【脂質異常症】高コレステロール血症管理のポイント 2025
高コレステロール血症や高脂血症(脂質異常症)の管理について、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)、中性脂肪
のそれぞれのポイントを解説します。2025年時点のエビデンスとガイドラインに基づき、一般の方にも分かりやすい言葉でまとめました。動脈硬化予防のキーワードとなるコレステロールや脂質異常症について理解を深め、健康管理に役立てましょう。
■LDLコレステロール(悪玉コレステロール)
LDLコレステロールは一般に「悪玉コレステロール」と呼ばれ、血管壁にコレステロールを蓄積させて動脈硬化の原因となります。LDL値が高い人ほど心筋梗塞や脳卒中など動脈硬化性疾患のリスクが高まることが、国内外の研究で明らかになっています。逆に言えば、コレステロール値は、低ければ低いほど心血管リスクは低下する傾向があり、「下げられるだけ下げたほうが良い」という考え方が専門家の間で一般的です。実際、血中LDLコレステロールを約40mg/dL(1mmol/L)下げるごとに、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが、約20%も減少するとの報告もあります。こうした強力なエビデンスから、LDLコレステロールを十分に下げることが、高コレステロール血症管理の最重要ポイントとなっています。
LDLコレステロールを下げる方法には、まず生活習慣の改善があります。食事面では動物性脂肪(飽和脂肪酸)やコレステロールの多い食品を控え、野菜や食物繊維、魚などを積極的に摂ることが勧められます。また適度な運動や減量により、LDLコレステロールを低下させる効果が期待できます。生活習慣の改善で十分に下がらない場合やリスクが高い場合には、薬物療法も検討されます。代表的なお薬はスタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)で、肝臓でのコレステロール合成を抑えてLDLを下げる働きがあります。スタチンは1970年代に日本人研究者の遠藤章氏によって発見された経緯があり、現在ではエビデンス豊富な第一選択の治療薬です。スタチン以外にも、腸でコレステロール吸収を抑えるエゼチミブや、新しい注射薬のPCSK9阻害薬、経口薬のベムペド酸など、LDL低下のための薬剤が開発・使用されています。こうした薬物療法と生活習慣改善を組み合わせ、患者さん一人ひとりのリスクに応じてLDL目標値をどこまで下げるかを決めていきます。
治療目標(どれくらいLDLを下げるか)は、国やガイドラインによって若干異なりますが、基本的な考え方は共通しています。米国の2018年ガイドラインでは、具体的な数値目標は定めずに「LDLを初期値から50%以上減らす」といった相対的な低下率を重視しています。例えば糖尿病や高血圧などリスク因子を持つ40〜75歳の方にはまずスタチン治療を考慮し、特にLDLが190mg/dL以上と高い場合や、心臓病・脳卒中の既往がある場合は、高用量スタチンによる強力な治療が推奨されます。
一方、欧州のガイドライン(2019年)では、リスク区分ごとに明確なLDL目標値を設定しています。例えば、心筋梗塞など非常にリスクの高い患者ではLDLコレステロール55mg/dL未満を目指し、高リスク患者では70mg/dL未満、中リスクなら100mg/dL未満といった。厳格な目標管理が推奨されています。
日本においても2022年版「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」でリスクに応じたLDL目標値が示されています。一般的な高LDLコレステロール血症の定義は140mg/dL以上で、リスクの低い人は160mg/dL未満、中程度のリスクなら140mg/dL未満を目標とし、高リスクでは120mg/dL未満を目指すとされています。さらに、すでに心筋梗塞や脳梗塞を発症したことがある人(二次予防が必要な人)ではLDL<100mg/dL、なかでも急性冠症候群を発症した直後の人や、家族性高コレステロール血症(FH)や重度の糖尿病を合併する人では70mg/dL未満という非常に低い目標値が設定されています。このように患者さんのリスク状態に応じて治療の強さを調整し、LDLコレステロールを可能な限り安全に下げていくことが重要です。
LDL低下療法について、次のような重要ポイントが提唱されています
開始は早めに
LDLコレステロールを下げる治療は、動脈硬化が進行する前にできるだけ早く開始するほど、将来のリスク低減効果が大きい。
若いうちから治療や対策を始めると、その分だけ動脈硬化の蓄積を防げます。
下げ幅を大きく
LDL値は下げ幅が大きい(たくさん下げる)ほど、リスク軽減効果が高まります。
「少しだけ下げて安心」ではなく、医師と相談し可能な範囲で大きく下げることが理想です。
もともとの値が高い人ほど恩恵大
治療開始時のLDLが非常に高い人ほど, 下げたときの絶対的なリスク減少の恩恵が大きくなります。
例えばLDLが200mg/dLの人が100下がればリスク大幅減となるイメージです。
リスクが高い人ほど恩恵大
心臓や脳の病気のリスクが高い人(既に病気がある、糖尿病など重い危険因子がある場合など)ほど、LDL低下治療による利益(イベント予防効果)が大きいことが分かっています。リスクの高い人では多少の副作用リスクよりも、治療によるメリットの方が上回ります。
上記のポイントを踏まえ、医療者と患者さんが相談しながらLDLコレステロール管理の方針を決めていくことが大切です。副作用や費用にも配慮しつつ、無理のない範囲で「できるだけ早く、しっかり下げる」ことが高コレステロール血症から身を守るカギになります。
■HDLコレステロール(善玉コレステロール)
HDLコレステロールは「善玉コレステロール」と呼ばれ、余分なコレステロールを血管から肝臓に運び戻す働きがあります。HDLが高いほど動脈硬化を防ぎ、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが低くなる傾向が知られています。逆に、HDLが低い(一般的に40mg/dL未満)状態は、低HDLコレステロール血症と呼ばれ、心血管疾患のリスク因子になります。日本人を含む多くの研究で、HDLコレステロール値が低い人ほど、将来の冠動脈疾患(心筋梗塞など)や脳梗塞を発症する率が高いことが示されています。そのため健康診断でもHDL値が重視され、「善玉コレステロールを増やしましょう」と言われるゆえんです。
しかし、HDLコレステロールは高ければ無制限に良いというわけでもありません。
近年の研究では、極端にHDLが高い(一部の男性で90mg/dL以上など)の場合、かえって心疾患や死亡リスクが上昇する可能性が指摘されています。これは遺伝的要因やアルコール多飲との関連も考えられており、HDLについては「高すぎても要注意」という新しい知見です。
ただし一般的な範囲ではHDLは高いほど望ましく、特にHDLが低すぎる人は改善が必要です。
HDLコレステロールを増やすには、生活習慣の改善が基本です。適度な有酸素運動(ウォーキングやジョギングなど)を継続するとHDLが上昇しやすくなります。また禁煙も、HDLを増やす効果があります。食事面では魚に含まれるオメガ3脂肪酸や、オリーブオイルなど不飽和脂肪酸を適度に摂るとHDLが上がりやすいとされています。アルコール摂取は他の弊害もあるため、新たにお酒を始めることは推奨されません。薬剤によるHDL上昇については、かつてナイアシン(ニコチン酸)製剤などHDLを上げる薬もありましたが、心血管イベント抑制効果は明確でなく、現在のガイドラインではHDLを上げるためだけの薬物療法は推奨されていません。むしろ食事・運動を中心とした生活習慣改善で、HDLを適正範囲に維持することが大切です。HDLが低い方はメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の一部である場合も多く、減量や糖質の摂りすぎに注意するといった総合的な生活改善が求められます。
■中性脂肪
中性脂肪(トリグリセリド)は、食事から摂取された脂肪や肝臓で合成された脂肪のことで、エネルギー源として血液中を巡っています。しかし中性脂肪が慢性的に高い状態(高トリグリセリド血症)は、動脈硬化や膵炎などのリスクにつながります。日本動脈硬化学会のガイドラインでは、空腹時の中性脂肪が150mg/dL以上で高トリグリセリド血症と定義され、随時(非空腹時)で175mg/dL以上でも高値とみなす基準が新たに設定されました。中性脂肪値は食事の影響を受けやすく変動しますが、空腹時・非空腹時いずれの場合でも、高い値が持続していると将来の心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まることが日本の疫学研究でも示されています。このため、近年はコレステロールと同様に中性脂肪にも注目して、リスク管理を行う流れがあります。
中性脂肪は食後に上がりやすいため、かつては血液検査の際に「前日夜から絶食」が必要とされました。
しかし近年の国際的なガイドラインでは、空腹時に限らず測定可能とする方向にシフトしてきています。実際、2025年版のコレステロール管理指針では、非空腹時の脂質検査を標準とする動きがあり、空腹時に比べても心血管リスク評価に遜色ないことが大規模研究で確認されています。日本でも2022年のガイドライン改訂で非空腹時中性脂肪値の基準が設けられたことはその表れです。
一方で、中性脂肪が非常に高い場合(例えば500mg/dL以上)は、急性膵炎を起こす危険があるため、正確な評価のために空腹時採血が推奨されたり、緊急的に薬物治療を行うこともあります。検査は医師の指示に従い、適切なタイミングで受けるようにしましょう。
中性脂肪を下げる対策としては、まず生活習慣の見直しが基本です。中性脂肪は糖質やアルコールの摂取とも関係が深いため、甘いものや飲酒を控えることが重要です。特にアルコール(ビールなど糖質を含むお酒)は中性脂肪値を大きく上昇させる原因となります。揚げ物など脂肪の多い食事も適量にとどめ、総カロリーを抑えましょう。また適度な運動や減量によって内臓脂肪を減らすと、中性脂肪も改善しやすくなります。
食事面では魚油に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)に中性脂肪を下げる作用があるため、魚(特に青魚)を積極的に食べることが勧められます。日本のガイドラインでも「中性脂肪低下目的で魚油(EPA)の摂取を増やすこと」を強く推奨しており、魚油は将来的な心筋梗塞発症リスクを減らす効果も期待できるとしています。
食品から十分に摂れない場合は市販の魚油サプリメントや、医師が処方するEPA製剤(処方魚油剤)を利用する方法もあります。
生活習慣改善でも中性脂肪が著しく高い場合やリスクが高い場合には、薬物療法が用いられます。フィブラート系薬剤(フィブラ酸誘導体)は肝臓での脂質代謝を調整して中性脂肪を下げる薬で、高中性脂肪血症に対して使われることがあります。また、先述のEPA製剤(イコサペント酸エチルなど)は、高リスク患者で中性脂肪を下げ、心臓病の発生を抑える効果が示されています。これらの薬も医師の判断で使用しますが、まずは食事・運動療法による改善が第一である点はコレステロール管理と共通しています。
■脂質異常症(高脂血症)とは
脂質異常症とは、血液中の脂質(コレステロールおよび中性脂肪)の異常を指す総称です。以前は「高脂血症」とも呼ばれましたが、現在ではLDLコレステロールや中性脂肪が高すぎる場合だけでなく、HDLコレステロールが低すぎる場合も含めて「脂質異常症」と定義されます。つまり、「悪玉コレステロールが高い」「中性脂肪が高い」「善玉コレステロールが低い」のいずれか、または、それら複数が当てはまる状態です。
脂質異常症になると動脈硬化が進行しやすくなり、狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患や、脳梗塞など脳血管疾患の重大な原因となります。実際、動脈硬化が関与する心臓病や脳卒中は日本人の主要な死亡原因の一つであり、脂質異常症を放置すると将来的な命に関わるリスクを高めてしまいます。一方で、脂質異常症自体は自覚症状がほとんど無い病気です。健康診断の血液検査で指摘されて初めて気づくケースが多く、「サイレントキラー(静かな殺人者)」とも呼ばれます。したがって症状が無くても油断せず、定期的に血中脂質をチェックして管理することが大切です。
脂質異常症の診断は血液検査で行います。前述のとおり、日本ではLDLコレステロールが140mg/dL以上、HDLコレステロール40mg/dL未満、中性脂肪150mg/dL以上(空腹時)を基準に判定されます。ただしこれらはスクリーニングの目安であり、実際の治療開始や目標設定には総合的なリスク評価が用いられます。
例えば、患者さんの年齢、性別、喫煙歴、血圧、糖尿病の有無、家族歴などを考慮し、10年以内に心筋梗塞や脳卒中を発症する確率(リスク)を推定します。アメリカではPooled Cohort Equationsという計算式でリスクを算出し、一定以上であればスタチン治療を推奨する方針が取られています。ヨーロッパではSCORE2 というリスクチャートが用いられ、リスクに応じてLDL目標を決める手法です。
日本でも2022年のガイドラインで久山町研究に基づくリスク予測モデルが採用され、リスク区分に応じて治療方針を決定するフローチャートが提示されています。このように各国で手法は異なりますが、「危険度の高い人ほど厳格に脂質を管理する」という点は共通しています。
脂質異常症の治療と予防の基本は、何度も強調しているように生活習慣の改善です。食事では動物性脂肪やコレステロール、糖分の多いものを減らし、野菜、果物、魚、大豆製品、食物繊維など体に良い食品を増やします。特に魚やオリーブオイルに含まれる良質な脂肪(不飽和脂肪酸)は血液中の脂質プロファイルを改善する助けになります。また、適度な運動習慣を持ち、標準体重の維持を目指しましょう。肥満や内臓脂肪の蓄積はLDL上昇・HDL低下・中性脂肪上昇に直結するため、減量は脂質異常症改善に極めて有効です。さらに、禁煙も重要なポイントです。喫煙はHDLコレステロールを低下させる上、動脈硬化自体を促進する独立したリスク因子であるため、脂質管理の観点からも禁煙が強く推奨されます。
生活習慣改善のみでは十分にリスクが下げられない場合、薬物療法が登場します。
先述のスタチン薬は、LDLコレステロール低下に最も有効で、心筋梗塞・脳卒中の一次予防・二次予防において数多くの臨床試験で有用性が示されています。必要に応じてエゼチミブやPCSK9阻害薬、フィブラート、魚油製剤などを組み合わせ、総合的に脂質プロファイルを改善します。特に心筋梗塞を起こした後や家族性高コレステロール血症の場合などは、複数の薬剤を併用してでもLDLを大きく下げる積極的な治療が行われます。一方で、軽症でリスクが低い脂質異常症ではまず生活習慣のみで経過を見ることもあります。
患者さん個々の状況に応じ、医師が総合的に判断して治療方針を決定します。
嬉しいことに、こうした脂質異常症の予防・治療による効果は確実に現れています。
先進国では、過去数十年で心血管疾患による死亡率が着実に低下しており、その要因の一つに脂質管理の改善が挙げられます。日本でも、高コレステロール血症に対するスタチン治療の普及や食生活の見直しにより、心筋梗塞の発症率が減少傾向にあるとの報告があります。
脂質異常症は適切に対処すれば防げる病気です。逆に放置すれば、動脈硬化が静かに進行し、ある日突然、重大な発作に見舞われるリスクがあります。ぜひ定期的な健診でコレステロールや中性脂肪の値に注意し、医師と相談しながら予防策を講じてください。日々の積み重ねが将来の健康寿命を大きく伸ばすことにつながります。
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