ヘルパンギーナ・手足口病

ヘルパンギーナと手足口病は、いずれも主にエンテロウイルスによって引き起こされる、小児に多いウイルス感染症です。特に夏季に流行しやすく、保育園や幼稚園など子どもが集まる施設で集団感染が発生しやすい傾向があります。発熱や口内炎、発疹などが代表的な症状で、ほとんどのケースでは数日以内に自然に治癒しますが、まれに重症化し、神経系の合併症や呼吸障害を伴うこともあります。新型コロナウイルス感染症の流行によって社会全体の感染対策が強化されたことから、これらのウイルス感染症の発生も一時的に減少しました。しかし、コロナ対策の緩和により2023年以降は再び流行傾向が強まり、医療現場でも注意が必要な疾患として再注目されています。

■症状

ヘルパンギーナと手足口病はいずれも似たウイルスにより引き起こされるため、一部の症状が共通しています。まずヘルパンギーナは、突然の高熱(39~40℃前後)で発症し、喉の奥に小さな水疱や潰瘍が出現します。これにより、のどの痛みが強く、食事や水分摂取が困難になることもあります。主に1歳から5歳の乳幼児に多く見られ、6〜8月の初夏から夏にかけて流行のピークを迎えます。一方、手足口病は38℃前後の軽い発熱とともに、手のひらや足の裏、口の中に小さな水疱や発疹ができるのが特徴です。肘や膝、おしりなどにも発疹が広がることがあります。ほとんどのケースは軽症ですが、EV-A71型のウイルスによる手足口病では、まれに脳炎や無菌性髄膜炎、心筋炎など重篤な合併症が起こる可能性があり注意が必要です。

■ポストコロナにおける傾向

新型コロナウイルス感染症の流行期には、マスク着用や外出制限、手指衛生の徹底により、ヘルパンギーナや手足口病を含む多くのウイルス感染症が激減しました。しかし、2023年より、感染対策の緩和とともにヘルパンギーナが大規模に再流行し、例年の数倍規模の患者報告がありました。特に3〜5歳児での増加が目立ち、感染機会がなかった幼児が免疫を持たずに感染しやすくなったことが原因と考えられています。同様に手足口病も再び流行がみられ、特に神経症状を伴いやすいEV-A71型や、広範囲な発疹を引き起こすCVA6型、CVA10型などが世界的に広がっています。また、複数のウイルス型が同時に流行し、重症化や合併症のリスクが高まる傾向があるため、注意が必要です。感染症対策の切り替え期における予防行動の維持が求められています。

■治療

ヘルパンギーナや手足口病に対する特効薬は現時点で存在せず、治療の基本は対症療法です。高熱に対しては解熱剤を、口内炎やのどの痛みに対しては口腔ケアを行い、水分補給と安静を徹底します。乳幼児では口の痛みから食事が取れず脱水になるリスクが高いため、こまめな水分摂取が重要です。通常は3~7日で自然に快方へ向かいますが、EV-A71型による手足口病など一部のケースでは脳炎や心筋炎などの重篤な合併症を引き起こすことがあります。その場合は、入院のうえで集中治療や免疫グロブリン療法、人工呼吸器による呼吸管理、心機能のサポートなどが必要になります。また、近年では新たなウイルス型への対応として多価ワクチンの開発や抗ウイルス薬の研究も進められていますが、一般診療ではまだ標準治療とはなっていません。

■予防

ヘルパンギーナや手足口病の予防において最も重要なのは、日常生活での基本的な感染対策です。特に乳幼児がいる家庭や保育施設では、次のような対策が効果的です。まず、こまめな手洗いを徹底しましょう。トイレ後や食事前、おむつ交換後には必ず石けんと流水でしっかり洗うことが大切です。加えて、タオルの共用を避けたり、おもちゃや食器などの共用物を清潔に保つことも重要です。また、感染拡大を防ぐために、発熱や発疹のある場合は登園・登校を控え、他児との接触を避けることが望まれます。今後はCVA6型やCVA10型を含む多価ワクチンの開発が期待されており、日本でも感染症対策の一環として注目される分野です。

参考文献

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