咳を単なる風邪と安易に考えていませんか?実は、咳が長引く背景には、様々な病気が隠れている可能性があるのです。咳の原因は風邪以外にも、気管支炎、肺炎、喘息、肺がん百日咳など多岐に渡り、その種類も乾いた咳、湿った咳、発作性の咳など様々です。150万人以上が苦しむ喘息も、咳が主な症状である咳喘息として現れることがあります。咳の奥に潜む病気を知り、適切な対処法を学びましょう。

■咳の原因

咳は、気道から異物や分泌物を排出するための重要な生体防御反応です。しかし、咳が長引く場合は、単なる風邪ではなく、他の病気が隠れている可能性があります。今回は、咳の原因となる代表的な疾患について、鑑別診断の観点から解説します。

風邪

風邪は、様々なウイルスによって引き起こされる最も一般的な咳の原因です。医学的には「急性上気道炎」と呼ばれ、鼻腔、咽頭、喉頭といった上気道を中心に炎症が起こります。ウイルスが気道に侵入すると、粘膜を刺激し、炎症を引き起こします。これにより、咳、鼻水、喉の痛みなどの症状が現れます。風邪の咳は、初期は乾いた咳であることが多いですが、数日経つと痰を伴う湿った咳に変化することもあります。通常、風邪の症状は1週間から10日程度で改善しますが、咳だけが長引く場合もあります。これは、炎症が気管支まで及んで気管支炎を起こしている可能性や、咳反射が過敏になっている可能性が考えられます。3週間以上咳が続く場合は、慢性咳嗽と定義され、より詳細な検査が必要となることがあります。急性咳嗽の73~91%はウイルス感染によるものと報告されています。

気管支炎

気管支炎は、気管や気管支に炎症が起こる病気です。咳は気管支炎の主要な症状であり、急性気管支炎と慢性気管支炎に分けられます。急性気管支炎は、多くがウイルス感染によって引き起こされ、風邪に引き続いて発症することがよくあります。一方、慢性気管支炎は、長期間にわたる気管支の炎症が持続する状態です。

急性気管支炎では、咳に加えて、痰、発熱、倦怠感などの症状が現れることがあります。咳は最初は乾いた咳であることが多いですが、次第に痰を伴う湿った咳に変化していきます。慢性気管支炎では、持続性の咳と痰が特徴で、特に朝方に症状が強くなる傾向があります。小児ではRSウイルスやヒトメタニューモウイルスによる細気管支炎にも注意が必要です。これらのウイルス感染は、乳幼児の重篤な呼吸器疾患を引き起こす可能性があり、呼吸困難や入院が必要となるケースもあります。

アレルギー

アレルギーは、特定の物質(アレルゲン)に対して体が過剰に反応する状態です。アレルギー反応は、咳を含む様々な症状を引き起こす可能性があります。アレルギー性鼻炎(花粉症など)では、くしゃみ、鼻水、鼻詰まりに加えて、咳の症状が現れることがあります。これは、アレルギー反応によって鼻水が過剰に分泌され、喉に流れ込むことで咳を誘発するためです。また、ハウスダストやダニなどのアレルギー物質が気管支に入り込むと、気管支喘息や咳喘息を引き起こす可能性があります。

アレルギーが原因の咳は、アレルゲンへの曝露を避けることが重要です。咳喘息は、喘息の一種であり、咳が主な症状です。喘鳴を伴わないため、診断が難しい場合もありますが、夜間や早朝に咳がひどくなる、特定の季節に咳が悪化するなどの特徴があります。咳喘息は、適切な治療を行わないと喘息に移行する可能性もあるため、早期の診断と治療が重要です。

喘息

喘息は、気道が慢性的に炎症を起こし、狭くなる病気です。咳は喘息の代表的な症状の一つであり、特に夜間や早朝に悪化する傾向があります。喘息の咳は、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという音)を伴うこともありますが、咳だけが続く場合もあります。これを咳喘息と呼びます。喘息は、アレルギー反応、ウイルス感染、タバコの煙、運動、寒暖差など様々な要因によって引き起こされます。

喘息の診断には、問診、身体診察、肺機能検査などが行われます。検査では、スパイロメトリー、FeNO (呼気ガス検査)、モストグラフと呼ばれる検査を行い、総合的に評価します。喘息の治療には、吸入ステロイド薬や気管支拡張薬などが用いられます。これらの薬剤は、気道の炎症を抑え、気管支を広げることで咳などの症状を改善します。慢性咳嗽の原因として喘息が挙げられており、適切な治療が必要であるとされています。咳喘息の場合も、喘息と同様に吸入ステロイド薬などを使用することがあります。

百日咳(ひゃくにちぜき)

百日咳は「ボルデテラ・パータシス」という細菌によって起こる感染症で、名前の通り咳が何週間も続くのが特徴です。特に夜間の激しい咳込みが多く、咳の合間に「ヒュー」という音を伴うこともあります。初期は風邪に似た症状から始まり、やがて咳だけが残るため見逃されがちです。乳幼児では命に関わる重症になることもあり、ワクチン接種が重要です。大人では咳が軽く済むことが多いため、気づかないうちに周囲に感染を広げることもあります。長引く咳が続くときは、血液検査やPCR検査で診断可能です。治療は主に抗菌薬で、早期治療が咳の期間を短縮する助けとなります。

マイコプラズマ肺炎(非定型肺炎)

マイコプラズマ肺炎は、「マイコプラズマ・ニューモニエ」という細菌に似た病原体によって起こる肺炎で、特に学童から若年成人に多く見られます。咳が長く続くのが最大の特徴で、発熱やのどの痛みを伴うこともあります。初期は軽い風邪に見えますが、徐々に乾いた咳が悪化し、夜間に強くなることも。レントゲンで肺炎像が見られるにもかかわらず、聴診では異常音が乏しいことがあり「非定型肺炎」とも呼ばれます。市販の風邪薬では治らず、マクロライド系などの特定の抗菌薬が必要です。学校や職場で流行することがあるため、早めの受診と診断が重要です。

ヒトメタニューモウイルス感染症

ヒトメタニューモウイルス(hMPV)は、乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層に感染するウイルスで、特に春先に流行することが多いです。症状はRSウイルスに似ており、発熱、咳、鼻水などの風邪症状から、気管支炎や肺炎に進行することもあります。小児ではゼーゼーする喘鳴が出たり、重症化することもあり、高齢者では既往の肺疾患が悪化するケースもあります。hMPVは咳が長引く原因のひとつであり、抗生物質は効きません。診断は抗原検査やPCRによって行われ、対症療法が中心となります。集団生活での感染拡大が起きやすいため、手洗い・マスクの予防が大切です。

肺炎(細菌性肺炎)

肺炎とは、肺の中に細菌やウイルスが入り込み、炎症を起こす病気です。高齢者に多く、命に関わることもあるため注意が必要です。代表的な症状は、咳、発熱、痰、胸の痛み、息苦しさなど。特に高齢者では発熱が乏しく、咳と倦怠感だけが目立つこともあります。肺炎の原因菌としては、肺炎球菌がよく知られています。診断には胸部レントゲンや血液検査が有用で、重症度に応じて抗菌薬による治療が行われます。ワクチンによる予防も可能で、肺炎球菌ワクチンの接種は高齢者や基礎疾患のある方に推奨されています。咳と発熱が長引くときは、早めに受診を。

結核(けっかく)

結核は「結核菌」という細菌によって引き起こされる感染症で、かつては「国民病」とも言われましたが、今でも日本で年間1万人以上が新たに発症しています。長引く咳、微熱、体重減少、寝汗などが主な症状で、特に咳が3週間以上続く場合には疑いを持つべきです。結核は空気感染し、特に高齢者や免疫力の低下している人で発症しやすくなります。診断には胸部レントゲン、痰の検査、CT検査などが行われ、確定すれば数ヶ月間の抗結核薬による治療が必要です。早期発見・早期治療が重要であり、咳が続く場合は、単なる風邪と決めつけずに医療機関を受診しましょう。

逆流性食道炎(胃食道逆流症:GERD)

咳が長引く原因として意外に知られていないのが、逆流性食道炎です。これは胃酸や胃の内容物が食道へ逆流し、粘膜を刺激することで炎症を起こす病気ですが、この刺激が気道にまで波及すると、咳が出ることがあります。特に、横になると咳が悪化する、喉がイガイガする、胸やけがある、といった症状があれば要注意です。気管支や肺に異常がないのに咳が続く場合、消化器系の病気が隠れていることもあります。治療は生活習慣の見直しと、胃酸の分泌を抑える薬が中心となります。咳止めが効かないときは、消化器内科の受診も検討しましょう。

薬剤性咳嗽(くすりによる咳)

血圧の薬など、日常的に使われるお薬が原因で咳が出ることがあります。特に「ACE阻害薬(エースそがいやく)」という種類の降圧薬は、副作用として空咳(乾いた咳)を引き起こすことが知られています。薬による咳は風邪と違って熱や痰は伴わず、数週間~数カ月続くこともあります。原因に気づかないまま他の検査や治療を続けてしまうケースも少なくありません。薬剤性咳嗽は、薬の中止や変更で改善することが多く、早期に医師へ相談することが大切です。薬を飲み始めてから咳が続いている方は、服薬履歴を医師に伝えましょう。

肺がん

咳が長期間にわたって続くとき、重大な疾患のサインであることもあります。そのひとつが肺がんです。初期の肺がんは自覚症状が少ないことが多いですが、「風邪が治ったのに咳だけがずっと残っている」「痰に血が混じる」「声がかすれる」などの症状が出た場合は要注意です。喫煙歴がある方や高齢者は特に注意が必要で、レントゲンやCT検査で早期発見することが可能です。早期の肺がんは治療成績も良く、手術や放射線治療、薬物療法で対応できます。気になる症状が続く場合は、我慢せずに早めに呼吸器内科を受診しましょう。

誤嚥性肺炎

高齢者に多い咳の原因として、「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」も見逃せません。これは、食べ物や唾液、胃液などが誤って気道に入り、それがもとで肺に炎症を起こす病気です。食後や夜間に咳が出る、むせやすい、熱が出たり痰が絡んだりする場合は、この可能性があります。嚥下機能の低下や、寝たきりの生活、口腔内の不衛生などもリスク要因となります。誤嚥性肺炎は繰り返すことが多いため、予防として嚥下訓練や口腔ケア、正しい食事姿勢などが重要です。特に高齢の方は日常の咳にも注意を払いましょう。

口腔フレイル

口腔フレイルとは、加齢などにより口の機能(噛む、飲み込む、話すなど)が衰える状態を指します。この状態になると、食べ物をうまく飲み込めず、むせやすくなったり、咳が出やすくなったりします。咳の原因が肺や気管支ではなく、実は「口の衰え」による場合もあるのです。口腔フレイルは放っておくと、栄養不足や誤嚥性肺炎、さらには全身のフレイル(虚弱)へと進行してしまいます。定期的な歯科検診や、口腔体操、リハビリなどによる予防が大切です。「最近食べにくくなった」「会話がしにくくなった」と感じたら、医師や歯科医に相談しましょう。

■咳の種類

咳は、呼吸器系の防御反応として重要な役割を果たしています。異物や過剰な分泌物を気道から排除することで、呼吸器を守っています。しかし、咳が長引くと日常生活に支障をきたすだけでなく、重大な疾患のサインである可能性も考えなければなりません。咳の種類を理解し、適切な対処をすることは、健康を守る上で重要です。咳には様々な種類があり、それぞれ異なる症状や原因が考えられます。咳の種類から考えられる病気を解説します。

乾いた咳(空咳)

乾いた咳(空咳)とは、痰を伴わない咳のことを指します。風邪の初期症状によく見られますが、実は様々な病気が隠れている可能性があります。例えば、咳喘息は、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)を伴わない咳が特徴です。アレルギーや風邪の後、あるいはタバコの煙や冷たい空気などの刺激によって引き起こされることがあります。

また、間質性肺炎も乾いた咳を引き起こす疾患の一つです。間質性肺炎は、肺胞(酸素と二酸化炭素の交換を行う場所)の壁が炎症を起こし、線維化していく病気です。初期症状は乾いた咳と息切れであり、進行すると呼吸困難に至ることもあります。

さらに、心因性咳嗽という、精神的なストレスや不安が原因で起こる咳も、乾いた咳として現れることがあります。この場合、身体的な異常は見つからないことが多いです。乾いた咳が続く場合は、これらの疾患の可能性も考慮し、医療機関を受診することが重要です。医師は、問診、身体診察、胸部レントゲン検査、肺機能検査などを行い、原因を特定していきます。

湿った咳(痰を伴う咳)

湿った咳とは、痰を伴う咳のことで、一般的に気管支炎や肺炎で多く見られます。気管支炎は、気管支に炎症が起こる病気で、ウイルスや細菌感染が主な原因です。肺炎は、肺胞に炎症が起こる病気で、細菌やウイルス感染などが原因となります。湿った咳では、痰の色や性状も診断の重要な手がかりとなります。黄色や緑色の痰は細菌感染、鉄さび色の痰は肺炎球菌肺炎、血痰は肺結核や肺がんなどが疑われます。

また、COPD(慢性閉塞性肺疾患)も湿った咳を引き起こす疾患の一つです。COPDは、主に喫煙によって引き起こされる肺の慢性的な炎症性疾患です。長期間にわたる咳や痰、息切れが特徴です。COPDは進行性であり、完治は難しいですが、適切な治療によって症状の進行を遅らせることは可能です。湿った咳が続く場合は、これらの疾患の可能性も考慮し、医療機関を受診することが重要です。

発作性の咳

発作性の咳とは、突然起こる激しい咳のことです。代表的な疾患として百日咳が挙げられます。百日咳は、百日咳菌という細菌によって引き起こされる感染症で、コンコンという連続した咳の後、ヒューという笛のような音を伴う吸気(レプリーゼ)が特徴的です。乳幼児では呼吸困難に陥ることもあり、重篤な合併症を引き起こす可能性があります。

また、マイコプラズマ肺炎も発作性の咳を引き起こすことがあります。マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマという微生物によって引き起こされる感染症で、乾いた咳や発熱が主な症状です。発作性の咳が続く場合は、医療機関を受診し、適切な検査と治療を受けることが重要です。

痙攣性の咳

痙攣性の咳とは、短い間隔で繰り返される咳のことです。百日咳やウイルス感染などが原因で起こることがあります。咳が続くと、呼吸困難や嘔吐、失神などを引き起こす場合もあります。痙攣性の咳が続く場合は、速やかに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。

咳過敏症候群という新しい概念も提唱されています。これは、咳嗽反射の過敏性、中心性感作、末梢性感作、逆説的声帯運動など、複雑な病態生理を含むと考えられています。

喘鳴を伴う咳

喘鳴を伴う咳とは、ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音が聞こえる咳です。喘息や気管支炎、COPDなどが考えられます。喘息は、アレルギー反応などによって気道が狭くなる病気で、喘鳴、呼吸困難、咳などの症状が現れます。

喘鳴を伴う咳が続く場合、医療機関を受診し、原因疾患を特定することが重要です。原因に応じて吸入薬や抗炎症薬などが処方されます。COPDは、喫煙などが原因で肺に慢性的な炎症が起こる病気であり、咳や痰、息切れが主な症状です。ヒトメタニューモウイルスによる細気管支炎も喘鳴を伴う咳の原因となりえます。特に乳幼児では重症化しやすく、入院が必要となるケースもあります。

咳は、様々な疾患のサインである可能性があります。咳の種類や症状を理解し、適切な対処をすることが重要です。自己判断せずに、医療機関を受診し、専門家の診断を受けるようにしてください。

■咳の治療法

咳が長引く場合は、安易に市販薬に頼るだけでなく、医療機関を受診し、専門家の診断を受けることが重要です。咳の原因を特定し、適切な治療を受けることで、つらい咳から解放され、より健康的な生活を送ることができるようになります。咳の治療法として、病院での治療、家庭でできるケアについて解説します。

病院での治療

咳が長引く場合や、発熱、息切れ、胸痛などの症状を伴う場合は、速やかに病院を受診することが重要です。病院では、問診、身体診察、血液検査、胸部レントゲン検査、肺機能検査など、様々な検査を通して咳の原因を詳しく調べます。

慢性咳嗽の場合、代表的な原因として、上気道咳嗽症候群(UACS)、喘息、胃食道逆流症(GERD)が挙げられます。これらの疾患は単独で、あるいは組み合わさって存在することもあります。UACSは、鼻水が喉に垂れて咳を誘発する後鼻漏が原因となることが多く、鼻炎の治療薬が有効です。喘息は、気道の炎症によって咳や喘鳴が生じる病気で、吸入ステロイド薬や気管支拡張薬などが用いられます。GERDは、胃酸が食道に逆流し、咳を誘発する病気で、胃酸を抑える薬が有効です。

近年の研究では、咳過敏症候群という新しい概念が提唱されています。これは、咳嗽反射の過敏性、中枢性感作、末梢性感作、逆説的声帯運動など、複雑な病態生理を含むと考えられています。「風邪は治ったのに、なぜか咳だけが何週間も続いている」「レントゲンや血液検査では異常がないのに咳が止まらない」そのような方は「咳過敏症候群(cough hypersensitivity syndrome)」の可能性があります。咳過敏症候群とは、気道の神経が過敏になり、本来は咳が出ないような軽い刺激(におい、会話、冷気、乾燥など)でも咳が出てしまう状態です。風邪や感染症のあとに続くことも多く、咳が何カ月も続くことで日常生活に支障をきたすこともあります。

そのような“治りにくい咳”に対して、2022年に新しく登場したお薬が「リフヌア(ゲーファピキサント)」です。これは日本で初めて「難治性慢性咳嗽」に適応をもつ薬で、これまでの咳止めとは作用機序が異なります。

リフヌア

リフヌアは、咳に関係する神経の「P2X3受容体」という部分に働きかけ、咳の反射そのものを鈍らせることで咳を抑える新しいタイプの薬です。従来の鎮咳薬では効果が乏しかった方にも、有効性が示されています。

実際の効果と注意点

臨床試験では、リフヌアを使用した患者さんで「咳の回数が明らかに減った」「日常生活の苦痛が軽くなった」といった結果が報告されています。特に、他の薬が効かず、原因が特定できないまま咳が続いていた方にとっては、画期的な治療の選択肢となっています。

ただし、副作用として「味覚の異常(味がわかりづらくなる)」が一定の頻度でみられることがあり、慎重な経過観察が必要です。また、すべての咳に効果があるわけではないため、咳の原因をしっかり診断したうえで処方されます。
咳過敏症候群は、見た目ではわかりにくく、周囲の理解も得られにくい病気です。しかし、現代では診断方法や治療薬も進化しており、リフヌアのような新薬で改善する方も増えています。

家庭でできるケア

咳の症状を和らげるために、家庭でもできるケアはいくつかあります。十分な水分補給は、痰を出しやすくし、喉の乾燥を防ぐ効果があります。常温の水や白湯、ノンカフェインのお茶などをこまめに摂取しましょう。また、部屋の湿度を適切に保つことも重要です。乾燥した空気は咳を悪化させるため、加湿器を使用したり、濡れたタオルを部屋に干したりして、湿度を50~60%に保つようにしましょう。

さらに、十分な休息も重要です。咳をしている時は体力を消耗しやすいため、十分な睡眠をとり、体を休ませるように心掛けてください。そして、禁煙も咳の症状改善に大きく貢献します。タバコの煙は気道を刺激し、咳を悪化させるため、禁煙を強くお勧めします。これらの家庭でできるケアを実践することで、咳の症状を和らげ、回復を早めることができます。咳が長引く場合は自己判断せずに、医療機関を受診し、専門家の診断を受けるようにしてください。

咳の予防と対策

咳が長引くと、日常生活に支障をきたすだけでなく、周囲の人へ感染を広げてしまう可能性も懸念されます。咳を効果的に予防するための対策をご紹介いたします。

うがい手洗い

咳の原因となるウイルスや細菌の感染経路として、接触感染と飛沫感染が挙げられます。接触感染とは、ウイルスや細菌が付着した物に触れることで感染する経路です。一方、飛沫感染とは、咳やくしゃみによって飛び散ったウイルスや細菌を吸い込むことで感染する経路です。

これらの感染経路を遮断するために、こまめなうがいと手洗いが非常に効果的です。特に、外出後や食事前、人混みの中に行った後などは、感染リスクが高まるため、必ずうがいと手洗いを行うようにしましょう。うがいは、水やうがい薬を用いて、口の中全体をすすぎ、ガラガラと音を立てて喉の奥までしっかりと洗うことが大切です。1回あたり20~30秒程度行うのが理想的です。手洗いは、流水で石鹸をよく泡立て、手のひら、手の甲、指の間、爪の間、親指、手首まで丁寧に洗い、その後、清潔なタオルでしっかりと拭き取るようにしてください。手洗いは30秒以上かけて行うのが効果的です。また、アルコール消毒液も有効です。

適切な湿度管理

空気が乾燥すると、気道粘膜の防御機能が低下し、ウイルスや細菌が侵入しやすくなります。さらに、乾燥した空気は気道を刺激し、咳を悪化させる原因にもなります。適切な湿度を保つことは、咳の予防だけでなく、健康維持のためにも重要です。室内の湿度は、50~60%を目安に保つように心がけましょう。加湿器を使用する、濡れタオルを干す、洗濯物を室内に干すなどの方法で湿度を上げることができます。冬場は特に乾燥しやすいため、こまめな加湿を心がけましょう。また、定期的に換気を行うことも重要です。新鮮な空気を取り入れることで、ウイルスや細菌の増殖を抑えることができます。近年、咳過敏症候群という概念が提唱されています。これは、咳嗽反射の過敏性、中枢性感作、末梢性感作、逆説的声帯運動など、複雑な病態生理を含むと考えられています。この病態生理の観点からも適切な湿度の維持は重要と考えられます。

禁煙

タバコの煙には、多くの有害物質が含まれており、これらは気道を刺激し、咳や痰などの呼吸器症状を引き起こします。タバコは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの深刻な呼吸器疾患のリスクを高めることも知られています。COPDは、慢性的な咳や痰、息切れが主な症状で、進行すると日常生活に大きな支障をきたす病気です。咳の予防、そして健康維持のためにも、禁煙を強くお勧めします。禁煙は、咳の症状を改善するだけでなく、呼吸器疾患のリスクを減らすことにもつながります。禁煙が難しい場合は、禁煙外来を受診するなど、専門家のサポートを受けるのも良いでしょう。

マスクの着用

咳やくしゃみは、ウイルスや細菌を含む飛沫を周囲に拡散させ、感染を広げる原因となります。咳をしている人がマスクを着用することで、この飛沫感染を防ぎ、周囲の人への感染拡大を予防することができます。咳エチケットとして、マスクの着用を心がけましょう。咳が出ていない場合でも、ウイルス感染予防として、混雑した場所や医療機関などではマスクの着用が推奨されます。マスクは正しく着用することが重要です。鼻と口を完全に覆い、隙間がないようにフィットさせましょう。また、マスクが汚れたり、湿ったりした場合は、新しいマスクに交換しましょう。使用済みのマスクは、適切に処分することが大切です。

■まとめ

咳は、異物を排出するための体の防御反応ですが、様々な原因が考えられます。咳の種類も乾いた咳、湿った咳、発作性の咳など様々です。

咳が長引く場合は、自己判断せず医療機関を受診しましょう。適切な検査と診断で、原因に合わせた治療を受けることが大切です。市販薬で一時的に症状を抑えることもできますが、根本的な解決にはなりません。

日常生活では、うがい手洗い、適切な湿度管理、禁煙、マスク着用などの予防策を心がけ、健康管理に努めましょう。咳への理解を深め、適切な対処で快適な毎日を送りましょう。

参考文献

  • De Blasio F, Virchow JC, Polverino M, Zanasi A, Behrakis PK, Kilinç G, Balsamo R, De Danieli G, Lanata L. “Cough management: a practical approach.”
  • Gibson PG, Vertigan AE. “Management of chronic refractory cough.”
  • Wang S, Zhang S, Liu J. “Resurgence of pertussis: Epidemiological trends, contributing factors, challenges, and recommendations for vaccination and surveillance.” Human vaccines & immunotherapeutics 21, no. 1 (2025): 2513729.

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