病気と健康の話

【熱中症】熱中症は夜こそ危険!初期症状とその対策

■これって熱中症?夜間に見られる危険なサイン5つ

毎日うだるような暑さが続いています。「なんだか寝苦しい」「朝、体が重たいな」。 夏の夜、そんな不調を感じることはありませんか。

実はそれ、ただの寝不足や夏バテではありません。 夜の間に、気づかないうちに進行する熱中症のサインかもしれません。
熱中症は、日中の屋外だけで起こるものではありません。 寝ている間に体内の水分や塩分が失われ、脱水状態に陥ります。特に、ご高齢の方は注意が必要です。 ご高齢の方は体内の水分量が元々少なく、暑さやのどの渇きを感じにくくなるため、脱水が進みやすくなります。

ここでは、夜間に見られる熱中症のサインを5つご紹介します。

頭痛・めまい・吐き気

夜中や朝起きた時に、ズキズキと脈打つような頭痛はありませんか。 立ち上がった時にクラっとするめまい、胸がむかむかする吐き気も危険なサインです。
これらの症状は、熱中症の重症度で軽度〜中等症にあたります。 「熱疲労」と呼ばれる状態です。

なぜこのような症状が起こるの?

寝ている間にかく汗が原因です。 汗によって体から水分と塩分(電解質)が失われると、軽い脱水状態になります。
脱水になると、体の中を巡る血液の量が減ってしまいます。 すると、脳に十分な血液と酸素が送られなくなり、頭痛やめまいが現れるのです。吐き気も、脱水によって胃腸の働きが低下したり、体の不調からくる反応と考えられます。

こんな症状はありませんか?セルフチェック

□ 夜中や朝方にズキズキする頭痛で目が覚める
□ 立ち上がろうとすると、目の前がフワッとする
□ なんとなく気持ちが悪く、食欲がわかない
□ 実際に吐いてしまった

これらの症状がある場合、まずは涼しい部屋で安静にし、水分と塩分を補給することが大切です。常温の経口補水液やスポーツドリンクを、少しずつゆっくり飲むようにしましょう。

こむら返り・手足のしびれ

睡眠中に突然ふくらはぎが攣る「こむら返り」。 これも、実は熱中症の初期症状「Ⅰ度(軽症)」の一つです。 また、手足がじんじんと痺れたり、筋肉がピクピクと勝手に動いたりするのも同様のサインです。

なぜこむら返りが起こるの?

主な原因は、汗とともに体内の「塩分(ナトリウムなど)」が失われることです。
筋肉は、神経からの電気信号で動きます。 この電気信号のやりとりには、塩分などの電解質が欠かせません。汗で大量の塩分が失われると、筋肉や神経が異常に興奮しやすくなります。 その結果、自分の意思とは関係なく、筋肉が強く収縮してしまうのです。
特に、日中に運動や屋外での作業でたくさん汗をかいた日は、夜間にこむら返りが起こりやすくなります。

こむら返りが起きた時の対処法

ゆっくり伸ばす慌てずに、つっている方の足のつま先をゆっくりと体の方へ引き寄せ、ふくらはぎの筋肉を伸ばしましょう。
水分・塩分補給経口補水液や、塩分補給用のタブレットなどで、失われた塩分をしっかり補いましょう。

ここで注意したいのは、水やお茶だけを大量に飲むことです。 体内の塩分濃度がさらに薄まり、かえって症状を悪化させることがあります。「たかがこむら返り」と思わず、体が塩分を欲しているサインだと捉えましょう。

大量の寝汗、または汗をかかない

汗のかき方の異常も、熱中症を見極める重要なポイントです。
パジャマやシーツがびっしょりと濡れるほどの「大量の寝汗」。 反対に、体は熱いのに全く汗をかいていない「汗が出ない」状態。どちらも、体温調節機能に異常が起きているサインです。

汗でわかる危険度の違い

私たちの体は、汗が皮膚から蒸発する時の熱(気化熱)を利用して体温を下げています。

大量の寝汗
(危険度:中)
寝室の温度や湿度が高い中で、体が必死に体温を下げようと頑張っている証拠です。しかし、この状態が続くと大量の水分と塩分が失われ、脱水症状が進行してしまいます。
汗をかかない
(危険度:高)
こちらはさらに危険な状態です。脱水が極度に進行し、体温調節を命令する脳の機能に異常をきたすと、汗を出すこと自体ができなくなります。

汗をかけないと体内に熱がどんどんこもり、体温が急上昇します。 最も重い「熱射病」という状態に陥る危険が非常に高いサインです。

チェックポイント

危険度(中)パジャマがぐっしょり濡れている、何度も着替える必要がある。
危険度(高)体に触れると火のように熱いのに、皮膚はカサカサに乾いている。

大量の寝汗をかいた場合は、こまめな水分・塩分補給を心がけてください。 もし、体は熱いのに汗が出ていない場合は、生命に関わる緊急事態です。 ためらわずに救急車を呼び、到着を待つ間も体を冷やし続けてください。

体が熱い・だるくて起き上がれない

朝、目が覚めても体が鉛のように重く、起き上がる気力がわかない。 全身が倦怠感に包まれ、触れてみると皮膚がいつもより熱く感じる。このような症状は「熱疲労」と呼ばれる状態で、熱中症の「Ⅱ度(中等症)」にあたります。

なぜ体がだるくなるの?

寝ている間の気づかない脱水と、体内にこもった熱が原因です。 心臓や筋肉など、全身の臓器に大きな負担がかかっている状態です。体が正常に機能するためのエネルギーが消耗し、強い疲労感として現れます。特に、高齢の方や、心臓病、腎臓病などの持病をお持ちの方は注意が必要です。 熱中症によって、もともとの病気が悪化する可能性もあります。

もし「だるくて起き上がれない」と感じたら

無理は禁物仕事や家事など、「やらなきゃ」と思っても、まずは体を休めることを最優先してください。
体を冷やす涼しい部屋で横になり、衣服をゆるめましょう。濡らしたタオルで体を拭いたり、うちわなどで風を送ったりするだけでも効果があります。
水分補給自分で水分を摂れるようであれば、経口補水液などをゆっくりと、少しずつ飲みましょう。

ぐったりして水分も摂れない場合や、休んでも症状が全く改善しない場合は、医療機関を受診してください。

応答がおかしい

これは、熱中症の中でも最も重く、命に関わる「Ⅲ度(重症)」のサインです。 「熱射病」と呼ばれる状態で、一刻も早い対応が必要な医療緊急事態です。ご家族が以下のような状態であったら、絶対に見過ごしてはいけません。

危険を示すサイン

呼びかけへの反応が鈍い声をかけてもぼーっとしている、視線が合わない、返事がない。
言動がおかしいつじつまの合わないことを言う。時間や場所がわからなくなっている(見当識障害)。
異常な行動急に怒り出したり、意味なく動き回ったりする。
体がけいれんする全身または手足がガクガクと震える。
意識がない呼びかけたり、肩を叩いたりしても全く反応がない。

なぜ意識がおかしくなるの?

体温が40℃を超えるなど、異常な高体温によって脳の機能そのものがダメージを受けている状態です。脳は体温の変化に非常に敏感です。 高熱によって、考える、話す、体を動かすといった司令塔の役割を果たせなくなってしまうのです。熱射病は、迅速な処置をしなければ後遺症が残ったり、最悪の場合は命を落としたりすることもある、極めて危険な状態です。

ためらわずに救急車を!

上記のような症状が一つでも見られたら、ためらわずに119番通報をしてください。
そして、救急車が到着するまでの間、以下の応急処置を行ってください。

1.とにかく先ずエアコンの設定温度を低くして風量を強くする
2.衣服を脱がせ、体を冷やしやすくする。
3.とにかく体を冷やす!水をかけたり、濡れタオルを当てて扇風機などで風を送ります。氷のうや保冷剤があれば、首すじ、わきの下、足の付け根を集中的に冷やしてください。

※意識がない人に、無理やり水分を飲ませるのは絶対にやめてください。水分が気管に入り、窒息する危険があります。

■なぜ夜間に?睡眠中の熱中症を引き起こす3大要因

熱中症は、日中の屋外活動中だけに起こるものではありません。 実は、夜眠っている間こそ、気づかぬうちに重症化しやすいのです。睡眠中は無意識・無防備な状態です。 のどの渇きや体のほてりなどの初期症状に気づきにくく、対処が遅れてしまいます。

なぜ、ただ眠っているだけで熱中症になってしまうのでしょうか。 そこには、私たちの体と寝室の環境が深く関わる、3つの大きな原因が潜んでいます。

日中の熱がこもった寝室の高温多湿環境

日中に太陽の熱をたっぷり浴びた建物は、夜になっても熱を放出し続けます。 特に、コンクリート造のマンションや、最上階、西日の当たる部屋は要注意です。 壁や天井に蓄えられた熱(放射熱)が、室温をなかなか下げてくれません。
私たちの体には、体温を一定に保つための優れた仕組みが備わっています。 その中でも最も重要なのが、汗が蒸発する力を利用した冷却方法です。しかし、寝室の環境が悪ければ、この大切な機能がうまく働きません。

温度が高いと…体の熱が空気中に逃げにくくなり、体に熱がこもります。
湿度が高いと…汗をかいても蒸発せず、皮膚の表面にとどまります。体を冷やすための「気化熱」が発生せず、汗がただ体をベタつかせるだけになります。

近年の気候変動の影響で、夜間の最低気温が25℃を下回らない「熱帯夜」は、もはや珍しくありません。
このような高温多湿の環境では、体が必死に熱を逃がそうとしても追いつきません。 眠っているだけで、じわじわと体力を消耗し、熱中症のリスクが著しく高まるのです。

就寝中の発汗による水分不足(隠れ脱水)

私たちは眠っている間にも、汗や呼吸を通して水分を失い続けています。 この、自分では気づかない水分の蒸発を「不感蒸泄(ふかんじょうせつ)」と呼びます。特に暑い夜は、体温を下げようとして大量の汗をかきます。 一晩で500mlのペットボトル1〜2本分もの水分が、体から失われることもあります。
このように、自覚のないまま体内の水分が不足した状態を「隠れ脱水」と呼びます。

のどの渇きを感じた時には、すでに体は水分不足の状態に陥っています。
隠れ脱水が進行すると、体の中では危険な変化が起こり始めます。

血液がドロドロになる水分が減ると血液が濃縮され、粘り気が増します。心臓はドロドロの血液を全身に送るため、余計な負担がかかります。脳や筋肉への酸素供給も滞り、頭痛やだるさの原因になります。
汗をかけなくなる脱水が進むと、体を冷やすための汗の原料そのものが不足します。汗が出なくなると、体温は一方的に上昇し続け、非常に危険な状態に陥ります。
塩分(電解質)が失われる汗と一緒に出ていくのは水分だけではありません。筋肉や神経の働きに不可欠な塩分(ナトリウムなど)も失われます。これが、夜中のこむら返り(熱けいれん)を引き起こす原因です。

ご自身の状態が隠れ脱水に当てはまらないか、チェックしてみましょう。

【隠れ脱水セルフチェック】

□ 朝起きたとき、口の中がネバネバする
□ のどがカラカラに渇いている
□ 朝一番の尿の色が、いつもより濃い(麦茶のような色)
□ 皮膚の弾力がない(手の甲の皮膚をつまんで離した時、跡がすぐ消えない)
□ 立ち上がった時に、クラっとすることがある

就寝前に水分を摂る習慣がない方は、特に注意が必要です。 睡眠中の隠れ脱水が、気づかないうちに熱中症を進行させる最大の引き金となります。

アルコール摂取や疲労による体温調節機能の低下

寝室の環境や水分不足に加え、ご自身の体の状態も夜間の熱中症リスクを大きく左右します。 中でも特に危険なのが、「アルコール」と「疲労」です。これらは、体を守るための繊細な体温調節機能を狂わせてしまいます。

アルコールの影響

「寝る前の一杯」が、実は夜間の熱中症のリスクを高めることがあります。

強い利尿作用アルコールには、飲んだ量以上の水分を尿として排出させる働きがあります。ビールなどで水分を摂ったつもりでも、結果的に体は脱水状態になります。
体温感覚の麻痺アルコールを飲むと血管が広がり、一時的に体がポカポカします。しかし、これは体の熱が逃げているサインであり、体温調節が乱れている証拠です。
異変への気づきの遅れアルコールの作用で眠りが深くなると、暑さやのどの渇きを感じにくくなります。体のSOSサインに気づけず、危険な状態に陥るまで対処ができません。

疲労の影響

日中の仕事や運動による肉体的な疲れ、睡眠不足も危険因子です。

自律神経の乱れ疲労が蓄積すると、体温や発汗をコントロールする自律神経の働きが鈍くなります。
体温調節機能の低下体が疲れていると、暑さを感じても汗をかく、血流を調整するといった反応が遅れます。その結果、体に熱がこもりやすくなってしまいます。

特に、心臓や腎臓に持病のある方、高齢の方、そして子どもは注意が必要です。 熱中症による脱水や体温上昇は、もともとの病気を悪化させる危険もあります。
「疲れたから冷房をつけずに寝てしまった」「お酒を飲んだから」といった油断が、命に関わる事態を招くことがあります。 ご自身の体調や生活習慣が、夜間の熱中症リスクに直結することを忘れないでください。

■今夜から実践!熱中症を予防する睡眠環境の作り方4選

「日中は気をつけていたのに、なぜか夜にぐったりしてしまう…」 そんな経験はありませんか。
夜間の熱中症は、寝ている間に気づかないうちに進行します。 そのため、症状が出てから対処するのではなく、未然に「予防」することが何よりも重要です。

近年の気候変動の影響で、夜間の気温が下がらない「熱帯夜」はもはや特別なことではありません。 「昔はエアコンなしで眠れた」という常識は、残念ながら現代では通用しないのです。しかし、悲観する必要はありません。 研究でも、熱中症は「予防可能な病気」であることが示されています。
寝室の環境を少し工夫するだけで、そのリスクは大きく減らすことができます。 快適で安全な眠りを手に入れるために、今日からすぐに始められる4つの対策をご紹介します。ご自身や大切なご家族の体を守るための、具体的な行動です。 ぜひ、今日から実践してみてください。

エアコンは28℃以下で朝までつけっぱなしにする

夜間の熱中症を防ぐために、最も効果的で重要な対策がエアコンの適切な使用です。
「電気代がもったいない」「体が冷えすぎるのが心配」 このような理由で、就寝後にエアコンが切れるようにタイマーを設定していませんか。

実はこの習慣が、夜間の熱中症リスクを高める大きな原因となります。 タイマーが切れると室温は再び上昇し、最も眠りが深くなる明け方にかけて、危険な環境になってしまうのです。深い睡眠中は、体のSOSサインである暑さやのどの渇きに気づきにくくなります。 夜間の熱中症を根本的に予防するため、エアコンは「朝までつけっぱなし」を基本にしてください。

【温度設定の考え方】

一般的に、設定温度の目安は28℃以下が推奨されています。 しかし、これはあくまで目安であり、すべての人にとっての最適解ではありません。
お部屋の日当たりや建物の構造(熱のこもりやすいコンクリート造など)、個人の体感によって快適な温度は異なります。 もし28℃で暑いと感じる場合は、無理をせずに26〜27℃など、ご自身が心地よく眠れる温度に設定しましょう。
また、快適な環境を保つためには、湿度と風向きにも気を配ることが大切です。

湿度をコントロールする寝室の湿度を50〜60%に保つと、汗がスムーズに蒸発し、体温調節がうまく働きます。エアコンの「除湿(ドライ)」機能を活用しましょう。  同じ温度でも、湿度が低いだけで体感温度は下がり、より快適に過ごせます。
風向きを工夫する冷たい風が直接体に当たると、だるさの原因になったり、自律神経の乱れにつながったりします。風は直接体に当てず、上向きや壁に向けて設定してください。部屋の空気を優しく循環させるイメージで使うのがコツです。

電気代は気になるかもしれませんが、熱中症になってしまっては元も子もありません。 エアコンは、現代の夏を健康に乗り切るための「命を守る装置」だと考えて、上手に活用しましょう。

就寝1〜2時間前のぬるめの入浴で深部体温を下げる

質の高い睡眠は、日中の疲労を回復させ、体の機能を正常に保つために不可欠です。 そして、快適な睡眠は夜間の熱中症予防にもつながります。質の高い睡眠を得るためのカギとなるのが、「深部体温」のスムーズな低下です。

  • 深部体温とは…脳や内臓など、体の中心部の温度のことです。

私たちの体は、この深部体温が下がるタイミングで、自然な眠気が訪れるようにできています。 この体の仕組みを上手に利用する方法が、就寝前の入浴です。

【快眠につながる入浴のポイント】

タイミング 就寝の1〜2時間前
お湯の温度38〜40℃程度のぬるま湯
時間10〜15分ほど、リラックスして浸かる

ぬるめのお湯に浸かると、一時的に体の血行が良くなり深部体温が上がります。 そして、お風呂から上がると、体にこもった熱が手足の末端から効率よく放出され、深部体温がスムーズに下がっていきます。この体温の低下が、自然で深い眠りへと体を導いてくれるのです。

一方で、42℃を超えるような熱いお風呂は逆効果になることがあるため注意が必要です。 熱すぎるお湯は、体を活動的にする交感神経を刺激してしまい、体を興奮・覚醒させてしまいます。 その結果、かえって寝つきが悪くなる可能性があります。
もし、湯船に浸かる時間がない場合は、ぬるめのシャワーを浴びるだけでも似たような効果が期待できます。 入浴後は、リラックスして過ごし、体が自然に眠りに入る準備を整えてあげましょう。

経口補水液や麦茶での上手な水分補給

「寝る前に水を飲むと、夜中にトイレに行きたくなるから…」 そう考えて、就寝前の水分補給を控えていませんか?
しかし、これは非常に危険な習慣です。 人は眠っている間にも、汗や呼吸を通して大量の水分を失っています。 その量は、一晩でコップ1杯分以上(約200〜500ml)、暑い夜には1リットルに達することもあります。
この、自覚のないまま体から水分が失われる状態は「隠れ脱水」と呼ばれ、夜間の熱中症の最大の原因となります。

そのため、のどが渇いていなくても、就寝前にコップ1杯程度の水分を摂る習慣をつけることが非常に大切です。 ただし、何を飲むかによって効果は変わってきます。その日の活動量に合わせて、適切な飲み物を選びましょう。

状況おすすめの飲み物理由・ポイント
毎日の基本的な水分補給として水、麦茶カフェインを含まず、胃腸への負担が少ないため、日常的な習慣に最適です。
日中に汗を沢山かいた日経口補水液水分と塩分(電解質)を最も効率よく吸収できます。「飲む点滴」とも言われ、こむら返りの予防にも効果的です。
軽い運動や作業の後スポーツドリンク水分・塩分に加え、エネルギー源となる糖分も補給でき、疲労回復を助けます。ただし、糖分の摂り過ぎには注意が必要です。

一方で、就寝前には避けるべき飲み物もあります。 アルコールや、コーヒー、緑茶、紅茶などに含まれるカフェインには強い利尿作用があります。 水分補給のつもりで飲むと、飲んだ量以上の水分を尿として排出してしまい、かえって脱水を助長する可能性があるのです。
熱中症の予防には、水分と塩分などの電解質をバランスよく補給することが重要です。 ご自身のその日の体の状態に合わせて、最適な飲み物を選んでください。

冷却マットやアイスノンなど快眠グッズの活用

エアコンで部屋全体の温度を快適に保つことに加えて、快眠グッズを上手に使うと、より効果的に熱中症を予防し、睡眠の質を高めることができます。 体を直接、かつ穏やかに冷やすことで、寝苦しさを和らげ、心地よい眠りをサポートします。
これらのグッズは、エアコンと併用することで、設定温度を過度に下げなくても快適に眠るための強力な味方になります。

【おすすめの快眠グッズと使い方】

冷却マット・ジェルパッドベッドや布団の上に敷くだけで、背中や体にこもった熱を吸収し、逃がしてくれます。ひんやりとした感触が心地よい眠りをサポートします。
アイスノン・氷枕タオルで包み、後頭部や首筋にあてて使いましょう。脳に近い太い血管を冷やすことで、のぼせ感を和らげ、頭をすっきりとさせる効果が期待できます。
通気性の良い寝具パジャマやシーツを、汗をよく吸ってすぐに乾く吸湿・速乾性の高い素材(麻や綿、機能性素材など)に変えるだけでも、寝心地は大きく変わります。

これらのグッズを使う際は、体の一部を効果的に冷やすのがコツです。
特に、太い血管が体の表面近くを通っている以下の場所を冷やすと、効率よく体全体の熱を下げることができます。

  • 首のうしろ、両側の首すじ
  • わきの下
  • 足の付け根

ただし、冷やしすぎは禁物です。 冷たすぎると感じると、血管が収縮してしまい、かえって体の中心から熱が逃げにくくなることがあります。 また、寒さで目が覚めてしまい、睡眠の質を下げてしまうこともあります。
あくまで「心地よいひんやり感」を保つように調整しながら、上手に活用して、夏の夜を快適に乗り切りましょう。

もしもの時の対処法と救急車を呼ぶべき危険な症状

夜、寝ている時や朝起きた時に、ご自身やご家族の様子がいつもと違うと、とても不安になりますよね。
特に熱中症は、夜だからと油断していると、気づかぬうちに重症化してしまうことがあります。 しかし、もしもの時の正しい対処法を知っていれば、落ち着いて行動できます。これから、ご家庭ですぐにできる応急処置の方法と、ためらわずに救急車を呼んでほしい危険な症状について、救急医の視点から具体的に解説していきます。

すぐにできる応急処置(涼しい場所へ移動・体を冷やす)

夜間に熱中症が疑われる症状に気づいたら、何よりもまず「体を冷やす」ことが大切です。
重症の熱中症である熱射病は、異常な高体温によって脳や内臓に深刻なダメージを与えてしまう、命に関わる状態です。 そのため、一刻も早く体温を正常に近づけることが、その後の回復を大きく左右します。
医療現場では「まず冷却、次に搬送」が治療の鉄則です。 これは、救急車を待つ間も、冷却処置を続けることが極めて重要であることを意味します。

【命を守る応急処置の3ステップ】

涼しい場所へ移動するまずは、エアコンが効いている部屋や、風通しの良い涼しい場所へ移動してください。屋外であれば、日陰に移動しましょう。
衣服をゆるめるベルトやネクタイ、パジャマのボタンなどを外し、衣服をゆるめてください。体から熱が逃げやすい状態を作ることが目的です。

とにかく体を冷やす(最重要)

これが最も重要な処置です。以下の方法で効率的に体を冷やしましょう。

太い血管が通る場所を集中冷却する首のつけ根(両側)、わきの下、足のつけ根を冷やしましょう。ここには、皮膚のすぐ近くを太い血管が通っています。氷のうや、タオルで包んだ保冷剤などを当てると、冷えた血液が全身を巡り、効率よく体の中心部の温度(深部体温)を下げることができます。
気化熱を利用して全身を冷やす濡らしたタオルで全身を拭いたり、霧吹きで体に水をかけたりします。  そして、うちわや扇風機で風を送ってください。水分が蒸発する時に、皮膚の表面から熱を奪う「気化熱」の仕組みを利用した、非常に効果的な冷却方法です。

意識がある場合の水分・塩分補給のポイント

体を冷やす処置と同時に、意識がはっきりしている場合は、失われた水分と塩分を補給することも大切です。
汗をかくとき、私たちの体は水分だけでなく、筋肉や神経の働きに不可欠な塩分(ナトリウムなどの電解質)も一緒に失っています。 この状態で水だけを大量に飲むと、血液中の塩分濃度が薄まってしまいます。 その結果、かえって体の不調や、筋肉のけいれんを招くことがあるため注意が必要です。

【何をどれくらい飲めばいい?】

飲み物の種類おすすめ度
経口補水液◎(とても良い)ポイント水分と塩分を最も効率よく体に吸収できるように調整されています。「飲む点滴」とも言われ、脱水が疑われる時に最適です。
スポーツドリンク△(まずます)糖分が多い製品もあるため、水で少し薄めて飲むのも良い方法です。水分と塩分、エネルギーを同時に補給できます。
麦茶、水△(工夫が必要)塩分が含まれていないため、梅干しや塩分補給用のタブレット、塩昆布などと一緒に摂るようにしましょう。
酒、ビール、緑茶、コーヒー×(避ける)カフェインやアルコールには尿の量を増やす「利尿作用」があります。水分補給のつもりが、かえって脱水を進めてしまう可能性があります。

【水分補給の注意点】

  • 一度にがぶ飲みせず、本人が飲めるペースで少しずつ、こまめに飲むようにしてください。
  • 吐き気がある時や、意識がもうろうとしている時は、絶対に無理に飲ませてはいけません。 飲み物が誤って気管に入ってしまい、窒息や肺炎を起こす危険があります。

迷わず救急車を呼ぶべき症状(意識障害・けいれん)

応急処置をしても症状がよくならない場合や、これから挙げるような危険なサインが見られる場合は、命に関わる重症な熱中症(熱射病)の可能性があります。
研究でも、熱射病は中枢神経系の変化(意識障害など)を伴う医療緊急事態であると指摘されています。 脳の機能に異常が起きているサインであり、一刻も早く専門的な治療が必要です。 ためらわずに救急車(119番)を呼んでください。

【救急車を呼ぶべき危険なサイン・チェックリスト】

□ 呼びかけへの反応がおかしい、意識がはっきりしない (名前を呼んでも返事がない、つじつまの合わないことを言う、時間や場所が分からないなど)
□ 体がガクガクと震える(けいれんを起こしている)
□ まっすぐ歩けない、立てない、体に力が入らない
□ 体が異常に熱い(触ると火傷しそうなくらい熱く感じるのに、汗をかいていない)
□  自分で水分を摂ることができない
□ 応急処置をしても、症状が良くならない、または悪化している

これらの症状が一つでも見られたら、すぐに救急隊を要請してください。 救急車を呼ぶべきか迷った場合は、救急安心センター事業(#7119)に電話して相談することもできます。そして、救急車が到着するまでの間も、体を冷やす応急処置はできる限り続けてください。

※特に注意が必要な子ども・高齢者・持病のある方の見守り方

熱中症は誰にでも起こり得ますが、中でも特に注意が必要なのが、子ども、高齢者、そして持病のある方です。 ご本人が不調を訴えられない場合も多いため、周りの人が異変に早く気づいてあげることが、重症化を防ぐために非常に重要になります。

【なぜリスクが高いの?】

子ども子どもは体温を調節する機能がまだ十分に発達していません。研究によると、子どもは大人に比べて体重あたりの体の表面積が大きく、活動時の熱産生量も多いため、熱の影響を受けやすいのです。また、汗をかく能力が低く、体に熱がこもりやすいという特徴があります。自分で「のどが渇いた」「気分が悪い」などと正確に伝えられないこともあり、注意が必要です。
高齢者年齢を重ねると、体内の水分量が元々少なくなるうえ、暑さやのどの渇きを感じにくくなります。そのため、ご自身でも気づかないうちに脱水が進んでいることが少なくありません。近年の研究では、熱波の際に高齢者は心血管疾患や呼吸器疾患、腎疾患などのリスクが著しく高まることが世界中で報告されています。
持病のある方心臓病、腎臓病、糖尿病、高血圧などの持病がある方や、それらの治療薬(利尿薬など)を服用している方は、体の水分バランスや体温調節機能に影響が出やすく、熱中症のリスクが高まります。

【周りの人ができる見守りのポイント】

日頃から、ささいな変化に気を配ってあげましょう。

□ 食欲はいつも通りか? (急に食欲が落ちていないか)
□ 顔色が悪くないか、ぐったりしていないか? (ぼーっとしている、元気がないなど)
□ いつもより口数が少ないなど、様子の変化はないか?
□ 「今日は暑いね」「お茶は飲んだ?」など、こまめに声をかける。
□ トイレの回数が減っていないか、尿の色が濃くなっていないか確認する。 (濃い黄色や麦茶のような色は脱水のサインです)

ささいな変化が、熱中症の初期サインである可能性があります。 特に一人暮らしの高齢者の方はリスクが高いため、ご家族や周りの方が電話を一本かけるなど、気にかけてあげることが命を守ることにつながります。

■まとめ

夜間に潜む熱中症の危険性と、その具体的な対策について解説しました。寝ている間に気づかないうちに進行するからこそ、夜の熱中症は油断できません。「ただの寝苦しさ」や「朝のだるさ」が、実は熱中症サインである可能性があります。まずは今夜から、エアコンは朝まで適切に使い、就寝前にコップ一杯の水分を摂ることを習慣にしてみてください。冷却グッズの活用も効果的です。そして、もしご自身やご家族に意識がおかしい、けいれんなどのサインが見られた場合は、ためらわずに救急車を呼んでください。正しい知識と少しの工夫で、熱中症のリスクは大きく減らせます。ぜひ今日から実践してみましょう。

参考文献

  • Sorensen C, Hess J. Treatment and Prevention of Heat-Related Illness.
  • Schimelpfenig SS, Dobbs K. Environmental Heat Illness in Children.
  • Oudin Åström D, Forsberg B, Rocklöv J. Heat wave impact on morbidity and mortality in the elderly population: A review of recent studies.

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