病気と健康の話

【喘息】2025年版GINAガイドラインに基づく、子どもの喘息診断と治療のポイント

喘息は、小児にも多くみられる慢性の呼吸器疾患で、その診断と治療には科学的根拠に基づいた対応が重要です。
2025年版のGINA(Global Initiative for Asthma)喘息ガイドラインでは、小児喘息に関して、いくつかの重要な変更と明確化が行われました。特に5歳以下の小児の喘息診断と治療における基準や治療戦略がアップデートされています。
本コラムでは、保護者の方にも分かりやすいように、2025年版ガイドラインのポイントを解説します。

■5歳以下の小児に対する喘息診断基準の明確化

2025年版GINAガイドラインでは、「5歳以下の子どもでも喘息と診断できる」ことが明確に示されました。従来、就学前の幼児の喘息診断は難しいとされ、慎重に様子を見ることが多かったですが、最新ガイドラインでは以下の3つの臨床基準をすべて満たす場合に喘息と診断できるとしています。

  • 繰り返す喘鳴発作があること。
    呼吸時に「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった喘鳴を伴う発作が2回以上起こり、発作と発作の間にも、咳や軽い喘鳴など喘息を思わせる症状がみられる。
  • 他の病気では説明がつかないこと。
    呼吸器の症状を引き起こす他の原因(例:気道感染症、気管支異物、先天的な心肺の疾患など)が否定的であること。
  • 喘息の薬に対する反応があること。
    喘鳴発作時に、短時間作用型気管支拡張薬(SABA)吸入で症状が改善する、または、2〜3か月間の吸入ステロイド(ICS)毎日吸入+必要時SABA併用という治療試験で、症状や発作が明らかに減少・改善する。

上記の3条件すべてが満たされれば、5歳以下でも「喘息」と診断できます。
一方で1つか2つのみの場合は直ちに確定診断せず、「疑い」として経過観察し、必要に応じて診断を見直すことになります。

このように診断基準が具体的に提示されたことで、小さなお子さまでも喘息をより的確に判断できるようになりました。保護者の方は、「風邪のたびに、咳が長引いたりゼーゼーするけど、喘息なのかしら?」と不安な場合でも、医師がこれらの基準に沿って評価してくれることを知っておくと安心です。

■吸入ステロイド(ICS)・SABA・ICSホルモテロールの使い分けと安全性

喘息治療に使われる吸入薬には、大きく「コントローラー(予防薬)」と「リリーバー(発作治療薬)」の2種類があります。
吸入ステロイド(ICS)は、気道の炎症をしずめて発作を予防する「コントローラー」で、毎日または定期的に使用します。
一方、短時間作用型β2刺激薬(SABA)は、発作時の症状(喘鳴や咳、息苦しさ)をすばやく和らげる「リリーバー」で、必要な時にだけ吸入します。

ICSとホルモテロールの配合剤(ICS-ホルモテロール)は、ステロイドと長時間作用型薬(LABAの一種であるホルモテロール)を組み合わせた吸入薬です。ホルモテロールは発作時にも素早く効く特徴があるため、このICS-ホルモテロール配合吸入薬は1本で予防と発作治療の両方に使うことが可能で、近年のガイドラインで注目されています。

安全性の面では、ガイドラインの方針が近年大きく変わっています。SABA単独の使用は、現在推奨されていません。SABA(いわゆる「発作止め」の吸入薬)だけに頼る治療は、一時的に症状を抑えても炎症を悪化させやすく、重篤な発作リスクや死亡リスクを高める可能性が指摘されています。実際、最新のGINAガイドラインでは「SABAのみの治療は避け、必ずICSを併用すること」が強調されています。SABAを頻繁に使わなければならないということ自体が、喘息コントロール不良のサインでもあります。

したがって、日常的な炎症抑制には、ICSを用いることが安全で効果的です。吸入ステロイドというと副作用を心配される保護者も多いですが、吸入薬のステロイドはごく少量が気道に直接作用する仕組みであり、適正な用量で使えば全身への影響は最小限です。小児では、高用量を長期使用すると成長がわずかに抑えられる可能性が報告されていますが、その影響はごくわずかで、むしろ喘息を放置して繰り返す発作や入院の方が子どもの健康へ悪影響が大きいとされています。また、ICS吸入後にうがい・吐き出しをすることで、のどのカビ(鵞口瘡)など局所副作用も防げます。

一方、ICS-ホルモテロール配合薬(商品名の一例:シムビコートⓇなど)は、大人や年長児で「SMART療法」と呼ばれる使い方が推奨されています。これは1本の吸入薬を毎日のコントローラー(予防内服)としても、発作時のリリーバーとしても使う方法です。

例えば普段は朝夕に吸入しつつ、症状が出たときには追加でその吸入薬を使います。こうすることで、発作時にもステロイド薬が一緒に吸入されるため気道炎症をすぐ抑えられ、重篤な悪化を減らせることが分かっています。特に12歳以上の思春期〜成人の喘息患者さんでは、従来の「発作時はSABAだけ」よりも、この方法の方が安全であることが示されています。

ただし、小児のうち6〜11歳では、必ずしもICS-ホルモテロール配合薬が使えるとは限らず、その場合でも発作時にはSABAだけで済ませず、補助的に低用量ICSを追加吸入することや、普段から低用量ICSを毎日使っておく方法などが推奨されています。

5歳以下の幼児の場合は科学的根拠の関係で少し方針が異なり、基本的には発作時にSABAで対処しつつ、症状が頻繁な子にはICSの毎日吸入を開始します。
このように、お子さんの年齢や症状の程度によって薬の使い分けがありますが、発作止めだけに頼らず、「予防薬を取り入れる」ことが、現代の喘息治療の安全策となっている点は押さえておきましょう。

■子どもの喘息治療ステップ:間欠型と軽症持続型の場合

小児喘息の治療は、症状の頻度や重症度に応じて段階的(ステップごと)に選択されます。
特に日常の症状コントロール状態によって、「間欠型(症状がときどき出る程度)」と「軽症持続型(症状が持続的にある軽症)」に分けて考えると分かりやすいでしょう。

間欠型の喘息とは、例えば「普段は元気だが季節の変わり目や風邪の時だけゼーゼーする」ようなタイプで、症状は週に1~2日程度以下にとどまります。このような場合、2025年版GINAガイドラインでは、毎日の予防薬(コントローラー)を必ずしも使わなくてもよいとしています。ただし、全く治療しないわけではなく、発作時にはSABAの吸入で速やかに症状を抑え、さらに必要に応じて、発作のきっかけ(多くはウイルス感染)のタイミングで短期的にICSを使います。

具体的には、「風邪をひいてゼーゼーしだしたら、数日~1週間程度ICSを吸入して炎症を早めにしずめる」という間欠的なICS療法が選択肢となります。このようにすることで、常に薬を続けなくても、発作の芽を早期に摘み、肺へのダメージを防ぐことが期待できます。

一方、軽症持続型とは、「症状は軽いけれども週に何度も出現する」ような喘息です(例:週3日以上、あるいは毎週末運動すると咳込む等)。このようなケースでは、症状がない日でも炎症が持続していると考え、毎日コントローラー薬を使うことが推奨されます。具体的には、低用量の吸入ステロイド(ICS)を毎日1~2回吸入し、発作時には別途SABAで対処するといった治療が基本です。

毎日ステロイドと聞くと驚かれるかもしれませんが、前述の通り、安全域の高い低用量ICSで継続治療することで、発作そのものを起こりにくくしお子さんの生活の質を守ることができます。もしICSで十分コントロールできない場合(たとえば年に何度も救急受診が必要な発作が起きてしまう等)は、ICSの用量を中等量まで増やす(1日2回吸入を各2~4吸入に増やす等)ことや、ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)といった内服薬を併用することも検討されます。

LTRAは、シロップやチュアブル錠など子どもにも使いやすい経口薬で、アレルギー体質が関与する喘息に有効な薬です。これらを追加してもなお症状が治まらない場合や、高用量のICSを必要とする場合には、小児喘息の専門医に紹介し、生物学的製剤(注射薬)など高度な治療を検討していく段階になります。

治療ステップが上がった後も、症状が安定して3か月以上経過すれば、治療を減らせないか再評価する(ステップダウン)のも喘息治療の大切なポイントです。
お子さまの成長に伴い喘息が寛解するケースもありますので、定期的な診察で最適な治療量を見極めていきましょう。

■バイオマーカー(好酸球・FeNO)やピークフロー(PEF)の役割とリスク評価への活用

喘息の状態を評価したり治療方針を決めたりする際に、「バイオマーカー」と呼ばれる客観的な指標が参考にされることがあります。
代表的なものが、血中好酸球数とFeNO(呼気一酸化窒素濃度)です。

好酸球は、アレルギーや喘息で増えやすい血液中の白血球の一種で、血液検査で測定します。
FeNOは、息を吐き出す検査で、気道中の炎症(主に好酸球性炎症)の程度を調べるものです。

どちらも気道のアレルギー炎症「タイプ2炎症」の強さを反映する指標で、数値が高いと気道炎症が強く、喘息が悪化しやすいことを意味します。
実際、血中好酸球やFeNOが高い喘息患者さんは、将来の重症発作リスクが高いことが統計的にも示されており、ある研究ではFeNO値が高いと悪化リスクが3倍以上になるとの報告もあります。

そのため、専門医はこれらの値を治療の強さを決める材料として活用します。たとえば、お子さまのFeNOが高ければ、吸入ステロイドの効果が得られやすいタイプと考えられるため、ICS治療の継続や強化を検討します。

逆にFeNOが低く症状も落ち着いていれば、治療ステップダウン(薬を減らすこと)を考えるかもしれません。また、FeNOは治療薬の効果判定や、吸入薬のきちんとした使用のチェックにも使われます。

例えば、本当はICSを毎日吸入しているはずなのに、FeNOが高止まりしている場合、実際には吸入忘れが多い可能性を考慮する、といった具合です。

これらの検査は必ずしも全ての患者に行われるわけではありませんが、より良いコントロールのために医師が追加で提案することがあります。もし主治医から血液検査やFeNO検査について説明があった際には、「喘息のタイプや重症度を詳しく知るため」と理解していただくと良いでしょう。

ピークフローメーター(PEFメーター)もお子さまの喘息管理に役立つツールです。ピークフローメーターは筒状の計測器で、お子さんが思い切り息を吹き込むことで、一息で吐ける最大風速(ピークフロー値)を測定できます。いわば「喘息の調子を測る体温計」のようなもので、毎日のピークフロー値を記録すると、気道の状態変化が数字で把握できます。発作が起きると気道が狭くなるため、ピークフローの数字が普段より低くなります。この変化を早めに察知できれば、「そろそろ発作の前兆だから薬を増やそう」「病院に連絡しよう」といった対応を取る指標になります。実際、ピークフロー値のゾーンを緑・黄色・赤(正常の80%以上、50~80%、50%未満など)に分けて管理する喘息アクションプランが広く用いられており、家庭でのPEFモニタリングは重症発作を予防する上で有用です。

ただし、ピークフローメーターはきちんと強く息を吹ける年齢(おおむね5~6歳以上)でないと正確な値が出ません。小学生以上のお子さんであれば、主治医と相談の上で家庭でのピークフロー管理を取り入れてみると良いでしょう。

以上、2025年版GINA喘息ガイドラインに基づく、小児の喘息診断と治療の最新トピックについて解説しました。お子さまの喘息は、年齢によって診断や治療方針が少し異なりますが、いずれの場合も「症状をよく観察し、適切なタイミングで予防薬を使う」ことがポイントです。

ご家庭では、ゼーゼーや咳が出るパターンを日誌につけたり、ピークフローを測定したりして、診察時に医師と情報共有するとよいでしょう。最新のガイドラインの知見を踏まえつつ、主治医と連携してお子さまに最適な喘息管理を行っていきましょう。

参考文献

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