狭心症
胸の痛みや圧迫感、そのような症状はありませんか?実は、これらは狭心症のサインかもしれません。日本では、心疾患が死因の上位を占めており、その代表格が狭心症から進行する心筋梗塞です。 英国の調査によると、狭心症患者の約3分の1が軽い運動で心電図に異常を示し、10人に1人が1年以内に心筋梗塞を発症しています。 決して他人事ではありません。
ここでは、狭心症の症状や原因、検査方法、治療法、そして予防策まで、心臓を守るための情報を網羅的に解説します。
心臓は、全身に血液を送るポンプの役割を担っています。 しかし、その心臓自身にも酸素と栄養を供給する必要があります。その役割を担う冠動脈が狭窄することで、心臓の筋肉に十分な血液が供給されず酸素不足に陥ります。これが狭心症です。 動脈硬化が主な原因であり、高血圧、糖尿病、喫煙、脂質異常症などは危険因子となります。
狭心症は、胸の痛みや圧迫感といった症状が現れます。安静時に起こることもあれば、運動時や興奮時に起こることもあります。症状は数分から数十分持続し、安静にすることで軽減または消失するのが一般的です。 狭心症の種類は、安定狭心症、不安定狭心症、冠攣縮性狭心症、異型狭心症の4種類に分けられます。
■狭心症の代表的な症状:胸の痛みや圧迫感
狭心症の最も特徴的な症状は、胸の痛みや圧迫感です。これは、心臓の筋肉が酸素不足に陥ることで引き起こされます。痛みの感じ方は人それぞれで、締め付けられるような痛み、重苦しい感じ、焼けるような痛みなど、様々な表現で表現されます。痛みの場所は、胸の真ん中あたりが最も多いですが、みぞおち、左肩、左腕、首、顎、背中などにも広がることがあります。
これらの症状は、心臓への負担が増加するような、階段の上り下りや重い荷物を持った時などに現れやすく、安静にすると症状が和らぐのが特徴です。これは、安静にすることで心臓への負担が軽減され、酸素の需要と供給のバランスが改善されるためです。
狭心症の痛みは、通常数分から数十分持続します。英国で行われた調査によると、狭心症の患者の約3分の1が、軽い運動をしただけで心電図に異常が見られ、心臓に十分な血液が送られていないサインを示しました。さらに、この調査では、狭心症患者の10人に1人が1年以内に心筋梗塞を発症しているという結果も出ており、決して軽視できる病気ではないことを示唆しています。
■狭心症の種類:安定狭心症、不安定狭心症、冠攣縮性狭心症、異型狭心症
狭心症は、症状の出現するタイミングや原因、重症度によっていくつかの種類に分類されます。大きく分けて、安定狭心症、不安定狭心症、冠攣縮性狭心症、異型狭心症の4種類があります。
安定狭心症 | 運動時や興奮時など、心臓に負担がかかった時に症状が現れます。安静にすると症状は軽減または消失します。 |
不安定狭心症 | 安定狭心症に比べて症状が重く、安静時にも胸痛が起こることがあります。ニトログリセリンなどの薬の効果も弱くなります。心筋梗塞に進行する危険性が高いため、注意が必要です。 |
冠攣縮性狭心症 | 冠動脈がけいれんを起こして一時的に狭くなることで、主に安静時、特に夜間や早朝に胸痛が起こります。 |
異型狭心症 | 冠動脈の大きな血管ではなく、心臓の表面近くにある細い血管がけいれんを起こすことで発生します。労作とは関係なく、安静時、特に夜間や早朝に発作が起こりやすいのが特徴です。 |
狭心症の原因となる動脈硬化とは?
狭心症の主な原因は動脈硬化です。動脈硬化とは、血管の壁にコレステロールなどの脂肪が蓄積し、血管が硬く、狭くなってしまう状態です。血管が狭くなると、血液の流れが悪くなり、心臓の筋肉に必要な酸素や栄養が十分に届かなくなります。
動脈硬化は自覚症状がないまま進行することが多く、知らないうちに病状が悪化しているケースも少なくありません。フィンランドの研究では、安定狭心症と診断された患者さんの男女間の発生率はほぼ同じでしたが、75歳未満の女性では、男性よりも冠動脈疾患による死亡率が高いという結果が示されました。これは、女性ホルモンの減少による血管の保護作用の低下などが影響していると考えられています。
■狭心症を引き起こす危険因子:高血圧、糖尿病、喫煙など
動脈硬化の進行には、様々な危険因子が関わっています。危険因子を複数持っている場合、狭心症のリスクはさらに高まります。主な危険因子としては、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、肥満、遺伝、加齢、生活習慣の乱れなどが挙げられます。
高血圧は、血管に常に高い圧力がかかるため、血管壁に負担がかかり、動脈硬化を促進します。糖尿病は、高血糖状態が血管を損傷し、動脈硬化を進行させます。脂質異常症は、血液中のコレステロールや中性脂肪が多すぎる状態で、血管壁にコレステロールがたまりやすくなり、動脈硬化の原因となります。喫煙は、タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素などの有害物質が血管を収縮させ、血管壁を傷つけるため、動脈硬化を悪化させます。
肥満は、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの危険因子につながりやすく、狭心症のリスクを高めます。家族に狭心症や心筋梗塞になった人がいる場合、遺伝的に動脈硬化を起こしやすい体質の可能性があります。加齢とともに血管も老化し、動脈硬化が進行しやすくなります。睡眠不足、運動不足、過度のストレスなどの生活習慣の乱れも、動脈硬化を促進する要因となります。
これらの危険因子を理解し、生活習慣を改善することで、狭心症を予防し進行を遅らせることができます。
■狭心症の診断方法:心電図、心臓超音波、運動負荷試験、冠動脈造影など
狭心症の検査は、心臓の状態を詳細に調べるための様々な方法を組み合わせて行います。それぞれの検査方法には得意な分野があり、これらを組み合わせることで、より正確な診断が可能になります。
心電図検査
心臓の電気的な活動を波形として記録する検査です。狭心症発作時は、心臓の筋肉に酸素が不足しているため、特徴的な変化が心電図に現れます。安静時の状態だけでなく、運動中の変化を見る「運動負荷心電図」もあります。これにより、心臓に負担がかかった時に狭心症の症状が出ていないかを確認できます。普段は異常がなくても、運動中にだけ心電図に変化が現れる場合もあるため、この検査は非常に重要です。
心臓超音波検査(心エコー)
超音波を使って心臓の動きや形、弁の状態などを調べます。心臓の筋肉の厚さや動き、血液の流れなどをリアルタイムで見ることができるため、心臓のポンプ機能や弁の開閉状態などを評価するのに役立ちます。また、心臓の壁の動きを見ることで、狭心症によって心臓の筋肉が一時的に収縮不全を起こしていないかを確認することもできます。
運動負荷試験
自転車こぎやトレッドミル(ランニングマシン)などで運動しながら、心電図や血圧を測定します。運動によって心臓に負荷をかけ、狭心症の症状が出るか、心臓にどのような変化が起こるかを調べます。安静時には症状が現れない軽度の狭心症の診断にも有用です。英国における研究では、約3分の1の患者が低負荷の運動負荷試験でも有意な心筋虚血を示したという報告があり、軽微な運動でも心臓への負担が大きい場合があることを示しています。
冠動脈CT検査
CTを使って冠動脈の状態を画像化します。造影剤を使うことで、血管の狭窄や石灰化の程度を詳しく評価できます。冠動脈の状態を立体的に把握できるため、狭窄の場所や程度を正確に診断することができます。
冠動脈造影検査
カテーテルという細い管を血管に通して心臓まで進め、造影剤を注入して冠動脈をレントゲン撮影する検査です。「心臓カテーテル検査」とも呼ばれます。冠動脈の狭窄の場所や程度を最も正確に診断できる検査で、検査と同時にカテーテル治療を行うことも可能です。
■狭心症の主な治療法3つ:薬物療法、カテーテル治療、バイパス手術
狭心症の治療法は、大きく分けて薬物療法、カテーテル治療、バイパス手術の3つがあります。最適な治療法は、患者さんの症状の程度、年齢、合併症の有無、そして患者さん自身の希望などを総合的に考慮して決定されます。
薬物療法
狭心症の症状を和らげたり、狭心症が進行するのを抑えたりするための薬を使います。ニトログリセリンのように発作時に血管を広げて痛みを和らげる薬や、β遮断薬、カルシウム拮抗薬のように心臓の負担を軽くする薬、抗血小板薬のように血液をサラサラにする薬など、様々な種類の薬があります。閉塞性冠動脈疾患において、最適な薬物療法は治療の基礎となります。患者さんの状態に合わせて薬の種類や量を調整し、長期的に管理していくことが重要です。
カテーテル治療
カテーテルという細い管を血管に通して心臓まで進め、バルーンと呼ばれる風船で狭くなった血管を広げたり、ステントと呼ばれる金属の網で血管を支えたりする治療法です。体に負担の少ない低侵襲な治療法で、入院期間も短くて済みます。
バイパス手術
狭くなった冠動脈を迂回する新しい血管をつくる手術です。自分の血管(多くは大腿静脈や内胸動脈)を移植してバイパスを作成します。心臓への血流を改善することで、狭心症の症状を根本的に改善することができます。
■狭心症の予防と日常生活の注意点
狭心症は、心臓を取り巻く冠動脈という血管が狭くなることで、心臓の筋肉に十分な血液が供給されず、酸素不足に陥る病気です。この酸素不足は、心臓がより多くの酸素を必要とする状況、例えば運動時や強いストレスを感じた時などに顕著になります。結果として、胸の痛みや圧迫感といった症状が現れます。
狭心症は、生活習慣と密接に関連しています。日常生活を少し工夫することで、狭心症を予防したり、再発を防いだりできる可能性が高まります。
狭心症の再発を予防するための生活習慣改善
狭心症の再発を予防するためには、動脈硬化の進行を抑えることが極めて重要です。動脈硬化とは、血管の壁にコレステロールなどの脂肪が蓄積し、血管が硬く、狭くなってしまう状態です。この状態が進行すると、心臓への血液の流れが悪くなり、狭心症のリスクが高まります。
動脈硬化は静かに進行し、自覚症状がないまま病状が悪化することも少なくありません。だからこそ、日頃から生活習慣に気を配り、動脈硬化の予防に努めることが大切です。
狭心症の再発予防、そして動脈硬化の進行抑制には、以下の3つのポイントが重要です。
バランスの取れた食事 | 脂肪分の多い食事や塩分の多い食事は、動脈硬化を進行させる危険因子となります。脂質異常症は、狭心症の大きなリスク要因です。健康な食生活を維持するために、野菜、果物、魚、大豆製品などを積極的に摂り入れ、バランスの取れた食事を心がけてください。特に、地中海式ダイエットは心臓血管の健康に良い影響を与えることが多くの研究で示されています。 |
適度な運動 | 適度な運動は、血液循環を良くし、動脈硬化の予防に効果的です。ウォーキングや軽いジョギング、水泳など、無理のない範囲で継続できる有酸素運動を選びましょう。心臓リハビリテーションなどの専門家の指導のもと、安全かつ効果的な運動プログラムを実施することで、更なる効果が期待できます。運動は、心血管系の転帰改善だけでなく、生活の質の向上にも貢献します。 |
禁煙 | タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素は、血管を収縮させ、血管壁を傷つけ、動脈硬化を悪化させる大きな原因となります。禁煙は狭心症の予防と再発防止に非常に重要です。喫煙は狭心症だけでなく、様々な疾患のリスクを高めるため、禁煙を強く推奨します。 |
■狭心症の食事療法:塩分、コレステロール、脂肪の摂取を控える
狭心症の食事療法においては、塩分、コレステロール、脂肪の摂取を控えることが重要です。これらの過剰摂取は、高血圧や高脂血症といった動脈硬化の危険因子となるため、適切な管理が必要です。
塩分 | 塩分の摂りすぎは血圧を上昇させ、心臓に負担をかけるため、1日6g未満を目標にしましょう。減塩のコツは、調味料を控えめにする、加工食品やインスタント食品を避ける、だしや香辛料を活用するなどです。 |
コレステロール | コレステロールは細胞膜やホルモンの材料となる大切な栄養素ですが、摂りすぎると血管壁にコレステロールがたまりやすくなります。卵や肉の脂身、バターなど動物性脂肪に多く含まれるため、摂りすぎに注意しましょう。 |
脂肪 | 脂肪はエネルギー源として重要ですが、摂りすぎると肥満の原因になります。肉類や乳製品に多く含まれる飽和脂肪酸は、動脈硬化を促進する可能性があるため、摂取量を控えましょう。一方、魚に多く含まれる不飽和脂肪酸(EPA、DHAなど)は、善玉コレステロールを増やす働きがあるため、積極的に摂り入れることが推奨されています。 |
■狭心症と運動療法:適切な運動の種類と強度
狭心症の運動療法は、心臓の機能を高め、症状の改善に役立ちますが、激しい運動は心臓に負担をかけるため、適切な種類と強度で行うことが重要です。ウォーキングや水泳、サイクリングなど、無理なく続けられる有酸素運動がおすすめです。
運動時間は、最初は10分程度から始め、3〜5分ずつ運動時間を延ばしていくようにしましょう。運動中に胸痛などの症状が現れた場合は、すぐに運動を中止し、安静にしてください。医師と相談しながら、自分の体に合った運動プログラムを作成してもらうと、より安全に運動を続けることができます。
■狭心症発作時の対処法
狭心症の発作は、突然起こることがあります。発作時の適切な対処法を理解しておくことは、症状の悪化を防ぐために重要です。
狭心症の発作が起きたら、まず安静にして、楽な姿勢を取りましょう。ニトログリセリンが処方されている場合は、医師の指示に従って服用してください。ニトログリセリンは血管を広げる作用があり、胸の痛みを和らげる効果があります。薬を服用しても症状が改善しない場合や、強い痛み、息苦しさ、冷や汗などを伴う場合は、すぐに救急車を呼びましょう。
緊急時の連絡先と対応
狭心症発作時の緊急連絡先は、あらかじめ確認しておきましょう。救急車を呼ぶ際には、落ち着いて症状を伝え、指示に従ってください。普段からかかりつけ医の連絡先や、緊急連絡先を家族や周囲の人にも伝えておくことも大切です。発作時の対応をスムーズに行うためにも、家族や周囲の人にも狭心症について理解してもらうようにしましょう。
■まとめ
狭心症は、心臓の筋肉に十分な血液が供給されないことで起こる病気です。胸の痛みや圧迫感が主な症状で、放置すると心筋梗塞に繋がる危険性があります。検査方法は、心電図、心臓超音波、運動負荷試験などがあり、治療法は薬物療法、カテーテル治療、バイパス手術があります。
生活習慣の改善は狭心症予防に効果的です。バランスの良い食事、適度な運動、禁煙を心がけ、塩分・コレステロール・脂肪分の摂りすぎに注意しましょう。自分に合った適切な運動の種類や強度についても、医師に相談してみましょう。また、発作時の対処法や緊急連絡先を確認しておくことも大切です。少しでも不安を感じたら、早めに医療機関を受診し、適切なアドバイスと治療を受けるようにしてください。
参考文献
- Hemingway H, McCallum A, Shipley M, Manderbacka K, Martikainen P, Keskimäki I. Incidence and Prognostic Implications of Stable Angina Pectoris Among Women and Men.
- Gandhi MM, Lampe FC, Wood DA. Incidence, clinical characteristics, and short-term prognosis of angina pectoris.
- Rinaldi R, Kunadian V, Crea F, Montone RA. Management of angina pectoris.