【麻疹】麻疹が世界的再流行~ポストコロナ時代の脅威
麻疹(はしか)が、いったん根絶が達成された国々でも、現在再び流行が拡大しています。新型コロナウイルスのパンデミック後、ワクチン接種の機会が失われたり、ワクチン忌避の傾向が強まったことで、世界中で麻疹への免疫の空白(immunity gap)が生まれました。特にアメリカでは2025年に607件の麻疹が報告され、そのうち97%は未接種か接種歴不明の人でした。麻疹はR₀(基本再生産数)が12~18と非常に高く、ワクチン接種率がわずかに下がるだけで、大規模流行が発生するリスクが高まります。このような状況はアフリカやアジアだけでなく、日本やアメリカといった先進国においても例外ではありません。麻疹の世界的な再流行は、全人類が再びこの病気に向き合う必要性を強く示しています。
■麻疹の感染力は極めて強い~国境を簡単に越える疾患
麻疹は、空気感染によって拡がる極めて感染力の強いウイルス性疾患です。飛沫や接触に加えて、空気中に漂うウイルス粒子によっても感染し、同じ空間にいるだけでもうつる可能性があります。実際に2024年に日本で発生した麻疹のアウトブレイクでは、アラブ首長国連邦(UAE)から帰国した未接種の男性が発端となり、飛行機内や空港で接触した複数人に感染を広げました。このように、麻疹は症状が現れる前から他人にうつす力があり、たった1人の感染者が飛行機で複数人に感染させる「スーパースプレッダー」になることもあります。2023年には世界中で1,030万人以上が麻疹に感染したと推定されており、地域を超えての広がりが危惧されています。国境があっても、麻疹の感染拡大は止められない──その現実を私たちは直視する必要があります。
■高熱と発疹・咳が出たらすぐ受診を~風邪と見分けがつきにくい初期症状
麻疹は、初期症状が風邪と似ており、見逃されやすい感染症です。38℃以上の高熱、咳、鼻水、目の充血などが数日間続いた後に、顔から始まり全身に広がる赤い発疹が出てくるのが特徴です。特に注意すべきは、発熱から発疹が現れるまでの間も感染力が非常に強い点です。本人が麻疹とは気づかないうちに、職場や学校、イベント会場などで多くの人にうつしてしまう可能性があります。実際に日本でも、ライブイベントや劇場での接触により二次感染が発生しました。咳や鼻水が続き、発熱や発疹を伴う場合は「風邪だろう」と自己判断せず、速やかに医療機関を受診しましょう。特に妊婦さんや乳幼児、高齢者、免疫が低下している方が麻疹にかかると、重症化しやすいため、早期発見と対応が重要です。
■ワクチンで防げる病気~接種の確認と早めの対応を
麻疹は「ワクチンで予防可能な病気」です。定期接種で行われるMRワクチン(麻疹・風疹混合ワクチン)は非常に高い予防効果があり、2回接種で99%以上の人に免疫がつくとされています。ところが、パンデミック中の医療機関への受診控えや、ワクチンに対する不信感の高まりにより、世界的に接種率が低下しました。日本においても、2023年時点で1回目の接種率は94.9%、2回目は92.0%と、WHOが推奨する95%の「集団免疫ライン」をわずかに下回っています。麻疹の流行を防ぐには、集団全体の高い接種率が不可欠です。ご自身やお子様の母子手帳を確認し、接種歴に不安がある方は早めに医師に相談しましょう。また、最終小学1年生時に接種したワクチンは、大学生になった時には抗体価が減少しています。海外渡航前にも必ずワクチン接種の有無を確認し、未接種はもちろん、渡航に際して不安がであれば出発前に接種しておくことが推奨されます。
参考文献
- Amemiya Y, Kobayashi T, Nishiura H. Post-pandemic outbreak of measles seen in Japan, 2024. Journal of Infection and Public Health. 2025;18:102887. doi: 10.1016/j.jiph.2025.102887
- Kuppalli K, Omer SB. Measles: the urgent need for global immunisation and preparedness. The Lancet. 2025;405:1565–1567. doi: 10.1016/S0140-6736(25)00675-0