病気と健康の話

【脂質異常症】健診で“脂質異常”といわれたら?: AACE 2025を含めたアップデート版

健康診断で「コレステロール」や「中性脂肪」の値が高いと指摘されても、なんとなくそのままにされている方が多いでしょう。これらの値が高い状態は「脂質異常症」と呼ばれ、自覚症状がないまま動脈の壁に脂質が溜まり、心筋梗塞や脳卒中の原因になります。これらは、早めに生活習慣を見直し薬による治療を行うことで、リスクを大幅に減らせます。本コラムでは、2025年版の国内外ガイドラインに基づき、脂質異常症の管理方法をわかりやすく解説します。脂質の種類や検査の見方、心血管リスクの評価、治療の考え方などを一緒に学んでいきましょう。

■コレステロールの種類:LDL・HDL・Non‑HDLとは?

コレステロールとは体の細胞膜やホルモンの材料になる大切な脂質ですが、多すぎると血管の壁にこびりついてしまいます。

種類説明健康的な方の目安
LDLコレステロール
(悪玉コレステロール)
LDLは体中にコレステロールを運ぶ働きを持ちますが、多過ぎると動脈に沈着して血管を詰まらせるため「悪玉コレステロール」と呼ばれます。100 mg/dL未満
HDLコレステロール
(善玉コレステロール)
 HDLは余ったコレステロールを肝臓に戻して処理する役目があり、動脈に溜まった脂質を回収するため「善玉コレステロール」と呼ばれます。HDLは60 mg/dL以上
Non‑HDLコレステロールNon‑HDLは「総コレステロールからHDLを引いた値」で、(LDLやVLDL(超低密度リポタンパク質)など)すべての悪玉コレステロールをまとめた指標です。脂質異常症の管理では、まずLDLを目標値まで下げ、そのあとにNon‑HDLやアポBを二次的な目標としてチェックします。Non‑HDLは130 mg/dL未満

数値は年齢や既往歴によって異なるため、詳しくは医師と相談しましょう。

■心血管(心臓・脳)リスク

心筋梗塞や脳卒中の予防には、「自分がどれくらい心血管病を起こしやすいか」を知ることが出発点です。医療現場では心血管リスク評価(リスクアセスメント)と呼ばれ、年齢や性別、身長・体重、血圧、LDLやHDL、喫煙の有無、糖尿病の有無といった項目を総合的に考慮します。例えば米国ではプールド・コホート方程式(ASCVDリスク計算機)、欧州ではSCORE2、女性ではReynoldsリスクスコアが用いられます。

日本では、福岡県久山町の長期住民研究に基づく、久山町スコア(Hisayamaスコア)が推奨されています。このスコアは40〜79歳の日本人を対象に年齢・性別・収縮期血圧・耐糖能異常・HDL‑C・LDL‑C・喫煙の有無を評価因子とし、10年以内に狭心症・心筋梗塞・脳梗塞を起こす確率を推定します。計算結果によりリスクを次の3段階に分類し、2%未満を低リスク、2〜10%未満を中リスク、10%以上を高リスクとして治療方針を考えます。

リスク評価の結果は「低リスク」「中リスク」「高リスク」などに分けられ、治療目標値が異なります。リスクが高ければLDL‑Cをより厳格に下げる必要があり、生活習慣の改善に加えて薬物療法を早期に検討します。また、家族歴や慢性腎臓病、炎症性疾患などもリスクを高める要因です。ご自身がどのリスクカテゴリーに入るかを医師と相談し、必要な検査を受けましょう。

アポBとLp(a)

アポB(アポリポタンパクB)アポBは、LDLやVLDLなど血液中の「悪玉」脂質粒子の外側に付いているタンパク質で、1つのアポB分子が1つの悪玉粒子を運んでいます。そのためアポBを測ると、血液中の動脈硬化を起こしやすい粒子の総数を数えることができ、LDL‑Cだけよりも心血管リスクを正確に予測できる場合があります。アポBの基準値は測定法により異なりますが、一般的には90 mg/dL未満が望ましく、家族性高コレステロール血症や糖尿病ではさらに低い値を目指します。
Lp(a)(リポタンパク(a))Lp(a)は、LDL粒子に「アポ(a)」という特殊なたんぱく質が付いたものです。血中のLp(a)濃度は遺伝的に決まっており、他の脂質管理や生活習慣ではほとんど変わりません。Lp(a)が50 mg/dL(105 nmol/L)以上だと心血管疾患のリスクが高まるとされ、欧州ガイドラインでは検査を推奨しています。残念ながらLp(a)を特異的に下げる薬はまだなく、PCSK9阻害薬やナイアシンがわずかに低下させる程度ですが、将来的には専用の治療薬が期待されています。

アポBやLp(a)は通常の健康診断では測定されませんが、家族歴がある方や早発性の心血管イベントを経験した方は、これらを含めた詳細な血液検査を受けることでリスクをより正確に把握できます。

スタチン薬

スタチンは、肝臓でコレステロールを作る酵素(HMG‑CoA還元酵素)を抑えることでLDL‑Cを下げる薬です。さらに中性脂肪を少し下げ、善玉HDLをわずかに増やす効果もあります。心臓病や脳卒中を予防する強力な証拠があり、多くのガイドラインで第一選択薬となっています。

飲むべきか?LDL‑Cが高い、心血管病の既往がある、糖尿病や腎臓病がある場合などは、生活改善に加えてスタチンを服用することでリスクを大きく下げることができます。医師が提示したベネフィットとリスクを理解し、納得して始めることが重要です。
副作用は?一般的な副作用には、筋肉痛や疲れ、吐き気、腹痛、頭痛などがありますが、多くの場合は軽度で一過性です。稀に肝機能の異常や重い筋障害(横紋筋融解症)が報告されていますが、頻度は0.1%未満です。糖尿病の発症リスクをわずかに高める可能性もあります。
やめられるか?スタチンは動脈硬化の進行を抑えるために、継続的な服用が基本です。副作用が出た場合は、薬の種類や量を変更することで改善することが多く、勝手に中止すると心血管イベントのリスクが再び高まります。妊娠中や授乳中、重度の肝疾患がある場合はスタチンを避ける必要があります。

その他の薬剤

エゼチミブ腸でのコレステロール吸収を阻害する薬で、スタチン単剤で目標値に届かない場合に追加されます。1日1回服用し、スタチンとの併用でLDL‑Cをさらに下げることができます。
PCSK9阻害薬PCSK9というタンパク質は肝臓のLDL受容体を壊し、血中のLDL‑Cを上げる働きがあります。PCSK9阻害薬は抗体や小干渉RNAを用いてこのタンパク質の働きを抑え、LDL受容体の数を増やして血液からLDLをより多く除去します。注射薬であり、4週間に1回など定期的に投与します。進行した心血管病や家族性高コレステロール血症でスタチンが効きにくい場合に使用されます。副作用は注射部位の痛みや軽い筋肉痛などで、全体として安全性は高いとされています。
ベンペド酸肝臓のATPクエン酸リアーゼという酵素を阻害し、コレステロール合成を減らす新しい内服薬です。スタチンと生活改善に加えてLDL‑Cを下げる目的で使われ、スタチンに耐えられない人や追加効果が必要な人に用います。副作用には筋肉のこわばりや腰痛、関節痛、腱の炎症、痛風などがあり、腎機能や尿酸値のチェックが必要です。
EPA(イコサペント酸エチル)中性脂肪を減らし心血管イベントを減らす目的で使用されるオメガ3脂肪酸製剤です。主にスタチン治療中でも中性脂肪が135–499 mg/dLの人に推奨されます。1日2回服用し、肝臓でのトリグリセリド生成を抑えることで20〜50%の低下が期待できます。副作用は、関節痛や下痢、手足のむくみ、出血傾向などが報告されています。
フィブラート中性脂肪を減らしHDL‑Cをわずかに増やす薬です。膵炎予防を目的として極端に高い中性脂肪(500 mg/dL以上)に使用されますが、スタチンとの併用で心血管イベントを減らす明確なエビデンスは限られています。副作用には頭痛、腹痛、肝機能障害、筋肉痛などがあり、肝臓や胆のう、腎臓の病気がある人では注意が必要です。
ボラネソルセン家族性カイロミクロン血症症候群(FCS)など、遺伝性の重度高中性脂肪血症に対する注射薬で、アポリポタンパクC3を抑えてトリグリセリドを大幅に減らします。主な副作用は血小板減少で、毎週血小板を検査しながら使用します。500 mg/dLを超える高中性脂肪血症で膵炎リスクが高い場合や既存治療で効果が不十分な場合に限って用いられます。

■頚動脈プラークとは? 危険な厚さの目安

動脈の内側に脂質や炎症細胞が集まってできる、“こぶ”がプラークです。頚動脈エコーでは血管壁の厚さを測り、1.5 mm以上の局所的な厚み(または周囲の壁より50%以上厚い部分)があるとプラークと定義されます。研究では、プラークの最大厚み(cPTmax)が1.0–1.9 mmの人よりも、2.0 mm以上の人の方が心血管イベントや死亡のリスクが高いことが示されています。

プラークが見つかった場合は、スタチンやエゼチミブ、PCSK9阻害薬を早めに併用し、LDL‑C目標値をさらに厳格に設定します。普段からバランスの良い食事や運動を心掛け、定期的な検査でプラークの進行をチェックしましょう。

■アメリカ臨床内分泌学会(AACE)治療方針2025のポイント

米国臨床内分泌学会(AACE)が本年発表した治療アルゴリズムは、医師が患者さんと相談しながら治療を進めるための「道しるべ」です。まず、心血管リスクや血液検査の結果(LDL、Non‑HDL、アポB、Lp(a))を総合的に評価し、どの程度下げるか目標を決めます。治療は以下の順序で検討します。

  1. 生活習慣の改善:心臓に良い食事、運動、禁煙、減量などを行います。
  2. スタチンの服用:まずは、強いスタチン薬でLDLを下げます。副作用でスタチンが使えない場合は、弱めのスタチンや食事療法を続けます。
  3. 追加の薬剤:LDLが目標より高い場合やリスクが高い場合には、エゼチミブ、PCSK9阻害薬、ベンペド酸などを追加します。これらの薬は心筋梗塞のリスクを少し下げますが、費用や副作用を考慮しながら選択します。
  4. 中性脂肪の管理:中性脂肪が135–499 mg/dLと高い場合は、EPA(イコサペント酸)単剤の追加が推奨されます。一方、EPA+DHAやナイアシンは有効性が低く副作用が多いため推奨されません。500 mg/dL以上の著しい高値では、膵炎予防のためフィブラートやボラネソルセンなどの薬を検討します。

薬物療法ではまずスタチンを用います。スタチンはLDLを下げつつ、中性脂肪も15〜30%下げ、心血管イベントの予防効果が高いことが知られています。スタチンだけで中性脂肪が高い場合は、エゼチミブ、PCSK9阻害薬、ベンペド酸などを追加するとLDLに加えて中性脂肪も改善します。中性脂肪が135–499 mg/dLの中等度高値の場合にはEPA製剤(イコサペントエチル)が推奨され、心筋梗塞を減らす効果が報告されています。EPA+DHA(フィッシュオイル)やナイアシンは心血管リスクを減らす証拠がなく、出血や不整脈、血糖値上昇などの副作用があるためおすすめされません。500 mg/dL以上の非常に高い場合は、膵炎予防のためにフィブラートやボラネソルセンを使うことが検討されます。日本の研究では、中性脂肪が150 mg/dL未満でも、低いほど心血管イベントのリスクが低くなることが報告されており、「低ければ低いほどよい」という考え方が広がりつつあります。日本動脈硬化学会はLDLを最重要目標としつつ、Non‑HDLを二次目標としてLDL目標値+30 mg/dLを上限に設定しています。日本人は欧米人よりHDLが高く中性脂肪が低い傾向があるため、食生活や体質に合わせた管理が大切です。米国では非空腹時トリグリセリド175 mg/dL以上を「持続性高トリグリセリド血症」と定義し、生活習慣とスタチン療法で改善しない場合に薬物療法を検討します。

■頚動脈エコーによる評価

頚動脈エコーは、首の血管に超音波を当てて動脈硬化の有無を調べる検査です。痛みも放射線被曝もなく数分で終わるため、動脈硬化の早期発見に役立ちます。無症状の高リスク患者で、プラーク(血管内の脂質と炎症物質の塊)があるかどうかを高い精度で判定でき、感度96.3%・特異度90.0%と報告されています。この検査で、プラークが見つかるとリスクが一段階上がり、69.5%の人にプラークが、約39%の人で治療方針が見直されたという研究結果もあります。ガイドラインでは、通常のリスク計算に頚動脈エコーや冠動脈カルシウムスコアを組み合わせて使うことを推奨しており、境界リスクの人でもプラークが確認されれば「高リスク」に分類して治療を強化します。プラークがあった場合は、スタチンや非スタチン薬を早めに併用し、LDLの目標値をさらに下げるよう指導します。

頚動脈プラークとL/H比の関係

LDL/HDL比(L/H比)は、悪玉コレステロールと善玉コレステロールのバランスを表す指標です。中国の追跡研究では、2,191人を約1年間追ったところ388人が新たに頚動脈プラークを形成し、45歳以上や男性、糖尿病患者でリスクが高いことがわかりました。特にL/H比が高い人ほどプラークの発生率が上がり、L/H比が1増えるとプラークができるリスクが約1.3倍に増えると報告されています。プラーク形成の背景にはLDLが増えてHDLが減ることで血管壁に脂質が沈着することがあり、HDLが高いと必ずしも安全とは限らないため両者の比率でバランスを見ることが勧められます。この指標は、脂肪肝や脳梗塞、糖尿病など他の疾患の予測にも応用されています。

■まとめ

脂質異常症は、自覚症状がなくても動脈硬化を進め、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めます。一方で、早めの対策によりそのリスクを大きく減らすことができます。

ポイントは以下の通りです。

検査値とリスク評価を知るLDL(悪玉)、HDL(善玉)、Non‑HDL、アポB、Lp(a)などの数値と目安を理解し、心血管リスク評価(ASCVDリスク計算機やSCORE2、日本人向けの久山町スコアなど)を通じて自分のリスクを把握します。
治療方針を決めるAACEやESC/EASのガイドラインではLDLを主な目標に、生活習慣改善と薬物療法を段階的に組み合わせることを勧めています。
生活を整える:バランスの良い食事、適度な運動、禁煙、減量、休肝日を設けることが基本です。
必要なら薬を使うスタチンに加え、エゼチミブやPCSK9阻害薬、ベンペド酸、EPA製剤、フィブラート、ボラネソルセンなどを症状やリスクに応じて検討します。
検査を活用する頚動脈エコーでプラークがあるか確認し、プラークの厚さやL/H比を測定してリスクを詳しく評価します。

健康診断で脂質の異常を指摘されたら、放置せずに医師と相談し、生活を見直して早めに対処しましょう。適切な治療と生活習慣の改善により、長期的な健康と安心につながります。

参考文献

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