発熱

発熱は、誰にとってもつらく不安なものです。「ただの風邪だろう」と自己判断して、市販薬で様子を見ていませんか?その熱は体を守る免疫からの重要なメッセージであると同時に、見過ごしてはいけないサインかもしれません。

一般的に37.5℃以上を発熱と呼びますが、本当に注意すべき危険なサインは、熱の高さだけでは判断できません。ここでは、風邪やインフルエンザとの症状の違いから、すぐに病院へ行くべき危険な症状、そして正しいセルフケアを解説します。

■発熱の主な原因と見分けるべき症状

発熱のほとんどはウイルスや細菌による感染症が原因です。 しかし、中には注意が必要な病気が隠れていることもあります。 発熱の主な原因と見分けるべき症状を解説します。

体温は何℃からが発熱?体温が上がるメカニズム

一般的に、体温が37.5℃以上ある状態を「発熱」と呼びます。 ただし、平熱には個人差があるため、普段の体温も大切です。 普段より1℃以上高く、だるさや熱っぽさを感じるなら、 それは発熱と考えてよいでしょう。

そもそも、なぜ熱が出るのでしょうか。 これは、体を守るための非常に大切な防御反応なのです。 発熱は、体が病原体と戦うための準備が整った証拠です。

<体が熱を出すまでの流れ>

病原体の侵入ウイルスや細菌などが体の中に侵入します。 これらは「外因性発熱物質」とも呼ばれます。
指令物質(サイトカイン)の放出体の免疫細胞が敵の侵入を感知します。 そして「サイトカイン」という指令物質を放出します。 サイトカインは、敵が来たと脳に知らせる伝令役です。
体温設定(セットポイント)の上昇サイトカインの知らせは、脳の「視床下部」に届きます。 視床下部は、体の体温を調節する司令塔です。 ここで体温の目標設定(セットポイント)が高く変更されます。
体温の上昇体は新しい目標設定に合わせて体温を上げ始めます。 筋肉をブルブル震わせて熱を作ったり(悪寒・戦慄)、 皮膚の血管を縮めて熱が逃げないようにしたりします。

このように、発熱は脳によってコントロールされた反応です。 免疫細胞は39℃前後の高い温度で最も活発に働きます。 つまり、発熱は免疫力を高めて病気と戦うための味方なのです。

風邪、インフルエンザ、新型コロナウイルスの症状の違い

項目風邪(普通感冒)インフルエンザ新型コロナウイルス
発熱ゆるやかに上昇(微熱〜38℃程度)突然38℃以上の高熱が出ることが多い微熱(37℃)から高熱まで様々、熱が出ないこともある
全身症状比較的軽いことが多い急な悪寒とともに、強い倦怠感、頭痛、関節痛、筋肉痛が現れる強い倦怠感や息苦しさなど、症状は非常に多様
局所の症状喉の痛み、鼻水、くしゃみ、咳が中心喉の痛みや咳も出るが、全身症状が強い咳、喉の痛み、倦怠感。 味覚や嗅覚の異常が現れることも特徴

発熱の原因で最も多いのが、風邪やインフルエンザなどです。 それぞれの症状には特徴があり、見分ける目安になります。 ただし症状には個人差が大きいため、あくまで一般的な傾向です。

これらの症状だけで自分で判断するのは困難です。 特にインフルエンザや新型コロナウイルスが流行している冬と夏、または症状が強いと感じる場合は、必ず医療機関で検査を受けましょう。

■発熱に伴う危険なサイン(激しい頭痛、呼吸困難、意識障害など)

ほとんどの発熱は数日で改善しますが、中には危険な病気のサインも。 次のような症状が見られる場合は、すぐに病院へ行きましょう。 夜間や休日でも、救急を受診するか救急車を呼んでください。

<すぐに受診すべき危険なサイン・チェックリスト>

1.意識の状態がおかしい

  • 呼びかけへの反応が鈍くぼーっとしている
  • 意味のわからないことを言う、会話がかみ合わない
  • ぐったりして、ほとんど体を動かさない

2.呼吸の異常

  • 息が苦しそう、ハアハアと浅く速い呼吸をしている
  • 肩を上下させたり、胸をへこませたりして呼吸している
  • 顔色や唇の色が悪い(青白い、土気色、紫色)

3.その他の重い症状

  • けいれんを起こした、または体が硬直している
  • これまでに経験したことがないような激しい頭痛がある
  • 何度も吐いたり、下痢をしたりして水分が全く摂れない
  • 首の後ろが硬くなって、前に曲げにくい(特に子どもの場合)

子ども、高齢者、妊婦における発熱の注意点

発熱への対応は、年齢や体の状態によって特に注意が必要です。 普段と違う様子がないか、慎重に観察することが大切です。

子どもの場合子どもは、体温調節機能が未熟なため急に高熱を出しがちです。熱の高さだけでなく、「機嫌は良いか」「水分は摂れているか」といった全身の状態をよく観察してください。特に生後3ヶ月未満の赤ちゃんが発熱した場合は、重い感染症の可能性もあり、すぐに小児科を受診しましょう。
高齢者の場合高齢の方は免疫力が低下しているため、感染症が重症化しやすく、体に炎症があっても熱が上がりにくいことがあります。「なんとなく元気がない」「食欲がない」「いつもよりぼんやりしている」といった変化が、肺炎などの病気のサインかもしれません。また、脱水を起こしやすいため、意識的な水分補給が重要です。
妊婦の場合妊娠中の発熱は、おなかの赤ちゃんへの影響も考えられます。また、妊娠中に使用できる薬は限られています。自己判断で市販薬を飲むことは絶対に避けてください。熱が出たら、まずはかかりつけの産婦人科に電話で相談し、指示を仰ぐようにしましょう。

3週間以上続く「不明熱」で考えられる疾患

ほとんどの発熱は1〜2週間以内におさまります。 しかし、まれに3週間以上にわたって37.5℃以上の熱が続くことがあります。 様々な検査をしても原因がはっきりしない場合、これを「不明熱」と呼びます。

長引く熱は病気が隠れているサインです。 不明熱の原因として、主に次の3つの可能性が考えられます。

感染症結核や、心臓の弁に細菌がつく感染性心内膜炎など、体の奥深くで続いている感染症が原因のことがあります。
膠原病・自己免疫疾患関節リウマチなど、体を守る免疫システムが、誤って自分自身を攻撃してしまう病気です。この免疫の異常な活動が、発熱を引き起こします。
悪性腫瘍(がん) 悪性リンパ腫や白血病、腎臓がんなどでは、がん細胞そのものが熱を出す物質(サイトカイン)を作り出し、「腫瘍熱」と呼ばれる発熱が続くことがあります。

原因を特定するには、詳しい血液検査やCTなどの画像検査が必要です。 場合によっては、入院して精密検査を行うこともあります。 原因不明の熱が続く場合は、必ず内科などの医療機関を受診してください。

■熱が出たときの正しいセルフケア

発熱は、体を守る免疫システムが働きやすい環境を作るための、 非常に合理的な体の防御反応なす。 慌てずに、ご自宅でできるセルフケアを解説します。

解熱剤の正しい使い方(アセトアミノフェン・ロキソプロフェンなど)と注意点

熱が出ると、すぐに解熱剤で熱を下げたくなります。 しかし、免疫細胞は39℃前後の高い温度で最も活発に働きます。 したがって、解熱剤は病気を治す薬ではなく、高熱のつらさを和らげるお薬です。

<解熱剤を使うかどうかの判断目安>

  • 熱が高く、ぐったりして水分や食事がとれない
  • 頭痛や体の節々の痛みが強い
  • 消耗が激しくつらい

上記のような場合に、体力の消耗を防ぐ目的で使いましょう。 解熱剤にはいくつか種類があり、特徴が異なります。

種類主な成分特徴注意点
おだやかなタイプアセトアミノフェン作用がおだやかで、胃への負担が少ないです。お子さまや妊婦の方にも比較的使いやすいとされます。効果はマイルドです。決められた量を超えて使用すると、肝臓に負担がかかることがあります。
効果が強いタイプロキソプロフェン、イブプロフェン(NSAIDs)熱を下げる作用や痛みを抑える作用が強力です。脳が熱を上げる指令に使うプロスタグランジンという物質を抑えます。胃腸を荒らす副作用があるため、必ず食後に服用しましょう。喘息の持病がある方は発作を誘発することがあります。

薬を使う際は、必ず用法・用量を守ることが大切です。 自己判断で長期間使わず、症状が続く場合は医療機関に相談してください。

効果的な水分補給と消化に良い食事のポイント

発熱すると、汗や速い呼吸によって多くの水分が失われます。 脱水症状は体力を著しく奪い、回復を遅らせる原因になります。 こまめな水分補給は、セルフケアの中でも特に重要です。

<効果的な水分補給のポイント>

何を飲むか水やお茶が基本です。 他に、汗で失われる塩分やミネラルを補給できる経口補水液やが効果的です。
どう飲むかのどが渇いたと感じる前に、こまめに飲むのがコツです。コップ半分〜1杯程度を、1時間ごとを目安に飲みましょう。一度にたくさん飲むと、体に吸収されにくいためです。
避けるべき飲み物コーヒーや緑茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェインや、アルコール類には利尿作用があります。これらは尿の量を増やし、かえって脱水を助長するため避けましょう。

食事は、食欲がなければ無理に食べる必要はありません。 食べられるようになったら、胃腸に負担をかけないものを選びます。 消化には多くのエネルギーを使うため、体を休ませるのが優先です。

<消化に良い食事の例>

  • おかゆ、雑炊
  • よく煮込んだうどん
  • 具なしのコンソメスープや野菜スープ
  • ゼリー、プリン、ヨーグルト
  • すりおろしたりんご、バナナ

反対に、天ぷらなどの揚げ物や、香辛料の強い刺激的な食べ物は、 弱った胃腸に大きな負担をかけるため、回復するまで控えましょう。

体を冷やすのはいつ?効果的なクーリング方法

体を冷やすべきか、温めるべきか。これは発熱の段階で決まります。 脳の体温調節の司令塔(視床下部)が決めた目標体温、 つまり「体温のセットポイント」に合わせて対応するのが正解です。

<体を温めるタイミング:寒気があるとき>

ぞくぞくとした寒気や体の震えがあるのは、体が熱を上げている最中です。 脳が上げたセットポイントに体温を合わせようと、 筋肉を震わせて熱を作っているサインです。この時期に体を冷やすと、体は「もっと熱を作らないと」と頑張ってしまい、 余計に体力を消耗してしまいます。 布団や毛布を一枚多くかけるなどして、体を温かく保ちましょう。

<体を冷やすタイミング:寒気がなく、体が熱いとき>

熱が上がりきり、体がカッと熱く感じるようになったら冷やしましょう。 これは、体温が脳のセットポイントに達したサインです。 この段階でのクーリングは、高熱による不快感を和らげるのが目的です。

効果的に冷やす場所 太い血管が皮膚の近くを通る場所を冷やすと効率的です。首の付け根の両側・脇の下・足の付け根(股関節のあたり)
使うもの氷枕や、タオルで包んだ保冷剤などを使いましょう。 冷却シートは、体温を下げる効果は限定的ですが、不快感の緩和には役立ちます。

ただし、冷やしすぎて不快に感じたり、寒気がぶり返したりした場合は、 すぐに中止してください。あくまで心地よい範囲で行いましょう。

免疫機能を助けるための安静と睡眠の重要性

発熱時に最も大切なことは、体をしっかりと休ませることです。 体は、ウイルスや細菌と戦うために全力を尽くしています。 この戦いを担う「免疫システム」の働きを助けることが重要です。

<安静と睡眠が免疫を助ける理由>

エネルギーを免疫活動に集中させるため
仕事や家事などの活動を休むことで、体はエネルギーを節約できます。その温存したエネルギーを、病原体と戦う免疫システムに、集中して使うことができるようになります。

免疫細胞の働きを活性化させるため
質の良い睡眠中には、免疫の働きを調整する「サイトカイン」という、 大切な物質が活発に作られることがわかっています。 十分な睡眠は、免疫力を直接的に高めることにつながります。

療養中は、無理に起き上がって活動する必要はありません。 眠れなくても、部屋を暗くして静かに横になるだけで効果があります。 ご自身の体が持つ治癒力を信じて、十分な休息をとることが何よりの薬です。

診断後の自宅療養と家族への感染対策

医師の診察を受け、診断がついたら、指示に従って自宅で療養します。 処方された薬を正しく服用し、無理をせずに体を休めることが何よりも大切です。 その上で、大切なご家族に感染を広げないための対策を徹底しましょう。

<家族への感染対策チェックリスト>

部屋を分ける療養する人と他の家族が過ごす部屋を分け、接触を最小限にします。  ウイルスなどが空気中に広がるのを防ぐためです。
お世話は一人に絞る看病する人は、できれば免疫力のある元気な方一人に絞りましょう。  多くの人が関わると、それだけ感染の機会が増えてしまいます。
マスクを着用する療養している本人も家族も、家の中ではマスクを着けてください。咳やくしゃみによる飛沫の拡散を防ぐ、基本の対策です。
こまめに換気する1〜2時間に1回、5〜10分ほど窓を開けて空気を入れ替えましょう。部屋にこもったウイルスを外に出すことができます。
手洗い・消毒を徹底する石けんを使った手洗いやアルコール消毒をこまめに行います。ドアノブ、スイッチ、トイレのレバー、リモコンなど、皆がよく触る場所を消毒すると、さらに効果的です。
タオルや食器を分けるタオルや食器、歯ブラシなどの共用は避けましょう。洗濯物は一緒に洗っても問題ありませんが、扱った後は必ず手を洗ってください。

これらの基本的な対策を丁寧に行うことで、感染のリスクを大きく減らせます。

■まとめ

今回は、発熱の原因からご自宅でできる正しい対処法、そして病院へ行くべきタイミングまでを詳しく解説しました。
急な発熱はつらいものですが、多くは体を守るための大切な反応です。 まずは慌てずに、十分な休息と水分補給を心がけ、体が回復するのを助けてあげましょう。

ただし、息苦しさやこれまでにない激しい頭痛、意識がはっきりしないなどの危険なサインが見られる場合は、ためらわずに医療機関を受診してください。

参考文献

  • Wright WF, Betz JF, Auwaerter PG. Prospective Studies Comparing Structured vs Nonstructured Diagnostic Protocol Evaluations Among Patients With Fever of Unknown Origin A ystematicReview and Meta-analysis
  • Cunha BA, Lortholary O, Cunha CB. Fever of Unknown Origin: A Clinical Approach.
  • El-Radhi AS, ed. Pathogenesis of Fever.

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