アデノウィルス感染症

子どもの全然下がらない高熱、目の充血。それは、100種類以上の顔を持つ「アデノウイルス」が原因かもしれません。「プール熱」として知られるこのウイルスは非常に感染力が強く、時に家庭や保育園・幼稚園・学校で流行を引き起こします。
アデノウイルスは、感染するウイルスの型によって、軽い風邪症状から、高熱、肺炎、下痢を伴う胃腸炎まで、異なる症状を引き起こします。特に免疫力が未発達な小児や免疫抑制剤を使用されている方では、合併症のリスクもあります。

■アデノウイルス感染症の主な特徴

小児によく見られる感染症ですが、もちろん大人も感染します。

高熱・扁桃炎・目の充血が三大症状(咽頭結膜熱)

アデノウイルスには多くの種類がありますが、その中でも「咽頭結膜熱(いんとうけつまくねつ)」というタイプが有名です。
夏にプールを介して流行することが多いため、「プール熱」とも呼ばれています。
この咽頭結膜熱では、次の3つの症状が代表的です。

しつこい高熱40℃近い高熱が5日ほど続きます。解熱剤を使っても一時的に熱が下がるだけで、薬の効果が切れると再び上がってくるのが特徴です。
滲出性扁桃炎
(しんしゅつせいへんとうえん)
喉の奥にある扁桃腺(へんとうせん)に、白い膿(うみ)が付くことがよく見られます。
目の充血(結膜炎)白目の部分が充血して、目がゴロゴロする、光がまぶしく感じるなどの症状が出ます。涙や黄色っぽい目脂もたくさん出ます。多くの場合片方の目から症状が始まり、数日後にもう片方の目にも広がっていきます。

ウイルスには、それぞれ特に感染しやすい体の場所(組織親和性)があります。
咽頭結膜熱を引き起こすアデノウイルスは、喉や目の粘膜に付着して増えるのが得意なため、これらの場所に強い症状が現れます。
ただし、必ずしも3つの症状がすべてそろうわけではありません。

熱だけ、目の症状だけというケースも珍しくなく、一般的な風邪との区別が難しいこともあります。

主な感染経路は飛沫・接触感染

アデノウイルスは、非常に感染力が強いウイルスとしても知られています。
主な感染経路は「飛沫感染」と「接触感染」の2つです。

飛沫(ひまつ)感染感染した人の咳やくしゃみ、会話の際に飛び散る小さな飛沫が換気の悪い空間に漂い、それを吸い込むことで感染します。学校や保育園、職場など、人が近くで過ごす環境では特に感染が広がりやすいです。
接触感染ウイルスが付いた手で、自分の目や鼻、口などを触ることで感染します。例えば、感染した人が使ったタオルやコップ、触ったドアノブや、おもちゃなどを介してウイルスが体内に侵入します。

ウイルスに感染してから症状が出るまでの期間を「潜伏期間」と呼びます。
咽頭結膜熱の場合、この潜伏期間はおよそ5〜7日です。

注意が必要なのは、アデノウイルスは症状が治まった後も、長い期間にわたって体から排出され続ける点です。
回復後も、喉からは約2週間、便の中からは約1ヶ月間もウイルスが出続けることがあります。そのため、お子さんが元気になった後もしばらくは、タオルの共用を避け、こまめな手洗いを徹底することが家庭内感染を防ぐ上で非常に重要です。

インフルエンザや新型コロナとの症状の違い

高熱や喉の痛みは、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症でも見られる症状のため、見分けるのが難しいことがあります。しかし、それぞれの病気には症状の出方にいくつかの傾向があります。

症状アデノウイルス
(咽頭結膜熱)
インフルエンザ新型コロナウイルス
特徴的な症状高熱、目の充血、めやに急激な高熱(38℃以上)、関節痛、筋肉痛咳、倦怠感、味覚・嗅覚障害な
ど(症状は多様)
熱の出方40℃近い高熱が4〜5日と続く急激に高熱が出る微熱から高熱まで様々
目の症状頻繁に見られるまれ見られることがある
無いことが多い頻繁に診られる徐々にひどくなる

アデノウイルス感染症を疑うポイントは、なかなか下がらない熱と、目の充血や目脂といった結膜炎の症状です。それに加えて咽頭結膜熱の場合は、咳症状が少ないことです。ただし、これらの違いはあくまで一般的な傾向に過ぎません。

アデノウイルスの治療法と登園・登校の目安

アデノウイルス感染症には、残念ながらインフルエンザのような特効薬がありません。そのため、対症療法が治療の基本となります。

■受診の目安と検査方法

医療機関を受診すべき症状

高熱が続く
脱水のサイン水分をあまり摂れずぐったりしている。
呼吸器の症状呼吸が速い、息苦しそうにしている。 咳がひどくて眠れない。
その他の症状吐き気や頭痛が強く、つらそうにしている。

アデノウイルスは、まれに肺炎や中耳炎といった合併症を引き起こすことがあります。研究によれば、特に小児では重症の肺炎につながる可能性も報告されているた
め、気になる症状があれば自己判断せず、かかりつけ医に相談することが非常に大切です。

当院では診断に際し、PCRを積極的に用いています。

アデノウイルスの迅速診断法には、抗原検査と核酸増幅検査(PCR)があります。SpotFire®同時多項目PCRは、アデノウイルスに対して感度(PPA)97.0%・特異度(NPA)97.8%と高精度で、結果も約15分で判定できます。一方で代表的な迅速抗原検査は、感度が55〜90%とばらつきがあり(特に上気道感染では低め)、陰性でも感染を否定できないことがあります。

一般論として、呼吸器ウイルス診断はNAAT(PCR等)が推奨され、抗原検査は感度が低いとする専門家ガイダンスとも整合します。

なぜ精度が重要か

アデノウイルス感染は高熱・咽頭炎などで細菌感染と類似し、臨床所見のみでは鑑別が難しいことがあります。早期に高感度で原因ウイルスが同定できれば、不要な抗菌薬の回避や院内感染対策の最適化につながります。

検査法の比較(ポイント)

項目抗原検査
(イムノクロマト等)
SpotFire®
同時多項目PCR
原理ウイルス抗原の検出ウイルス核酸(DNA/RNA)の増幅・検出
主な対象簡便検査外来(POC)用の高感度迅速PCR
解析時間10〜15分程度約15分
アデノウイルス性能例:感度71.9%・特異度100%
(小児上気道、PCR基準)
※報告により感度は54.7–95%と変動
感度97.0%・特異度97.8%
(多施設前向き評価)
併存病原体の同定不可インフル、RSV、ライノ/エンテロ、季節性コロナ、パラインフル、SARS-CoV-2 等を同時検出(最大15項目)
根拠小児ER研究/レビューメーカーIFUの多施設臨床性能、FDA資料・臨床評価論文

SpotFire® 同時多項目PCR検査の特長

高精度アデノウイルスに対しPPA 97.0%・NPA 97.8%(前向き評価, NPS検体)。
迅速装置装填から約15分で結果。
同時多項目1回のスワブで主要呼吸器病原体を広くカバー(最大15ターゲット)。
クリニック適合CLIA Waived / FDA承認のパネル構成があり、外来・救急での運用を想定。
臨床実装エビデンス迅速多項目PCRの導入で結果返却・入院期間の短縮、抗ウイルス薬使用や感染管理の適正化が報告。

参考:CDCもアデノウイルス検査に分子検出(PCR)を含む複数手段を提示。呼吸器感染では鼻咽頭スワブ等の適切採取が推奨されています。

よくあるご質問

Q1:陰性ならアデノウイルスは否定できますか?

抗原検査は陰性でも感染を完全には否定できません。PCRはより高感度ですが、採取時期や検体条件で陰性となることもあり、総合評価が必要です。

Q2. どのくらいで結果がわかりますか?

当院のSpotFire® PCRは約15分で結果が出ます(混雑状況により前後)。

Q3. 1回の検査で他のウイルスもわかりますか?

はい。インフルエンザ、RSV、ライノ/エンテロ、季節性コロナ、パラインフル、SARS-CoV-2など複数の病原体を同時に検出できます。

当院での検査フロー(概要)

1.検査対象高熱や咽頭痛、咳・鼻症状など急性呼吸器症状のある方。
2.検体鼻咽頭スワブを基本とします(症状により下気道検体を併用)。
3.結果説明15分前後で結果をお伝えし、抗菌薬不要の判断や隔離・登園登校の目安について助言します。
4.費用保険/自費は症状・適応により異なります。受付でご案内します。
5.限界いずれの検査も100%ではないため、臨床症状や周囲の流行状況を含め総合的に診断します。

■特効薬はなく対症療法が基本|市販薬は使える?

処方されるお薬の例

高熱に対して解熱鎮痛剤(アセトアミノフェンなど)を使い、一時的に熱を下げて体力の消耗を防ぎます。
目の症状に対して細菌による二次感染を防ぐための抗菌薬や、炎症を抑えるステロイドの点眼薬が使われます。

市販の風邪薬や解熱剤を使いたいと考えるかもしれませんが、自己判断での使用には注意が必要です。症状や年齢に合わない薬もありますので、まずは医師や薬剤師に相談しましょう。

自宅療養中の食事・水分補給と注意点

アデノウイルスに感染したら、回復を早めるためにご自宅でゆっくり休むことが何よりも大切です。

水分補給のポイント

こまめに飲む一度にたくさん飲むのではなく、少量ずつ、回数を重ねて水分を摂ることが大切です。
何を飲むか水分と電解質を効率よく補給できる経口補水液や、麦茶、湯冷ま
しなどが適しています。糖分の多いジュースは、かえって下痢を悪化させることがあるため、様子を見ながらにしましょう。

食事のポイント

無理はしない喉の痛みで食欲がないときは、無理に食べさせる必要はありません。まずは水分補給を最優先してください。
喉ごしの良いものを食事が摂れそうなら、おかゆ、うどん、ゼリー、プリン、豆腐、冷たいスープなどが良いでしょう。
避けるべきもの熱いもの、辛いもの、酸っぱいもの(柑橘類など)は喉への刺激が強いため避けましょう。

また、熱が高い間の入浴は体力を消耗させてしまうため、控えるのが賢明です。体を清潔にしたい場合は、お湯で濡らしたタオルで体を優しく拭いてあげる程度にしましょう。

学校や保育園の出席停止期間と大人の仕事復帰の目安

アデノウイルスは感染力が非常に強いため、集団生活での感染拡大を防ぐ目的で、学校保健安全法によって出席停止の期間が定められています。

病名対象出席停止期間の目安
咽頭結膜熱
(プール熱)
幼児・小中高生主要な症状(発熱、喉の赤み、目の充血
など)がなくなった後、【2日】が経過するまで
流行性角結膜炎
(はやり目)
幼児・小中高生医師が「他の人にうつす恐れがない」と認めるまで

登園・登校を再開する際には、園や学校から治癒証明書(登園・登校許可証)の提出を求められるのが一般的です。医師に記入してもらう必要があるため、再開のタイミングは必ず医師に確認してください。


一方、大人の仕事復帰に関しては、法律で明確な出勤停止期間は定められていません。
しかし、周囲へ感染を広げないためにも、熱や喉の痛み、目の充血などのつらい症状が治まるまでは、仕事を休んで療養することが強く推奨されます。

特に、医療・介護職、保育士、調理関係者など、人と接する機会の多い職業の方は、職場と相談の上、医師の指示に従うようにしてください。症状が回復した後も、喉からは約2週間、便の中からは約1ヶ月間ウイルスが排出され続けることがあるため、職場復帰後もこまめな手洗いを徹底しましょう。

■アデノウイルスの重症化リスクと感染対策

アデノウイルスは多くの場合、自分の力で回復に向かう病気です。しかし、時に症状が重くなることもあり油断はできません。特に、もともと他の病気をお持ちの方、免疫力が低下している方は注意が必要です。

肺炎や中耳炎などの合併症

最近の研究では、体の中にいるアデノウイルスのウィルス量が多いお子さんは、肺炎になるリスクが高まることが報告されています。

すぐに受診すべき症状チェックリスト

呼吸の様子がおかしい呼吸が速い、ゼーゼー・ヒューヒューという音がする。息を吸うたびに胸やお腹がペコペコとへこむ(陥没呼吸)。肩を上下させて、苦しそうに息をしている(肩呼吸)。
顔色が悪い顔色や唇の色が青白い
ぐったりしている水分をあまり摂れず、ぐったりして元気がない。
その他のサイン咳がひどくて眠れない、水分を摂るとむせてしまう。耳をしきりに触る、痛いと訴える

これらの症状は、ウイルスが肺や耳にまで影響を及ぼしている可能性を示します。早めに適切な治療を始めることで重症化を防げます。

さまざまなウイルスの型:B3・B7型は重い呼吸器症状、F40・F41型は胃腸炎に

「アデノウイルス」と一言でいっても、実は100種類以上の型(タイプ)が存在します。
そして、どの型に感染するかによって、現れる症状が大きく変わるのが特徴です。プール熱やはやり目も、アデノウイルスの一部の型が原因です。

ウイルスの型
(主なもの)
主な症状・引き起こされる病気
B3型、B7 型入院が必要になるような肺炎などの呼吸器の病気
F40型、F41 型嘔吐や下痢を繰り返す、お腹の風邪(急性胃腸炎)
3型、4型、7型など高熱・目の充血が特徴のプール熱(咽頭結膜熱)
8型、19型、37型など感染力が非常に強く、目の症状が主体のはやり目(流行性角結膜炎)

特に、B3型やB7型のアデノウイルスは、肺炎と関連が深いことが多くの研究で示されています。
また、F40型とF41型は、乳幼児のウイルス性胃腸炎の主な原因ウイルスです。

このように、同じアデノウイルスでも型によって全く違う病気になります。

家庭内で感染を広げないための予防策

アデノウイルスは感染力が非常に強く、家庭内で広まることがあります。
アデノウイルス対策で最も注意すべき点は、 一般的なアルコール消毒が効きにくいというウイルスの性質です。そのため、アルコール消毒だけに頼らず、以下の対策を徹底しましょう。

ご家庭でできる感染対策のポイント

基本は石けんによる丁寧な手洗い患者さんのお世話をした後、食事の前、トイレの後など、こまめに石けんと流水で30秒以上かけて手を洗いましょう。
タオルや食器の共用を徹底して避けるタオル、バスタオル、コップ、お箸などは別々のものを使います。
塩素系の消毒剤で消毒ドアノブ、手すり、電気のスイッチ、トイレの便座やレバー、おもちゃなど、皆がよく触れる場所は、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤)を薄めた液で拭きましょう。
汚物の適切な処理鼻をかんだティッシュや使用済みのおむつは、ビニール袋に入れて口をしっかり縛ってから捨てます。処理した後は、必ず石けんで手を洗ってください。

一度かかっても再感染する可能性

アデノウイルスには一度かかっても、再び感染する可能性があります。
理由は、これまで説明してきたように、アデノウイルスには 非常に多くの「型」が存在するためです。過去にアデノウイルスに感染した経験があっても、油断はできません。 インフルエンザに毎年かかる可能性があるのと同じように、 アデノウイルスも異なる型に何度も感染することがあります。

日頃から、こまめな手洗いやうがいといった基本的な感染対策を習慣にすることが、ご自身と大切なご家族の健康を守るために最も重要です。

■まとめ

急な高熱や強い喉の痛み、目の充血は代表的なアデノウイルス感染症の症状です。
アデノウイルスには特効薬がなく対症療法が基本となります。アルコール消毒が効きにくく感染力が非常に強いため、石鹸での丁寧な手洗いやタオルの共用を避けるなど、園内・ご家庭内での感染対策を徹底しましょう。

参考文献

  • Zhang R, Goto T, Zhang X. Association of human adenovirus load and viral genotype diversity with respiratory disease severity in children: a systematic review and metaanalysis.
  • Shieh WJ. Human adenovirus infections in pediatric population – An update on clinicoepathologic correlation.
  • Wenglein JS, Scarsella L, Kotlewski C, Heim A, Aydin M. Current Trends of Human Adenovirus Types Among Hospitalized Children—A Systematic Review.

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