくある質問(FAQ)

Q1: タバコを吸ったことがないのに、なぜ肺がんになる可能性があるのですか?

肺がんの発症には、喫煙以外にも多くの要因が関与しています。最新の研究では、大気汚染(特にPM2.5)、受動喫煙、ラドン曝露、屋内調理による煙、遺伝的素因、過去の肺疾患(結核や慢性気管支炎など)などが、非喫煙者の肺がんリスクを上昇させることが明らかになっています。特に大気汚染は、Global Burden of Disease 2019研究によると、世界の肺がん死亡の約15%に関与していると推定されています。また、EGFR T790M変異などの遺伝的素因を持つ人は、非喫煙者であっても高いリスクを有します。

Q2: 非喫煙者の肺がんは、喫煙者の肺がんと何が違うのですか?

非喫煙者肺がんと喫煙者肺がんには、いくつかの重要な違いがあります。まず、組織型では、非喫煙者の60〜80%が腺がんであるのに対し、喫煙者では扁平上皮がんの割合が高くなります。分子生物学的には、非喫煙者肺がんの78〜92%が治療可能なドライバー変異(EGFR、ALK、ROS1など)を有するのに対し、喫煙者では約49.5%です。また、腫瘍変異負荷(TMB)は、非喫煙者で1.25〜1.96変異/メガベースと低く、喫煙者の9.1〜10.83変異/メガベースと大きく異なります。この違いにより、非喫煙者肺がんでは分子標的療法の効果が高い一方で、免疫チェックポイント阻害薬の効果は限定的となります。

Q3: 結核の既往があると肺がんリスクが高まるのは本当ですか?

はい、2026年のChest誌に発表されたメタアナリシスによると、結核の既往がある非喫煙者は、既往がない人と比較して肺がん発症リスクが1.76倍高いことが示されています(95%信頼区間:1.47-2.11)。これは統計学的に有意な関連であり、研究間のばらつきも小さく、信頼性の高い結果です。結核感染後の慢性炎症、肺組織の線維化、免疫系の調節異常などが、発がんメカニズムに関与していると考えられています。結核の既往がある方は、定期的な健康診断や必要に応じた肺がんスクリーニングについて、医師に相談することをお勧めします。

Q4: 家族に肺がん患者がいる場合、自分も肺がんになりやすいのでしょうか?

家族歴は肺がんの重要なリスク因子です。2024年のTALENT試験では、非喫煙者でも第一度近親者(親、兄弟姉妹、子供)に肺がんの家族歴がある場合、肺がんリスクが有意に上昇することが示されました。特に、EGFR T790M変異などの遺伝的素因を持つ家系では、非喫煙者でも肺がん発症リスクが約31%に達すると推定されています。家族歴がある場合は、医師と相談して、低線量CTスクリーニングなどの早期発見のための検査や、リスク低減のための生活習慣の見直しを検討することが重要です。台湾では、肺がんの家族歴を持つ非喫煙者も国家スクリーニングプログラムの対象に含まれています。

Q5: 非喫煙者でも肺がん検診を受けるべきですか?

現在、日本を含む多くの国では、肺がん検診は主に喫煙歴のある高リスク者を対象としています。しかし、最新の研究では、特定の高リスク非喫煙者(肺がんの家族歴がある、高PM2.5曝露地域に居住している、結核や慢性気管支炎の既往がある、EGFR生殖細胞系列変異などの遺伝的素因を持つ)は、低線量CTスクリーニングから利益を得る可能性が示唆されています。2024年のシステマティックレビューでは、アジアの非喫煙女性におけるLDCTスクリーニングの効果は、喫煙経験のある男性と同等であることが示されています。リスク因子を持つ非喫煙者の方は、主治医と相談して、個別化されたスクリーニング戦略を検討することをお勧めします。

■まんかいメディカルクリニックでの肺がん検診

まんかいメディカルクリニックでは、胸部レントゲン二次検診や低線量肺がんCT検診を実施しており、呼吸器内科専門医が診断を行っています。非喫煙者の方でも、肺がんの家族歴がある、結核や慢性気管支炎の既往がある、PM2.5曝露地域、などのリスク因子をお持ちの方は、ぜひご相談ください。早期発見により、肺がんの治療成績は大きく改善します。気になる症状がある方、リスク因子をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。

詳しくは、当院のウェブサイトをご覧ください:
https://www.taba-shonika.jp/treat/respiratory-medicine/

参考文献

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記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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