病気と健康の話

【ポリファーマシー】フレイル時代の高齢者医療―薬を『足す』から『減らす』へ

高齢になると体の機能が変化し、薬の効き方や副作用の出方が若い頃と異なってきます。特にフレイルと呼ばれる状態にある高齢者では、その傾向が顕著です。フレイル高齢者では体力や臓器の予備能力が低下し、複数の疾患で多くの内服薬を飲んでいることも少なくありません。この記事では、フレイル高齢者の内服薬について、薬の体内動態から、高血圧・糖尿病・脂質異常症など各疾患の治療ポイント、抗血小板薬・抗凝固薬・心不全治療薬の使い方、さらにポリファーマシー(多剤併用)や減薬、服薬サポートまで、最新の知見にもとづき解説します。高齢のご家族の薬管理に不安のある方の、お役に立てれば幸いです。

■フレイル高齢者における薬物動態の変化

歳をとると体の組成や臓器機能が変化し、薬の吸収・分布・代謝・排泄(薬物動態)が変わります。具体的には高齢・フレイルでは体脂肪が増えて筋肉が減少し、水分やアルブミン(血液中のたんぱく質)も減少します。こうした変化により、例えば脂に溶ける薬は体内に蓄積しやすく(脂肪組織が増えるため)、効果や副作用が長引くことがあります。一方、水に溶ける薬は血中濃度が上がりやすく(体水分が減るため)、思わぬ強い作用が出る可能性があります。さらにアルブミンが低いと、一部の薬では「効きすぎ」が起こり得ます。例えばワルファリンなどアルブミンと強く結合する薬では、結合先が少ないぶん遊離型(作用する型)の薬物濃度が高くなり、通常量でも効きすぎて出血など副作用リスクが高まります。加えて、筋肉量の低下は腎機能指標である血清クレアチニン値を相対的に下げてしまい、腎臓からの排泄能力を過大評価させることがあります。この結果、本当は腎機能が低下しているのに通常量の薬を処方され、薬が体に溜まって副作用が出る危険があります。

また、高齢者は複数の疾患を抱えることが多く、結果としてポリファーマシー(多剤併用)に陥りがちです。たくさんの薬を併用すると薬同士の相互作用(飲み合わせの問題)や有害事象の蓄積が起こりやすくなります。フレイルな高齢者では、これら体内動態の変化と多剤併用が相まって薬剤有害反応(副作用)が起こりやすいため、処方に一層の注意と個別化が必要です。

高血圧:高齢者への目標値と注意点

高血圧は高齢者に非常に多い病気で、血圧を適切に下げることは脳卒中や心不全などの予防に重要です。ただし、フレイル高齢者では「血圧をどこまで下げるか」は慎重な判断が求められます。若い人では血圧は低いほど良いというイメージがありますが、高齢者では血圧を下げすぎると、めまいや転倒の危険が高まります。実際、近年のヨーロッパ高血圧治療ガイドライン(ESC 2024)では「85歳以上や中等度以上のフレイル患者では収縮期130~140mmHg程度を目標とし、まず少ない種類の降圧薬(単剤治療)から開始する」ことが推奨されています。血圧を欲張って若い人並みに下げすぎず、まずは安全な範囲でコントロールするという柔軟な方針です。またフレイルが進行して血圧が低下してきた場合には、降圧薬を減らす(減薬)ことも推奨されています。日本のガイドラインでも、たとえば日本高血圧学会(JSH)2025年版では高齢者の高血圧管理に1章を割き、治療効果と副作用リスクのバランスを慎重に見極める重要性が強調されています。

実際の研究でも、フレイルな高齢患者では血圧を厳格に下げすぎない方が良い可能性を示すデータがあります。あるレビューでは、収縮期血圧を140mmHg未満に厳格に下げた群と140mmHg以上に保った群で全死亡率に差がなく、むしろ130mmHg未満まで下がった場合には死亡リスクが上がったとの報告もあります。一方で、80歳以上を対象にしたHYVET試験では降圧治療により心血管イベントが減少し、フレイルかどうかにかかわらず恩恵が確認されています。フレイル高齢者では、血圧の下げ過ぎによる弊害にも目を配りつつ, 本人に合った適切な目標値を設定することが大切です。具体的には主治医と相談しながら、ふらつきや起立性低血圧(立ちくらみ)が起きない範囲で血圧を下げ、定期的に体調や生活状況に応じて治療方針を見直す柔軟さが求められます。

糖尿病:血糖コントロール目標の個別化

糖尿病における血糖コントロールも、高齢者では若年者と戦略が異なります。血糖値(HbA1c)は一般的に低いほど合併症予防になりますが、フレイルな高齢者では厳しすぎる血糖管理はかえって危険です。最大のリスクは低血糖で、血糖を下げる薬(インスリンや一部の経口薬)を強めに使いすぎると、重篤な低血糖発作を起こして意識障害や転倒を招く恐れがあります。実際、フレイルな患者では重症低血糖の発生率が非フレイルな人の約2倍に増加したとの報告もあります。低血糖は高齢者の脳や心臓に大きな負担となり、死亡リスクも高めてしまいます。

こうした背景から、専門学会は高齢者の血糖目標を、“ゆるやかに”設定することを推奨しています。米国糖尿病学会(ADA)は高齢者(65歳以上)について、健康な高齢者でもHbA1c約7.0~7.5%未満を目標とし、フレイルや認知機能低下など、健康状態が不十分な場合は<8.0%程度まで緩和するよう推奨しています。日本糖尿病学会なども同様の方針です。つまりフレイル高齢者では、多少血糖が高めでも低血糖を起こさない範囲で穏やかに管理することが重要なのです。

エビデンスもこれを裏付けています。例えば糖尿病の大規模臨床試験の解析では、厳格な血糖コントロールを行ってもフレイルな患者では死亡率に有意差がなく、逆に重い低血糖リスクだけが増加することが示されています。こうした結果から、「高齢者では無理に若い人と同じ目標にせず、本人に合わせた現実的な目標値にする」ことが合意されています。具体的には、独居か介護者がいるか、認知機能はどうか、なども考慮に入れ、低血糖を起こさず体調良く過ごせる範囲で血糖をコントロールすることになります。たとえば食後高めでも無理に強い薬を追加しない、夜間低血糖が起きる場合は薬を減らす、といった柔軟な対応が大切です。日常生活の質(QOL)を保ちながら合併症予防を両立できるバランスを、主治医と一緒に探っていきましょう。

脂質異常症:スタチン治療の利点と注意

高コレステロール血症などの脂質異常症も、高齢者では治療方針に悩むことの多い領域です。動脈硬化予防のためのスタチン(コレステロール低下薬)は若い世代では標準的に用いられ、心筋梗塞や脳卒中のリスク低減に有効です。では高齢の、しかもフレイルな方にもスタチンは有用なのでしょうか?

結論から言えば、フレイル高齢者であってもスタチン療法の利益は状況によっては十分に期待できます。たとえば米国の大規模研究では、75歳以上の退役軍人を対象にスタチンを新規開始したところ、フレイルの有無に関わらず死亡や心血管イベントのリスク低下が認められたとの報告があります。つまり、「年だから効果がない」わけではなく、むしろフレイルな高齢者ほど心血管リスクが高いため、条件が合えばスタチンで恩恵を得られる可能性があるのです。特に心筋梗塞や脳卒中を既に経験した方(いわゆる二次予防)では、年齢に関係なくスタチンが再発予防に重要です。

一方で注意点もあります。フレイルな方では、筋力低下や腎機能低下があるため、スタチンの筋肉痛・肝機能障害など副作用が起こりやすい可能性があります。また複数の薬を飲んでいる場合、スタチンとの飲み合わせで血中濃度が上がり、副作用リスクは高まることもあります。そのため、「ハイリスクな方にはスタチンを積極的に使うが、用量や種類は慎重に選ぶ」というアプローチが推奨されています。例えば強力なスタチン(高強度スタチン)は効果が高いぶん副作用も出やすい可能性があるため、フレイル患者さんでは慎重に開始・調整する、といった工夫が必要です。

また予防効果が現れるまでに時間がかかる点も考慮します。フレイルで余命が限られるようなケースでは、長期予防目的のスタチンは必ずしも優先されません。総合的には、「その高齢者の健康状態・余命とコレステロール治療のメリットを天秤にかけて判断する」ことになります。例えば元気な80代で心臓病の既往がある方ならスタチン継続が望ましい一方、重度の要介護で食も細いような場合はスタチン中止を検討する、といった具合です。主治医と相談し、その人にとって最適な脂質管理を目指しましょう。

抗血小板薬:フレイル高齢者の二次予防

抗血小板薬とは、血液をサラサラにして血栓(血のかたまり)ができるのを防ぐ薬です。代表例はアスピリンやクロピドグレルで、心筋梗塞や脳梗塞を起こした後の再発予防(二次予防)に広く使われています。高齢者でも二次予防の重要性は変わりませんが、フレイルな高齢患者では血栓予防効果と出血リスクのバランスに細心の注意が必要です。

ガイドライン上は、現時点でフレイルの有無によって、明確に抗血小板薬の推奨を変えるエビデンスは不足しています。したがって、臨床では個々の患者のリスク評価にもとづき、柔軟に投与法を調整することになります。例えば過去に心筋梗塞を起こしたフレイル高齢者でも、再発リスクが高ければアスピリンなどを継続します。ただし消化管出血や脳出血のリスクが特に高い場合(例:高齢でかつ抗凝固薬も併用している、胃潰瘍の既往がある等)は、薬を減量したり他の手段を検討することもあります。

重要なことは、出血兆候の早期発見と対策です。高齢者は転倒しやすく、フレイルだとさらに転倒リスクが上がります。抗血小板薬服用中に転倒すると頭部外傷による出血が重篤化しやすいため、「出血の赤信号」と言われるような症状(黒色便や皮下出血、貧血症状など)があればすぐ医療機関でチェックすることが大切です。

なお、一次予防(病気を発症していない段階での予防)目的でのアスピリン投与は高齢者では現在推奨されていません。近年の大型臨床試験により、健康高齢者がアスピリンを常用しても心血管イベント予防効果は小さく、出血リスクの増加が上回ると判明したためです。実際、米国などでも「70歳以上では予防的アスピリンは原則使わない」との勧告が出されています。

まとめると、フレイル高齢者における抗血小板療法は、「個別化」と「柔軟な調整」がキーワードです。標準的には「血栓予防も大事だが出血にも十分注意し、患者ごとに投与法を工夫する」という姿勢で、主治医は処方を判断しています。ご高齢でアスピリン等を内服中の方は、「今の内服が本当に必要か?量は適正か?」を遠慮なく主治医に相談しましょう。専門医はその都度リスクとベネフィットを評価し、最善の方針を一緒に考えてくれるはずです。

抗凝固薬:心房細動の治療とフレイル

心房細動という不整脈は高齢者に多く、適切に治療しないと脳梗塞(脳卒中)の大きな原因になります。抗凝固薬(血液を固まりにくくする薬、いわゆる「血栓予防の薬」)は心房細動による脳梗塞予防の切り札ですが、フレイル高齢者ではこれも判断が難しい領域です。

かつては、「高齢だと転倒も多いしワルファリン(抗凝固薬)はかえって危ない」と未治療のまま様子を見るケースも多く見られました。しかし現在では、年齢だけで抗凝固薬を避けるのは適切でないとされています。特に心房細動の場合、たとえ80代でも、抗凝固療法による脳卒中予防効果は大きく、転倒等による出血リスクを差し引いてもメリットが上回るケースが多いからです。実際、近年は新しい経口抗凝固薬(DOAC/NOAC)の登場で治療しやすくなり、高齢者・フレイル患者への適用も拡がっています。

もっとも、フレイル高齢者では腎機能低下や筋肉量低下によりDOACの体内動態が不安定になることが報告されており(血中薬物濃度のばらつきが大きい等)、用量調整や経過観察に工夫が要ります。またワルファリンからDOACへの変更についても、「フレイル患者では安定したワルファリン療法を無闇にDOACへ切り替える根拠はまだ十分でない」とする専門家の指摘もあります。このため抗凝固療法の方針決定は、患者個別のリスク評価に基づき慎重に行うことが大前提です。医師はCHA₂DS₂-VAScスコア(脳卒中リスク)やHAS-BLEDスコア(出血リスク)等を参考にしつつ、患者さん本人やご家族と相談して治療適応を判断します。

幸い、超高齢フレイル患者にも有効な低用量療法が登場しています。日本で行われたELDERCARE-AF試験では、平均86歳・フレイルで通常量の抗凝固薬適応がない心房細動患者に対し、超低用量エドキサバン(15mg/日)で治療したところ、プラセボ(薬なし)に比べて脳卒中発症が約3分の1に激減しました。一方、重大な出血(脳出血や消化管出血など)の発生率は有意な差がなく、低用量療法の安全性が示唆されています。この結果は、「たとえ90歳近い虚弱な方でも、工夫すれば抗凝固療法の利益を受けられる」ことを示す朗報です。

以上より、フレイル高齢者の心房細動でも抗凝固薬は怖がりすぎず、しかし慎重に管理することがポイントです。具体的には、腎機能に応じた減量や定期的な血液検査、転倒対策(部屋の環境調整など)を行いつつ、安全に治療を継続します。主治医と二人三脚で経過を追い、「この治療で本当にプラスが大きいか?」を折に触れて確認しながら治療を続けることが大切です。

心不全治療薬:ガイドライン治療とフレイル

心不全は高齢者で増える疾患の一つであり、多くの有効な飲み薬が存在します。例えばACE阻害薬/ARB、βブロッカー、抗アルドステロン薬、ARNI(エントレスト®など)やSGLT2阻害薬といった薬剤は、心不全患者の寿命を延ばし症状を改善する「四本柱」の治療薬です。若年~壮年の心不全患者ではこれらをフル活用するのが標準ですが、高齢者・フレイル患者では実臨床で十分に使われていない場合があります。理由として、副作用への懸念や併存疾患との兼ね合い、患者さん自身が服薬の負担を感じる、といったことが挙げられます。

しかし、近年の研究からフレイルな心不全患者であっても新規治療薬の恩恵は失われないことがわかってきました。例えばARNI(サクビトリル・バルサルタン)は従来の治療を超える有効性が報告されていますが、その効果はフレイル患者でも概ね維持されているとの解析があります。また糖尿病薬として開発されたSGLT2阻害薬(ダパグリフロジンなど)は心不全にも有効で、フレイルの程度にかかわらず入院や死亡を減らす効果が認められました。具体的には、心不全大規模試験のDAPA-HFにおいて、フレイル患者でも非フレイル患者と同等に再入院や予後改善のメリットがあり、副作用リスクも大きく増えなかったことが示されています。

こうした知見を踏まえ、専門家は「フレイルだからといって心不全の有効な薬を避けるべきでない」と強調しています。もちろん投与量の微調整や副作用モニタリングはより丁寧に行う必要があります。たとえば血圧が低めのフレイル患者では利尿薬の量を調整して低血圧を防ぐ、腎機能が低下している場合は腎臓への負担を考慮して投薬間隔を調整する、など個別対応が求められます。また重度のフレイルで余命やQOL優先度が変わってきた場合には、延命目的より症状緩和を重視した治療(例:利尿薬による呼吸苦の軽減を優先し、多少予後改善効果のある薬を減らす)に舵を切る判断もあり得ます。つまりフレイル患者の心不全治療は、「教科書通り」に当てはめるのではなく患者一人ひとりの状態・価値観に合わせてオーダーメイドすることが重要です。

なお、「フレイルだと薬の指示通りに飲めないのでは?」という声もあります。確かに認知機能低下や筋力低下で内服管理が難しいケースもありますが、その場合は在宅医療や訪問看護と連携し、服薬支援を受けながらでも必要な薬はきちんと内服することが望ましいです。医療者側も処方をシンプルにする工夫を行い、患者さんの状態に合わせて治療を最適化していきます。

■ポリファーマシー(多剤併用)のリスク

高齢の患者さんほど病気が増え、結果として内服薬の数も増える傾向があります。複数の薬を同時に使うこと自体は悪いことではありませんが、5種類以上の薬を常用すると副作用や相互作用のリスクが一気に高まるため注意が必要です。実際、日本の調査では75歳以上の外来患者の約43%が5種類以上の薬を処方されており、その4人に1人(26.7%)で少なくとも1種類の「潜在的に不適切な薬剤(PIM)」が含まれていたとの報告があります。特に、ベンゾジアゼピン系睡眠薬(いわゆる「睡眠導入剤」)は、もっとも頻繁に処方されるPIMクラスであり、ふらつきや認知機能低下、転倒を招きやすいため高齢者では可能な限り避けるべき薬剤とされています。

ポリファーマシーの何が問題かと言うと、薬剤数が増えるほど副作用の発生率が指数的に上昇する点です。ある解析では、処方薬が5種類以上になると有害事象のリスクが2倍以上に高まるとされています。具体例を挙げると、降圧薬と利尿剤と痛み止めを併用している場合、それぞれは適切な処方でも組み合わせで腎機能が急激に悪化するケースがあります。また複数の病院から処方を受けていると、お互いに相手の処方内容を把握できず重複や相互作用が見逃される危険もあります。こうした理由から、日本老年医学会も「高齢者の処方薬は定期的に見直し、必要最小限にすべき」との指針を出しています。

ポリファーマシーによる代表的な弊害には以下のようなものがあります。

副作用薬が多いほど何かしらの副作用が起こる確率が高まります。高齢者では特にふらつき・低血圧・眠気・便秘・食欲不振などが重なり、生活の質を下げてしまうことがあります。
アドヒアランス(服薬遵守)低下飲む薬の種類・回数が多いと、飲み忘れや飲み間違いが増えます。結果として本来の効果が得られず、医師がさらに薬を追加するといった悪循環にもなりかねません。
経済的負担薬が増えると自己負担金や管理の手間も増えます。高齢者本人や介護者にとって金銭的・心理的コストが嵩む点も無視できません。

このようにデメリットの多いポリファーマシーですが、高齢者医療ではしばしば避け難い側面もあります。大切ことは、「定期的な見直し」と「不要な薬の減量・中止」です。次のセクションで減薬の取り組みについて詳しく説明します。

■減薬の取り組み

減薬とは、患者さんにとって有益性が少ないか有害性が上回る薬を減らす試みのことです。高齢者では加齢とともに病気が増え、薬も増えがちですが、状態が変化すれば過去に開始した薬が今は不要になっているケースもあります。減薬は決して「治療を放棄する」ことではなく、より安全で適切な薬物治療を実現するための積極的なケアなのです。

減薬の第一歩は、現在飲んでいる薬を主治医と一緒に棚卸しすることです。各薬について「この薬は今の自分に本当に必要か?」「似た効果の薬を重複して飲んでいないか?」「副作用リスクがベネフィットを上回っていないか?」を評価します。専門家はこうした評価のために、Beers基準(米国老年医学会が定めた高齢者に不適切な薬リスト)やSTOPP/START基準(有用性の乏しい薬と必要な薬をチェックする指標)といったツールを活用します。例えばベンゾジアゼピン系睡眠薬や第一世代抗ヒスタミン薬(眠気を誘うかぜ薬成分など)は高齢者には不適とされ、これらが含まれていれば減薬の候補となります。また、抗コリン作用(口渇や便秘、認知機能低下を来す作用)の強い薬が複数ある場合、抗コリン負荷が高まりフレイルやせん妄・転倒のリスク要因となるため注意が必要です。日本では専門家の合意により、「抗コリン薬リスク尺度(薬剤ごとの抗コリン作用の強さを点数化したリスト)」**も作成されており、処方適正化に役立てられています。

減薬を実際に行う際は、医師・薬剤師など多職種チームで検討するのが理想です。患者さんの病歴や現在の目標、生活状況を踏まえ、「この薬は減らせる」「これは必要」といった判断を下します。無闇に一度に中止せず、優先度の低い薬から順に減らすのが基本です。また中止後も体調を観察し、症状が悪化するようなら再開するといった柔軟な対応も重要です。

近年、このような減薬アプローチの有効性と安全性を調べる研究も出てきました。日本で行われたある臨床試験では、入院高齢患者を対象に薬剤師や医師が協働して処方見直し(STOPP/START基準を用いた減薬提案)を行ったところ、平均内服薬剤数を減らし、退院後も6か月・12か月後まで「不適切な薬」の割合を有意に減らすことに成功しました。死亡率や再入院率といった臨床アウトカムに差はなかったものの、減薬介入による有害な影響は見られず安全であることが示されています。この結果は、減薬が「何もしない」消極的アプローチではなく、エビデンスに基づいた積極的介入であることを裏付けています。

減薬は患者さん本人の理解と協力も欠かせません。「薬を減らすなんて不安」「サボっているように思われないか」と感じる方もいますが、決してそのようなことはありません。むしろ「必要な薬だけを賢く飲む」ことが高齢期医療の質を高めると考えられています。ぜひ遠慮せずに「薬が多くて大変」「この薬はもう長年飲んでいるけど必要?」と主治医に相談してください。まんかいメディカルクリニックでも、定期的な薬剤レビューを通じて患者さん一人ひとりに最適なお薬の量と種類を検討し、ご提案しています。

■服薬アドヒアランスとサポート

ドヒアランスとは、患者さんが医療者の指示通りにきちんと薬を服用すること(服薬遵守)を指す言葉です。高齢者、とりわけフレイルな方ではアドヒアランスの低下が大きな課題となります。認知機能の低下や視力・指先の巧緻性低下、うつ傾向などから「薬の飲み忘れ」「飲み間違い」「飲み過ぎ(二重服用)」が起こりやすくなるためです。実際、「薬が多くて覚えきれない」「どれをいつ飲んだか分からなくなる」といった声はよく聞かれます。また独居で周囲のサポートがない高齢者は、体調が悪くても通院や薬局受取りが困難で服薬中断に繋がるケースもあります。

アドヒアランスを向上させるためには、以下のような工夫やサポートが有効です。

服薬スケジュールの簡素化可能な限り服用回数を減らし、タイミングをわかりやすくします。例えば1日3回の薬を作用時間の長い薬に変更して1日1回にまとめる、一包化(一回分ずつ袋にまとめる)して朝昼晩の区別を明確にする、といった方法です。
服薬支援ツールの活用お薬カレンダーやピルケースを使って、飲んだら印を付ける習慣をつけます。最近では配薬ロボットや服薬アラーム付きデバイスなど先進的なツールも登場しており、ご家族と相談しながら導入する例もあります。
多職種の連携かかりつけ薬剤師や訪問看護師がいる場合、お薬の残数チェックや飲み方の再指導をお願いするのも良いでしょう。認知症が疑われる場合は専門医への相談も検討します。周囲のサポートで、飲み忘れや重複服用はかなり防げます。
環境調整視力が低下している方にはラベルに大きな文字で服用時点を書く、指先が不自由な方には押し出し包装(PTPシート)をハサミで切れ目を入れて押し出しやすくする、など個々の状況に合わせた工夫も大切です。
本人の理解と納得何より患者さん自身が「この薬は何のために飲んでいるか」「飲まないとどうなるか」を理解することが重要です。理解が深まれば服薬への主体性が生まれ、結果としてアドヒアランス向上に繋がります。

まんかいメディカルクリニックでは、「お薬をきちんと飲めているか?」を診察のたびに確認し、必要に応じて処方や説明を調整するよう心がけています。ご家族の方も、ぜひお薬カレンダーの活用や受診時の薬持参などでサポートいただければと思います。飲み忘れが続いても決して自己判断で倍量飲んだりせず、まずは医療者に相談しましょう。「飲みやすさ」も含めて治療の一部です。私たちは患者さんが無理なく治療を続けられるよう全力でお手伝いします。

最後になりますが、フレイル高齢者の薬物治療は患者さん本人の生活や価値観を中心に据えて考えることが重要です。単に数値目標を追うのではなく、「何を優先したいか」「その方にとっての生きがいとは」を意識しながら、過不足のない薬物療法を組み立てることが理想です。まんかいメディカルクリニックでは、患者さんやご家族との対話を通じてこのような個別化医療を実践し、安心で効果的な内服薬管理をお届けしたいと考えております。

■FAQ(よくある質問)

Q1. 高齢の親が薬をたくさん飲んでいます。減らした方が良いのでしょうか?

まずは主治医に現在の処方について相談してみましょう。薬の数が多いと副作用や飲み間違いのリスクが高くなるため、必要のない薬は減らすことが推奨されます。例えば痛み止めが長期間続いている場合や、以前から漫然と続けているサプリメント類などは見直し候補です。ただし自己判断で急に中止するのは危険です。医師が症状や検査値を見ながら調整します。近年の研究でも、専門家チームによる減薬は不適切な薬を減らしつつ患者さんの安全を損ねないことが確認されています。主治医と相談の上、可能な範囲で薬を整理することをおすすめします。

Q2. フレイルと言われましたが、どんな状態ですか?治りますか?

フレイル(虚弱)とは、加齢に伴い筋力や活動力が低下し心身の予備力が落ちた状態を指します。疲れやすく体重減少や筋力低下が見られ、ストレス(病気やケガ)に弱くなります。フレイル自体は適切な介入(栄養・運動・社会参加など)で改善し得る可逆的な状態です。しかし放置すると要介護状態に進むこともあるため早めの対策が重要です。お薬との関係では、フレイルだと薬の効きすぎや副作用が出やすいため、医師が慎重に処方を調整します。逆に不適切な薬を減らすことでフレイルが改善する可能性もあります。フレイルと診断されても悲観せず、主治医や栄養士・リハビリスタッフと一緒に対策していきましょう。

Q3. 血圧は低いほど良いですか?高齢者では目標が違いますか?

若い方でも高齢者でも、極端な高血圧は放置すれば有害です。一方で、高齢者では血圧を下げすぎるとめまいや転倒など弊害もあり、必ずしも「低いほど良い」とは言えません。近年の欧米ガイドラインでは、80歳以上やフレイルな方は収縮期130~140mmHgを目安に無理のない範囲で下げることが推奨されています。実際、フレイル高齢者では140mmHg未満に厳格管理しても寿命に差がなく、むしろ低血圧による弊害に注意すべきとの指摘もあります。したがって高齢者の血圧目標は個別に設定するのが基本です。ご本人の体調や生活状況を踏まえ、主治医が「この方にとってベストな血圧」を一緒に考えてくれます。ご自宅での血圧変動や症状も伝えて、オーダーメイドの目標を決めましょう。

Q4. 高齢の糖尿病では血糖値(HbA1c)はどのくらいを目指すべきですか?

高齢者では若年者よりも少し緩めの血糖目標を設定するのが一般的です。健康な高齢者でもHbA1cで7%前後、フレイルな方や合併症の多い方なら7.5~8.5%程度を目安にします。これは血糖を下げすぎると低血糖による転倒・認知症悪化などのリスクが高いためです。実際、75歳以上では厳格に血糖を下げても合併症予防効果が小さく、重い低血糖だけが増えるケースもあります。したがって**「まずは低血糖を起こさないこと」を優先し、次に合併症予防という考え方**になります。もちろん何もしないでよい訳ではなく、適切な食事療法や運動、必要最低限の薬物療法は継続します。ただ「若い人並みに6%台にしなくては!」と無理する必要はありません。主治医が患者さん個々の状態に合わせて目標を提案してくれますので、安心して相談してください。

Q5. 80代でも血液サラサラの薬は飲むべきでしょうか?

必要があれば80代でも抗血小板薬や抗凝固薬を用いることがあります。たとえば心筋梗塞後で再発リスクが高い場合や、心房細動があり脳梗塞予防が必要な場合です。高齢だからといって一律に中止するものではありません。実際、80代後半でも抗凝固薬で脳卒中を予防できるとする研究結果もあります。ただし高齢者は出血もしやすいので慎重な判断と管理が必要です。医師は「この薬を続ける利益」と「出血など副作用リスク」を天秤にかけ、トータルでプラスと判断すれば処方を続けます。不安な場合は「この薬はまだ飲んだ方がいいですか?」と遠慮なく質問しましょう。主治医が最新のエビデンスに照らして説明してくれるはずです。大切なのは年齢で決めつけず、個々の健康状態で判断することです。

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記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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