【健診】がん予防は可能? 世界のがんの 4 割は防げる―最新研究が示す今日からできる生活習慣
はじめに ― 「がんは運命」ではない、という朗報
「がんは遺伝や運で決まるもので、どれだけ気をつけても防げないのではないか」――そう感じておられる方は少なくありません。しかし 2026 年 2 月、世界保健機関(WHO)とその専門機関である国際がん研究機関(IARC)が、この考えを大きく塗り替える研究を医学誌 Nature Medicine に発表しました(Fink et al., Nature Medicine 2026)。185 か国・36 種類のがんを解析したこの研究は、2022 年に世界で新たに診断されたがんのおよそ 37%、実に約 710 万件が「予防可能な要因」によるものだったと結論づけています。つまり、世界のがんのおよそ 4 件に1 件から 2 件に 1 件は、生活習慣・ワクチン・感染症対策によって防ぎうるということです。
本コラムでは、この画期的な研究をひもときながら、たばこ・感染・お酒・体重といった「変えられる原因」がどこまでがんに関わっているのか、そして私たち一人ひとりが今日から何をすればよいのかを、最新のエビデンスとともに整理していきます。がんは、けっして手の届かない運命ではありません。
1. 「4 割は防げる」 ― 世界最大規模の解析が示したもの
今回の IARC の解析(Fink et al., Nature Medicine 2026)がこれまでの研究と決定的に違うのは、「死亡」ではなく「新たな診断(罹患)」を対象とし、30 もの予防可能な危険因子を一度に評価した点です。従来の研究の多くは、たばこなら「たばこだけ」というように単一の因子に注目していましたが、今回は喫煙・飲酒・肥満(高 BMI)・運動不足・大気汚染・紫外線に加えて、初めて 9 種類の感染症までを同時に組み込みました。
その結果、世界全体で予防可能とされたがんのうち最も多かったのは肺がん・胃がん・子宮頸がんで、これら 3 つだけで予防可能ながんのほぼ半分を占めました。肺がんは喫煙と大気汚染、胃がんはピロリ菌感染、子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)感染が主な原因です。研究を主導した IARC のソエルヨマタラム博士は、変えられる危険因子への対策こそが、世界のがんの負担を減らす最も強力な機会のひとつだと述べています。
米国に目を向けても同様の結論が得られています。米国がん協会の解析(Islami et al., CA: A Cancer Journal for Clinicians 2024)は、2019 年に米国で診断されたがんの約 40%、死亡の約44%が、喫煙をはじめとする予防可能な要因に起因すると推計しました。国や地域を問わず、「がんのかなりの部分は防ぎうる」という事実は、いまや世界の医学界の共通認識となっています。
2. たばこ ― いまなお最大の、そして最も「取り戻せる」原因
IARC の解析で、単独として最大の予防可能因子とされたのが喫煙です。世界の新規がんの 15%以上(約 330 万件)が喫煙に関連し、とりわけ男性では新規がんの 23%が喫煙によるものと推計されました。肺がんはもちろん、口腔・咽頭・喉頭・食道・膀胱・膵臓など、喫煙は実に多くのがんの原因となります。
重要なのは、「もう長年吸ってきたから今さら遅い」というのが誤解だということです。40万人以上を追跡した大規模研究(Cho et al., NEJM Evidence 2024)では、禁煙による死亡リスク低下の恩恵が禁煙後まもなくから現れ始め、年月とともに大きくなることが示されました。がんと診断されたあとでも、禁煙は予後を改善します。診断後まもなく禁煙した患者では、その後の死亡リスクが有意に低下したという報告もあります。
禁煙は「意志の力」だけの問題ではなく、医学的な治療の対象です。当院では呼吸器内科の 視点から、禁煙のサポートや、喫煙歴のある方の肺の状態を CT で確認することが可能です。何歳からでも、禁煙に「遅すぎる」ということはありません。
3. 感染 ― 初めて全体像が示された「隠れた原因」
今回の研究で最も注目すべきは、9 種類の感染症(ウイルス・細菌・寄生虫)を初めて包括的に評価した点です。感染は世界の新規がんの 10%以上(約 230 万件)に関わり、女性では最大の原因(全がんの約 11.5%)でした。代表的なものが、胃がんを引き起こすピロリ菌、子宮頸がんの原因となる HPV、肝臓がんにつながる B 型・C 型肝炎ウイルスです。これらは「防げる感染」であり、ワクチンや検査・治療で対処できる点が、他の危険因子と大きく異なります。
HPV ワクチンの効果は、もはや疑いようがありません。イングランドの全国データを解析した研究(Sasieni & Falcaro, Lancet 2026)では、12〜13 歳で高い接種率を達成した世代において、2020〜2024 年に 20〜24 歳の子宮頸がん死亡が「ゼロ」になったと報告されました。プログラム全体でおよそ 200 人の子宮頸がん死が防がれたと推計されています。
胃がんの原因であるピロリ菌についても、除菌が予防につながることが大規模試験で確かめられています。中国で行われた地域単位の無作為化比較試験(Pan, Li et al., Nature Medicine2024)では、ピロリ菌の除菌によって胃がんの発症が有意に減少しました。IARC の作業部会も 2026 年、「検査して治療する(screen-and-treat)」戦略を胃がん予防の柱として推奨しています(NEJM 2026)。B 型肝炎ワクチンも同様で、台湾の全国接種プログラムでは、接種世代の肝がん・慢性肝疾患による死亡が接種前世代に比べ大幅に減少したことが示されています (台湾の肝疾患撲滅戦略, J Formos Med Assoc 2025)。当院では、ピロリ菌検査・除菌、肝炎ウイルスの評価、超音波による肝臓のチェックにも対応しています。
4. お酒 ― 「少量なら健康に良い」という神話
IARC の解析で、飲酒は世界の新規がんの 3%以上(約 70 万件)に関わる第 3 の予防可能因子とされました。「適量のお酒は体に良い」という言葉を耳にしたことのある方も多いと思いますが、こと「がん」に関しては、この考えは近年のエビデンスによって明確に否定されつつあります。
2025 年に発表された米国公衆衛生局長官(Surgeon General)の勧告は、アルコールが口腔・咽頭・喉頭・食道・乳房(女性)・大腸・肝臓など少なくとも 7 種類のがんの原因になると明言 しました(U.S. Surgeon General’s Advisory 2025)。医学誌 JAMA のレビュー(Morford et al., JAMA 2025)も、アルコールが分解される過程で生じるアセトアルデヒドが DNA を傷つけることを 主な機序として挙げ、飲酒量が増えるほどがんリスクが高まる「用量反応関係」があること、そして一部のがんでは 1 日 1 杯未満の少量でもリスクが上昇しうることを指摘しています。
つまり、がん予防の観点からは「これ以下なら完全に安全」という明確な下限は存在しません。飲まない選択がもっともリスクが低く、飲む場合でも量を減らすことがそのままリスク低減につながります。過度に神経質になる必要はありませんが、「お酒はがんの危険因子である」という事実を知っておくことは、賢い選択の第一歩です。
5. 体重・運動・食事 ― 「代謝」からがんを遠ざける
肥満(高 BMI)もまた、世界的に重要な予防可能因子です。IARC の解析では、女性で BMI が上位の危険因子に挙がりました。スウェーデンで 410 万人以上を追跡した大規模研究(Fritz et al., Lancet Regional Health – Europe 2024)は、肥満が従来知られていた 13 種類のがんにとどまらず、100 を超えるがん・亜型と関連しうることを示し、過剰な体脂肪ががんの幅広いリスク因子であることを裏づけました。
肥満ががんを促す背景には、脂肪組織から生じる慢性的な炎症や、インスリン・性ホルモンのバランスの乱れといった「代謝」の異常があります。逆に言えば、体重管理・運動・食事の改善は、これらの代謝環境を整え、がんを遠ざける力を持ちます。運動そのものにもがん予防効果があり、身体活動量の多い人ではがんによる死亡を含む死亡リスクが低いことが繰り返し報告されています。IARC の専門家も、たばこ・感染対策・節酒と並んで、体重・運動・大気汚染への対策を予防の優先事項として挙げています。
当院は、Medicine 3.0(予防を軸とする新しい医療)の考え方に基づき、内臓脂肪 CT・InBodyによる体組成評価・運動療法(指定運動療法施設)・GLP-1 を含む肥満治療まで、「代謝を整える」ための包括的なアプローチを提供しています。体重を見直すことは、生活習慣病だけでなく、がん予防にも直結するのです。
6. なぜ男性に多いのか ― 性差と地域差から見える予防のヒント
今回の研究で印象的だったのは、予防可能ながんの割合が男性で明らかに高かったことです。新規がんのうち予防可能なものは、男性で 45%以上(約 430 万件)、女性で約 30%(約 270 万 件)でした。男性で最大の原因は喫煙(全がんの 23%)、女性では感染(同 11.5%)と、性別によ って主な原因が異なります。
地域差も顕著です。男性では東アジアで予防可能ながんの割合が最も高く(57%)、女性では サハラ以南のアフリカで最も高い(38%)という結果でした。これは、喫煙・飲酒・職業性発 がん物質への曝露の多さや、ワクチン・検診へのアクセスの差を反映しています。研究者は、女性では月経・妊娠に関わるホルモン要因などが今回の解析に十分含まれておらず、女性の 予防可能な割合はむしろ過小評価されている可能性があるとも指摘しています(Fink et al.,Nature Medicine 2026)。
これらの違いは、「一律の対策」ではなく「その人・その地域に合った予防」が重要であることを教えてくれます。男性であれば禁煙と節酒、女性であれば HPV ワクチンや検診の活用といったように、自分にとって優先度の高い対策を知ることが、効率的ながん予防につながります。
7. 「予防」を自分ごとにする ― 今日からできる 5 つの行動
ここまで見てきたエビデンスは、抽象的な統計ではなく、私たちの日常に落とし込めるものです。IARC および米国の専門家が共通して挙げる、個人でできる主な行動は次の 5 つに集約されます。すなわち、①禁煙する(何歳からでも有効)、②お酒を減らす、③健康的な体重を保ち運動を続ける、④加工食品を控えたバランスのよい食事をとる、⑤ワクチン (HPV・B 型肝炎)と検査(ピロリ菌・子宮頸がん・肝炎ウイルス)を活用する、です。
これらに加えて忘れてはならないのが「早期発見」です。予防でリスクを下げたうえで、定 期的な検診によって、がんを小さいうちに見つけることが、治療の成否を大きく左右します。喫煙歴のある方の低線量 CT、腹部超音波、内視鏡やピロリ菌検査などは、いずれもリスク に応じて検討する価値があります。
当院では、内科・呼吸器内科・内分泌の専門的視点から、CT や超音波を用いた検査、ピロリ菌・肝炎の評価、禁煙・体重・運動のサポートまで、「予防」と「早期発見」を一つの窓口で受けていただける体制を整えています。日曜・祝日も診療し、救急救命士が常駐しているため、忙しい方でも継続的に健康管理に取り組んでいただけます。
おわりに ― がんは「防げる病気」でもある
2026 年の IARC の解析は、世界のがんのおよそ 4 割が予防可能であるという、力強いメッセージを私たちに届けました(Fink et al., Nature Medicine 2026)。喫煙・感染・飲酒・肥満――これらはいずれも、私たちの選択と医療の力で立ち向かえる相手です。HPV ワクチンで子宮頸がん死がゼロに近づき、ピロリ菌除菌で胃がんが減り、禁煙で肺がんリスクが下がる。こうした事実は、「がんは運命ではない」ことを雄弁に物語っています。
もちろん、すべてのがんを防げるわけではありません。だからこそ、予防でリスクを下げつつ、定期的な検診で早期発見に努めるという「二段構え」が大切です。気になる生活習慣がある方、ご家族にがんの方がいて不安な方、検診をしばらく受けていない方は、どうぞ一度ご相談ください。まんかいメディカルクリニックは、遺伝×行動×環境の視点から、あなたのがん予防を一緒に考えるパートナーでありたいと考えています。
FAQ ― よくあるご質問
Q1. 家系にがんが多いのですが、生活習慣を変えても意味はありますか?
はい、大いに意味があります。遺伝的にリスクが高い方でも、喫煙・飲酒・肥満といった環境要因は「上乗せ」でリスクを高めるため、これらを避けることでリスクを下げられます。IARC の解析(Fink et al., Nature Medicine 2026)が示したように、世界のがんの約 4割は生活習慣や感染対策で予防可能です。遺伝的背景がある方こそ、変えられる要因を管理し、あわせて適切な検診を受けることの価値が大きいといえます。ご家族歴が気になる方は、リスクに応じた検診計画をご提案します。
Q2. お酒は「適量なら健康に良い」と聞きますが、本当ですか?
こと「がん」に関しては、その考えは近年のエビデンスで否定されつつあります。2025年の米国公衆衛生局長官の勧告は、アルコールが少なくとも 7 種類のがんの原因になると明言しました(U.S. Surgeon General’s Advisory 2025)。JAMA のレビュー(Morford et al., 2025)も、飲酒量が増えるほどリスクが上がる用量反応関係を示し、一部のがんでは 1 日 1 杯未満でもリスクが上昇しうるとしています。がん予防の観点では「これ以下なら安全」という明確な下限はなく、量を減らすほどリスクは下がります。
Q3. HPV ワクチンは何歳まで受けられますか? 大人でも効果はありますか?
HPV ワクチンは、性交渉を経験する前の 10 代前半での接種が最も効果的です。イングランドの研究では、12〜13 歳で接種した世代の若い女性で子宮頸がん死亡がゼロになったと報告されました(Sasieni & Falcaro, Lancet 2026)。一方、日本ではキャッチアップ接種の対象年齢の方や、一定年齢までの成人にも接種の機会があります。すでに性交渉の経験がある方でも、未感染の型に対する予防効果が期待できます。接種の適応や公費対象については、お住まいの制度とあわせて個別にご相談ください。
Q4. 長年たばこを吸ってきました。今から禁煙しても手遅れではないですか?
手遅れではありません。40 万人以上を追跡した研究(Cho et al., NEJM Evidence 2024)では、禁煙による死亡リスク低下の恩恵は禁煙後まもなくから現れ始め、年月とともに大きくなることが示されています。がんと診断されたあとの禁煙でも予後が改善することがわかっており、「何歳から・どの段階からでも」意味があります。禁煙は意志の力だけでなく治療でサポートできます。当院では呼吸器内科の視点から禁煙支援を行い、喫煙歴のある方の肺の状態を CT で確認することも可能です。
Q5. 太り気味ですが、がん予防のためにまず何から始めればよいですか?
まずは「現状を正しく知る」ことから始めるのがおすすめです。肥満は 100 種類を超える がんと関連しうることが大規模研究で示されており(Fritz et al., Lancet Reg Health Eur 2024)、体重管理はがん予防に直結します。とはいえ極端な食事制限は逆効果になりがちです。 当院では、内臓脂肪 CT や InBody で体組成を評価し、運動療法(指定運動療法施設)や、必 要に応じて GLP-1 を含む治療まで、無理なく続けられる形での代謝改善をご提案してい ます。数値を見ながら一歩ずつ進めましょう。
参考文献
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- Islami F, Marlow EC, Thomson B, et al. Proportion and number of cancer cases and deaths attributable to potentially modifiable risk factors in the United States, 2019. CA Cancer J Clin. 2024;74(5):405-432. https://doi.org/10.3322/caac.21858
- Sasieni P, Falcaro M. Cervical cancer mortality trends following HPV vaccination in England, 2001-24: an analysis of population-based mortality data. Lancet. 2026. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(26)00918-9
- Morford KL, Tetrault JM, O’Connor PG. Alcohol and Cancer Risk. JAMA. 2025;334(10):908-909. https://doi.org/10.1001/jama.2025.11229
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- Pan KF, Li WQ, Zhang L, et al. Gastric cancer prevention by community eradication of Helicobacter pylori: a cluster-randomized controlled trial. Nat Med. 2024;30(11):3250-3260. https://doi.org/10.1038/s41591-024-03153-w
- IARC Working Group. Helicobacter pylori Screen-and-Treat Programs for Gastric Cancer Prevention. N Engl J Med. 2026. https://doi.org/10.1056/NEJMsb2515372
- Chen CJ, Yang HI, et al. National strategy for elimination of liver diseases in Taiwan: hepatitis B immunization and reductions in liver cancer mortality. J Formos Med Assoc. 2025. https://doi.org/10.1016/j.jfma.2025.09.004
※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。
気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
