風邪
誰もが経験する身近な病気、風邪。実は、その原因となるウイルスは200種類以上も存在し、子供なら年間最大5回、大人でも2~3回も発症する可能性があると言われています。 日常生活に支障をきたすだけでなく、学校や仕事の欠勤につながります。風邪はありふれた病気でありながら、私たちの生活に大きな影響を与えます。
風邪の代表的な症状9つを詳しく解説。鼻水、鼻詰まり、くしゃみといった初期症状から、発熱、頭痛、関節痛といった全身症状まで、風邪のメカニズムを紐解きながら、それぞれの症状の原因と対処法、予防策をご紹介します。
■風邪の代表的な8つの症状
風邪は、医学的には「感冒」と呼ばれ、主にウイルス感染によって引き起こされる、鼻や喉といった上気道に炎症を起こすありふれた病気です。Bruce Arrollらの研究でも示されているように、風邪はありふれた病気でありながら、毎年、子供では最大5回、大人でも2~3回発症し、学校や仕事の欠勤、日常生活への多大な支障につながるほどの不快感をもたらします。
風邪の症状は、人それぞれ異なり、すべての症状が一度に出ることもあれば、いくつかの症状だけが出ることもあります。また、症状の重さや持続期間も、感染したウイルスの種類や個人の免疫状態によって大きく変わるため、一概に言えません。自分の体の状態をよく観察し、異変に気付いたら早めに適切な対処をすることです。
1.発熱
発熱は、体がウイルスと戦っているサインです。ウイルス感染に対する体の防御反応として、脳の視床下部にある体温調節中枢が体温を上げるように指令を出すことで発熱が起こります。発熱することで、ウイルスの増殖を抑えたり、免疫細胞の働きを活性化させたりすることができます。風邪による発熱は37〜38℃程度の微熱が中心です。ただし、38.5℃以上の高熱が続く場合は、インフルエンザや細菌感染、髄膜炎など他の病気も疑う必要があります。
2.鼻水・鼻づまり
風邪の初期症状として、鼻水や鼻詰まりがよくみられます。これは、ウイルスが鼻の粘膜に侵入し、炎症を起こすことによって引き起こされます。炎症によって鼻の粘膜にある毛細血管の透過性が亢進し、血管内の水分が粘膜へと漏れ出すことで鼻水が生じます。初期の鼻水は水のようにサラサラしていますが、炎症が進むにつれて粘液の分泌が増加し、鼻水は次第に粘り気を帯びて黄色っぽくなっていきます。風邪のウイルスは数百種類以上存在し、ウイルスによって炎症の程度が異なるため、鼻水の状態も変化に富みます。鼻詰まりは、炎症によって鼻の粘膜が腫れ、鼻腔が狭くなることで起こります。鼻詰まりがひどくなると、呼吸が苦しくなったり、嗅覚が鈍くなったり、睡眠の質が低下したりすることがあります。また、副鼻腔炎(蓄膿症)などを併発するリスクも高まりますので、注意が必要です。
3.くしゃみ
くしゃみも、風邪の代表的な症状の一つです。くしゃみは、鼻の粘膜に付着したウイルスや異物を体外に排出するための防御反応です。一度のくしゃみで、ウイルスを含んだ無数の細かい飛沫が勢いよく飛び散るため、周囲の人への感染を広げる可能性があります。そのため、くしゃみをする際は、ティッシュやハンカチ、肘の内側などで口と鼻を覆う「咳エチケット」を徹底することが重要です。
4.のどの痛み
喉の痛みは、ウイルスが喉の粘膜に感染し、炎症を起こすことで生じます。喉の粘膜が炎症を起こすと、腫れて赤くなり、痛みや異物感を引き起こします。軽い痛みであれば、自然に治まることもありますが、痛みが強い場合は、飲食が困難になることもあります。風邪による咽頭痛は、のど全体がヒリヒリしたり乾いた感じがするのが特徴です。のどの強い腫れや扁桃に白苔(しらこけ)が見られる場合は、細菌性の咽頭炎(A群溶連菌感染症)も視野に入れるべきです。
5.咳
咳は、風邪の症状の中でも特に長く続くことが多く、Bruce Arrollらの研究でも、風邪による咳は日常生活に大きな支障をきたすと報告されています。咳は、気道に入ったウイルスや異物を排出するための防御反応ですが、咳が続くと、体力を消耗し、睡眠不足や胸痛を引き起こすこともあります。
6.頭痛
風邪に伴う頭痛は、発熱や鼻詰まり、炎症物質の産生などが原因で起こると考えられています。発熱によって脳の血管が拡張し、周囲の神経を刺激することで頭痛が生じることがあります。また、鼻詰まりによって副鼻腔に圧力がかかり、頭痛を引き起こすこともあります。
7.だるさ
全身症状として倦怠感(だるさ)を感じることもあります。全身倦怠感は、風邪の初期症状として現れることが多く、体全体がだるく、何もする気が起きない状態になります。これもウイルス感染に対する免疫反応によるもので、体がウイルスと戦うためにエネルギーを消費していることが原因と考えられています。十分な休息と栄養補給を行い、体の回復を促すことが重要です。
8.関節痛、筋肉痛
関節痛や筋肉痛は、ウイルス感染に対する免疫反応の一環として起こることがあります。免疫細胞がウイルスと戦う過程で、炎症性物質が放出され、関節や筋肉に痛みが生じることがあります。
9.ウイルス感染による炎症反応
風邪の原因は、ほとんどの場合、ウイルスです。200種類以上ものウイルスが風邪の原因とされており、それぞれ異なる特徴を持っています。ウイルスは、私たちの体の細胞よりもはるかに小さく、電子顕微鏡でなければ観察できません。
これらのウイルスは、鼻や喉の粘膜に付着し、細胞内に侵入して増殖します。 体はこの侵入者に対して、免疫システムを活性化させ、炎症反応を起こします。この炎症反応こそが、鼻水、鼻詰まり、くしゃみ、喉の痛みといった風邪の諸症状を引き起こす原因です。炎症反応は、体を守るための重要なメカニズムです。 鼻水はウイルスを洗い流し、咳はウイルスを体外へ排出する役割を果たします。 発熱もまた、ウイルスの増殖を抑えるための体の防御反応です。Arrollらの研究では、風邪の治療における様々な薬剤の有効性を評価しており、風邪には特効薬がないことが示されています。 これは、風邪のウイルスが多様であり、それぞれのウイルスに対する特効薬を開発することが難しいという現状を示唆しています。
■接触感染・飛沫感染
風邪のウイルスは、主に接触感染と飛沫感染という2つの経路で広がります。
接触感染は、ウイルスが付着した物体に触れた後、その手で自分の目、鼻、口などを触ることで起こります。例えば、風邪をひいている人が咳やくしゃみをした手でドアノブに触ると、ウイルスがドアノブに付着します。次にあなたがそのドアノブに触り、そのまま自分の顔に触れてしまうと、ウイルスが体内に侵入し、感染する可能性があります。
飛沫感染は、風邪をひいている人が咳やくしゃみをすると、ウイルスを含む微小な飛沫が空気中に放出され、それを吸い込むことによって感染する経路です。ウイルスを含んだ飛沫は、1~2メートル程度飛散すると言われています。そのため、風邪をひいている人と同じ空間で過ごすだけで感染するリスクがあります。
これらの感染経路を理解することで、日常生活の中でどのような場面で感染リスクが高まるのかを意識し、効果的な予防策を講じることが可能になります。
■注意が必要な「風邪に似た他の病気」
「風邪」と診断されることの多い症状の中には、実は他の病気が隠れていることがあります。たとえば、
- インフルエンザ:急な高熱、強い筋肉痛や倦怠感、関節痛
- 咽頭結膜熱(プール熱):発熱と結膜炎(目の充血)を伴う
- 百日咳:長く続く咳が特徴(成人でもかかる)
- COVID-19:発熱、咳、味覚・嗅覚異常を伴うことも
症状が通常より強い、長引く、または「いつもと違う」と感じた場合は、無理せず早めに医療機関を受診しましょう。
インフルエンザとの違い
風邪とインフルエンザは、どちらもウイルスによって引き起こされる呼吸器感染症ですが、原因となるウイルスが異なり、症状の重さや経過にも違いがあります。インフルエンザはインフルエンザウイルスという特定のウイルスによって引き起こされます。 インフルエンザは、風邪に比べて症状が急激に現れ、高熱、強い倦怠感、頭痛、筋肉痛などの全身症状が強く出る傾向があります。 また、肺炎などの合併症を引き起こすリスクも高く、特に高齢者や基礎疾患のある方にとっては重篤な病気となる可能性があります。風邪は通常数日で回復しますが、インフルエンザは1週間以上続くこともあります。 インフルエンザには予防接種がありますが、風邪には効果的な予防接種はありません。 インフルエンザと風邪を区別することは容易ではありませんが、症状が重い場合や、高熱が続く場合は、医療機関を受診し、適切な検査と治療を受けることが重要です。
診察で確認されるポイント
医師が診察の際に特に重視するのは以下の点です。
- 発症からの経過時間(長引く風邪症状には注意)
- 身体所見(のどの腫れ、リンパ節の腫れ、耳や皮膚の異常)
- 発熱の程度(38.5℃以上の場合は要注意)
- 他の持病や免疫状態
- 同居家族の感染状況(特に小児や高齢者の場合)
Centor criteria(咽頭炎の重症度スコア)など、臨床的な指標をもとに抗菌薬の適応も判断されます。
■風邪の原因微生物と検査の考え方
風邪の原因となる微生物は主にウイルス(ライノウイルス、コロナウイルス、RSウイルスなど)で、通常は自然に治癒します。そのため、特定のウイルス名まで検査する必要はありませんが、以下のような場合には検査が行われることもあります。
- インフルエンザ迅速検査
- A群溶連菌検査(咽頭培養・迅速キット)
- COVID-19 抗原検査やPCR検査
- EBウイルス感染症(血液検査)
当院では「BioFire® SpotFire®」システムを導入しています
このシステムは、マルチプレックスPCR法(Multiplex PCR:複数の病原体を同時に検出できる検査技術)を用いており、1回の検査で複数のウイルスや細菌の感染を迅速かつ高精度に特定することが可能です。
例えば以下のようなケースでは、従来の検査に比べて大きな利点があります:
- 発熱や咳などの症状が長引き、風邪かどうか判断が難しい場合
- インフルエンザ、COVID-19、RSウイルス、マイコプラズマ、百日咳など複数の原因が考えられる場合
- 高齢者や小児など、免疫力が低い方への早期診断が重要な場合
マルチプレックスPCRは、検体から得られるウイルスや細菌の遺伝子を一括で解析するため、迅速(最短約15分〜1時間程度)かつ的確な診断が可能です。これにより、適切な治療の選択や感染拡大防止にも役立ちます。
検査を受ける目安は?
一般的な風邪であれば自然治癒が期待できますが、以下のような状況では積極的な検査をお勧めします。
- 熱が3日以上続く
- 咳が長引く・強くなってきた
- 周囲にインフルエンザやコロナウイルス感染者がいる
- 高齢のご家族や乳児と接している
- 医療・福祉・教育現場などで勤務されている方
■風邪の治療
風邪に特効薬はありません。対症療法(症状に応じた治療)を基本とし、以下の方法で回復をサポートします。
- 解熱鎮痛薬(例:カロナール)で発熱・痛みの軽減
- 咳止め、去痰薬、漢方薬などで呼吸器症状の緩和
- 水分補給と十分な休養
- 室内の湿度調整、喉を乾燥させない工夫
抗菌薬(抗生物質)は細菌感染が疑われる場合にのみ使用され、通常のウイルス性風邪には不要です。
■風邪の予防
風邪のウイルスは実に200種類以上も存在します。そして、これらのウイルスは、空気中を漂ったり、物体の表面に付着したりして、私たちの周囲に常に潜んでいます。日頃から予防策を意識し、実践していくことが大切です。以下の5つのポイントを参考に、風邪を寄せ付けない体づくりを目指しましょう。
手洗いの徹底
手洗いは、風邪予防の基本中の基本と言えるでしょう。電車のつり革、ドアノブ、エレベーターのボタン…無意識のうちに様々なものに触れていますよ。これらの物体の表面には、目には見えない風邪ウイルスが付着しています。して、その手で無意識に目や鼻、口を触ってしまうことで、ウイルスは体内に侵入し、感染を引き起こします。洗いは、このウイルスを物理的に洗い流す、非常に効果的な方法です。流水で洗い流すだけでは不十分です。石鹸をよく泡立て、指の間や爪の間まで丁寧に洗うことで、ウイルスを除去できます。
適切な湿度管理
風邪ウイルスは、乾燥した環境を好みます。冬場など、空気が乾燥する季節は、風邪が流行しやすい傾向があります。これは、乾燥した空気によって、鼻や喉の粘膜も乾燥し、ウイルスが侵入しやすくなるためです。切な湿度は50~60%と言われています。加湿器を使用したり、濡れたタオルを部屋に干したりするなどして、室内の湿度を適切に保つように心がけましょう。
栄養バランスの良い食事と十分な睡眠
私たちの体は、免疫システムによってウイルスや細菌から守られています。この免疫システムを正常に機能させるためには、栄養バランスの良い食事と十分な睡眠が不可欠です。偏った食生活や睡眠不足は、免疫力を低下させ、風邪ウイルスへの抵抗力を弱めてしまいます。バランスの取れた食事を摂り、特にビタミンC、ビタミンD、タンパク質、亜鉛など、免疫機能の維持に重要な栄養素を積極的に摂取するようにしましょう。
また、睡眠は、体の疲労を回復させ、免疫システムを正常に保つために欠かせません。毎日同じ時間に寝起きし、質の高い睡眠を確保することで、免疫力を高めることができます。
マスクの着用
マスクの着用は、風邪予防に効果的です。咳やくしゃみをした際に、ウイルスを含む飛沫が空気中に飛散することを防ぎ、周囲への感染拡大を防ぎます。Bruce Arrollらの研究でも示されているように、マスクを着用することで、この飛沫感染のリスクを大幅に減らすことができます。自分自身を守るだけでなく、周りの人への感染を防ぐためにも、マスクの着用を心がけましょう。
人混みを避け、こまめに換気する
風邪ウイルスは、人から人へ感染します。特に、多くの人が集まる場所では、感染リスクが格段に高まります。風邪が流行している時期は、できるだけ人混みを避けるようにしましょう。やむを得ず人混みに行く場合は、マスクを着用し、こまめな手洗い・うがいを徹底するようにしてください。また、換気が悪い場所も感染リスクが高いため、注意が必要です。定期的に換気を行い、新鮮な空気を取り入れるようにしましょう。
■まとめ:風邪と正しく向き合うために
風邪は誰にでも起こる身近な病気ですが、油断せずに観察し、「何かおかしい」「長引く」「重い症状がある」場合は必ず医療機関に相談しましょう。自己判断で市販薬を長期間使用するのは避け、必要に応じて医師の診察を受けることが回復への近道です。
【参考文献】
- Heikkinen T, Järvinen A, et al.
The common cold. Lancet. 2003;361:51–59. - Dorsett M, Liang SY.
Diagnosis and Treatment of Central Nervous System Infections in the Emergency Department. Emerg Med Clin North Am. 2016;34:917–942. - Arroll B.
Common cold. BMJ Clin Evid. 2011;510.