病気と健康の話

【肺炎】《STOP肺炎》第3回:高齢者はRSウイルス対策をー“子どもだけの病気”ではありませんー

■はじめに

RSウイルス(RSV:respiratory syncytial virus)は、従来は乳幼児の重い呼吸器感染症の原因として知られてきました。しかし近年の研究で、高齢者においてもRSウイルスが重大な肺炎の原因となり得ることが明らかになっています。実際、医療機関や高齢者施設でRSウイルスの集団感染が報告されるようになり、高齢者の呼吸器疾患においても重要な病原体の一つと認識されつつあります。世界的にも、RSウイルスは65歳以上の高齢者における急性下気道感染症の重要な原因であり、高齢者では季節性インフルエンザに次いで脅威となる呼吸ウイルスと位置付けられています。

高齢者のRSウイルス感染症が注目される背景には、新たなエビデンスの蓄積があります。例えばアメリカでは、RSウイルスによる高齢者の死亡が毎年約2.3万人に上り、これはインフルエンザによる高齢者死亡(約2.7万人)にほぼ匹敵するとの解析もあります。こうした事実は、RSウイルスが「子どもの病気」だけではなく、高齢者にとってもインフルエンザに匹敵する脅威であることを示しています。日本の臨床現場でも、高齢者向けのRSウイルスワクチンが2024年に承認・導入されるなど、高齢者にもRSウイルス対策が必要だという認識が広がっています。本稿では、高齢者におけるRSウイルス感染症について、基礎知識からリスク、最新のワクチンや治療法、そして予防策まで、最新エビデンスに基づきわかりやすく解説します。

RSウイルスの基本情報

RSウイルスとはどのようなウイルスでしょうか。RSウイルスはパラミクソウイルス科に属する呼吸器ウイルスで、乳幼児から高齢者まであらゆる年齢層に感染します。特に乳幼児では下気道炎(気管支炎や細気管支炎)を引き起こしやすく、生後6か月未満の乳児では重篤な肺炎の原因として世界で最も重要な病原体です。事実、ほぼすべての小児が2歳までにRSウイルスに感染するとも言われており、一度感染しても十分な免疫がつかないため何度も再感染することが知られています。流行は毎年秋から冬にかけて発生し、ピークは冬季です。このようにRSウイルスはインフルエンザ同様に毎年流行する季節性のウイルスであり、流行の規模や流行時期は年によって若干変動します。

感染経路はインフルエンザや新型コロナウイルスと似ており、主に飛沫感染(咳やくしゃみで飛散されたウィルスを吸い込む)と接触感染(ウイルスが付着した手指や物に触れ、その手で口や鼻に触れる)です。ウイルスはプラスチックや金属などの表面上で数時間は感染力を保つため、手すりやドアノブを介して広がる可能性もあります。また、乳幼児や小さなお子さんはウイルスを大量に排出するため、保育園や幼稚園、家庭内で子どもから高齢者へ感染が広がりやすい点にも注意が必要です。

症状は年齢や健康状態によって異なります。乳幼児ではRSウイルス感染症の代表的症状として細気管支炎(ゼーゼーとした喘鳴を伴う呼吸困難)が有名です。初めは鼻水や咳、発熱などかぜ症状で始まりますが、状態が悪化すると呼吸が速く浅くなり、肋骨の間がへこむ呼吸困難(陥没呼吸)や喘鳴が現れ、哺乳困難になることもあります。入院が必要な重症例では、点滴や酸素吸入、場合によっては人工呼吸管理を要します。一方、成人の多くや学童期以降の健常児では、RSウイルス感染症は単なる「かぜ」程度の軽い症状で済むことが一般的です。鼻水、のどの痛み、軽い咳と微熱程度で自然に改善し、感染に気付かないこともあります。

しかし高齢者や基礎疾患のある成人がRSウイルスに感染した場合は、症状が重くなることがあります。高齢者ではしばしば気管支炎や肺炎を引き起こし、発熱、激しい咳と痰、喘鳴(ゼーゼー)、呼吸困難といった症状が現れ、入院治療が必要となる例も少なくありません。実際の臨床では、高齢者のRSウイルス肺炎の症状は、インフルエンザ肺炎など他の呼吸器感染症と区別がつきにくいですが、特に持病で肺や心臓に持病をお持ちの方は注意が必要です。また、一度感染しても完全には免疫がつかないため、生涯にわたり繰り返し感染します。つまり、高齢者であっても過去に罹ったことがあっても再び感染する可能性があり、誰もが感染し得るウイルスと言えます。

■高齢者におけるリスク

なぜ高齢者のRSウイルス感染症が問題なのでしょうか。その理由の一つは、高齢者ではRSウイルス感染が重症化しやすいことです。加齢に伴い免疫力が低下し(いわゆる免疫老化)、また心肺機能も衰えていくため、ウイルス感染に対する抵抗力が弱まります。特に慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘息などの持続する肺の病気、慢性心不全などの心臓の病気、腎臓病、糖尿病といった慢性疾患を抱える高齢者や、免疫力の落ちている方(免疫不全状態)では、RSウイルス感染症が重症化しやすいと報告されています。実際、RSウイルスで入院に至った高齢患者の多くはこれら何らかの基礎疾患を有しており(ある報告では81%に少なくとも1つの併存疾患が認められました)、肺疾患や心疾患の悪化が入院の主な原因となっています。特にCOPD(喫煙などが原因の慢性肺疾患)はRSウイルス感染による肺炎悪化のリスク因子として重要視されており、RSウイルス感染がCOPD増悪(急激な症状悪化)を引き起こすこともわかっています。

高齢者のRSウイルス感染症の規模(疫学)も看過できません。RSウイルスは乳幼児だけでなく65歳以上の高齢者の主要な下気道感染症の原因であり、その負担は従来考えられていたより大きいことが明らかになってきました。例えば米国のデータでは、RSウイルスにより毎年18万件以上の高齢者入院と約14,000人の高齢者死亡が発生していると推計されています。これは高齢者の肺炎の原因としてRSウイルスが無視できない存在であることを示しています。また別の解析では、RSウイルスによる超過死亡(平年と比べ増加した死亡)の推定値が米国高齢者で年間約23,000人にのぼり、これはインフルエンザによる高齢者超過死亡(約27,000人)にほぼ匹敵するとの報告もあります。つまり統計上も、RSウイルスはインフルエンザに劣らない脅威なのです。ヨーロッパや日本を含む先進国全体で見ても、2019年には60歳以上のRSウイルス感染症による死亡が推定33,000人に達したとされ、高齢者人口の多い国々では共通の課題となっています。

イギリスでも高齢者RSウイルスの影響が注目されており、推計毎年65歳以上でRSウイルスに関連する診療が約17.5万件、死亡が最大7,500人に及ぶとされています。興味深いことに、2023/24年冬季にイングランドで行われた解析では、RSウイルスによる高齢者(65歳以上)の入院率はインフルエンザの約半分でしたが、入院後30日以内の死亡率はRSウイルス約10.6%・インフルエンザ約8.7%と同程度であったと報告されています。この結果は、「RSウイルスは入院に至る患者数こそインフルエンザより少ないものの、ひとたび重症化すればインフルエンザと同等に死亡リスクが高い」ことを示唆しています。実際、高齢者ではRSウイルス感染による肺炎の致命率(死亡率)がインフルエンザ肺炎と同程度との国内報告もあり、軽んじることはできません。ところが高齢者の肺炎原因として、RSウイルスは見逃されがち、でもあります。従来、高齢者の肺炎と言えば細菌性肺炎やインフルエンザが重視されてきたため、(RSウイルス感染が見過ごされ)検査されない場合も多く、実際には統計以上に患者数が多い可能性も指摘されています。高齢者ではウイルス検査を行っても検出感度が低い傾向があるため、RSウイルス感染症の実際の負担は過小評価されてきたかもしれません。以上のことから、高齢者におけるRSウイルス感染症は影響が大きく、かつ見えにくい「隠れた脅威」であり、しっかりと対策を講じる必要があるのです。

■最新のワクチンと治療法

RSウイルスに対するワクチンや治療薬は近年まで存在しませんでしたが、2023年以降に画期的な進歩がありました。実は1960年代に一度RSウイルスワクチン(不活化ワクチン)の開発が試みられましたが、接種した子どもが自然感染した際に重篤化するという予期せぬ結果となり、大失敗に終わりました。この事件によりワクチン開発は何十年も停滞し、その間RSウイルスに対する有効な予防法はほとんどありませんでした。長らく唯一の予防手段はパリビズマブ(シナジス)というモノクローナル抗体製剤の定期投与でしたが、これは早産児や先天性心疾患の乳児など限られたハイリスク乳児に月1回筋注する高額な予防策で、一般的なワクチンのように広く使えるものではありませんでした。また、RSウイルスに直接効く治療薬についても、一部でリバビリンの吸入療法が試みられる程度で、標準的に推奨される抗ウイルス薬はありませんでした。

そうした中、2023年になってRSウイルス予防の分野に大きな進歩がありました。RSウイルスに対する初めてのワクチンが高齢者向けに承認され、さらに乳児をRSウイルスから守るための長期持続型抗体製剤(ニルセビマブ)や妊婦へのワクチン(出生児への受動免疫目的)も相次いで実用化されたのです。ここでは高齢者向けワクチンを中心に、その有効性・安全性と最新の知見を紹介します。

現在承認されている高齢者向けRSウイルスワクチンは主に2種類あります(2024年時点)。一つはファイザー社のワクチン(商品名:アブリスボ)で、もう一つはグラクソ・スミスクライン(GSK)社のワクチン(商品名:アレックスビー)です。どちらもRSウイルス表面のFタンパク質(ウイルスが細胞に侵入する際に使うタンパク)を標的としたサブユニットワクチンで、1回の筋肉注射で接種します。まずファイザー社のワクチンですが、米国を中心とした臨床試験(第III相試験)において60歳以上の成人約34,000人が参加し、その有効性が評価されました。結果は非常に良好で、RSウイルスによる下気道疾患(気管支炎や肺炎など)を予防する効果は約67%(症状が2つ以上のケース)、より重症な下気道疾患(症状が3つ以上のケース)では86%もの高い有効率が示されました。これはインフルエンザワクチンと同等以上の予防効果です。また、軽い症状も含めたRSウイルス感染症全体の発症予防効果も62%確認されており、感染そのものもある程度防げることがわかりました。安全性の面でも大きな問題は報告されていません。試験では重篤な有害事象はまれで、ワクチン直後に一時的なアレルギー反応が1件、また免疫の異常反応であるギラン・バレー症候群が1件報告されましたが、いずれも適切に治療され回復しています。全体として副反応は注射部位の痛みや倦怠感など軽度~中等度で一過性のものが中心であり、安全で有効なワクチンと評価されています。

次にGSK社のワクチンですが、こちらも国際共同第III相試験で60歳以上の約25,000人が参加し検証されました。このワクチンは特に免疫を増強するアジュバント(AS01という物質)が配合されている点が特徴です。その結果、RSウイルスによる下気道疾患の予防効果は約83%と報告されました。重症のRSウイルス肺炎など入院を要するような重篤な疾患の予防効果は94%にも達し、軽い症状も含めたRSウイルス感染症全体の予防効果も72%と高水準でした。注目すべきは、この有効性が高齢者の幅広い層で認められたことです。試験参加者を年齢別に見ると60代・70代でともに80%以上の有効率が示され、虚弱な高齢者(フレイル)の方でも効果が高かったとされています。また、心肺疾患や糖尿病などの持病を持つ高齢者においても、そうでない人と同等の免疫効果・予防効果が得られており、基礎疾患の有無を問わず幅広い高齢者で有効でした。安全性についても重大な懸念は指摘されていません。主な副反応は注射した腕の痛みや一時的な倦怠感・疲労感といった軽度のものにとどまり、重い副作用の頻度は低い水準でした。さらにこのGSKワクチンでは、1年後の追加接種(ブースター接種)の検討も行われました。初回接種から翌年の流行シーズン前に再度ワクチンを接種した群と接種しなかった群で効果を比較したところ、2年目も引き続き高い予防効果が維持されており、追加接種による有効性の上乗せは確認されませんでした。具体的には、2シーズン目(2年目)のRSウイルスによる重症疾患予防効果は追加接種なしでも79%、非重症も67%と高く、少なくとも2シーズンは1回の接種で十分な免疫が持続することが示唆されたのです。この結果から、高齢者RSウイルスワクチンは毎年の追加接種を必ずしも必要としない可能性があり、ワクチン効果の持続にも優れていることが期待されています。

さらにModerna社(米国)のmRNAワクチンも開発が進み、こちらは2024年にアメリカFDAで承認を取得しました。Moderna社のワクチン(開発名:mRNA-1345、商品名:マレスビア=mRNA-1345)は、新型コロナワクチンと同じくmRNA技術を用いてRSウイルスのFタンパク質を標的としたものです。臨床試験の結果、RSウイルス下気道疾患の予防効果がおよそ82%以上と報告されており、従来型のワクチンに匹敵する有効性を示しました。発熱や咳などRSウイルス感染症全体の発症予防効果も約68%と良好です。安全性は他のワクチン同様に良好で、主な副反応は注射部位の疼痛、頭痛、倦怠感など一時的なものにとどまり、深刻な有害事象は確認されていません。効果の持続期間についても、中間解析の時点で少なくとも9か月間は予防効果が持続しており、1年を通じて高い防御効果が期待できます。このModerna製ワクチンは2024年5月に米国で60歳以上への接種が承認されており、今後日本でも承認申請が行われる可能性があります。実現すれば、高齢者向けRSウイルスワクチンは選択肢がさらに広がるでしょう。

以上のように、RSウイルスに対するワクチンは高齢者にとって有効な予防手段となりつつあります。実際の実地使用から得られたエビデンスも出始めています。米国の2023~2024年シーズンにおける解析では、RSウイルスワクチン接種により60歳以上の入院リスクが約80%減少したとの報告があり、ワクチンの実効性が示唆されています。また英国(イングランド)では、2024年秋から75~79歳の高齢者に対するRSウイルスワクチン接種プログラムが開始され、シーズン中期での速報分析によるとワクチン接種群でRSウイルスによる入院が約30%減少し、これはワクチン有効率に換算して約72%に相当する効果でした。この規模の効果は予想通り高いものであり、高齢者集団全体のRSウイルス入院を確実に減らす実質的な利益が示されています。さらには英国での解析において、RSウイルスワクチン接種プログラム開始後に75~79歳でRSウイルス入院率の明確な低下が観察されており、研究者らは「高齢者へのRSウイルス免疫(ワクチン接種)の価値を強く裏付ける結果である」と結論づけています。このように最新のワクチンは臨床試験のみならず現実世界でも効果を発揮し始めており、高齢者のRSウイルス脅威を減らす切り札として期待されています。

なお、高齢者のRSウイルス感染症に対する治療法については、現在のところ特異的な治療薬は確立されていません。ウイルスそのものを直接排除する抗ウイルス薬は研究段階ですが、RSウイルスの融合(F)タンパク質やウイルス複製酵素を標的とした新薬の開発が進められており、一部は臨床試験で有望な結果を示しています。2024年にはアメリカでRSウイルスに対する初の経口治療薬(リバビリンとは別の新規薬剤)が承認申請中との報道もあり、近い将来には治療の選択肢が登場する可能性があります。

現状では、RSウイルス感染症の治療は対症療法(症状を和らげる治療)が中心です。具体的には、発熱に対する解熱剤、咳に対する鎮咳薬や去痰薬、呼吸困難に対する酸素投与、必要に応じて点滴や人工呼吸管理など、症状と全身状態に応じたサポートを行います。細菌の二次感染(例えば細菌性肺炎の合併)が疑われる場合には抗生物質を投与します。重症例ではICU管理が必要になることもあります。このように直接の特効薬がない分、予防策(ワクチンや感染予防)が一層重要となります。

■予防と対策

高齢者のRSウイルス感染を防ぐために、どんな対策が有効でしょうか。大きく分けて「ワクチンによる予防」と「日常生活での感染予防」の二本柱があります。

まずワクチン接種ですが、前述の通り2023年以降、高齢者向けのRSウイルスワクチンが利用可能になりました。日本でも2024年に60歳以上(あるいは基礎疾患を有する50歳以上)を対象としたRSウイルスワクチンの接種が承認されています。高齢者、とりわけ慢性呼吸器疾患や心疾患、糖尿病、腎疾患などをお持ちの方や要介護高齢者はRSウイルスによる重症化リスクが高いため、主治医と相談の上でワクチン接種を検討することが推奨されます。米国では当初、60歳以上の希望者への接種が推奨されていましたが、2024年には方針が見直され、特に75歳以上の全員および60~74歳でリスク因子を有する人に優先して接種するという勧告が出されています。これは、年齢が上がるほど重症化しやすいことや、80歳以上では臨床試験データが少なかったことを踏まえた戦略です。ワクチンはインフルエンザワクチンと同じく筋肉注射で、原則1回の接種です(現在、毎年接種は推奨されていません)。接種後1~2週間ほどで免疫がつくため、流行シーズン(秋冬)の少し前に受けておくと効果的です。インフルエンザワクチンとの同時接種も可能とされています。今後、新たなワクチン(例えば前述のModerna社のmRNAワクチン)が承認されれば、接種対象者の拡大や公費助成の制度整備も進むかもしれません。いずれにせよ、ワクチン接種は重症化リスクを大幅に減らす最も有効な手段ですので、該当する高齢者の方は前向きに検討していただきたいと思います。

次に日常生活での感染予防対策です。RSウイルスの感染経路は前述のように飛沫と接触が主体ですから、インフルエンザや新型コロナウイルス対策と共通する基本的な感染対策が有効です。具体的には以下のようなポイントが挙げられます。

●手洗いの徹底

外出先から帰宅したときや、咳や鼻をかんだ後、また乳幼児のお世話をした後などは、石鹸と流水で手を丁寧に洗いましょう。アルコール消毒剤も有効です。手指に付着したウイルスを除去することで接触感染のリスクを下げられます。

●マスクの着用

冬場の流行期には、人混みに出る際や咳症状のある人と接するときにはマスクを着用すると安心です。特にお孫さんなど小さなお子さんと接するときは、お子さん側にもマスクや手洗いをしてもらうなど配慮すると良いでしょう。実際、2020~2021年の新型コロナ流行期に厳格なマスク着用・人との距離確保が行われたところ、RSウイルス感染症がほぼ消失するほど激減しました。このことは、マスクやソーシャルディスタンスなど基本的な非薬物的介入(NPI)がRSウイルスにも極めて有効であることを示しています。流行期に高齢者施設でクラスター(集団感染)を防ぐためにも、面会者のマスク着用や手指消毒の徹底が推奨されます。

●換気と湿度管理

部屋の空気を定期的に入れ替えて換気することも大切です。閉じた空間にウイルスが充満するのを防ぎます。また適度な湿度(50~60%)を保つことで粘膜の防御機能を維持し、ウイルスが喉や鼻の粘膜に付着しにくくなります。

●体調管理と早めの受診

規則正しい生活や十分な睡眠・栄養で免疫力を保つことも予防には重要です。もし風邪症状が出た場合、高齢者や持病のある方は早めに医療機関を受診して下さい。RSウイルス感染症かどうかは、PCR検査で調べることができます。特に呼吸困難や高熱がある場合は放置せず受診し、必要なら入院治療を受けることが大事です。

●周囲の配慮

高齢者ご自身だけでなく、周囲のご家族や介護者も感染を広げない工夫が必要です。風邪症状があるときはマスクをして高齢の家族に接したり、症状が強いときは面会や訪問を控えるなどの配慮をしましょう。幼いお子さんがいる家庭では、お子さんがRSウイルス流行期に感染した場合、祖父母との接触を避けることも検討してください。乳幼児はウイルスを撒き散らしやすく、実は祖父母への感染源になるケースも少なくありません。家族ぐるみで感染対策に取り組むことが、高齢者をRSウイルスから守ることにつながります。

以上のような対策を講じることで、RSウイルス感染のリスクを大きく下げることができます。特に新型コロナ対応で身につけた習慣(手洗いや換気、マスクなど)は、そのままRSウイルスやインフルエンザの予防にも役立ちます。高齢者自身と周囲の人々が協力し、ワクチンと日常の衛生対策を組み合わせることが、RSウイルス感染症から身を守る最善策と言えます。

■まとめ

本稿では、高齢者におけるRSウイルス感染症について、その重要性と対策を解説しました。ポイントを振り返ってみましょう。

  • RSウイルスは子どものみならず高齢者にとっても脅威となる感染症です。
  • 乳幼児の重症肺炎の原因ウイルスとして知られるRSウイルスですが、免疫力や抵抗力の低下した高齢者でも肺炎を引き起こし、インフルエンザに匹敵する死亡リスクをもたらすことが明らかになりました。高齢者施設での集団感染報告などからも、高齢者におけるRSウイルスへの注意が必要です。
  • 高齢者ではRSウイルス感染が重症化しやすく、入院や死亡に至るケースもあります。高齢者RSウイルス患者の多くにCOPDや心疾患などの基礎疾患があり、肺炎合併時の致死率は約10%と報告されています。米英のデータでも、高齢者のRSウイルス負担(入院・死亡)が非常に大きいことが示されています。
  • 2023年以降、待望のRSウイルスワクチンが高齢者向けに登場しました。ファイザー社およびGSK社のワクチンが承認され、臨床試験で80%前後という高い有効性が確認されています。安全性も良好で、少なくとも1~2年は免疫効果が持続すると期待されています。米国ではModerna社のmRNAワクチンも承認され、選択肢が広がっています。
  • ワクチン接種と合わせて日常の感染予防策も欠かせません。手洗いやマスク、換気など基本的な感染対策はRSウイルスにも有効であり、実際にコロナ禍ではRSウイルスの流行が激減しました。特に冬季は周囲の家族含めた対策が、高齢者への感染を防ぐ鍵となります。

最後に、高齢者ご本人とそのご家族・介護者の皆さんにお伝えしたいのは、「RSウイルスは子どもの病気」と油断しないでくださいということです。この記事で述べたように、RSウイルスは高齢者にとっても無視できない肺炎の原因であり、予防できる時代が始まっています。ワクチンという強力な武器に加え、日頃からの感染対策で、ぜひRSウイルスから大切な命と健康を守ってください。早期の予防と対策こそが「STOP肺炎」への近道です。

参考文献

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