病気と健康の話

【発熱外来】三つが重なるお盆明け―西のコロナ、東の A 型インフルエンザ、そして海外帰りが加わる夏の発熱―

はじめに ― 発熱外来の風景は東西で違っていました

お盆の期間、当院の発熱外来には連日、熱を出された方が来院されました。印象的だったのは、同じ「夏の発熱」であっても、西日本と東日本とで原因ウイルスの顔ぶれが異なっていたことです。西日本の方は新型コロナウイルス感染症とパラインフルエンザウイルス感染症が中心で、一方、東日本から帰省された方には A 型インフルエンザが認められました。本来インフルエンザは冬の病気のはずですが、昨シーズンから状況は一変しました。2025-2026シーズンは世界的に流行が前倒しとなり、A(H3N2)の「サブクレード K」と呼ばれる新しい系統が主役になりました。昨シーズン、米国の大規模監視データでは、性状解析されたA(H3N2)ウイルス 1,754 株のうち 92.7%にあたる 1,626 株がサブクレード K でした。(AzzizBaumgartner et al., JAMA Netw Open 2026)。
お盆明け、海外旅行から帰国された方が加わります。米国 CDC がまとめた Yellow Book 2026年版によれば、渡航後の呼吸器感染症の原因として最も多いのはウイルスであり、新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、麻疹ウイルスなどがその代表です(LaRocque & Ryan, CDC Yellow Book 2026)。実際、海外のゲノム監視データを見ると、香港・シンガポール・韓国・カナダで流行している新型コロナの変異株の顔ぶれは、日本国内の分布と必ずしも一致していません。帰国された方が持ち帰るのは、お土産だけではないということです。
注意していただきたいのは、この波が中年層と高齢者に届くのは「これから」だという点です。夏休みの人の移動は、まず小児と若年層のあいだで感染を広げ、数週間遅れて家庭内や職場を通じて上の世代へ及びます。さらに、Nature 誌に 2026 年 8 月に発表された最新研究は、新型コロナ感染が体内に眠っていたヘルペスウイルスなどを目覚めさせることを、1,154 名の入院患者データから明らかにしました(Maguire et al., Nature 2026)。本コラムでは、これからの発熱外来を、ヨーロッパとアメリカの最新論文を手がかりに整理します。

1.西日本と海外組の主役はコロナ ― 「ニンバス」から「BA.3.2」ま
で、多彩に流行している顔ぶれ

西日本の発熱外来で今夏多く検出されているのは、依然として新型コロナウイルスです。ただし、その中身は数年前とは別物になっています。現在世界で問題となっているのは、NB.1.8.1 系統(通称「ニンバス」)、組換え体の XFG 系統(通称「ストラタス」)、そして系統
樹の上で大きく離れた BA.3.2 系統です。しかも重要なのは、どの系統が優勢かは地域によって異なることです。欧州 CDC(ECDC)の 2026 年 6 月の評価では欧州連合域内で XFG 系統が優勢とされる一方、アジアや北米のゲノム監視データでは NB.1.8.1 系統が高い割合を占める地域が残っています。
この三者を直接比較した研究が、2025 年 6 月に Lancet Infectious Diseases 誌に報告されました(Guo et al., Lancet Infect Dis 2025)。従来流行していた LP.8.1.1 を基準にすると、中和抗体価(NT50)は NB.1.8.1 で 1.5〜1.6 倍、XFG で約 2 倍、そして BA.3.2 ではおよそ3〜4 倍低下していました。BA.3.2 はさらに、その祖先にあたる BA.3 と比べると 11 倍もの低下を示しています。つまり、過去の感染やワクチンで得た抗体が効きにくくなる度合いは、BA.3.2 が突出しているということです。一方で細胞に取りつく力は逆方向でした。同報告では、NB.1.8.1 が検討された系統のなかで最も高い ACE2 受容体結合親和性を示したのに対
し、BA.3.2 は ACE2 への結合効率が最も低いとされています(両者は測定指標が異なるため単純な比較には注意が要りますが、傾向は明らかです)。免疫からの逃れやすさと、細胞への取りつきやすさは、必ずしも同じ方向を向いていないと考えられます。
BA.3.2 については、米国 CDC が 2026 年 3 月に MMWR 誌で世界規模の監視結果を報告しています(Shakya et al., MMWR 2026)。初検出は 2024 年 11 月 22 日の南アフリカで、その後少なくとも 23 か国に広がりました。米国では 2025 年 6 月 27 日に初めて検出され、2025 年 9 月以降に検出が増えています。注目すべきは検出の経路で、渡航者からの検体 4 件、患者の臨床検体 5 件に加えて、航空機の廃水から 3 件、25 州の下水から 132 件が検出されました。
兵庫県では、1 学期の終わり 7 月頃に BA.3.2 が学童間で流行し、夏休みに入ってからは学童保育と保育園で感染。依然として時折検出されるものの、主流は NB.1.8.1 へと置き換わりつつあります。また、XFG 系統も一定数認められるようで、現在は多彩な系統のコロナウィルスが混在しています。

2.パラインフルエンザ ― 「ただの夏かぜ」ではなかなか終わらない
下気道感染

この夏、西日本でコロナと並んで多かったのがパラインフルエンザウイルス感染症です。パラインフルエンザウイルスには 1 型から 4 型があり、小児では特有の「ケンケン」という犬吠様咳嗽を伴うクループ(急性喉頭気管支炎)の原因として知られています。なかでも 3 型は春から初夏にかけて流行の中心がありますが、米国 CDC も指摘するとおり一年を通じて検出されうるウイルスであり、夏場の発熱の原因として十分に想定すべき相手です。名前に「インフルエンザ」とついていますが、インフルエンザウイルスとはまったく別のウイルスであり、インフルエンザ迅速検査では検出できません。抗インフルエンザ薬も効きません。
問題は、これが小児だけの病気ではないことです。成人入院例 550 名を 7 年間にわたり解析した米国ノースウェスタン大学の研究では、平均年齢は 60.4 歳、65 歳を超える方が 41.6%を占め、44.9%にあたる 247 名が何らかの免疫抑制状態にありました(Russell, Yang,Tardrew & Ison, Clin Infect Dis 2019)。症状は咳 88%、発熱 63%、喀痰産生 55%、呼吸困難 49%と、決して「かぜ」ではありません。
つまり、若い方や小児では数日の発熱と咳で済むことが多い一方、高齢の方、喘息や COPDなど慢性呼吸器疾患をお持ちの方、糖尿病や免疫抑制剤を使用中の方では、気管支炎や肺炎に進展しうるということです。当院では発熱外来において、必要と判断した場合に胸部レントゲンに加えて CT を同日中に行える体制を整えています。「夏かぜだと思って様子を見ていたら息苦しくなってきた」という経過は、放置してよいものではありません。特に、いったん解熱した後に再び熱が上がる、あるいは咳と息切れが増悪する場合は、細菌性肺炎の合併を含めて速やかな評価が必要です。

3.東日本では A 型インフルエンザ ― 季節外れの流行と「サブクレー
ド K」という新しい顔

一方、東日本では A 型インフルエンザの報告が続いています。インフルエンザは冬の感染症という常識は、ここ数シーズンで崩れつつあります。2025-2026 シーズンは日本を含む北半球で流行開始が例年より大幅に早く、その背景として A(H3N2)ウイルスの新しい系統である「サブクレード K」の出現が指摘されてきました。
米国の大規模監視研究では、性状解析された A(H3N2)ウイルス 1,754 株のうち 92.7%(1,626株)がサブクレード K に属し、圧倒的多数を占めていました(Azziz-Baumgartner et al.,JAMA Netw Open 2026)。ワクチン接種後の血清を用いた検討では、サブクレード K 株に対する中和抗体価が 1.62 倍低下していました(95%信頼区間 1.29-2.02)。抗原性がずれている、ということです。実際のワクチン有効性も、救急外来・緊急受診の抑制について 35%(95%信頼区間 33-38%)、入院の抑制について 27%(同 21-34%)と、例年より控えめな水準にとどまりました。成人ではインフルエンザ A に対して 33%(同 30-36%)、インフルエンザ B に対しては
63%(同 52-72%)と、B 型に対する有効性のほうが高いという結果でした。
この数字をどう読むかが重要です。「35%しか効かないなら打つ意味がない」と受け取られる方がいらっしゃいますが、ワクチンの有効性は、重症化・入院・死亡の抑制という段階を追うごとに評価軸が変わります。実際、同じ研究で入院の抑制について 27%という有効性が示されており、感染そのものを完全に防ぐ力は落ちていても、重症化と入院を減らす効果は残っています。後述する心血管イベントの多くはインフルエンザ罹患そのものを起点とするため、罹患と重症化を減らすことがその予防にもつながると考えられます。抗原性がずれたシーズンだからこそ、接種と早期受診・早期診断の組み合わせが意味を持ちます。

4.海外帰りが加わるお盆明け

お盆明けの発熱外来がこれまでと違うのは、ここに海外から帰国された方が加わる点です。渡航後の呼吸器感染症について、米国 CDC の Yellow Book 2026 年版は「旅行者における呼吸器感染症の原因として最も多いのはウイルス性病原体である」と明記しています
(LaRocque & Ryan, CDC Yellow Book 2026)。挙げられている病原体はアデノウイルス、コロナウイルス(新型コロナウイルスを含む)、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルスなどです。同書はリスクの高い集団として、小児、高齢者、喘息や COPD などの慢性肺疾患をお持ちの方、そして免疫抑制状態の方を挙げています。
コロナに関しても、日本国内で主流の系統に対して免疫を持っていても、渡航先で優勢な別系統に対しては同じ防御が働くとは限りません。Guo らの解析が示したように、系統間で中和抗体価には数倍の開きがあります(Guo et al., Lancet Infect Dis 2025)。

5.Nature 最新報告 ― 感染は「眠っていたウイルス」を目覚めさせ

2026 年 8 月 5 日、Nature 誌に発表された研究は、新型コロナウイルス感染症の見方を一段階更新するものでした(Maguire et al., Nature 2026)。米国の 20 施設から集められた入院COVID-19 患者 1,154 名について、多層的オミクス解析と縦断的な追跡を組み合わせた大規模研究です。対象は 2020 年 5 月から 2021 年 3 月にかけて入院した、ワクチン普及前・オミクロン株出現前の重症例である点は、読むうえで押さえておく必要があります。
結果は驚くべきものでした。解析対象 1,148 名のうち 550 名、実に 47.9%で、体内に潜伏していたウイルスの再活性化が確認されたのです。内訳を見ると、入院 1〜8 日の時点でEBV(エプスタイン・バーウイルス)が 1,080 名中 260 名、24%で検出されました。EBV は伝染性単核球症の原因ウイルスとして知られ、多くの日本人が幼少期に感染して生涯にわたり体内に潜伏させています。さらに 19〜23 日の時点では、単純ヘルペスウイルス 1 型が気管吸引液検体の 43%(30 例中 13 例)と鼻腔検体の 15%(90 例中 14 例)から、サイトメガロウイルスが末梢血単核球検体の 8%(110 例中 9 例)から検出されました。加えて、ヒトに広く常在するアネロウイルスの再活性化も認められています。
この研究が従来の常識を覆したのは次の点です。これまで、潜伏ウイルスの再活性化は免疫不全の患者に起こる特殊な現象と考えられてきました。しかし本研究は、免疫機能が正常な方であっても、再活性化が生じることを示しました。しかも再活性化の程度は、疾患の重症度、宿主の免疫応答、そして臨床転帰と相関していました。さらに罹患後症状(long COVID)を有する方では、アネロウイルスの持続的な検出が観察されています。「コロナが治った後もなんとなく体調が戻らない」という訴えの背後で、静かに何かが起きている可能性を示唆する所見です。ただし前述のとおり本研究の対象は入院を要した重症例であり、外来で経過をみる軽症例に同じことが同じ頻度で起きるかどうかは、現時点では確定していません。それでも、中高年の方は潜伏ウイルスの保有歴が長く、この観点からも今回の流行を軽視できないと考えられます。

6.発熱の後にやってくる心血管イベント

発熱外来で「熱が下がったのでもう大丈夫ですね」と申し上げることがあります。しかし、高齢者に関しては、その言葉に一つ留保をつけなければなりません。感染そのものが治まった後にこそ、心臓と血管のリスクが立ち上がるからです。
オランダで行われた研究は、この関係をきわめて明快に示しました(de Boer et al., NEJMEvid 2024)。2008 年から 2019 年にかけて実施された 158,777 件の PCR 検査から、23,405 件の独立したインフルエンザ罹患エピソードを抽出し、自己対照ケースシリーズという手法で解析したものです。この手法は、同一人物の感染直後と平常時とを比較するため、喫煙や高血圧といった個人の背景因子の影響を受けにくいという長所があります。結果は、検査で確定したインフルエンザ感染後 1〜7 日間における急性心筋梗塞の発症率比が6.16(95%信頼区間 4.11-9.24)、すなわち約 6 倍でした。
さらに注目すべきは内訳です。冠動脈疾患による入院歴がある方では発症率比 1.43(95%信頼区間 0.53-3.84)と有意な上昇を認めなかった一方、そうした入院歴がない方では16.60(同 10.45-26.37)と大幅に高い値を示しました。ただしリスク期間中の心筋梗塞は全
406 件中 25 件と少なく、信頼区間も広いため、この倍率そのものを厳密な数字として受け取るべきではありません。それでも方向性は明確で、心臓に問題を指摘されたことがない方でこそ、インフルエンザ罹患後の心筋梗塞リスクが相対的に大きく上がるということです。発熱と全身の炎症が血管内のプラークを不安定にし、血栓形成を促すという機序が想定されています。中年層の方が「ただの熱だから」と無理をして出勤し、数日後に胸痛を訴えるという経過は、決して珍しいものではありません。

7.熱が下がった後に残るもの ― 罹患後症状(long COVID)を数字で見

急性期を乗り切った後の問題として、罹患後症状(long COVID)があります。これについては、2025 年に Nature Communications 誌に発表された系統的レビューとメタ解析が、現時点で最も包括的な数字を提供しています(O’Mahoney et al., Nat Commun 2025)。
この研究は 50 件の対照研究を統合し、延べ 14,661,595 名という膨大な人数を解析対象としました。対照群を置いた研究のみを採用している点が重要で、「感染していない人にも同じ症状はどれくらい起きるのか」を差し引いたうえでリスクを算出しています。結果、検討された 40 の症状のうち 39 症状で、感染群において統計的に有意なリスク上昇が認められました。相対リスクが特に高かったのは、嗅覚喪失が 4.31 倍、味覚喪失が 3.71 倍、集中力低下が 2.68 倍、記憶障害が 2.53 倍、脱毛が 2.38 倍でした。
集中力低下と記憶障害が上位に並ぶ点は、働き盛りの中年層にとって切実です。いわゆる「ブレインフォグ」と呼ばれる症状で、仕事の能率や運転の安全性にも関わります。前章で紹介した Nature 誌の研究が、罹患後症状を有する方でアネロウイルスの持続的検出を報告していることを併せて考えると、罹患後症状は「気のせい」でも「心の問題」でもなく、測定可能な生物学的基盤を持つ病態であることが見えてきます(Maguire et al., Nature 2026)。
だからこそ、急性期にきちんと診断をつけ、無理をせず休養をとることが、その後の数か月を左右します。

8.今からできる備え ― ワクチン、抗ウイルス薬、そして受診のタイ
ミング

では、これから何をすべきでしょうか。第一に、秋のインフルエンザワクチン接種の計画です。前述のとおり、2025-2026 シーズンのワクチン有効性は入院の抑制について 27%(95%信頼区間 21-34%)でした(Azziz-Baumgartner et al., JAMA Netw Open 2026)。抗原性のずれがあるシーズンでも、重症化と入院を減らす効果は確認されているということです。なお海外では、高齢者向けにより多くの抗原量を含む高用量ワクチンが用いられており、332,438 名を高用量群と標準用量群に割り付けた大規模比較試験が 2025 年に New England Journal ofMedicine 誌に報告されています(Johansen et al., N Engl J Med 2025)。主要評価項目である「インフルエンザまたは肺炎による入院」では高用量群 0.68%、標準用量群 0.73%、相対有効性 5.9%(95.2%信頼区間-2.1〜13.4、P=0.14)と有意差に至りませんでした。副次的な検討ではインフルエンザによる入院に対する相対有効性 43.6%(同 27.5-56.3)、心呼吸器疾患による入院に対して 5.7%(同 1.4-9.9)という値が得られていますが、原著自身が「主要評価項目が中立であった大規模試験における探索的所見として解釈すべき」と明記しています。
またこの高用量ワクチンは日本国内では承認されておらず、現時点で選択できるものではありません。あくまで、標準用量ワクチンの接種を前提としたうえでの参考データとお考えください。
第二に、発症してしまった場合の抗ウイルス薬です。インフルエンザに対する単回投与薬バロキサビル(ゾフルーザ)について、272 施設で 4,000 名超が参加した国際共同試験CENTERSTONE の結果が 2025 年に New England Journal of Medicine 誌に報告されました
(Monto et al., N Engl J Med 2025)。5〜64 歳のインフルエンザ患者を治療し、同居家族への伝播を評価したところ、投与後 5 日以内の家庭内伝播はプラセボ群 13.4%に対しバロキサビル群 9.5%、調整オッズ比 0.68(95.38%信頼区間 0.50-0.93、P=0.013)、すなわち伝播のオッズが 32%減少しました。ただし症状を伴う伝播に限れば 25%減(調整オッズ比 0.75、同0.50-1.12、P=0.155)で有意差には至っていません。自分の治療が家族を守ることにつながりうる、という点は、高齢のご家族と同居されている方には重要な情報です。
第三に、受診のタイミングです。抗ウイルス薬はいずれも発症早期の投与が前提であり、迷っているうちに投与可能な時間帯を逃してしまうことが少なくありません。特に 65 歳以上の方、心疾患・呼吸器疾患・糖尿病・腎疾患をお持ちの方、免疫抑制剤や生物学的製剤を使用中の方は、発熱に気づいた時点で早めにご相談ください。海外から帰国された方は、渡航先と帰国日を必ずお伝えいただくことで、検査の組み立てが変わります。当院は日曜・祝日も診療を行っており、「お盆明けで病院が混んでいるだろうから」と受診を先送りにする必要はありません。

おわりに

この夏、西日本では新型コロナとパラインフルエンザ、東日本では A 型インフルエンザという、東西で異なる流行が同時進行しました。そこへ海外帰国者という第三の要素が加わり、お盆明けを迎えています。しかし本当に注意すべきなのは、その後ろに控える四つ目の波、すなわち中年層と高齢者への波及です。
本コラムで見てきたとおり、いま流行している変異株は過去の免疫をかいくぐる性質を強めており(Guo et al., Lancet Infect Dis 2025)、インフルエンザワクチンの有効性も抗原性のずれにより例年より控えめです(Azziz-Baumgartner et al., JAMA Netw Open 2026)。感染は体内に眠っていたウイルスを目覚めさせ(Maguire et al., Nature 2026)、解熱後にも心筋梗塞のリスクを数倍に押し上げ(de Boer et al., NEJM Evid 2024)、数か月にわたる罹患後症状を残しうるからです(O’Mahoney et al., Nat Commun 2025)。「たかが夏かぜ」で片づけられる話ではありません。
やるべきことは明確です。発熱したら早めに受診して原因ウイルスを確定させること、抗ウイルス薬の適応があれば早期に開始すること、秋にはワクチンの計画を立てること、この三つで、多くのリスクは実際に下げられます。まんかいメディカルクリニックでは、発熱外来において検査に加え、必要に応じて胸部 CT・超音波検査・心電図・血液検査を同日中に行える体制を整えております。呼吸器内科の専門的評価から、感染後の心血管リスクの確認、在宅療養中の方への往診まで、切れ目なく対応いたします。ご心配な症状がございましたら、どうぞお早めにご相談ください。

FAQ ― よくあるご質問

Q1. 夏なのにインフルエンザと言われました。検査の間違いではないでしょう
か。

検査の間違いとは限りません。インフルエンザが冬の感染症であるという前提そのものが、ここ数シーズンで揺らいでいます。2025-2026 シーズンは北半球全体で流行の立ち上がりが例年より大幅に早く、A(H3N2)の新しい系統「サブクレード K」が主役となりまし
た。米国の監視データでは、性状解析された A(H3N2)ウイルス 1,754 株のうち 92.7%がサブクレード K でした(Azziz-Baumgartner et al., JAMA Netw Open 2026)。人の移動が国際的に活発になったこと、そして抗原性の変化により集団免疫が追いつかないことが、
季節性の輪郭をぼやけさせています。夏場の発熱でも、インフルエンザは鑑別から外せません。

Q2. パラインフルエンザと診断されました。インフルエンザの薬は効きますか。

効きません。名前は似ていますが、パラインフルエンザウイルスとインフルエンザウイルスはまったく別のウイルスであり、オセルタミビル(タミフル)やバロキサビル(ゾフルーザ)といった抗インフルエンザ薬は無効です。現時点でパラインフルエンザに対する特
異的な抗ウイルス薬はなく、治療は対症療法が中心となります。ただし軽く見てよいという意味ではありません。成人入院例 550 名を解析した研究では、平均年齢 60.4 歳、65歳以上が 41.6%を占め、院内死亡は 5.1%にのぼりました(Russell et al., Clin Infect
Dis 2019)。咳や息切れが強まる場合、あるいは解熱後に再び発熱する場合は、肺炎の合併を含めて再評価が必要です。

Q3. 今シーズンのインフルエンザワクチンは効きが悪いと聞きました。それでも
打つべきですか。

打つ意味は十分にあります。確かに 2025-2026 シーズンは抗原性のずれがあり、ワクチン接種後の中和抗体価はサブクレード K 株に対して 1.62 倍低下していました(95%信頼区間1.29-2.02)。しかし同じ研究で、実際のワクチン有効性は救急外来・緊急受診の抑制に
ついて 35%(95%信頼区間 33-38%)、そして入院の抑制について 27%(同 21-34%)と報告されています(Azziz-Baumgartner et al., JAMA Netw Open 2026)。抗原性がずれたシーズンでも、入院という最も避けたい結果を四分の一以上減らせているということです。感染をゼロにできるかどうかではなく、重症化と入院をどれだけ減らせるかで判断していただくのが適切です。

Q4. 熱が下がれば、もう心配はいらないのでしょうか。

中年層と高齢者に関しては、解熱後こそ注意が必要です。オランダで 23,405 件のインフルエンザ罹患エピソードを解析した研究では、検査確定後 1〜7 日間の急性心筋梗塞の発症率比が 6.16(95%信頼区間 4.11-9.24)でした。特に注目すべきは、冠動脈疾患の既往が
ない方での発症率比が 16.60(同 10.45-26.37)と、既往がある方の 1.43 を大きく上回った点です(de Boer et al., NEJM Evid 2024)。心臓を指摘されたことがない方ほど、感染後の胸痛や息切れを軽視しがちです。解熱後 1 週間程度は無理な運動や長時間労働を避け、胸部の違和感があれば速やかに受診してください。

Q5. コロナにかかった後、体調が戻りません。気のせいでしょうか。

気のせいではありません。50 研究・延べ 14,661,595 名を統合したメタ解析では、検討された 40 症状のうち 39 症状で感染群のリスクが有意に上昇し、集中力低下は 2.68 倍、記憶障害は 2.53 倍でした(O’Mahoney et al., Nat Commun 2025)。さらに 2026 年 8 月に
Nature 誌に報告された研究では、入院 COVID-19 患者 1,148 名のうち 47.9%で潜伏ウイルスの再活性化が確認され、罹患後症状を有する方ではアネロウイルスの持続的検出が観察されています(Maguire et al., Nature 2026)。免疫が正常な方にも起こる現象であることが示されました。測定可能な生物学的変化を背景に持つ病態であり、我慢せずご相談ください。

参考文献

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※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気
になる症状がある方は医療機関にご相談ください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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