病気と健康の話

【特定健診】脱メタボ宣言 !

■メタボと脂肪肝のリスク

「メタボ」と呼ばれるメタボリック症候群(肥満や高血糖、高血圧、脂質異常症などの集まり)は、肝臓に脂肪が蓄積する「脂肪肝」(非アルコール性脂肪肝疾患: 近年ではMASLD)を伴いやすく、その放置は健康に大きなリスクをもたらします。

脂肪肝そのものは自覚症状が乏しいため、健診で指摘されるまで気づかれないことも多いです。ところが肝臓に脂肪が蓄積すると、肝細胞が傷つき炎症(脂肪肝炎)を起こし、これが慢性的に続けば線維化(肝硬変の前段階)が進行。最終的に肝硬変や肝がんの原因にもなります。

さらに重要なことは、脂肪肝は肝臓だけの問題に留まらない点です。

脂肪肝のある人の多くはメタボ(肥満・糖尿病・高血圧・脂質異常)の要素を併せ持ち、その結果、肝硬変や肝がんのみならず心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患、さらには大腸がん・子宮がんなど、他の癌の発症リスクも高まることが分かっています。

実際、日本では成人の約4人に1人がMASLD(メタボ関連脂肪性肝疾患)と推定され、男性は女性の約2倍とされます。肥満度(BMI)が高いほど脂肪肝の人の割合は増え、重度肥満者では80%以上が脂肪肝を有すると報告されています。またメタボ要素(糖尿病、高血圧など)を多く併せ持つほど、心疾患や脳卒中による死亡リスクも上昇します。このように「メタボ」と脂肪肝は密接に関連し合い、放置すれば命に関わる病気につながるため、早めの対策が肝心です。

■GLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)とは

では、メタボや脂肪肝の対策として近年注目される「GLP-1 RA」とは何でしょうか?GLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)とは、ホルモンの一種GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の受容体に作用し、GLP-1と同様の働きをする薬です。

GLP-1は、食事の後に小腸から分泌される「インクレチン」と呼ばれるホルモンで、血糖値が上がると膵臓からのインスリン分泌を促進し、同時に胃の内容物の排出を遅らせて食欲を抑える作用があります。GLP-1 RAは、このGLP-1の作用を人工的に再現した薬剤で、主に注射薬として2型糖尿病の治療に用いられてきました。血糖コントロールに優れるだけでなく、食欲低下による減量効果が大きいことから、近年では肥満症治療(いわゆる「痩せる注射」)としても承認・活用され始めています。

代表的なGLP-1 RAには、週1回の注射製剤セマグルチド(糖尿病治療薬オゼンピック®・肥満症治療薬ウゴービ®・糖尿病治療薬リベルサス®)などがあり、いずれも医療機関で処方・管理されます。

受容体作動薬という専門語も一般には聞き慣れませんが、「受容体(レセプター)に取り付きスイッチを押すことで本来の物質と同じ効果を発揮させる薬」と考えると分かりやすいでしょう。

GLP-1 RAは、食事療法や運動療法だけでは十分な効果が得られないメタボの方に新たな治療選択肢を提供するものとして期待されています。

■GLP-1 RAの効果:体重減少と肝臓への影響

GLP-1 RA最大の特徴は体重減少効果です。食欲が自然に抑えられることで総摂取カロリーが減り、継続することで平均して体重の5~15%もの減量が可能とされています。実際、ある試験ではGLP-1 RAを用いたグループで平均13%の体重減少が達成され(対照群は1%減に留まる)と報告されています。適切な減量はメタボ解消に直結し、脂肪肝の改善にも極めて有効です。一般に、非アルコール性脂肪肝炎を鎮静化させるには、体重の10%以上の減量が必要とされますが、GLP-1 RA療法により比較的達成しやすくなります。その結果、肝臓に蓄積した脂肪が減り、肝機能の改善や肝臓の炎症沈静化につながります。実際、GLP-1 RA投与によって脂肪肝炎が消失したケースも報告されています。

さらに注目すべきは、GLP-1 RAによる減量が、肝臓以外の代謝指標も幅広く改善することです。体重が減ると血圧が下がり、血糖値やヘモグロビンA1c(HbA1c)が改善し、血中脂質(コレステロール・中性脂肪)も正常化に向かうなど、メタボに関連する様々な数値が軒並み良くなる傾向があります。実際にGLP-1 RAで減量した患者では、肝臓の数値(例えば脂肪肝で高くなりがちなγ-GTP)を含め、コレステロール・中性脂肪や血糖値(HbA1c)など多くの項目が改善したという臨床報告もあります。以下に、GLP-1 RAによる主な健康指標の改善ポイントをまとめます。

体重の減少(内臓脂肪の減少による肥満解消)
血糖・HbA1cの改善(インスリン分泌促進と胃排出遅延による)
血圧の低下(体重減少および血管・腎臓への負担軽減による)
脂質異常の改善(LDLコレステロールや中性脂肪の低下)
肝機能の改善(肝臓内脂肪の減少に伴う炎症改善。γ-GTPの低下など)

このように、GLP-1 RAは広範な健康改善効果を持ち、メタボと脂肪肝の双方にアプローチできる点が大きな利点です。

なお、GLP-1 RAの作用の大部分は体重減少を通じた間接的な効果ですが、近年の研究では体重減少によらず肝臓の線維化を抑制する直接的な作用の可能性も示唆されています。つまりGLP-1 RAは全身の代謝を改善することで結果的に肝臓を含む各臓器を守ると同時に、特有の生理作用によって肝臓の病変進行そのものにもブレーキをかけるかもしれないのです。

■海外・国内の研究からわかる有効性

GLP-1 RAの脂肪肝・メタボ改善効果は、欧米や日本の研究でも次々に報告されています。まず欧州(英国)で行われた臨床試験(LEAN試験)では、肥満のNASH患者に対しリラグルチド(1日1.8mg)を48週間投与したところ、39%の患者で肝炎が消失し、プラセボ群の9%を大きく上回りました。

さらに線維化の進行抑制効果も認められ、リラグルチド群では線維化が悪化した患者が9%に留まったのに対しプラセボ群では36%にのぼり、有意な差が認められました。この結果は少人数での試験ながら、GLP-1 RAが脂肪肝炎を改善し肝硬変への進行を遅らせうることを示した、重要な証拠です。

また大規模国際試験において、強力な週1回製剤セマグルチドで、同様の効果が確認されました。2021年に発表された2型糖尿病合併NAFLD患者を含む試験では、高用量セマグルチド投与群の59%でNASHが解消し、プラセボ群の17%を大きく上回りました。一方で肝線維化の組織学的改善率は、43%対33%とセマグルチド群で高かったものの統計的有意差には至っていません。しかし、平均体重減少率はセマグルチド群で13%に達し(プラセボ群1%減)、体重減少を介した肝臓病変改善効果の大きさが改めて示されました。

さらに最近、肝硬変手前の線維化を有する脂肪肝炎患者を対象とした、ESSENCE試験(第3相臨床試験)の成果が報告されました。この試験では、週1回セマグルチド2.4mgを72週間投与したところ、62.9%もの患者で脂肪肝炎の組織学的な改善(肝炎の消失と線維化非悪化)が認められ、プラセボ群の34.3%に比べ有意に高率でした。また、肝線維化の改善(線維化グレードの低下かつ肝炎非悪化)も36.8%で達成され、プラセボ群22.4%に比べ有意に優れていました。

この結果を受け、米国ではセマグルチド(肥満症治療薬として既承認)の脂肪肝炎への適応追加申請が優先審査となり、近い将来GLP-1 RAが脂肪肝炎の公式治療薬となる可能性が高まっています。実際、アメリカFDAは2025年現在、非代償期でない脂肪肝炎(MASH)に対するセマグルチドの承認可否を審査中です。

日本においてもGLP-1 RAの有効性に関する知見が蓄積しつつあります。

現時点では、脂肪肝そのものに対する保険適用薬は存在せず、生活習慣改善が基本ですが、そうした中でGLP-1 RAは「肝臓の脂肪蓄積・炎症・線維化を抑制し、MASLDの代謝異常を改善し得る」有望な治療候補として注目されています。

国内外の専門家も「GLP-1 RAは糖代謝と脂質代謝両面に有益な効果をもたらし、インスリン抵抗性の改善と減量作用によって脂肪肝患者の肝臓への負担を減らす」と指摘しており、メタボを背景とする脂肪肝治療に新たな地平を開くものと期待されています。欧米での大規模治験結果は、日本人にも当てはまる可能性が高く、日本でも今後GLP-1 RAを用いた脂肪肝治療の臨床研究が更に進んでいくことでしょう。

■メディカルダイエットとしての活用と当院の取り組み

このように、GLP-1 RAは減量と脂肪肝改善の両面で高い効果を示しますが、最大限に活かすには医療のサポートが重要です。自己流の極端な食事制限や過度な運動によるダイエットでは、リバウンドや体調不良のリスクがありますが、メディカルダイエットは、医師の管理のもと科学的根拠に基づいて安全に減量を行う方法です。

当院でもGLP-1注射を活用したメディカルダイエットプログラムを導入しており、メタボリック症候群や脂肪肝でお悩みの方の減量治療に取り組んでいます。医師による診察・検査に基づき、一人ひとりの体質や生活習慣に合わせた減量目標とプランを策定します。

具体的には、GLP-1 RA注射による食欲コントロールに加え、医師による食事療法と健康運動療法士による運動療法を組み合わせ、健康的に体重を落としていきます。定期的に体組成や血液検査をチェックしながら、脂肪肝や糖代謝の改善度合いをモニタリングし、必要に応じて投与量の調整や追加の栄養サポートも行います。

GLP-1 RAは吐き気などの軽い副作用が出る場合もありますが、当院では医師が丁寧に経過を追い、安全に治療を継続できるよう配慮しています。

メディカルダイエットによる減量効果は高く、多くの患者さんで「肥満症(メタボ)の改善」と「脂肪肝の改善」という二重のメリットが得られています。実際に「体重が4kg減ったら肝臓の数値(ALTやγ-GTP)が正常化した」「内臓脂肪が減って血圧や血糖値も下がった」等の喜びの声も届いています。重要なのは、こうした医療ダイエットは単に一時的に痩せるだけでなく、将来の生活習慣病や肝硬変・心疾患リスクを減らし、健康寿命を延ばすことにつながる点です。

メタボや脂肪肝が気になる方は、ぜひ一度ご相談ください。当院の「メディカルダイエット」ページ(※詳細情報はこちら: https://www.taba-shonika.jp/treat/medical-diet/)でも、GLP-1治療を含むプログラム内容や症例をご紹介しています。安全かつ確実なダイエットでメタボにブレーキをかけ、将来の健康を守りましょう。

参考文献

  • Maurice Michel, Jörn M. Schattenberg. Semaglutide targets MASH molecular pathways beyond weight loss. Nature Medicine (News & Views) 2025
  • Philip N. Newsome et al. A Placebo-Controlled Trial of Subcutaneous Semaglutide in Nonalcoholic Steatohepatitis. N Engl J Med 384, 1113-1124 (2021)pubmed.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.gov
  • Matthew J. Armstrong et al. Liraglutide Safety and Efficacy in Patients With Non-Alcoholic Steatohepatitis (LEAN trial). Lancet 387, 679-690 (2016)pubmed.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.gov
  • Arun J. Sanyal et al. Phase 3 Trial of Semaglutide in MASH with Fibrosis (ESSENCE). N Engl J Med 392, 2089-2099 (2025)prnewswire.comprnewswire.com
  • 「成人の4人に1人はMASLD脂肪肝…発症リスク」健康コラム (2025年)
  • 「GLP-1受容体作動薬は脂肪性肝疾患の治療でも効果」糖尿病リソースガイド (2024年)

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