病気と健康の話

【糖尿病】2025年 糖尿病診療アップデートのポイント

米国糖尿病学会(ADA)は毎年、糖尿病診療の標準となるガイドライン「スタンダードオブケア」を更新しています。
ここでは、診断基準の変更点、新しい薬物治療、食事療法、運動療法に関する最新情報を、わかりやすく解説します。

■糖尿病の診断(診断基準と分類)

糖尿病の診断基準は、血液検査による血糖値、または、ヘモグロビンA1c(HbA1c)値で定められており、ADAの基準(成人・非妊娠時)は以下の通りです(無症状の場合、2回以上基準を満たすことで診断確定)。

□ HbA1c値が6.5%以上(NGSP値)
□ 空腹時血糖値が126mg/dL以上(8時間以上の絶食後)
□ 75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値が200mg/dL以上
□ 高血糖症状があり、随時血糖値が200mg/dL以上(喉の渇き・多尿など典型症状がある場合)

なお、上記より軽い高血糖状態は、前糖尿病と分類されます。
例えば、A1c値5.7~6.4%や空腹時血糖100~125mg/dLの場合が該当し、この段階でも心血管疾患のリスクが高いため、生活習慣の改善による糖尿病予防が重要です。

早期発見の強化

2025年版では、糖尿病検査「開始年齢の引き下げ」が盛り込まれました。
リスク要因のない人でも、35歳から定期的に糖尿病検査を開始することが推奨されています。これは、肥満や運動不足など生活習慣の影響で、以前は中高年に多かった2型糖尿病が、若年化している傾向を反映した変更です。

糖尿病の分類

糖尿病は大きく4つに分類されます。

【1】インスリンを分泌する膵β細胞が自己免疫で破壊される、1型糖尿病(小児~若年に多発)
【2】インスリン分泌低下とインスリン抵抗性(効きにくさ)が原因の2型糖尿病(肥満や遺伝的素因が関与)
【3】その他の特定の原因による糖尿病(遺伝子の異常や膵臓の病気、薬剤性など)
【4】(妊娠中に発症する)妊娠糖尿病

患者さまの約90%は2型糖尿病で、特に肥満を背景とするケースが多くみられます。
一方、1型糖尿病は子どもだけでなく、大人にも発症し得るため注意が必要です。

ADAガイドラインでは、「糖尿病の型の分類は必ずしも単純ではない」ことが強調されており、実際には、どの年齢層でも1型・2型どちらも起こり得るため、従来の「1型=若年、2型=成人」という固定観念にとらわれずに診断する重要性が述べられています。

診断時にどちらか明確に判別できない場合もあり、その際は追加検査(膵島抗体測定やCペプチド測定など)を行い、治療方針を個別に決定します。

1型糖尿病の予防的介入

新たなトピックとして、家族に1型糖尿病の患者がいるなどリスクの高い方に対し、無症状の段階で1型糖尿病関連抗体を調べるスクリーニングが推奨されました。早期に自己抗体の陽性を捉えれば、必要に応じて発症を遅らせる新しい治療(免疫療法薬)の投与につなげることも可能性として期待されています。このように2025年版では、診断面でより早期に正確に糖尿病を発見・分類する取り組みが強化されています。

■薬物療法(新薬と治療方針)

糖尿病の薬物治療では、食事・運動療法で十分な改善が得られない場合に経口薬やインスリン注射などを用います。2025年版ADAガイドラインでは、患者一人ひとりの状態(合併症の有無や肥満度など)に合わせて薬剤を選択し、血糖コントロールと同時に心臓や腎臓への負担軽減といった多面的な目標を達成することが重視されています。

例えば心臓病(動脈硬化性心疾患)を合併する2型糖尿病患者には、心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中)の発生率を減らす効果が証明された、GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬の併用が推奨されます。

心不全を伴う場合は、SGLT2阻害薬が心不全による入院リスク低減に有効であり、慢性腎臓病を有する場合もSGLT2阻害薬またはGLP-1作動薬が腎機能悪化を遅らせ、心血管リスクを下げるために推奨されています。このように適切な薬物療法を組み合わせることで、糖尿病による合併症(心臓病、腎不全など)の予防につながります。

近年は、特にインクレチン関連薬(GLP-1受容体作動薬など)やSGLT2阻害薬といった新しい薬の登場が糖尿病治療を大きく進歩させました。これらの薬は血糖降下作用に加えて、体重減少や血圧低下など有用な効果を併せ持つ点が特徴です。例えばGLP-1受容体作動薬は、血糖と体重をしっかり下げるだけでなく、腎症の進行抑制や心血管疾患による死亡リスクの低減効果も報告されています。さらに、新規の2重作用インクレチン薬であるチルゼパチド(GIP/GLP-1二重作動薬、商品名マウンジャロ™)も登場し、腎臓の保護や心不全のリスク低減が期待されています。

一方、従来から用いられてきたメトホルミンなどの経口薬(ビグアナイド薬)も第一選択薬として引き続き重要ですが、十分な効果が得られない場合には、これら新しい薬剤を早期に併用する戦略が取られます。

■肥満と薬物療法

糖尿病と肥満を併発している場合、体重管理は治療の重要なポイントです。GLP-1作動薬やその二重作用薬は減量効果が非常に高く、ガイドラインでも減量目的でのこれら薬剤の積極的な活用が推奨されています。また一度目標体重に達しても、体重管理薬(抗肥満薬)は中止せず継続するよう助言されています。減量薬を途中でやめてしまうと、リバウンドで肥満や血圧・脂質などのリスク因子が再度悪化しやすいためです。こうした薬物療法の併用により食欲を抑えつつ、食事療法と運動療法を組み合わせて体重を減らすことが望まれます。

■治療方針のアップデート

2025年版では、治療アルゴリズムにも変更がありました。
インスリン分泌がまだ保たれている2型糖尿病患者では、いきなりインスリン注射を開始するより先に、GLP-1受容体作動薬(またはGIP/GLP-1二重作動薬)を用いることが推奨されています。これにより、インスリン注射よりも低血糖リスクが少なく、体重が増えにくい治療で十分な血糖コントロールが期待できます。仮にインスリン治療が必要な場合でも、GLP-1作動薬との併用で、少ないインスリン量で効果的に血糖を下げることが可能です(体重増加や低血糖を抑える利点があります)。

また、定期的(3~6か月ごと)に治療効果を評価し、目標未達なら早めに薬剤の追加・強化を行うことで、治療の先延ばし(治療の惰性)を避けることも強調されています。良好な血糖コントロールの維持そのものが、網膜症・腎症・神経障害といった糖尿病合併症の予防につながるため、こうした最新の治療戦略を取り入れていくことが重要です。

■食事療法(栄養バランスと食事のポイント)

糖尿病の食事療法は治療の基本です。
2025年版ガイドラインでも、質の高い栄養バランスのとれた食事の重要性が改めて強調されています。極端な糖質制限など特定のダイエット法に偏るよりも、野菜、果物、豆類、全粒穀物など食物繊維や植物性タンパク質を豊富に含む食材を積極的に取り入れ、食品の栄養価や総摂取カロリーに配慮した食生活を送ることが推奨されています。エビデンスに基づいた健康的な食パターンはいくつかありますが、共通するのは「高栄養・低カロリー」な食品(例:野菜や未精製の穀物、豆類、ナッツ、魚、脂肪の少ない肉)をバランスよく摂取することです。その上で過剰な糖質や脂質を控え、適正エネルギー量を守ることが血糖管理には欠かせません。

特に2型糖尿病患者で肥満がある場合、摂取カロリーのコントロールによる適度な減量が血糖改善に直結します。体重の5~10%減でもインスリンの効きが良くなり、血糖や血圧のコントロールが向上するため、無理のない範囲で減量を目指しましょう。

実際、食事療法と運動療法の継続により大幅減量(場合によっては15%以上)に成功すると、2型糖尿病が寛解(薬なしで正常血糖を維持できる状態)する例も報告されています。減量目標の達成には前述の薬物療法(GLP-1作動薬など)の助けを借りることもできますが、食事面での継続的な工夫が肝要です。

また、糖質の質と摂り方にも注意が必要です。砂糖を多く含む清涼飲料水や菓子類など、吸収が速く血糖値を急上昇させる食品・飲料はできるだけ控えましょう。水や無糖のお茶・コーヒーを主な飲み物にするのが望ましく、甘味が欲しい場合はカロリーゼロの人工甘味料入り飲料で代用する方法もあります。ただし人工甘味料入り飲料も適度かつ短期間の利用に留めることが推奨されています。つまり、人工甘味料も長期大量摂取は避け、あくまで総摂取カロリー・糖質量を減らす補助と考えるべきです。調理の際には揚げ物や動物性脂肪の多いメニューばかりにならないようにし、減塩にも配慮するなど、バランスの良い食事を心がけましょう。それぞれの患者さんに合った食事療法を続けることで、血糖コントロールと健康維持が長期的に改善します。

■運動療法(実践のポイント)

運動療法も糖尿病管理に欠かせない重要な柱です。定期的な運動は、全身の筋肉で血糖を消費し、インスリンの作用を高めるため血糖を下げる効果があります。さらにエネルギーを消費して減量を助けるほか、心肺機能の向上や血圧・脂質の改善効果もあり、動脈硬化予防など全身の健康維持につながります。ストレス解消や睡眠改善といったメンタル面への良い影響も期待できるため、運動はぜひ生活に取り入れたいものです。

ADAガイドラインでは、成人の2型糖尿病患者に対し、週150分以上の中等度の有酸素運動を行うことが推奨されています。例えば「1日30分程度のウォーキングを週5日」というペースです。ポイントは無理なく継続することなので、通勤や買い物ついでの歩行など日常生活に組み込むのも有効です。また、筋力トレーニング(レジスタンス運動)も週2~3回取り入れるとさらに効果的です。筋トレにより筋肉量が維持・増加すると基礎代謝が上がり、インスリン感受性も改善します。特に減量中の方は、筋トレを併用することでダイエットによる筋肉減少(サルコペニア)を防ぎ、リバウンドしにくい体づくりにつながります。実際、体重管理薬や減量手術を受けている方でも、適切な筋力トレーニングを行うことで筋肉量低下を防ぐことが重要だとガイドラインでも強調されています。

運動の種類は、ウォーキング、ジョギング、水泳、自転車、筋トレ、ヨガなど何でも構いません。
自身が無理なく楽しめるものを選びましょう。食後に軽く体を動かすだけでも血糖の急上昇(食後高血糖)を抑える効果があります。

例えば食後に、15~20分の散歩をする習慣は非常におすすめです。
また長時間座りっぱなしでいると血糖が上がりやすくなるため、デスクワーク中でも1時間おきに立ち上がって、体を動かすよう心がけてください。運動習慣のない方は、最初は負荷の軽い運動から始め、徐々に頻度や強度を増やしていきましょう。大切なのは継続することです。家族や友人と一緒に運動したり、歩数計やスマートウォッチで記録をつけたりすると、モチベーション維持に役立ちます。適度な運動の継続は血糖コントロールのみならず、精神面の健康にも良い影響がありますので、自分のペースで取り組んでみてください。

以上、2025年版ADA糖尿病診療ガイドラインの主なアップデートについて解説しました。

アップデートされた知見に基づく診療のポイントを押さえることで、より良い血糖コントロールと合併症予防につなげることができます。糖尿病治療は年々進歩しています。患者さんご自身も正しい情報を知り、日々の血糖管理や生活習慣改善に活かしていきましょう。必要に応じて主治医と相談しながら、最新の治療を上手に取り入れて、糖尿病と前向きに付き合っていくことが大切です。

参考文献

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