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【マンジャロ/ウゴービィ】2026年4月最新版: GLP-1受容体作動薬──「確かなことだけ」まとめました

近年、GLP-1 受容体作動薬(GLP-1 receptor agonists、以下 GLP-1 RA)という言葉をよく耳にするようになりました。「痩せる注射」として話題になることも多いこの薬剤ですが、その本質は単なる体重減少薬にとどまりません。2026 年 4 月 2 日号の『ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』(NEJM)に掲載された総説(Rosen & Ingelfinger, 2026)、および同年 4 月 1 日付の『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』(BMJ)に掲載された最新ニュース(Mahase, 2026)を踏まえ、GLP-1 RA の作用・効果・安全性について、あらためて分かりやすく解説します。

■1.GLP-1 受容体作動薬─ 発見の歴史

GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、食事後に小腸の L 細胞から分泌されるホルモンで、

「インクレチン」と呼ばれるホルモン群のひとつです。インクレチンが血糖値を下げる仕組みは 19 世紀末から研究されていましたが、インスリンの発見後にその研究は一時的に注目を失いました。その後、Habener や Drucker ら研究者の先駆的な研究によって、GLP-1 が非常に強力なインスリン分泌促進物質であることが明らかになりました。

1990 年にはギラモンスターというトカゲの毒液から、GLP-1 に構造が似た「エクセンジン-4」が単離され、これをもとにした薬剤エクセナチドが 2005 年に米国で初めて 2 型糖尿病治療薬として承認されました。以来、より長時間作用する製剤の開発が進み、現在では週 1 回 投与のセマグルチドや、GLP-1 と GIP(グルコース依存性インスリン分泌促進ポリペプチド)の両受容体に作用するデュアル作動薬・チルゼパチドまで登場しています。

■2.どのようにして血糖値を下げるのか?

GLP-1 RA は複数のメカニズムによって血糖値を調節します。

まず、膵臓の β 細胞を直接刺激し、血糖値が高い状態のときにのみインスリン分泌を促します。この「血糖値依存性」の働きがあるため、血糖値が正常なときには過剰なインスリン放出が起こらず、低血糖リスクが比較的低いことが特徴です。また、GLP-1 はグルカゴン(血糖値を上げるホルモン)の分泌を抑制し、胃の排出速度を遅らせることで食後血糖の上昇をなだらかにします。

GIP には脂肪細胞でのグルコース取り込みを促進する作用もあり、GLP-1 RA と GIP 受容体作動薬を組み合わせることで血糖コントロールにおける相加効果が期待できます。さらに、腸内細菌叢(腸内フローラ)を良好な方向に変化させる可能性も示唆されており、引き続き研究が進められています。

臨床試験のデータでは、チルゼパチド(デュアル作動薬)が HbA1c(ヘモグロビン A1c)を最大 2 ポイント低下させ、参加者の約 90%が HbA1c 7.0%未満を達成したことが報告されています(SURPASS-1 試験)。また、より新しい第 3 世代のトリプル作動薬(GLP-1・GIP・グルカゴン受容体)であるレタトルチドも、大規模フェーズ 2 試験で優れた血糖降下効果を示しています。

■3.なぜ体重が減るのか?

GLP-1 RA が体重を減少させる主な理由は、脳の視床下部への直接作用です。視床下部の弓状核にはGLP-1 受容体が豊富に存在し、薬剤がこれらの受容体に結合することで食欲が抑制され、満腹感が高まります。

大規模臨床試験の結果は目を見張るものがあります。セマグルチド(週 1 回皮下注射 2.4mg)を 68 週間投与した STEP 1 試験では、平均体重が約 14.9%減少しました(プラセボ群は 2.4% 減)。チルゼパチドを用いた SURMOUNT-1 試験では、72 週間で体重が 15〜21%減少し(プ ラセボ群は 3%)、チルゼパチドはセマグルチドと比較してもさらに高い体重減少効果を示 しています。また、レタトルチドは約 25%という非常に大きな体重減少をもたらすことが示 されました。

ただし、注意が必要な点があります。STEP 4 試験では、セマグルチドを中止すると体重が有意に再増加したことが報告されています。GLP-1 RA は「飲み続けることで効果が持続する」薬剤であり、適切な維持療法についての検討が引き続き必要です。

■4.心臓と腎臓を守る効果

GLP-1 RA の特筆すべき点は、血糖降下・体重減少にとどまらず、心臓や腎臓に対する保護効果が大規模臨床試験で証明されていることです。

心血管保護効果

SUSTAIN 6 試験(3,927 名の 2 型糖尿病患者を対象)では、週 1 回のセマグルチド投与が心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中の複合エンドポイントを 26%有意に減少させました。SELECT 試験(肥満かつ心血管リスクを持つ非糖尿病患者約 18,000 名)では、セマグルチドが重篤な心血管イベントを 20%減少させました。最近の SOUL 試験(約 10,000 名の 2型糖尿病患者)では、経口セマグルチドが心血管イベントリスクを 14%低下させています。また、チルゼパチドは駆出率が保たれた心不全患者における複合エンドポイントを改善することが示されました。

腎臓保護効果

GLP-1 RA は慢性腎臓病(CKD)の進行を平均約 3 年遅らせる効果が報告されています。この腎保護効果は、血糖改善だけによるものではなく、血管内皮機能の改善、腎尿細管における溶質交換の改善、レニン-アンジオテンシン系の抑制、血圧低下など、複合的なメカニズムによるものと考えられています。2025 年 1 月には米国 FDA がセマグルチドを「2 型糖尿病患者の腎疾患リスク低減」の適応症として承認しました。

さらに、2026 年 3 月にイギリスの NICE(国立医療技術評価機構)が新たなガイダンスを発 表しました。BMJ の報道(Mahase, 2026)によると、心筋梗塞・脳卒中の既往または末梢動 脈疾患を持ち、BMI 27 以上の患者に対して、かかりつけ医(GP)がセマグルチド(Wegovy)を心血管予防目的で処方できるようになりました。これにより、英国で約 120 万人が新たに適応となる見込みです。

■5.副作用・注意点

GLP-1 RA は多くの臨床試験において概ね良好な安全性プロファイルが示されていますが、副作用がないわけではありません。

消化器系の副作用(最も多い)

悪心(吐き気)、下痢、便秘、嘔吐などが投与開始から約 8 週間の間に多く見られます。 GLP-1 RA が胃の動きを遅くする作用を持つため、理論的に避けられない副作用です。臨床試験における脱落率は 4〜8%程度で、その主な原因はこれらの消化器症状でした。また、手術前に胃内容物が残留して誤嚥のリスクが高まる可能性も報告されています。

胆嚢・胆道系

76 の臨床試験・10 万人以上を対象としたメタ解析では、GLP-1 RA の使用が胆嚢・胆道疾患のリスクをプラセボの 1.5 倍に高めることが示されました(特に高用量・長期使用時)。

筋肉・骨への影響

体重減少に伴い、筋肉量・骨密度も低下することが課題です。リラグルチドを 52 週間使用した研究では、大腿骨・脊椎の骨密度が約 1%低下したことが報告されています。長期的な骨粗鬆症の影響については、さらなる研究が必要です。

まれな重篤な副作用

急性膵炎、胆石症、急性腎障害、重篤なアレルギー反応なども報告されています。また、甲状腺 C 細胞腫瘍については動物実験での懸念が示されていますが、ヒトでの証拠はまだありません。

■6.今後の展望

現在すでに承認されている薬剤に加え、経口投与可能な GLP-1 RA(オルフォルグリプロン、ダヌグリプロンなど)や、週 1 回注射のデュアル・トリプル作動薬、さらには月 1 回投与の 製剤まで、多くの新薬が開発・臨床試験段階にあります(NEJM の Table 2 参照)。

また、GLP-1 RA は糖尿病・肥満以にも、経変性疾患(アルツハイマー病など)、代性脂肪肝炎(MASH)、心不全、がんのリスク低減など、さままな疾患への応用が期待されており、研究が速に進んでいます。

一方で、薬剤の高コスト・供給不足、マイノリティ集団での有効性データの不足、中断後の体重再増加の問題など、解決すべき課題も残っています。

■よくある質問(FAQ)

Q. GLP-1 受容体作動薬は、糖尿病でなくても使えますか?

はい、使用できます。肥満症に対する GLP-1 RA の使用は、糖尿病の有無にかかわらず認められています。セマグルチド(週 1 回 2.4mg 皮下注射)は STEP プログラムの試験によって糖尿病を持たない肥満患者における有効性が示され、2021 年に肥満症治療薬として承認されました。また、英国 NICE の最新ガイダンス(2026 年 3 月)では、心筋梗塞・脳卒中の既往または末梢動脈疾患を持ちBMI 27 以上の患者(糖尿病でない場合も含む)への処方が可能となりました(Mahase, BMJ 2026)。日本国内では自費診療での処方も行われており、使用条件については担当医にご相談ください。

Q. 薬をやめると体重が戻ってしまうのですか?

臨床試験のデータによると、GLP-1 RA を中止した後に体重が再増加することが示さ れています。STEP 4 試験では、セマグルチドの継続投与と中止(プラセボへの切り替え)を比較した結果、中止群では体重の有意な再増加が認められました(Rosen & Ingelfinger, NEJM 2026)。これは、GLP-1 RA が肥満という「病態」に継続的に作用して効果を発揮 するためであり、中止によってその作用がなくなることが原因と考えられています。体 重維持のための長期的な治療戦略(維持量での継続、食事・運動習慣の並行した改善な ど)についても、担当医と十分に相談することが重要です。

Q. 心臓病のリスクがある人にも効果がありますか?

はい、心血管リスクが高い患者さんへの効果は大規模臨床試験で明確に示されていま す。SUSTAIN 6 試験では、心血管疾患・CKD を有する 2 型糖尿病患者 3,927 名を対象に、セマグルチドが心血管死・心筋梗塞・脳卒中の複合エンドポイントを 26%有意に低下さ せました。さらに SELECT 試験では、糖尿病を持たない肥満かつ心血管リスクのある患 者約 18,000 名において、重篤な心血管イベントが 20%減少しました。この選択試験のエ ビデンスを受けて、英国 NICE は 2026 年 3 月に心血管予防目的での GLP-1 RA 処方を新 たに推奨しました(Mahase, BMJ 2026;Rosen & Ingelfinger, NEJM 2026)。

Q. 副作用が心配ですが、どのような点に注意すればよいですか?

最も頻度が高い副作用は悪心・下痢・便秘・嘔吐などの消化器症状で、投与開始から 8 週間程度の間に多く見られます。これらは薬剤が胃腸の動きを遅くすることで生じるものであり、少量から開始して段階的に増量することで軽減できることが多いです。臨床試験での脱落率は 4〜8%程度で主な原因はこの消化器症状です。また、胆嚢・胆道疾患のリスクが通常の約 1.5 倍になること(76 試験・10 万人以上のメタ解析より)、体重減少に伴う筋肉量・骨密度の低下についても留意が必要です(Rosen & Ingelfinger, NEJM 2026)。急性膵炎・急性腎障害などのまれな重篤な副作用も報告されており、定期的な受診と血液検査で経過を確認することが大切です。

Q. チルゼパチドとセマグルチドはどちらが効果的ですか?

現時点では、チルゼパチドの方がセマグルチドよりも体重減少・血糖降下効果において優れているというエビデンスが蓄積されています。SURPASS-2 試験では、チルゼパチド 15mg がセマグルチド 1mg 週 1 回と比較して有意に高い血糖降下効果を示しました。体重減少においても、チルゼパチドはセマグルチドよりも 5.27〜9.57kg の追加的な体重減少をもたらすことがメタ解析で示されています(Rosen & Ingelfinger, NEJM 2026)。これは、チルゼパチドが GLP-1 受容体だけでなく GIP 受容体にも作用するデュアル受容体作動薬であり、両受容体への相加効果が働くためと考えられています。ただし、どちらの薬剤が「あなたに合っているか」は個人の病態・合併症・生活習慣・保険適用の状況によって異なります。担当医とご相談ください。

参考文献

  • Rosen CJ, Ingelfinger JR. GLP-1 Receptor Agonists. N Engl J Med. 2026;394(13):1313-1324. DOI: 10.1056/NEJMra2500106
  • Mahase E. Wegovy: GPs to prescribe weight loss jab to prevent heart attacks and strokes. BMJ.2026;393:s627. DOI: 10.1136/bmj.s627. Published: 01 April 2026.

このコラムは医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。GLP-1 受容体作動薬に関するご相談は、まんかいメディカルクリニックまでお気軽にお問い合わせください。

まんかいメディカルクリニック 〒669-1536 兵庫県三田市

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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