病気と健康の話

【かぜ】かぜと診断することは意外と難しい

■はじめに

発熱、喉の痛み、咳、鼻汁といった症状があると、多くの人は「ただのかぜだろう」と自己判断しがちです。しかし「かぜ」と思われがちな症状の陰には、実は別の病気が潜んでいる場合があります。かぜ症状を呈する様々な疾患を見逃さず除外することは非常に重要です。例えば、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザのような感染症から、細菌による咽頭炎、副鼻腔炎、肺炎、さらにアレルギーや内臓の感染症まで、多岐にわたります。

今回はアメリカ・ヨーロッパ・日本の論文に基づき、「かぜ症状に隠れやすい」代表的な疾患と、それぞれの特徴について解説します。症状の違いや見逃しやすさ、「この症状が出たら医療機関を受診すべき」といったサインも平易な言葉でまとめます。

■1.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

新型コロナウイルス感染症も初期は「かぜ」のような症状になることが多く、医師でも見分けが難しい場合があります。しかしCOVID-19には、典型的なかぜとの差を示すいくつかの特徴があります。嗅覚や味覚の異常はその一例で、COVID-19患者の多くに嗅覚低下(匂いがわからなくなる症状)が見られ、これは従来のかぜウイルスではまれな症状です。また発熱や倦怠感が続きやすいこと、咳がひどく肺まで炎症が及ぶことがある点も相違点です。COVID-19では酸素飽和度が低下しても自覚症状が乏しい場合(いわゆる「幸せな低酸素症」)が報告されており、軽い息苦しさでも注意が必要です。かぜとの区別が難しいため、発熱や喉の痛み、咳などがある場合には早めに検査(PCR検査)を受けることが推奨されます。特に呼吸が苦しい、高熱が4日以上続く、味や匂いがわからないといった症状があるときは、ただのかぜと思わず医療機関を受診しましょう。早期にCOVID-19と判明すれば適切な療養や治療につなげることができ、自身の重症化予防や周囲への感染拡大防止にもなります。

■2.細菌性咽頭炎・扁桃炎(溶連菌感染症など)

「喉が痛いからかぜだろう」と思っていたら、実は細菌による咽頭炎(いわゆる扁桃炎や溶連菌感染症)のことがあります。ウイルス性のかぜでも喉は痛みますが、細菌性の場合は症状がより強く現れる傾向があります。のどを覗くと白い膿(扁桃の白苔)が付着している、飲み込むのもつらいほど喉が腫れている、高熱が出て首のリンパ節が腫れて痛む――これらは細菌性咽頭炎を示唆する所見です。一方で、咳や鼻水がない場合も、ウイルスではなく細菌感染を疑います。代表的な溶連菌(A群β溶血性連鎖球菌)咽頭炎では、こうした症状の有無を点数化する「センター基準(Centorスコア)」が診断に用いられます。細菌性咽頭炎を放置すると、まれにリウマチ熱や腎炎などの合併症を起こすことが知られています。強い喉の痛みや咽喉の腫れ、あるいは首の腫れがあるときは、早めに受診して検査(喉の迅速検査など)を受けましょう。抗生物質で適切に治療すれば、多くの場合は数日で改善し合併症も予防できます。

■3.インフルエンザ

インフルエンザも初期症状はかぜと似ていますが、その症状の強さはかぜよりはるかに強烈です。典型的なインフルエンザでは、突然の高熱(39℃前後)に加え、悪寒や震え、体中の筋肉や関節の痛み(「節々が痛い」)、強い倦怠感が出現します。鼻水や喉の痛みは軽く、むしろ全身症状が目立つ点が普通のかぜとの違いです。インフルエンザは毎年のように流行し「ただの季節性の風邪」と油断されがちですが、実際には全世界で毎年数百万人が重症化し、数十万人もの死亡者を出す怖い病気です。実際WHO(世界保健機関)の推計では、インフルエンザによる年間死亡者数は世界で約29万~65万人にのぼります。免疫力の弱い高齢者や持病のある方、妊娠中の方などではインフルエンザ肺炎や急性脳症など重篤な合併症を引き起こすリスクが高くなります。息苦しさを感じる、高熱が下がらない、ぐったりして水分も取れないなどの症状があれば、インフルエンザによる肺炎等の可能性があるため、直ちに医療機関を受診してください。検査でインフルエンザと診断された場合、抗インフルエンザ薬による治療が効果的です。特に発症後48時間以内の早期治療が重症化予防に重要なので、「たかが風邪」と思わず迅速な対応を心がけましょう。

■4.急性細菌性副鼻腔炎(蓄膿症)

かぜをひいた後に「鼻づまりや黄色い鼻汁がいつまでも治らない」「頭や顔面の奥が重苦しい」という場合、急性副鼻腔炎を併発しているかもしれません。かぜ(ウイルス性鼻炎)の鼻水は通常1週間程度で治まりますが、副鼻腔炎では10日以上症状が続くことが多く、また一度良くなりかけてからぶり返す(二峰性の経過)ことも典型的です。濃い膿のような鼻汁、頬や目の周囲の違和感が3~4日以上続く場合も、細菌性副鼻腔炎を強く疑います。具体的には、症状が10日以上良くならない、微熱〜38℃の発熱と顔面痛・鼻汁が3~4日以上続く、良くなりかけたのに再び悪化する――これらが診断のポイントです。風邪から二次的に細菌感染を起こすことが多く、これを放置すると蓄膿症(ちくのうしょう)へ移行し、更に重症化すると髄膜炎や眼窩内の感染などの合併症を引き起こす場合があります。頬を押すと痛い、前かがみになると頭痛が増す、膿のような鼻水が長引くといった場合は耳鼻咽喉科を受診しましょう。抗生物質治療が必要かどうかは、副鼻腔炎の重症度や経過で判断されます。早めに診断と治療を行うことで、長引く辛さを軽減し合併症を防ぐことができます。

■5.アレルギー性鼻炎・季節性鼻炎(花粉症など)

くしゃみ、鼻水、鼻づまり、これらはアレルギー性鼻炎(花粉症を含む)でも典型的な症状です。風邪の症状と非常に似ていますが、いくつか違いがあります。アレルギーでは透明なさらさらした鼻水が出ることが多く、風邪のような粘りのある黄色い鼻汁は通常ありません。また強いくしゃみが連発したり、目のかゆみ・充血を伴ったりするのもアレルギーの特徴です。一方で、アレルギー性鼻炎では原則として発熱は生じません。「熱っぽい花粉症」という言葉もありますが、微熱程度で高熱にはなりません。もし、38℃以上の熱や喉の痛みがあれば、花粉症ではなく感染症を考えるべきです。アレルギー性鼻炎の方は特に注意が必要なのは、風邪との区別がつきにくいことです。実際、研究でも「アレルギー性鼻炎の患者は繰り返す風邪だと思い込んでいる場合が多い」と報告されています。さらにアレルギー症状が悪化した際とウイルス感染(風邪)による症状を臨床的に見分けるのは難しいとも指摘されています。花粉飛散時期に毎年症状が出る、長期間ダラダラ症状が続く、といった場合はアレルギーを疑い、耳鼻科やアレルギー科で相談してみましょう。適切な治療(抗ヒスタミン薬や点鼻薬など)で症状はかなり改善します。また、かぜ薬ではアレルギー症状は根本的には治まらないため、「長引く鼻かぜ」の正体が実はアレルギーであるケースも少なくありません。長期間にわたる鼻水・鼻づまりや目のかゆみでお困りの場合は、早めに受診して原因を確かめることをお勧めします。

■6.百日咳(百日ぜき)

「せきが何日も止まらない。熱もないし最初は風邪かと思ったけど…」――このような長引く咳の裏に、百日咳が潜んでいることがあります。百日咳はボルデテラ・パータシスという細菌が起こす感染症で、子どもの病気と思われがちですが、大人でも感染します。とくにワクチン効果が薄れる、10代以降で患者が増える傾向があります。百日咳の初期(カタル期)は、鼻水、軽い咳、微熱などかぜと区別がつかない症状で始まります。この時期は、ご本人も周囲も「単なる風邪」と思って見過ごしがちですが、実はこの頃が最も感染力が強い段階です。1~2週間ほど経過すると発作的な激しい咳発作が出現し、息を吸い込む時に「ヒュー」という笛のような音(これが百日咳の英名Whooping Coughの由来)が聞こえることもあります。大人では典型的な笛声を伴いませんが、咳込みで息苦しくなったりなどの発作になる点が特徴です。発作と発作の間は、ケロッとしているのも百日咳に特徴的です。2週間以上続く咳は、百日咳を疑うべきサインであり、特に夜間に咳込んで眠れない、咳で吐いてしまうような場合は早急に受診してください。PCR検査で診断し、抗生物質で治療します。抗生物質は発症早期なら症状軽減に有効ですが、咳が本格化した後では周囲への感染拡大を防ぐ目的となります。乳児では、無呼吸発作や脳症など命に関わる合併症の恐れもあるため、特に赤ちゃんの周囲の大人で長引く咳のある人は百日咳を念頭に入れましょう。百日咳はワクチンで予防できる疾患なので、大人も10年おきの追加接種を検討すると安心です。

■7.RSウイルス感染症

RSウイルス感染症(RSV感染症)は、小児、特に生後数か月の赤ちゃんに重い呼吸器症状を起こすことで知られています。しかし、大人でもRSウイルスに感染すると「ただのかぜ」と同様の症状になる場合があり、見過ごされがちです。実際には、RSウイルスはあらゆる年齢層で感染し、乳幼児から高齢者まで広く問題となる病原体です。RSウイルス感染症の症状は、軽い場合鼻水・咳・くしゃみ程度、数日で治ります(多くの子どもは2歳までに一度はRSVに感染するとされます)。しかし、特に生後6か月未満の乳児や、高齢者・基礎疾患がある人では重症化しやすく、細気管支炎や肺炎を引き起こします。世界的に見ても、RSウイルスは毎年500万件近い入院と、10万件前後の乳幼児死亡の原因となっており、その病原性は、決して「ただのかぜ」と侮れません。乳児では哺乳障害(母乳やミルクを飲めない)、息がゼーゼーヒューヒューする喘鳴や、肋骨の下がペコペコへこむ陥没呼吸といった、呼吸困難のサインが重症化の兆候です。また高齢者では、RSV感染が肺炎やCOPD増悪につながり、米国では年間1万名以上の高齢者がRSウイルス関連で亡くなっているとの推計もあります。呼吸が浅く速い、顔色が悪い、唇が紫色、乳児ならおしっこの減少などが見られたら、直ちに受診してください。RSウイルスには、2023年に高齢者向けと乳児予防のためのワクチン/抗体製剤が登場しました。一般的な風邪との区別は難しいため、特に乳幼児や高齢者で「いつもと違う」症状があれば早めに医療機関で評価を受けることが大切です。

■8.誤嚥性肺炎

高齢者の風邪症状の裏に潜んでいることが多いのが、誤嚥性肺炎です。高齢の方が、「なんとなく食欲がない」「元気がない」といった状態が続くとき、実は「食べ物や唾液による肺炎」を起こしている場合があります。誤嚥性肺炎とは、飲食物や唾液、胃液などが気道に入り込むことで起こる肺炎です。高齢者や脳卒中後遺症のある方、嚥下機能が落ちた方に多く、飲み込む力や咳でむせる力の低下が原因となります。誤嚥性肺炎の厄介な点は、症状がはっきりしないことが多いことです。若い人の肺炎なら高熱・激しい咳・胸の痛みが出ますが、誤嚥性肺炎の高齢患者では、咳や痰などの呼吸器症状が目立たず、食欲低下やなんとなく元気がない程度で進行してしまうことがあります。場合によっては、意識がぼんやりする程度の訴えしかないこともあり、「高齢だから風邪をこじらせたのかな」と見逃されがちです。実際、ある研究では高齢者の肺炎患者の大半は誤嚥が関与しており、日本の調査では入院肺炎の60~87%が誤嚥性肺炎だったとの報告もあります。高齢の方でむせることが増えた、食事中によく咳き込む、声が湿った感じになる(ゴロゴロ声)といった、嚥下障害のサインがある場合、風邪のような軽い症状でも誤嚥性肺炎を疑う必要があります。また、夜間に発熱や咳込みがある場合は、就寝中の誤嚥(「不顕性誤嚥」)による肺炎の可能性もあります。誤嚥性肺炎が疑われる場合には、早めに内科を受診しましょう。治療は抗生物質に加え、必要に応じて酸素投与などの支持療法を行います。また再発予防のため、嚥下機能訓練や食事形態の工夫などが重要です。高齢者の「ただの風邪」と思えない長引く症状は、誤嚥性肺炎を念頭に入れて対応することが大切です。

■9.細菌性肺炎(市中肺炎など)

かぜ症状と肺炎の境目は難しいですが、肺炎は「ただのかぜ」と比べて重症度が高く、迅速な対応が必要な病気です。一般的な細菌性肺炎(肺炎球菌などによる肺炎)は、38℃以上の高熱と悪寒、湿った咳(痰が絡む咳)、胸や背中の痛み、呼吸が苦しいなどの症状が現れます。風邪でも咳や発熱はありますが、肺炎では息切れや胸の痛みなど呼吸器症状が強く、全身状態も悪化しやすいのが特徴です。また肺炎では歩行や会話が困難になるほどの倦怠感を伴うこともあります。一方、初期の肺炎は高齢者では症状がはっきりしないことがあり、「少し風邪気味かな」と様子を見ているうちに悪化するケースもあります。日本では肺炎が高齢者の死亡原因第1位であり、特に80歳以上の男性で顕著です。アメリカでも肺炎は高齢者の主要な死因の一つに挙げられています。息苦しさが増している、横になると咳き込んで眠れない、高齢者で受け答えがはっきりしないなどの兆候は、肺炎による低酸素状態が疑われます。このような場合はただの風邪とは考えず、すぐに医療機関で診察を受けてください。レントゲン検査や胸部CTで、肺炎かどうか診断できます。細菌性肺炎であれば適切な抗生物質治療が必要ですし、重症であれば入院して酸素投与や点滴治療を行います。「たかが風邪」と思っていたら実は肺炎だったということがないよう、症状の程度に注意を払いましょう。特に幼児や高齢者は肺炎を起こしやすいため、周囲の方は「様子がおかしい」と感じたら早めに受診させてください。

受診すべきサイン: 以下のような症状がある場合、早めに受診しましょう。

▢ 38℃以上の熱が続く
▢ 息切れ・呼吸困難(少し動くだけで息苦しい)
▢ 胸の痛みや倦怠感(深呼吸や咳で胸が痛む、だるさ)

■10.結核(けっかく)

結核は、現在でも注意が必要な疾患です。風邪との違いは、症状がゆっくりと現れ長期間続くことです。風邪は通常1~2週間で治りますが、結核では2週間以上にわたる慢性的な咳が特徴で、痰に血が混じることもあります。発熱も微熱が持続し、寝汗(夜間の大量の発汗)や体重減少といった症状がみられることが多いです。一方、鼻水や喉の痛みといった典型的な風邪症状は結核ではあまり見られません。忙しい日常の中では、「咳が長引いているけれどそのうち治るだろう」と放置され、受診が遅れるケースがあります。結核は人にうつす可能性があり、「疑うこと」と治療開始が重要です。免疫力が低下した方や高齢者では、症状がさらに乏しい場合もあり注意が必要です。

受診すべきサイン:

▢ 2週間以上続く咳(特に改善の兆しがない)
▢ 痰に血が混じる(血痰)
▢ 寝汗や体重減少(慢性的な発熱を伴う場合)

結核は胸部CTや痰の検査で診断できます。長引く咳は「結核など別の病気では?」と念頭に置き、早めの医療機関受診を心がけましょう。

■11.非結核性抗酸菌症(NTM症)

非結核性抗酸菌症は、結核以外の抗酸菌(マイコバクテリウム属)による肺の感染症です。日本では肺MAC症(はいマックしょう)とも呼ばれ、中高年の痩せた女性に多い傾向があります。風邪との違いは、これも長く続く咳や痰です。NTM症の咳は数か月にわたり断続的に続くことが多く、痰の量も多めで切れにくいのが特徴です。発熱は軽度ですが、疲れやすさや体重減少など全身症状が徐々に現れることもあります。一方で、鼻水や喉の痛みなど上気道の症状は目立ちません。結核とは異なり、感染力は低いため発見が遅れやすく、放置すると徐々に肺が傷んでしまう病気です。また、痰の培養検査をしないと確定診断がつかないため、症状だけでは判断が難しいことも見逃しにつながります。NTM症は胸部CTや痰培養検査で診断します。特に半年以上症状が続く場合は専門医を受診し、結核や非結核性抗酸菌症の検査を受けることをおすすめします。

■12.咳喘息(CVA)

咳喘息(がいぜんそく)は「喘息」の一種ですが、咳だけが主症状で、ゼーゼー(喘鳴)や息苦しさを伴わないタイプの喘息です。風邪との違いは、咳喘息では夜間から明け方にかけての乾いた咳が特徴的で、運動後や冷たい空気を吸ったときにも咳込みます。風邪の後に咳だけが何週間も残る場合も、咳喘息の可能性があります。発熱や鼻水など風邪の典型症状はありません。咳は8週間以上続くことが多く(慢性咳嗽)、喘息用の吸入薬で改善します。咳喘息は一見すると「長引く風邪の咳」や「アレルギー性の咳」と区別がつきにくく見逃されやすいです。特にゼーゼー音がしないため、患者さん自身も喘息とは思わず、市販の咳止めなどで様子を見がちです。しかし、適切な治療をせず放置すると、約半数は数年以内に典型的な気管支喘息(喘鳴や呼吸困難を伴う)に移行する可能性があります。また季節の変わり目などに毎年決まって咳が出る場合も、単なる風邪の繰り返しではなく、咳喘息のサイクルかもしれません。

受診すべきサイン:

▢ 夜間や明け方に咳が出やすい(就寝中~起床時に咳込む)
▢ 運動や冷たい空気で咳が誘発される(階段を上がった後などに咳込む)
▢ 喘息薬で改善する(風邪薬が効かない)

咳喘息は、肺機能検査や治療反応から診断します。
長引く咳が続くだけで、ゼーゼーしない場合でも専門医に相談し適切な治療(吸入ステロイドなど)を受けることが大切です。

■13.気管支喘息(ぜんそく)

気管支喘息は、気道が慢性的な炎症を起こし過敏になっている状態です。風邪との違いは、発作的に出現する喘鳴(ヒューヒュー・ゼーゼーという音)や呼吸困難です。風邪でも咳は出ますが、喘息では特に夜間から朝方にかけてゼーゼーヒューヒューと喉や胸が鳴り、息苦しくなるのが典型です。季節の変わり目や、運動、アレルゲン(ホコリ・花粉など)によって症状が誘発されます。また、子供の頃に繰り返し「喘息様気管支炎」と言われた人は成人後に喘息として再発することがあります。風邪の場合、息苦しさや喘鳴は通常ありません。軽症の喘息では咳だけが目立ち、本人も周囲も喘息とは思わずに「風邪が長引いている」と考えてしまうことがあります。特に大人の喘息は子供に比べ症状がはっきりしないこともあり、慢性の咳や軽い息切れ程度で見逃されることがあります。また、季節的に症状が出現と消失を繰り返すため、その都度風邪だと自己判断してしまうケースもあります。しかし喘息は適切に治療しないと悪化し得る疾患です。

受診すべきサイン:

▢ ゼーゼー・ヒューヒューという音が聞こえる咳(就寝中や早朝に多い)
▢ 繰り返す呼吸困難や胸の圧迫感(季節の変わり目などに悪化)
▢ 過去に「喘息」と診断された、または幼少期に気管支炎を繰り返した

気管支喘息は肺機能検査や気道過敏性の試験で診断できます。放置せず、息がゼーゼーする咳があれば早めに医療機関で相談してください。

■14.間質性肺炎・過敏性肺炎(肺線維症)

間質性肺炎は、肺の奥(間質)に炎症が起こり、肺が硬く厚くなる病気の総称で、特に原因不明のものは肺線維症(特発性肺線維症)とも呼ばれます。

過敏性肺炎は、カビや鳥の粉など特定の抗原を吸い込むことで生じる、アレルギー性の間質性肺炎です。風邪との違いは、乾いた咳と息切れが長期間続く点です。風邪なら1~2週間で治る咳が、これらの疾患では1か月以上にわたり改善せず、徐々に呼吸が苦しくなっていきます。発熱は軽いか無いこともあります。また鼻水・喉の痛みといった症状は目立ちません。

特に過敏性肺炎では、原因物質に触れて数時間~半日後に発熱や咳が出て、その後いったん良くなってもまた同じ環境で再発するという「繰り返すインフルエンザ様症状」がみられることがあります。これは風邪というよりアレルギー反応に近い特徴です。これらの疾患は、ゆっくりと進行するため、患者さん自身も「長引く風邪かな?」と様子を見がちです。間質性肺炎では胸の雑音(捻髪音と呼ばれるパリパリという音)が聴診で聞こえますが、本人には自覚できません。また過敏性肺炎は症状がインフルエンザや喘息にも似ているため、誤診されることがあります。例えばカビの多い環境で過ごしていると、何度も「風邪」をひくような状態になり、本当の原因(カビ)に気付かない場合があります。これらを放置すると肺が線維化し、不可逆的な呼吸障害を残す恐れがあります。「良くならない風邪」が1か月以上続く場合は、胸部CTで肺の状態を確認することが重要です。

受診すべきサイン:

▢ 1か月以上続く、乾いた咳(特に徐々に悪化傾向)
▢ 息切れがだんだんと酷くなる(階段で休憩が必要になる等)
▢ 特定の場所や環境で症状が悪化・再発する(カビ臭い場所や鳥と接すると発熱・咳が出る)

これらは間質性肺炎や過敏性肺炎のサインです。「ただの風邪にしては長引きすぎている」と感じたら、胸部CT検査など精密検査で肺の専門チェックを受けましょう。

■15.慢性閉塞性肺疾患(COPD)

COPDは、喫煙などが原因で肺の気道が狭くなる病気で、「慢性気管支炎」や「肺気腫」を含む疾患群です。風邪との違いは、長年にわたる慢性的な咳・痰と、息切れがあることです。いわゆる「たばこ咳」と呼ばれるものも、COPDの初期症状です。風邪の場合はせいぜい1~2週間の咳ですが、COPDでは数か月以上ほぼ毎日、咳や痰が出るようになります。特に、朝起きたときに痰が出るのが典型です。また、軽い運動で息切れするようになり、風邪が治った後も呼吸機能が完全には戻らない感じがします。一方で、発熱や喉の痛みは通常ありません。長年喫煙している人は、「咳や痰は年のせい・タバコのせい」と思い込み、COPDを見逃しがちです。実際、COPD患者さんのかなりの割合(半数以上とも)の人が未診断のまま生活しているという報告があります。症状が徐々に進行するため、本人も気づきにくく、「毎年冬に風邪をひいて咳が長引く」と感じているケースの中にCOPDが潜んでいることがあります。特に、40歳以上で喫煙歴が長い方は、慢性的な咳や息切れを単なる風邪や加齢のせいにせず、一度検査することが重要です。早期発見・禁煙により進行を遅らせることができます。

受診すべきサイン:

▢ 3か月以上続く咳や痰(毎年冬場などに症状が悪化する)
▢ 軽い運動で息切れする(同年代の人より息が上がりやすい)
▢ 長年の喫煙歴がある(または受動喫煙環境にいた)

これらに該当し、「ただの風邪ではないかも?」と思ったら、肺機能検査を受けましょう。呼吸器の専門医でスパイロメトリーを行えばCOPDは比較的簡単に診断できます。特に喫煙者の方は注意してください。

■16.肺がん

肺がんは、初期には症状がほとんど出ない厄介な病気ですが、風邪と間違いやすいサインもいくつかあります。風邪との違いとして、肺がんでは原因不明の咳が長引くことがあります。特に、喫煙者の方で「最近ずっと続く咳がある」という場合は注意が必要です。肺がん患者の半数以上(ある研究では約55~90%)に咳の症状がみられるとの報告もあります。また痰に血が混じる(血痰)こともあり、これは風邪では通常起こりません。進行すると、体重減少や声のかすれ(嗄声)、胸痛などが現れることもあります。ただし初期には鼻水・喉痛など風邪のような症状はほとんどなく、自覚症状に乏しい場合が多いです。肺がんは、「症状がないこと」が特徴と言われるほど、早期にははっきりした自覚症状がありません。そのため、患者さんが風邪と思い込んでしまうというより、そもそも不調に気づかないケースが多いです。わずかな咳や痰、微熱程度では受診に至らないこともあります。また、慢性的な喫煙者では「いつものタバコ咳だろう」と症状を軽視しがちです。しかし、血痰や原因不明の長引く咳は、肺がんの重要な手がかりです。肺がん患者の約20%ほどに血痰が初発症状としてみられ、これは肺がんを強く示唆するサインですが、風邪ではまず起こらない症状です。こうしたサインを見逃さないことが早期発見につながります。

受診すべきサイン:

▢ 原因不明の咳が4週間以上続く
▢ 痰に血が混じることがある(一度でも血痰を認めた)
▢ 胸の痛みや声のかすれ、体重減少

これらは肺がんの初期兆候の可能性があります。胸部X線検査やCT検査で早期発見が可能です。「いつもの風邪と様子が違う」と感じたら、ためらわず専門医を受診してください。

■17.尿路感染症(尿路感染/膀胱炎・腎盂腎炎)

発熱があると人は風邪を疑いますが、尿路感染症でも高熱や倦怠感が起こります。

高齢者では、尿路感染の症状がとてもわかりにくいことがあります。高齢の尿路感染症では、せん妄(意識混濁や混乱)や食欲不振、元気がないといった非特異的な症状だけが前面に出て、排尿痛などの訴えははっきりしないケースも多いのです。実際、ある系統的レビューでは「高齢者の尿路感染症では発熱を伴わないことも多く、意識の混乱(急性せん妄)が主要な症状として現れる」ことが報告されています。そのため、認知症の高齢者では、周囲も感染に気づかず「認知症だから」と判断してしまうことがあります。しかし。尿路感染症が進行すると、菌が血液に乗って敗血症性ショック(命に関わる重篤な状態)に至る危険があります。特に。高齢者で急におかしな言動や意識の低下が見られた場合、そして明らかな呼吸器症状がない場合は、尿路感染症を含む全身の感染症を疑って医療機関で検査を受けるべきです。尿検査や血液検査で診断がつき、適切な抗生物質治療が行われます。また若い方でも、背中の左右どちらかが痛む(肋骨の下あたり)、悪寒がするほどの高熱といった場合は腎盂腎炎(腎臓まで菌が上った状態)を起こしているかもしれません。この場合も早急な治療が必要です。尿路感染症は軽症のうちに治療すれば治りも早いので、「風邪で熱が出てぼんやりしているだけ」と自己判断せず、咳も鼻水も出ないのに高熱が出現したら医師の診察を受けましょう。

■18.胆のう炎(急性胆のう炎)

お腹の中の臓器のトラブルも、ときに風邪と勘違いされることがあります。その代表が、急性胆のう炎(胆石症に伴う胆のうの炎症)です。典型的な胆のう炎では右上腹部の激しい痛み(しばしば肩甲骨のあたりまで響く痛み)と高熱、そしてしばしば吐き気・嘔吐が起こります。しかし、高齢者や糖尿病の患者さんでは、この痛みや発熱が目立たない場合があるのです。実際の報告でも「高齢者では、12%は痛みが典型的でなく、5%は痛み自体を欠く」とのデータがあります。痛みを感じにくい背景には、糖尿病による神経障害や、高齢による痛覚閾値の変化が関与すると考えられています。そのため、ご高齢の方で何となく元気がなく微熱が続くようなケースでは、腹痛がはっきりしなくても胆のう炎を疑う必要があります。胆のう炎が重症化すると胆のうが壊死し「壊疽性胆のう炎」という危険な状態に陥ります。これは、命に関わる合併症で、症状が軽微でも放置すれば急速に悪化し得ます。みぞおちから右上腹部にかけて違和感や圧痛がある、黄疸(皮膚や白目が黄色い)が出ている、検査で肝機能が悪化しているといった場合には、すぐ受診して画像検査(腹部エコーやCT)を受けましょう。治療は、抗生剤投与と痛みのコントロールを行い、状況によっては胆のう摘出手術が早期に検討されます。お腹の病気は風邪とは無関係に思えますが、高齢者では症状が典型的でないため注意が必要です。高齢の家族が「最近食欲がなくて熱が続く」と言っているようなときには、お腹の病気の可能性も考えて医療機関で調べてもらうことをお勧めします。

■19.胆管炎(急性胆管炎)

急性胆管炎は、肝臓から十二指腸へと胆汁を運ぶ胆管が細菌感染を起こした状態です。多くは胆管に結石などが詰まり、胆汁のうっ滞と共に細菌増殖が起こって発症します。胆管炎の典型的三主徴として「発熱・腹痛(右上腹部痛)・黄疸」が知られており、シャルコーの三徴と呼ばれます。しかし実際には3つすべてが揃うケースは多くなく、ある研究ではシャルコーの三徴の感度(敏感度)はわずか36%とも報告されています。つまり、胆管炎患者の多くが、三徴すべては示さないということです。例えば、発熱と黄疸はあるが痛みが軽いとか、痛みと熱はあるが黄疸がまだ目立たない、といった具合です。症状が不完全だと、どうしても「風邪+胃腸の調子が悪いだけかな」などと軽視されがちですが、胆管炎は放置すると敗血症性ショックに陥る非常に危険な病気です。実際、重症化した胆管炎では意識障害や血圧低下を伴うことがあり(レイノルズの五徴)、短時間で集中治療が必要になることもあります。発熱に加えて右上腹部に違和感や痛みがある、皮膚が黄色いといったサインが見られたら胆管炎を疑いましょう。とりわけ胆石の既往がある方や、高齢者でこれらの症状が出た場合は要注意です。急性胆管炎では、緊急的に内視鏡で胆管の詰まりを取り除く処置(内視鏡的ドレナージ)が行われます。症状が風邪と一部重なることもありますが、黄疸や上腹部痛を伴う発熱は明らかに風邪とは異なる病態です。少しでも疑わしい場合は迷わず医療機関で検査を受け、早期治療につなげてください。

■おわりに

「ただのかぜだろう」と思っていた症状の裏に、これだけ多くの病気が隠れている可能性があります。特に高齢者では体のサインがわかりにくく、単なる風邪と思っていたら重篤な感染症だった、ということも起こり得ます。大切なのは、症状の経過や質に注意を払い、いつもと違う点があれば早めに医療者に相談することです。「たかが風邪、されど風邪」です。適切なタイミングで受診し必要な検査を受けることで、隠れた病気を早期に発見し治療できる可能性が高まります。少しでも異常を感じたら、遠慮なく医療機関を受診してください。

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